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アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960-1990 年代 【東京国立近代美術館】

前回ご紹介した東京国立近代美術館の常設を観る前に、企画展「アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960-1990 年代」も観てきました。

DSC06454.jpg DSC06457.jpg

【展覧名】
 アジアにめざめたら アートが変わる、世界が変わる 1960-1990 年代

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/am/exhibition/asia/

【会場】東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2018年10月10日(水)~12月24日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
結構お客さんはいましたが快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はその名の通り1960~90年代にかけてのアジアのアートを紹介する内容となっています。10を超える国と地域のそれぞれの歴史や政治運動を背景とした作品が多いので、並んでいる作品は結構深刻な社会問題を取り上げていたりするのですが、観てもピンと来ない作品が多かったので、ささっと流す感じで観てしまったw 目録の冊子で各作品の時代背景とかをちゃんと説明してるのですが、アジアのアートというと 抑圧との戦い/急激な都市化・近代化の軋轢/アジアとしてのアイデンティティ/マイノリティ といういくつかの主題にパターン化されてるので、あまり目新しさが無いと言うか… 暗いテーマが苦手なので途中から早足になっていきましたw その為、メモもほとんど取っていませんが、備忘録程度に各章の様子を振り返ってみようと思います。


<0章 イントロダクション>
まず最初はアジアの各地域の複雑な社会背景を紹介するコーナーです。この章には1つだけ写真OKの作品がありました。

FXハルソノ 「もしこのクラッカーが本物の銃だったらどうする?」
DSC06459.jpg
こちらはインドネシアの作家。この銃はクラッカーでできています。インドネシアはクーデーター以降に強権的な政治の時代があったそうで、それを批判するのも許されなかったようですが、この作家らが立ち上がって新しい美術運動を起こしたそうです。

クラッカーのアップ
DSC06461.jpg
色もピンクで玩具っぽい感じ。

これが本物だったらどうする?という感想を書くノートもありました。
DSC06464.jpg
食べるとか溶かすという意見が多かったかな。本物だったら食べられないですがw

この部屋には東南アジア風の音楽と共に人形を焼いている映像なども流れていました。人々が踊ったりするシーンもあって、エネルギッシュです。
他にも韓国なども紹介してたかな。アジアはクーデーターや革命の歴史ばかりで暗澹たる気分になります。


<1章 構造を疑う>
この章は近代化に対する問題意識から「美術」という西洋の概念に疑問を持つというコーナーです。破壊的な作品も結構ありました。

[1-1 美術の境界]
ここには川の上で燃えているキャンバスを撮った写真や、河原の枯れ草を燃やしてブロック状の模様を造る写真などの作品がありました。(どちらも韓国だったと思います) 破壊的で既存の枠組みに囚われていない作品でした。

[1-2 再物質化]
ここは素材をテーマにした作品が並んでいて、まずは綿と金属で出来た大きな正六面体が目を引きました。異なる質感が組み合わさっているのが面白いかな。東近美の中西夏之「コンパクト・オブジェ」もあって、これは光沢と卵型の形が美しい作品です。
ここには他にも野村仁のドライアイス が溶けていく様子を撮った作品や、韓国のハ・ジョンヒョンによる「Untitled 1973-1」というバネをキャンバスに並べて伸ばしたり縮めたりして表現した作品などもあったので、結構楽しめました。

[1-3 メディアとしての身体]
ここは台湾の張照堂(チャン・チャオタン)という人による首の無い人物像の写真が並んでいたのがインパクトがありました。(★こちらで観られます)不吉でシュールな印象を受けます。顔があっても睨んでいたり不穏です。台湾は40年間も戒厳令下にあったので、それを暗示する政治的要素がありそうです。


<2章 アーティストと都市>
続いては近代化する都市で実験的な表現が育まれていったことを振り返るコーナーです。

[2-1 資本主義批判]
こちらにはまず今回のポスターに1つにもなっているジム・スパンカットの「ケン・デデス」(★こちらで観られます)という仏像の下の台座にジーパンを履いた上半身裸体の女性が描かれた作品がありました。宗教的な像にエロティックな表現をしているので、既存の価値観への挑戦のように思えます。また、コーラに星条旗を詰めた火炎瓶の写真なんかもあって、資本主義やアメリカへの皮肉的な雰囲気となっていました。

このコーナーにも1点だけ撮影可能な作品がありました。

タン・ダウ 「彼らは犀を密漁し、角を切ってこのドリンクを作った」
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サイが倒れていて、斧が傍らに置いてあります。そして祭壇のように取り囲むのは飲料の容器です。

飲料の容器のアップ。
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このパッケージとタイトルから察するに、サイのツノが入った飲料でしょうか。何の効果があると信じているのか分かりませんが、サイは絶滅危惧種でもあり 斧を置くことで残虐性を分かりやすく伝えているように思えました。


[2-2 都市生活を撹乱する]
こちらにはまず、家が積み重ねるような感じの絵画がありました。デ・キリコの形而上絵画みたいなシュールさがあり、犬や鳥が沢山いるのに人間はいないという奇妙な光景です。これは1975年にインドで起きた反体制勢力を抑え込むための非常事態宣言下の恐怖に包まれた街を描いているそうで、直接それを描くのではなく隠喩的に犬や鳥で表しているようでした。

その先には日本のゼロ次元による全裸のパフォーマンス映像なんかもありました。ムカデ競走みたいに連なって踊る様子は祭りみたいで、プリミティブな雰囲気もありますが過激でアート・テロリストと呼ばれるだけありますw 他にもガスマスクだけ付けて全裸で町中を歩く様子の写真なんかもあって、まさに都市を撹乱するような作品が並んでいました。


<3章 新たな連帯>
最後は民衆との連帯を主張するグループや、民主化運動の中で壁画・看板・ビデオ等で多くの人々と現実を共有する試みのコーナーです。

[3-1 アート・アクティヴィズムと社会運動]
ここにはタイ統一美術家戦線による大きな絵画作品があり、鉄条網や兵士などが描かれていて、滴る赤が血の様な背景となっています。その上には青空に鳩が舞っている様子もあり、戦争と平和の対のようになっていました。タイ統一美術家戦線はタイの現実を民衆に知らせる為にこうした大型作品を使って直接訴えたそうで、マルクス主義に基づき 軍事政権とアメリカの新帝国主義への批判も込められているとのことです。

他にもフィリピンの戦いを思わせる絵画や民主化運動のうねりを感じさせるような作品もありました。

ここでもう1つ目を引いたのは韓国のホン・ソンダムの版画で、素朴な作風で棟方志功みたいな感じも合わせ持ってるのですが、光州事件という動乱を描いていて、素朴さが逆に怖さを引き立てていました。この素朴さが民衆の共感を呼んでいたようです。

[3-2 集団行動とアートの実験]
ここはちょっとよく分からない作品が少数あった感じ。裸の人たちが折り重なっていくシュールな映像など、実験的な作品が展示されていました。

[3-3 ジェンダーと社会]
ここは主に女性の社会的地位に関するテーマかな。裸婦の彫像が鏡に向かって考えている様子とか、差別的な待遇を感じさせる女性像、鉄条網に咲いたバラを身に絡みつけた女性たち など差別や抑圧を告発するような作品が並んでいました。


ということで、政治批判&西洋批判&社会批判という感じで、アートを通じて各国の当時の様子なども分かるようになっていましたが、やっぱりこういうのか…と予想通りでした。別に政治批判が悪いと言うのではなく、美術がそれだけのものになってるのが表現の幅が狭いように感じます。そもそも美よりも思想やメッセージが先に来るのでノンポリの私には脂っこいと言うか…。アジアの歴史や政治運動に興味がある方には面白いかもしれません。私にはあまり刺さらない展示でした。
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