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大・開港展-徳川将軍家と幕末明治の美術 (感想後編)【横浜美術館】

昨日の前編に続き後編です。今日は「3章 明治時代」をご紹介します。前編では「1章 徳川の時代」と「2章 開港の時代」をご紹介しましたので、読んでいない人はそちらから読んでいただけると嬉しいです。 前編はこちらです。

P1080068.jpg


まずは概要のおさらい。

【展覧名】
 大・開港展-徳川将軍家と幕末明治の美術

【公式サイト】
 http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2009/exhibition/daikaiko/

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅
【会期】2009年9月19日(土)~11月23日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間40分程度

【混み具合・混雑状況(祝日13時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展示は所要時間が2時間40分かかったようにかなりのボリューム感があったのですが、後半の3章も見所が多かったです。

<第3章 明治時代>
[1.明治政府と美術 (1)輸出用の工芸品]
ここから明治時代です。日米修好通商条約などの不平等条約を締結して、海外との貿易が始まるわけですが、生糸や茶といった品と共に美術品も主要な輸出品となっていたようです。明治政府はそれを奨励していたようで、それまで大名に注文を受けていた絵師や職人の受け皿として、美術品の海外輸出が盛んになりました。ここではそうした輸出用の品が展示されていました。

134 「ライティング・ビューロー」
寄木細工で作られた机です。寄木細工というのは箱根のお土産とかにあるモザイク模様のやつです。かなり大きい机ですが、細部までモザイク模様があって見事です。かなり手が込んでいて、いかにも輸出品っぽいデザインでした。

109 「大関 花鳥芝山象嵌香炉」
銀製の丸いトロフィーのような香炉です。球の部分の両脇に2匹の龍、球の頂上には鷲、台にも巻きついた龍がいます。これも緻密な細工で龍の鱗まで表現されていました。この辺から驚異的な作品が増えますw

112 「芝山蒔絵銀花鳥図花瓶(一対)」
とにかく精密でミリ以下の細い銀細工が施された花瓶。七宝などと組み合わされ華麗で繊細な雰囲気でした。半端じゃないw

123 初代 宮川香山 「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」 ★こちらで観られます
丸くなって頭を押し込めているようなポーズをしている猫が、壷の上に乗っかっています。毛色は日光の眠り猫のようで、明治維新で目を覚ましたようだと言われたらしいです。猫をよく見ると小さな鼻のところまでしっかり作られていました。このコーナーにあるってことはこれも輸出品なのかな?

132 森村組(現ノリタケカンパニーリミテド) 「金彩色絵風景図ティーセット」
オールドノリタケってやつでしょうか。丸っこい六角形のティーカップが六角形の皿にのっています。細かい金細工がされていて、豪華な感じです。隣にはやはり六角形のティーポットも置かれていて、水玉のような金細工がレース状になっていて優美です。陶器の部分を薄い紫や緑で風景を描いているのも上品でした。

[(2)西洋画の受容]
このコーナーは西洋画が日本にもたらされたことによって、変化した日本の絵画美術をテーマにしていました。この美術館の常設作品も何点かあったかな。

137 チャールズ・ワーグマン 「街道」
これは今年の2月くらいに世田谷美術館の「十二の旅 感性と経験のイギリス美術」でも観たかな。この人は明治初期に特派員として日本に来て、日本各地の絵を描いた画家で五姓田義松、高橋由一といった画家を育てた人です。この絵は、手前から右奥に伸びる松並木の街道を傘を被った旅人が歩いています。左手には小屋のようなものがあり馬もいました。当時の街道・宿場の賑わいや自然を爽やかに描いている感じで、光と影の表現などが見事でした。

140 高橋由一 「愛宕山より品川沖を望む」 ★こちらで観られます
前述のチャールズ・ワーグマンに教えを受けた画家です。この作品はここの常設じゃないかな。横浜の町の瓦や屋根を丘から見下ろす構図で、右側に大きく木の幹が描かれています。空気遠近法やグラッシ(上層と下層が透けて見える絵の具を塗布する技法)が観られるという解説がありましたが、雲や光が西洋っぽい表現になっています。家の向こうに黒い煙があり、その煙によって見えない汽車の存在をうかがうことができました。

144 浅井忠 「八王子付近の街」 ★こちらで観られます
浅井忠はよく作品を見かけるので馴染みかも。全体的に茶色が多い絵で、道の両脇の家や奥にそびえる山が描かれています。山はぼやけていたり、道に落ちる影、家の中の暗がりなど、影の表現が面白い作品でした。

[(3)帝室技芸員と博覧会]
この前、皇室の名宝展でもご紹介しましたが、「帝室技芸員」は現在の人間国宝のような存在です。この展覧会でも魂のこもった作品が並んでいました。
参考記事:皇室の名宝―日本美の華 <1期> (感想後編) 東京国立博物館 平成館

155 狩野芳崖 「山村春景図」
山村の様子を描いた掛け軸です。手前の木は色も線も濃いけど、奥は薄く描かれています。ここら辺が西洋の技法なのかな? 力強さもあって見事でした。

169 高村光雲 「魚籃観音立像」
柔らかい雰囲気の観音像です。目をつぶってるけれども慈悲深そうな表情をしていました。

157 河鍋暁斎 「白鷲と猿」
前編の2章でもご紹介した河鍋暁斎。これは白い鷲が岩の上に堂々と立ち、岩の下にはおびえた顔をした猿が描かれています。岩はスピード感のある筆遣いで力強いですが、猿の毛などはふわふわした感じが出ていました。これは三菱一号館や岩崎邸をデザインしたジョサイア・コンドルの所蔵品だったらしいです。
ジョサイア・コンドルの参考記事:
 三菱一号館竣工記念「一丁倫敦と丸の内スタイル展」三菱一号館美術館
 旧岩崎邸の写真 その1  旧岩崎邸の写真 その2

197 二代 川島甚兵衞 「セントルイス万国博覧会 綴織額『動植綵絵 紫陽花双鶏』」
相国寺所蔵の伊藤若冲作「動植綵絵」30枚のうち15枚を刺繍パネルにした作品で、この展覧会では「紫陽花双鶏」を展示していました。遠くから見ると絵にしか見えないです。ちょっと色が薄いかな?と思うくらいかな。技術の高さに驚嘆します。
「動植綵絵」は現在(2009/10/30)、上野の皇室の名宝展(1期)に展示されていますし、絵画のような織物もあったので、皇室の名宝を観た人は一層この作品を楽しめるんじゃないかな。

173 正阿弥勝義 「瓢に蜂花瓶」
ひょうたんに蜂が止まっている感じの花瓶です。自然な感じで可愛らしかったです。

186 並河靖之 「七宝桜花鶏図花瓶」
澄んだ透明感のある黒色透明釉を使った作品です。桜の下で尾っぽの長い鶏が描かれています。黒が透き通るというのも妙な表現ですが、本当にそう感じるのですw なお、この人の作品も皇室の名宝展(1期)にもあります。両方いくと何倍も楽しいかと。

[2.明治の徳川家と美術]
ここは隠居した徳川慶喜の写真や絵画なんかがありました。結構上手いです。

201 徳川慶喜 「麦刈り」
最後の将軍である徳川慶喜が撮った写真に色が塗られています。麦を刈っている農夫達の後姿を撮ったもので、バルビゾン派(落穂ひろいで有名なミレーなど)の絵画を思い浮かべる題材でした。この写真の近くには絵画もあったのですが、そちらも指導を受けながら描いたとはいえ良い腕でした。

212 川村清雄 「水辺之楊柳」
洋風の油絵で、川と葦川で作業(洗濯?)する女性などを描いています。着物を着ているから日本だと思いますがアカデミックな感じの作風で西洋的でした。

[3.新たな美術の庇護者、横浜の原三溪]
214 横山大観 「草廬三顧図」
有名な三国志の「三顧の礼」のシーンを描いた2枚セットの掛け軸です。左には、丘の上にある家の窓から外を見ている人(孔明?)が描かれ、右には丘の下で馬に乗っている三兄弟が描かれていました。仙人でも住んでいそうな雰囲気で、独特の空間表現が印象的でした。

217 今村紫紅 「伊達政宗」 ★こちらで観られます
ウインクしている武将と思ったら、伊達政宗の肖像画でした。でかい十字架を背にあぐらを組んでいます。これは金箔の磔刑用の十字架らしく、秀吉からの不信に対して嫌疑を晴らそうとしているところらしいです。結構落ち着いた顔をしているように思いました。

218 今村紫紅 「近江八景(小下絵)」 ★参考記事
これは最近、東京国立博物館の常設で観た作品の下絵のようです。もはや完成品なのでは?という出来栄えでした。
★参考画像 (東京国立博物館の常設で撮った写真です)
DSC_2891.jpg


215 下村観山 「小倉山」 ★こちらで観られます
屏風です。藤原忠平が林の中に座って紅葉を見ながら和歌を読んでいる様子が描かれています。風流な雰囲気が漂い、カラフルで鮮やかでした。


ということで、かなり充実した展覧会でした。あそこで観たぞ!?という作品も多かったのでそれだけ美味しい所を集めているのだと思います。特に皇室の名宝展(1期)に行った方はこちらも観てみると面白いと思います。
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