関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 -美しい生活をもとめて- 【松坂屋美術館】(名古屋編)

今日も引き続き名古屋編です。前回ご紹介した展示を観た後、矢場町の松坂屋に移動して松坂屋美術館で「サンダーソンアーカイブ ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 -美しい生活をもとめて-」という展示を観てきました。

DSC00909.jpg

【展覧名】
 サンダーソンアーカイブ ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 -美しい生活をもとめて-

【公式サイト】
 https://www.matsuzakaya.co.jp/nagoya/museum/exhibition/2019_william_morris/

【会場】松坂屋美術館(名古屋)
【最寄】地下鉄名城線 矢場町駅

【会期】2019年1月2日(水)~2月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はアーツ・アンド・クラフツ運動で有名なウィリアム・モリスの壁紙を集めた内容となっています。これまでもウィリアム・モリスの壁紙は幾度となく展覧会で観てきましたが、この展示はひたすら壁紙に特化していて 壁紙会社のサンダーソン社のコレクションから130点も出品されていました。いくつかの章・節に分かれていましたので、各コーナーごとにその様子を振り返ってみようと思います。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)
  ウィリアム・モリス ステンドグラス・テキスタイル・壁紙 デザイン展 (うらわ美術館)

<1章 ウィリアム・モリス以前>
まずはウィリアム・モリスより前の壁紙の歴史のコーナーです。イギリスで壁紙が一般の住居に普及したのは19世紀なかばで、多くは手工業的なブロックプリントで製造されたようですが、1840年頃には機械生産が始まり 多色で複雑な柄も可能となり価格も手頃になったようです。
この頃の人気の壁紙は写実的な花束や 大邸宅向けの壁画的表現や織物を模したもので、多くはフランス製だったようです。しかし1850年代になると建築家のA・W・N・ピュージンやデザイナーのオーウェン・ジョーンズなどが主導するデザイン改革がおこり、壁面装飾は平面的・幾何学的な模様であるべきと主張し、フランス風の3次元的な演出は誠実ではないとしたようです。そのデザイン改革の背景には俗悪な大量生産の装飾品の氾濫があったようで、ロンドン万国博覧会でイギリスのデザインの質が低いことが露呈したこともあったようです。ちょうどこのロンドン万国博覧会の頃に日本は開国し、万博にも出品して日本の美術・工芸に関心が集まったそうで、金唐紙は1880年代に最先端の室内装飾となっていきました。この章にはそうした時代の壁紙が並んでいました。

[フレンチスタイル]
こちらはフランス風の壁紙が並んでいました。最初のキャプションの通り花がらが多いかな。ブロックプリントしていて、「イリゼ」という予めグラデーションを付けた背景となっていたりします。ロココ調などちょっとメルヘンチックな雰囲気の壁紙なんかは特にフランス風に見えます。しかしその中でもイギリスの会社による品もあって、割と質的にも近いように思えました。
ここには他に金の装飾が付いたものに薔薇を表した壁紙など、3次元的(だまし絵っぽい感じ)の壁紙もあって、これが後で批判されたもののようです。これはこれで面白いと思うのですが…w 同様に16世紀の刺繍に似せた壁紙は紙ではなく刺繍に見える出来栄えとなっていました。これも人気になったのが頷けるかもw

[リフォームスタイル]
ここはA・W・N・ピュージンとオーウェン・ジョーンズの壁紙などが並んでいました。15世紀の絹織物から影響を受けた壁紙などがあり、中世風のパターン化された文様が面白く、同じ柄がリズミカルに配置されています。アルハンブラ宮殿から着想を得たというのも納得の柄でした。

[オリエンタルスタイル]
ここはアール・ヌーヴォー的な優美さの壁紙がありました。特にアーモンドの花の壁紙などは軽やかで日本の桜を想起するような可憐さで、淡い色彩と相まって情緒があります。また、明らかに日本風のモチーフの壁紙もあり、日本の人々の影絵を描いた階段用の壁紙や、青海波や鶴などをモチーフにした壁紙などもありました。他にも中国風の壁紙もあって、当時の日本以外も含む「オリエンタル」への関心の高さを伺わせました。

その後に日本が金唐革を紙で再現した金唐紙の壁紙がありました。金地に濃淡で草花文を付けていて、「MADE IN JAPAN」の刻印が入っています。重厚感のある壁紙は金属にしか見えないほどの質感です。と、金唐紙は高い技術を要するので日本の専売特許かと思っていたら英国産の金唐紙もあって、日本と遜色ないクオリティで驚きました。


<2章 ウィリアム・モリスとモリス商会>
続いて今回の展示のメインとなるウィリアム・モリスの壁紙の章です。1860年代に登場し1870~1880年代を中心にデザインされたウィリアム・モリスの壁紙は当時 新鮮なスタイルをもたらせた訳ですが、その出発点は建築家の友人であるフィリップ・ウェッブが設計した自邸「レッドハウス」の装飾だったようです。ウィリアム・モリスは中世の職人に倣って室内装飾を作り上げ、これがモリス・マーシャル・フォークナー商会をつくるきっかけとなりました。1860年代は花や鳥を単純に繰り返す壁紙デザインを試み、1870年代は細かな草花が茂る地の層と 主たる花や葉が展開する上層を重ねるデザインを作り出し、生き生きとした動きを幾何学的な秩序によって支える構想を完成させていくことになります。1870年代後半からは中世やルネサンスの染織品のパターンを壁紙に応用していきました。
モリス没後にそのエッセンスを継承して商会を支えたデザイナーがジョン・ヘンリー・ダールで、特に1890年代にはモリスに匹敵する質のデザインを生み出したそうです。また、モリスの次女メイなど女性デザイナーたちも優れた壁紙デザインを残したようで、この章にはモリスの作品の他にそうしたモリス商会の品々も並んでいました。

ここには最初に格子垣という作品があり、背景となる地に格子、その上に椿のような花と格子にとまる鳥などが描かれています。それが繰り返されるパターンとなっているのですが、そう思えないほどの広がりを感じさせます。鳥の目線の先が別の繰り返しの鳥を見つめていたりするので、そうした緻密な計算がそう感じさせるのかもしれません。初期の作品はフルーツや花などが特によく出てくるモチーフのようでした。

その後には1870年代頃の壁紙が並び、この辺はよく観る代表作が多かったかな。花と葉が複雑に生い茂る様子を図案化して描いていて、生き生きとした雰囲気があります。

ここで撮影可能なコーナーがありました。
DSC00912.jpg
壁紙が壁一面に並ぶとだいぶ雰囲気が違って見えます。

壁紙のアップ。見事に図案化されてパターンとなっています。
DSC00914.jpg
1つ1つの絵は派手なようで、部屋全体では落ち着いた感じに見える不思議。

この近くの映像ではウィリアム・モリスの壁紙を使っている日本のカフェの紹介やモリスの生涯などを紹介していました。また、クリサンセマム(菊)の制作工程を観るコーナーもありました。まず地の部分に色をつけて葉っぱの模様を出し、花の模様を出し、別の葉っぱの模様を出し…と7度も重ねて葉っぱや花の陰影や立体感を出していました。版木と完成作品が揃って観られるので工程も分かりやすく面白かったです。

その先には他にモリス商会最大のデザインで1枚の絵のような大きさのセント・ジェームス宮殿の大階段用壁紙などもありました。全体的にモリスの壁紙は草花文が多いように思えますが、そのモチーフは様々で色もモノトーンだったり鮮やかだったりして多種多様です。後半は割とカラフルなのが多いかな。

その後はモリス商会のコーナーで、素人目にはモリスの作品と見分けるのが難しいものもありますが、絵柄の違いで何となく他の作家と分かるものもありました。特にジョン・ヘンリー・ダールはモリスそっくりでその精神を受け継いでいます。色彩が豊かなパターンがちょっと多めに感じるくらいかな。モチーフはやはり草花が多めです。他にメイ・モリスの壁紙は女性らしい優美さが感じられ、ジョン・ヘンリー・ダールよりも個性を感じました。


<3章 アーツ・アンド・クラフツ運動>
最後はウィリアム・モリスに影響を受けたデザイナーを中心に、19世紀から20世紀始めにかけての壁紙を紹介するコーナーです。1880年代にアーツ・アンド・クラフツ展覧会協会などのデザイナー団体が組織され、モリスの「生活と芸術を一致させる」という思想はアーツ・アンド・クラフツ運動として広がり、室内装飾は芸術的感覚の表明の場であるとの認識も高まったそうです。こうした芸術的な室内装飾の需要に応じて壁紙業者はアーツ・アンド・クラフツ運動に影響を受けたC・F・A・ヴォイジャーやウォルター・クレインなどにデザインを依頼したそうです。また、この時代も日本美術も注目され、クリストファー・ドレッサーは日本の造形エッセンスを壁紙に取り入れたそうです。ここにはそうしたフォロワーたちの壁紙が並んでいました。

何人かデザイナーごとに小コーナーに分かれていたのですが、特に面白いのはC・F・A・ヴォイジャーで、アール・ヌーヴォー的な優美なデザインや幾何学的なデザイン、ネオゴシックなど幅広いデザインとなっていました。一方でウォルター・クレインは割とウィリアム・モリスに似てるかな。その他のデザイナーもウィリアム・モリスに影響を受けた人を集めただけあってモリスそのものって感じの人もいて、モリスのデザインを借用した品なんかもあります。モリスがいかに絶大な影響力を持っていたか、この章を見れば一目瞭然といった感じでした。

最後に撮影可能な場所がもう1箇所ありました。
DSC00921.jpg
もしモリスが今 生きていたらどんなデザインをするか?をテーマにモリスのデザインをモノトーンにした現代の空間の提案だそうです。

壁紙のアップ。
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非常に落ち着いていてモダンです。これなら多くの部屋に合うだろうし、グッと優雅な空間になりそうです。


ということで、ウィリアム・モリスの前後の時代も含めて壁紙の歴史を知ることができました。これだけ壁紙を詳しく取り上げる展示は今まで観たことがなかったので参考になりました。この美術館は名古屋の繁華街にあるので、名古屋に行く機会があったらチェックしてみてください。

おまけ:
…そしてこの美術館の上のフロアには名古屋名物の「ひつまぶし」の発祥のお店「あつた蓬莱軒」の支店があります。このお店のピークタイムを避けるという目的もあったので一石二鳥ですw
DSC00929_2019012201520504d.jpg
こちらが「あつた蓬莱軒 松坂屋店」 以前記事にしたこともありますが5年ぶりに行ってきました。昼に行くと3時間待ちとかだったりしますが、美術館の閉館時間の19時半に行ったら30分程度で入れました。
 参考記事:
  【番外編】あつた蓬莱軒 松坂屋店【名古屋 栄界隈のお店】

 参考リンク:
  あつた蓬莱軒 松坂屋店
  食べログ

こちらは1.5人分のひつまぶし
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香ばしさが強めで脂も乗って非常に美味しかったです。

ちなみにこの時奥さんはライブに出かけていて私1人だったのですが、お持ち帰りの ひつまぶしもあったのでそれを買ってホテルに持っていきました。
DSC00935.jpg
お持ち帰りだけの場合は列に並ばないで出来上がりまで20分程度待つだけで良いということなので、これは裏技かもw こちらもお店で食べるのと遜色がないので、混んでいたらこれもありかなと。


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