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皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画家― 【山種美術館】

前回ご紹介した根津美術館の展示を観た後、タクシーで近くの山種美術館に移動して「特別展 皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画家―」という展示を観てきました。

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【展覧名】
 特別展 皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画家―

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/2018/koushitsu.html

【会場】山種美術館
【最寄】恵比寿駅

【会期】2018年11月17日(土)~2019年1月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外にも空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は皇室と美術の関係をテーマにした内容で、皇居造営に関する品や1890年~1947年の帝室技芸員制度の任命者の作品が並んでいました。構成は3つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 皇室と美術―近世から現代まで>
まずは皇室と美術の関わりについてのコーナーです。この章の作品は他の章のコーナーにもあったりしてどこまでが1章か分かりづらいですが、近世から現代に至る皇室ゆかりの品が並んでいました。

2 後陽成天皇 「和歌巻」
こちらは新古今和歌集から4つの詩を選んで書いた宸翰(天皇の書いた文書)で、そのうち2つを展示していました。金が雲のようにたなびく中に、軽やかな達筆で書かれていて かなりの腕前であることが伺えます。詩句の中の「桜」の字の代わりに桜の絵になっていたり、ホトトギスの字も鳥が飛ぶ絵になっているなど、遊び心も感じられます。後陽成天皇は和歌や古典に通じていた帝王として名高く、政治だけでなく文化面でも才能のある天皇だったことがよく分かる品でした。

この近くには有栖川宮幟仁親王の書もあり、こちらも見事です。有栖川宮幟仁親王は明治天皇の師範に任じられたとのことで、納得の筆ぶりでした。他にも高松宮家所蔵の伝 海北友雪の「太平記絵巻 巻第12」や土佐光信の「うたたね草紙絵巻」など見応えある絵画コレクションもありました。

16 「兎置物形ボンボニエール」
こちらはウサギの形をした「ボンボニエール」と呼ばれる菓子入れです。銀製の小さな容器ですが、非常に洗練されていて凝った造形となっています。また、他にも犬張り子や釣り灯籠など面白い形の品もあり、親しみと気品が感じられます。解説によると、ボンボニエールは皇室の御慶事や外国の賓客接遇の折に列席者に送られるとのことで、吉祥の意匠が多いようです。基本的には銀製のようですが、金属が不足した戦時中は木・竹・陶磁などで作られたこともあったのだとか。


<第2章 宮殿と日本画―皇居造営下絵と宮殿ゆかりの絵画>
続いての2章は皇居や東宮御所を飾る日本画のコーナーです。この章には建てられた際の下絵や、完成後に山崎種二(山種美術館の創設者)の依頼で作られたバリエーション作品などが並んでいました。

23 渡辺省亭 「赤坂離宮下絵 花鳥図画帖 尉鶲に牡丹」 ★こちらで観られます
こちらは現在は迎賓館となっている赤坂離宮の花鳥の間を飾る陶板の下絵です。楕円形の中にジョウビタキという小鳥がとまる牡丹が描かれ、牡丹の花びらが非常に豪華で生命感が溢れています。明暗が強く写実的かつ立体感もあるのですが、それでも情趣があって軽やかに感じるのが素晴らしい表現力でした。解説によると、この下絵を元に濤川惣助が無線七宝の技を用いて再現したとのことで、現在でも迎賓館で観ることができます。隣にも同様の花鳥の下絵があり、ボツ案となった荒木寛畝の下絵もありました。荒木寛畝も良いんですけどね。
 参考記事:没後100年 渡辺省亭特別展 (迎賓館赤坂離宮 花鳥の間)

32 竹内栖鳳 「皇居造営下絵 土筆に小犬」
こちらは戦災で焼失した青山御所の襖絵の下絵で、緑の丘に4匹の子犬がコロコロしてじゃれ合っている様子が描かれています。一見すると円山応挙の狗子図に出てくる犬によく似ていて、愛嬌があります。周りにはつくしが生えているなど穏やかな春の様子で、観ていてほっこりする光景でした。

8 下村観山 「老松白藤」
今回の展示ではこちらの作品だけ撮影可能となっていました。内容的には1章の作品ですが2章にあります。
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元々は伏見宮家旧蔵の屏風で、松に絡まる藤は吉祥の図様と言えるようです。ダイナミックで力強い幹と華やかな藤からは琳派の装飾性をよく研究していたことが伺えました。

42 東山魁夷 「満ち来る潮」 ★こちらで観られます
こちらは横長の壁画のような作品で、海岸の岩場に打ち寄せる波が描かれています。鮮やかな緑青の緑を背景に飛沫は金やプラチナが使われ、岩にも金泥が使われるなど豪華さと力強さが感じられます。特に打ち寄せる動きと潮のうねりが自然の雄大さがよく表れているように思いました。解説によると、これは東山魁夷が昭和43年に皇居新宮殿の壁画「夜明けの潮」を描いた際に山崎種二に皇居と同じようなものを描いて欲しいと依頼されて制作したようです。全く同じでは失礼にあたるし、違うのも注文と異なってしまうので、皇居のゆったりした波から動きのある波へと変えているとのことでした。
 参考記事:
  生誕110年 東山魁夷展 感想前編(国立新美術館)
  生誕110年 東山魁夷展 感想後編(国立新美術館)

38 山口蓬春 「新宮殿杉戸楓4分の1 下絵」 ★こちらで観られます
こちらは緑・オレンジ・赤に染まる楓をデフォルメして描いた作品です。輪郭を金で描いていて砂子を散らすなど、色彩と相まって絢爛豪華な雰囲気もあります。上の方が赤く、下の方はまだ緑色っぽくなっているのも対比的で色が強く感じる要因かな。デフォルメぶりも半ば文様のようで面白い作品でした。
この隣には橋本明治の「朝陽桜」がありました。こちらも文様的なデフォルメとなった作品です。

36 横山大観 「飛泉」 ★こちらで観られます
こちらは2幅対の掛け軸で、白黒の水墨画となっています。滝壺とその崖に生えている松の木を描いていて、水飛沫が霧の様になって霞む様子が幽玄の雰囲気となっています。一方で滝の勢いや力強さもあり、眼の前に空間が広がっているような感じも出ていて、白黒でも驚くほどに豊かな表現力となっていました。


<第3章 帝室技芸員―日本美術の奨励>
最後は帝室技芸員による作品のコーナーです。帝室技芸員は1890年に設置された制度で、1944年までの1~13回の選考で79名が任命されています。設置当時はジャポニスムが流行していたこともあり、万博に参加して海外評価が高かった工芸家が比較的早くに任命されたようです。一方で、絵画では当時の主流派が大半を占め、横山大観などは任命が遅れるなど画壇の勢力争いと対立も垣間見られるようです。ここにはそうした帝室技芸員の作品が並んでいました。

47 瀧和亭 「五客図」
上から順にオウム、白鷺、孔雀、鶴、ハッカンの5羽の鳥が松の木の周りにとまっている様子が描かれた作品です。松を中心に螺旋を描くような配置とポーズになっているのが流れを感じ、面白い効果となっています。解説によると、作者の瀧和亭は南画を学んでいたようで、松なんかは南画っぽさを感じるかな。やや素朴な雰囲気も出ていました。おめでたいモチーフばかりの作品です。

55 山元春挙 「火口の水」
こちらは火口の中にある湖が描かれた作品で、湖で水を飲む鹿の姿もあります。その鹿の存在によって周りの大きさが分かるわけですが、背景にある溶岩の壁がとてつもなく大きく荒々しく感じられます。解説によると、山元春挙は西洋美術に刺激を受けたそうで、制作には写真を活用していたようです。そのためか溶岩の山肌にはリアリティがあるように思える一方、空に霞む月は幻想的な雰囲気となっていました。

75 濤川惣助 「富嶽図シガレットケース」
こちらは四角い小さな陶器に富士山の山頂が描かれたシガレットケースです。釉薬を焼成する前に金属線を取り除く無線七宝の技巧を使っていて、柔らかく滑らかな雰囲気が濤川惣助の特徴と言えそうです。色彩も美しく、技巧だけでなく絵画的にも素晴らしい作品でした。

この近くには柴田是真の「墨林筆哥」なんかもありました。漆によってユーモア溢れる絵を描いた作品です。

11 川端龍子 「南山三白」 ★こちらで観られます
こちらは内容的には1章の作品で、六曲一双の巨大な屏風です。左隻には2頭の鹿、右隻には柏の木?にキジが2羽とまっている様子で、勢いよく伸びた葉っぱがうねうねして生命力に溢れています。木の根元も渦巻くような感じで、どこまでも伸びていくような躍動感が感じられる作品となっていました。

64 鏑木清方 「伽羅」
こちらは伽羅の入った蒔絵の枕と、その脇で身を起こす江戸時代の女性が描かれています。花菖蒲の模様の着物を掛けて寝ていたのかな? 女性は肌が白く気品があり 清方らしい清純な女性像です。全体的に色も薄めで爽やかな1枚となっていました。

隣には上村松園の作品もありました。

68 和田英作 「黄衣の少女」
こちらは椅子に腰掛ける黄色いワンピースの女性を描いた洋画です。背景は真っ赤なのでかなり色彩が強く感じられ、ちょっとマティスに通じる色彩構成かな。褐色の肌が健康的で魅力的な女性像です。解説によると、この女性のモデルは弟子の娘なのだとか。

この近くには安井曽太郎の「葡萄とペルシャ大皿」もありました。安井曽太郎は帝室技芸員制度の最後の年に任命されたようです。


ということで、大型作品や帝室技芸員による素晴らしい美術品の数々を観ることができました。これだけの内容を空いている中で鑑賞できたので満足度高めです。明治~昭和にかけての巨匠たちばかりなので、クオリティが高いと言えそうです。日本美術が好きな方にオススメの内容でした。
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