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藝大コレクション展2018 【東京藝術大学大学美術館】

前回ご紹介した展示を観た際に、東京藝術大学大学美術館の本館で「藝大コレクション展2018」を観てきました。この展示は既に終了していますが、驚きの作品が公開されていたのでご紹介しておこうと思います。

DSC06973.jpg

【展覧名】
 藝大コレクション展2018

【公式サイト】
 https://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2018/collection18/collection18_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年10月2日(火)~ 11月11日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
行ったのが最終日だったこともあり 結構多くの人で賑わっていましたが概ね自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は芸大の持つ優れたコレクションが並ぶ恒例の展示で、毎年のように出てくる品もある一方で 今回は柴田是真の「千種之間天井綴織下図」という会場の壁を埋め尽くすほどの圧倒的な作品が展示されていました。構成は特に章分けがなく 時代順という訳でもなかったので、私のてきとーな感想だけですが、簡単に好みの作品をいくつか挙げていこうと思います。

曾我蕭白 「群仙図屏風」 ★こちらで観られます ★こちらで観られます
こちらは水墨の二曲一双の屏風です。右隻には芭蕉扇のようなものを持つ仙女と、お盆に桃を持っている従女・謎の果実のようなものを載せている従女が描かれていて、おそらく西王母じゃないかな。鱗のような羽を持つ鳥もいて、ちょっと異様な雰囲気です。左隻はかめを持っている男、巻物を持って岩場に座る男、うねる水流を飛び跳ねるような鯉などが描かれていてダイナミックな印象を受けます。特に座っている男のニヤッとした表情や、不自然なほどに腕を捻るようなポーズあたりに蕭白の個性を感じました。

高橋由一 「鮭」 ★こちらで観られます
こちらはこの美術館のマスコット的な人気作品です。実物大の鮭を吊るした様子が描かれていて、1mくらいあって見事な大きさです。首の下辺りは切り身みたいになっていて、やや乾燥している感じも出ているかな。これ観る度に鮭の燻製を食べたくなりますw 日本洋画の始まりを感じさせる作品です。

近くには原田直次郎の「靴屋の親爺」もありました。親爺というよりは偉人みたいな風貌の肖像ですw
 参考記事:コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選― (東京藝術大学大学美術館)

和田英作 「野遊び」
こちらは笛や琵琶のような楽器を持って森の中を歩く3人の女性を描いた作品です。天平時代を思わせるような華麗な装いで、髪も古代の結び方みたいに見えるかな。背景の森は藤などが垂れ下がっているのですが、陰影は少なく平面的で装飾的な雰囲気となっています。全体的に神話の世界のような神秘性のある作品となっていました。

この隣には青木繁の日本神話をテーマにした作品などもありました。

橋本関雪 「玄猿」
こちらは水墨で、枝に掴まり もう一方の手を挙げる猿を描いた作品で、その傍らには同じ枝で伏せている猿の姿もあります。これはクロテナガザルらしく、遠くを観るような表情やフワフワした毛並みなどは四条派や竹内栖鳳に学んだ技法が活かされているように思えました。ちょっと賢人のような雰囲気すらあるかもw 静かな光景となっていました。

沼田一雅 「猿」 ★こちらで観られます
こちらは木の上でかがんでいる猿の陶器彫像です。沼田一雅はフランスのセーヴルで働いていた人物(セーヴル初の外国人作家)で、この作品はセーヴルが得意としたビスキュイ(無釉白磁)という大理石を模した素材となっています。艷やかで滑らかな素地に やや憂いを帯びたような猿の顔が表され、細やかな表現となっていました。
沼田一雅は他にも鷲やライオンなどの頭部のレリーフのような作品もありました。
 参考記事:フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年 (サントリー美術館)

吉田博 「溶鉱炉」 ★こちらで観られます
こちらは暗い製鉄所の中を赤々と光る溶鉱炉が流れる所を描いたもので、その周りで働く人たちの姿もあります。これは戦時特別文展の出品作らしく、溶鉱炉のエネルギーを感じると共に、戦時下であることを意識させるテーマと言えそうです。照らし出す光の陰影が見事で、手前が逆光となっていることも光を強く感じさせました。
 参考記事:生誕140年 吉田博展 山と水の風景 (東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)

杉山寧 「野」
こちらは正方形の大画面の作品で、ススキの野の中で遊ぶ5人の着物の子供たちが描かれています。画面上部に地平線があり、低い位置に太陽があって秋の夕暮の光景のようです。ススキの穂の向きが揃っていて、風が流れているようにも見えるかな。手前にある枯れ草の曲線などもリズムを生んでいるように思えました。郷愁を誘うと共に構図の妙が楽しめる作品です。
この隣にはこの絵の下絵もありました。

中沢弘光 「夜明け」
こちらは浜辺で腰の後ろに手を組んで立つ女性らしき人物の後姿を描いた作品です。海の向こうから昇る赤い太陽を見つめているようで、全体的に暗くて まだ夜が明ける直前といった頃合いに観えます。波は高く押し寄せてきていて、これを描いた1946年(戦後すぐ)の日本の状況を暗示しているような感じもしました。幻想的で、希望を感じさせる逸品です。

柴田是真 「千種之間天井綴織下図」 ★こちらで観られます
こちらは今回の看板にもなっている作品で、1m四方の絵が縦3枚×横17枚の合計51枚がずら~~~っと並んでいました。いずれも円の中に草花が描かれていて、流水や枝などを含めてデフォルメされていて優美な印象を受けます。デフォルメされているのに写実的なところもあって、色の鮮やかさと共に生き生きとしているのも特徴です。こちらは明治21年に竣工した明治宮殿の「千種の間」の格天井の装飾画の下絵として作られ、全部で112枚あるらしく この度クラウドファウンディングによって修復することができたようです。1つ1つ異なる花を様々なデフォルメしているのが驚きで、どれも格調高いのが素晴らしい作品でした。これだけでも今回見に行った甲斐があったと思います。
 参考記事:
  ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画 (根津美術館)
  柴田是真の漆×絵 (三井記念美術館)

和田英作 「落穂拾い(原作:ジャン=フランソワ・ミレー)」
こちらはミレーの落ち穂拾いをルーヴル美術館で模写した作品です。実物とかなりそっくりで、ややくすんで見えるのは劣化のせいかもしれませんが 和田英作の高い技量が見て取れました。これが本物として展示されていたら気づけないかもw

この近くには平山郁夫がチマブーエの聖母子を模写した作品もありました。

柴田是真 「師承過去帖」 ★こちらで観られます
こちらは柴田是真が師と仰いだ蒔絵師 古満寛哉(こまんかんさい)や 絵師の鈴木南嶺、岡本豊彦らの戒名を書いた掛け軸です。画中画風に巻物が描かれ、そこに○○居士といった感じで名前が書かれていて、その周りは金で楽器や宝物など天界を思わせる品々が描かれていました。巻物の素材感が見事に表現されていて、ちょっとトリックアート的な面白さもある作品でした。


ということで、今回は甦った柴田是真の「千種之間天井綴織下図」が圧倒的な存在感の展示となっていました。これだけ見事な作品を一挙に観られたのは貴重な機会だったと思います。もう終わってしまった展示ですが、コレクション展はちょくちょく開催されるので今後再会できる機会を楽しみにしたいと思います。

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