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吉村芳生 超絶技巧を超えて 【東京ステーションギャラリー】

昨年末の休日に東京駅の中にある東京ステーションギャラリーで「吉村芳生 超絶技巧を超えて」を観てきました。

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【展覧名】
 吉村芳生 超絶技巧を超えて

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201811_yoshimura.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2018年11月23日(金・祝)~2019年1月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんが結構いましたが大型の作品が多かったのでそれほど混雑感は無く快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は吉村芳生という2007年の「六本木クロッシング:未来への脈動」展 以降に注目を集め、惜しくも2013年に亡くなった現代画家の個展となっています。吉村芳生は日常のありふれた光景を描く画家なのですが、モチーフの選び方が非常に独特で 金網や新聞紙の模写など予想外の作品ばかりです。しかもその表現方法が恐ろしく根気のいる技法となっていました。 詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<ありふれた風景>
まずは初期作品などのコーナーです。吉村芳生は山口芸術短期大学を卒業後に広告代理店にデザイナーとして勤務していたようですが、仕事をやめて東京に出て創形美術学校で版画を学びました。そして版画やドローイングを中心に、撮影した写真を利用して作品を制作したようで、自画像や新聞紙といった身の回りのものを描いていたようです。早速かなり独特の作品が並んでいました。

16 吉村芳生 「365日の自画像 1981.7.24-1982.7.23」
こちらは365日分の自画像のうち192点をずらっと展示していました。口ひげを生やして真正面を向いていて、まるで写真のような写実性ですが鉛筆で描かれています。明暗が見事で特に髪の毛や瞳の光がリアルに感じるかな。とにかく点数が圧倒的で、毎日の表情も様々で服装も変わっていきます。背景も屋内・屋外だったりするのですが、構図は全て真正面となっていました。こちらは写真に撮ったのを描き写したそうで、完成までに9年かかったのだとか。初っ端から驚きの作品でした。

この近くには友達を描いたハガキ大の作品などもありました。

1 吉村芳生 「ドローイング 金網」
こちらは17mもある金網を描いたドローイングで、六角形状にねじれた金網が整然と連なっています。その展示光景も圧巻ですが、そもそも何でこんなものを描いたんだ?という疑問がw 解説によるとこれは紙に写した凸凹の痕跡を鉛筆でなぞって70日かけて制作したそうで、「機械文明が人間から奪ってしまった感覚を再び自らの手に取り戻す作業」としてマラソンに例えていたそうです。よく観ると単純なコピーではなく一部が たわんでいたりして、本当に写して制作されたのが分かりました。ちょっと狂気すら感じる作品ですw

11 吉村芳生 「ドローイング 新聞 ジャパン・タイムズ 10点より」
こちら新聞の記事・写真・広告などの誌面をそのまま絵で描いた作品です。乾ききっていない新聞を転写し、それを頼りに鉛筆で写しているそうで、文字はタイポグラフィと手書きの中間みたいな味わいがあります。細かくて気が狂いそうな作業に思えるのですが、これが何枚も並んでいるので唖然とさせられました。身の回りを描くと言っても、これをモチーフにしようと思うか?? と、ツッコミを入れたくなる気持ちで一杯ですw

4 吉村芳生 「ROAD No.10」
こちらは車に乗った視点で道路を描いたドローイングです。近寄って観てみると無数の小さなグリッド状になっていて、1つ1つに斜めの細かい線が引いてあります。この斜めの線で濃淡を出したドット絵みたいな感じかな。解説によると、何度も版を腐食させて10段階の階調の明暗となっているようです。これも恐ろしく手間が掛かっていて、何気ない光景をこれだけ全力で表現しているようでした。…ヤバい作品しかないw

22 吉村芳生 「ジーンズ」
こちらはLeeのジーンズを描いた作品ですが、やはり尋常ではない表現方法となっていますw 生地の目まで正確に模写したものを10段階の色調の濃淡で表していて、離れてみると写真のように見えます。隣には下絵もあったのですが、グリッドに0~9の数字を入れて色調を指定している様子が伺えました。これも執念を感じるほどの徹底ぶりです。

この近くにあった「SCENE 85-8」という作品は見覚えがありました。この美術館の所蔵品かな?

26 吉村芳生 「徳地・冬の幻想」
こちらは雪の積もった木が描かれた作品です。この作品だけ他と異なる趣向で、雪の出す陰影がまるで人や動物の顔の様に見えてくるという仕掛けになっています。ちょっと心霊写真のようにも見えますが、探しきれないくらいの姿があって、その点は流石と言った感じでした。


<百花繚乱>
続いては花を描いた作品のコーナーです。1990年頃に初めて花を題材にして以降、色鉛筆で描いた花の絵へと重心を移していったそうで、花の絵は売り絵に格好の題材だったというのが背景にあるようです。(実際、花の絵のシリーズは人気があったそうです) また、2007年頃からは大型の作品を描くようになり、タイトルも意味深になっていったようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

56 吉村芳生 「ケシ」
こちらは屏風のような六曲の大画面にケシが並ぶ様子を描いた作品です。柔らかい色合いが色鉛筆らしさを感じさせるかな。色が明るく感じられて特に赤が眩しいほどです。ここまでモノクロの版画だったので一気に華やかになったように思えます。また、大画面なのに細部まで精密に描写されていて、蕾の毛のようなものまで分かるほどです。これも写実的な表現方法ではあるものの、またこれまでと違う表現となっていました。

この近くには同様の作品が並んでいて、ケシは結構多いかな。他はタンポポや藤、ひまわり等がありました。

61 吉村芳生 「無数の輝く生命に捧ぐ」
こちらはフェンス越しの藤の木を描いたもので、横は10mくらいあるんじゃないか?という巨大な作品です。色は淡めで荘厳な雰囲気があり、近くで観ると藤に囲まれているような錯覚を覚えます。近くにはこの作品の構想の写真もあって見比べることもできるのですが、絵は実際の光景と違っていて、写真を張り合わせて合成しているようです。こちらもグリッドをつけたりして綿密な準備が伺えました。
なお、解説によると この作品の制作動機は東日本大震災だそうで、花の1つ1つが亡くなった人の魂だと思って描いたとのことでした。それでこの意味深なタイトルになっているんですね…。

62 吉村芳生 「コスモス(絶筆)」
こちらはコスモスを描いた作品なのですが、右側1/4程度が空白となっています。これは製作途中で画家が亡くなった絶筆である為で、左から右へと描いて行く流れであったのがひと目で分かります。下書き・下塗りするわけでなく、きっちりと順序よく描いていく辺りに性格が出ている気がしました。絶筆ゆえに制作過程も知ることが出来る興味深い作品です。

この辺には色鉛筆も展示されていました。赤でも似たような色を色調を変えて取り揃えていて、かなり短くなるまで使い込んでいました。また、コスモスを描いた作品は何枚かあるのですが、綺麗に描いた後にわざとダメージ加工したような作風となっています。花のシリーズの中でもコスモスはそれが顕著に表れているように思えました。

60 吉村芳生 「未知なる世界からの視点」
こちらも全長10m以上ありそうな最大級の作品で、菜の花が川面に写っている様子が描かれています。上下で2分されていて上が水面で下が実景かな? 上のほうが揺らめいて見えます。似たような光景が延々と続いていて、「永遠に繰り返す命のような世界、浄土のような感じ」として、「あの世の世界を描いている」と語っていたそうです。長閑に見えるようで、何処と無く寂しげな雰囲気もあり 確かにあの世とこの世の狭間のような印象を受けました。


<自画像の森>
最後は自画像のコーナーです。最初の章で365枚の自画像も出てきましたが、吉村芳生は非常に多くの自画像を描いていて世界で最もたくさん自画像を描いた画家ではないかとのことです。さらに2000年代からは新聞紙の模写の上に自画像を描くという合体技も表れたようで、ここには多種多様な自画像が並んでいました。

38 吉村芳生 「新聞と自画像 2008.10.8 毎日新聞」
こちらは新聞紙の上に鉛筆で自画像をドローイングしたように見える作品です。この日の記事はノーベル賞を日本人が3人受賞したニュースとなっていて、もちろんこの記事も色鉛筆や水彩で描いています。文字はタイポグラフィそのものに見えるくらい正確に模写しているし、広告欄までしっかり再現しています。新聞紙を描くだけでも大変なのに自画像まで描くとは…。まさに吉村芳生の集大成的な画風です。

この近くには北京五輪開幕や秋葉原の大量殺傷事件の日の記事を背景にした同様の作品が並んでいました。結構大きな出来事があった日が選ばれやすいのかな? この日に広告出した会社は芸術作品として残るとは思ってもみなかったろうなあ。

41 吉村芳生 「新聞と自画像 2009年 全364点」
こちらは休刊日の1月2日を除いた364日分の新聞に描いた自画像で、この作品では笑ったり しかめっ面をしていたりと表情豊かに描かれています。初期に比べるとだいぶ年をとっていてシワや髪の毛のボリュームに老いを感じさせるかな。ニュースと自画像の表情の相関性が気になるところですが、あるような無いような…w とにかく毎日これだけ精密な絵を描いていたことに圧倒されました。

42 吉村芳生 「[3.11から] 新聞と自画像 全8種(見・吁・光・阿・吽・失・共・叫)」
こちらは2011年の東日本大震災をテーマにした新聞に自画像を描いた8点セットの作品です。叫ぶような顔や悲しみの表情をしていて、痛ましい記事と呼応するようになっています。吉村芳生は東日本大震災にかなりショックを受けると同時に、それを作品で表現していたようです。作者自身の思いがよく分かる表情となっていました。

この後も同様の作品が並んでいました。多分、本物の新聞紙の上に描いた作品もあるんじゃないかな。(文字が手書き感がないのがあるのでそれで見分けていました) 最後にパリ滞在時の新聞に描いた自画像などもありました。


ということで、ヤバい!を連呼するような細密かつ巨大なドローイングが並んでいて、絵画の概念をぶっ壊すほどの驚きの多い展示となっていました。。技術も凄いけど、精神的にタフ過ぎるw 分かりやすい凄さなので、美術初心者でも楽しめると思います。もう会期末ですが、記憶に残る画家だと思うのでご興味ある方は是非どうぞ。
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