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岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟 (感想前編)【東京都庭園美術館】

1週間ほど前の日曜日に白金台の東京都庭園美術館で「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」を観てきました。非常に満足度が高く充実した内容だったので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC01313_20190204002225928.jpg

【展覧名】
 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

【公式サイト】
 https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/190126-0407_okanoue.html

【会場】東京都庭園美術館
【最寄】白金台駅・目黒駅

【会期】2019年1月26日(土)~4月7日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
結構お客さんがいて、場所によっては人だかりができるような感じでした。(新館は広いので混雑感はありません)

さてこの展示は岡上淑子(おかのうえ としこ)という1950年代に活躍したフォトコラージュの女性アーティストの個展となっています。東京の公立美術館で岡上淑子の展示は初の機会ということで、岡上淑子の初期から活動休止まで幅広く並び、その全容を紹介するという充実した内容となっています。私は今までに岡上淑子の作品をあちこちで観てその魅力に惹かれていたので、この展示を非常に楽しみにしていました。構成としては1部は本館で作風の変遷などを取り上げ、2部は新館でテーマ別に作品を紹介するような感じでした。今日はそのうちの1部について、気に入った作品と共に書いていこうと思います。


<第1部 マチネ>
冒頭と1章は内容が一緒かもしれませんが、最初に代表作と共に岡上淑子の概要がありました。岡上淑子は1950~56年という僅かな期間に海外の雑誌に掲載された写真を使ってコラージュした作品を残した作家です。日本のシュルレアリスム運動を先導した瀧口修造に見出され、フォトコラージュで才能を開花させたものの、結婚を機に制作から完全に遠ざかり半世紀もの間 忘れ去られた存在となっていました。しかし2000年に東京で個展が開催され再訪家の機運が高まったようで、こうして公立美術館でも取り上げられるようになったようです。

1 岡上淑子 「幻想」 ★こちらで観られます
この作品は2階にあったコピーを撮影することができました。
DSC01318_20190204002226a64.jpg
室内で横たわっている女性と思ったら頭が馬で、あちこちに馬の姿があります。特に鏡の中から出てきたような馬はシュールで幻想的に見えるかな。サイズ感とかもおかしいのですが、何故か部屋に溶け込むような雰囲気もあって引き込まれるような不思議な世界観です。

3 岡上淑子 「沈黙の奇跡」 ★こちらで観られます
こちらは戸外で犬が群れて遊んでいる様子の写真に、杖をついた首のない人がコラージュされています。その首は上の方にパラシュートにくっついて舞っているように見えるかな。背後にも首の無い5人の人影があって不気味です。不穏さとシニカルな可笑しみが一体となったような作品で、怖いような笑えるような独特の雰囲気でした。


<1.岡上淑子とモードの世界>
続いてはファッションとの関係を示す作品などが並ぶコーナーです。岡上淑子のフォトコラージュの重要な要素として画面を飾ったのは1950年代の優雅でクラシカルなファッションだったようで、戦後に連合国軍が置いていったヴォーグやハーパース・バザー、グラフ雑誌のLIFEといった雑誌を素材として使いました。ちょうど戦後復興期のパリはオートクチュールが世界をリードし、優雅で華やかな時代だったようです。また、岡上淑子は洋裁学校に通いデザインに憧れていたそうで、六本木や神田の古書店で前述のファッション誌などを入手していたようです。ここにはそうした写真を組み合わせた作品が並んでいました。

7 岡上淑子 「水族館」 ★こちらで観られます
恐らくパリなどの海外のアーチ型の大きな窓?の前にブーケを抱えてウェディングドレスを翻す女性が立っている写真です。しかし、その頭は水差しとなっていて、窓の部分は水族館の水槽となっています。魚は飛び出して水差しに飛んできているように見えるのも芸が細かいw うまいことコラージュがハマって窓が水槽のように見えるのが面白い作品でした。

4 岡上淑子 「招待」
こちらは宮殿のような部屋の中で持たれるように座るドレスの貴婦人が写った写真です。しかし、その背後から婦人の手を握っている紳士の頭は長いくちばしのトカゲ?に置き換わっています。優美な部屋に唐突にグロテスクな存在が現れているのがミスマッチで、非常にインパクトがありました。これは以前にも観たことがあるのですが、異世界にでも連れて行かれそうな怖さがあります。

食堂にはクリスチャン・ディオールの1950年代のドレスが並んでいました。シックでエレガントなので、旧朝香宮邸とマッチしています。

9 岡上淑子 「夜間訪問」 ★こちらで観られます
こちらも今回のポスターになっている作品で、コートとバッグを手に持って立つ女性の写真となっています。しかし頭はセンスに置き換わっていて、背景には教会らしき建物、下の方には傘などが連なるシュールな画面となっています。扇子の頭は優美さと不穏さの両面があって、怖い夢の中にいるような感覚を覚えました。岡上淑子の作品は無意識の琴線に触れるような光景ばかりです。


<2.初期の作品>
続いては初期作品のコーナーです。岡上淑子は1950年(22歳の時)に当時 御茶ノ水にあった文化学院デザイン科に入学し、そこで出された「ちぎり絵」の課題で、何気なく取った紙片に偶然に女性の顔が切り取られていた経験をしたそうです。それにインスピレーションを得て、雑誌に掲載されていた写真をハサミで切り抜き 糊で張り合わしたフォトコラージュの制作を開始していきました。初期の作品は黒や赤の単色の羅紗紙を台紙にしたシンプルな構図が特徴となっていて、まだ背景はありません。岡上淑子はシュルレアリスム運動の美術知識が無かったようですが、思いつくままに作品を制作していたそうで、ある時 日本におけるシュルレアリスム運動の主導的立場であった瀧口修造と知遇を得て、作風が変わっていくことになります。ここにはそうした初期の品々が並んでいました。

19 岡上淑子 「ポスター」
こちらは赤い台紙の上に、左手を上げるポーズの女性の写真がコラージュされた作品です。しかし腰から下は切り取られ、足を挙げているような感じで再構築して貼ってあります。もちろん奇妙さを感じる一方で、躍動感も感じられるかな。これ以外の初期作品は背景が黒の作品ばかり並んでいましたが、こちらは赤地ということもあって華やかさもありました。

22 岡上淑子 「母」
こちらは森の写真の中に子供の頭が5つくらい並んでいる作品です。枠の外にも1つくっついていて、腕も1本だけ枠に張り付いています。…率直に言うと心霊写真みたいなw 猟奇的な感じもして怖いけど、妙に記憶に残る1枚でした。

16 岡上淑子 「トマト」
こちらは輪切りのトマトにナイフを突き立てたような写真で、そのナイフの傍らに女性の顔がコラージュされています。そうなると まるでナイフは断頭台で、トマトは人体の輪切りのように見えてくるのが不思議。背景は真っ暗だし、赤々としたトマトの輪切りがグロテスクに感じられました。妙な連想をしてしまう作品です。


<3.瀧口修造とマックス・エルンスト>
続いて3章は瀧口修造からの教えに関するコーナーです。瀧口修造と知り合って、「続けて御覧なさい」と言われた岡上淑子はコラージュを携えて度々 瀧口修造を訪ねるようになったようです。その際、マックス・エルンストの作品を知ることになり、岡上淑子は衝撃を受けました。この体験が契機となって背景にも写真を使うようになったらしく、作風は奥行きのある構図へと変化していきました。また、瀧口修造は1951~57年にかけて作家の個展を企画していたようで、2度に渡って岡上淑子の個展も開催したようです。さらに当時 開館1周年を迎えた東京近代美術館で開かれた展示にも岡上淑子を推薦してくれたそうで、岡上淑子は作家として表現の舞台に踏み出したそうです。

ここは主にマックス・エルンストの本などがあり『百頭女』や『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』といった作品が展示されていました。

28 岡上淑子 「はるかな旅」
これは内容的には2章ですが、3章で展示していました。荒涼とした原っぱに犬が歩いていてお腹に時計がついています。右上にはレインコートのようなフード付きのコートが浮かび、顔の部分には花束がコラージュされています。ありえない組み合わせですが、まさにシュルレアリスムのデペイズマンの技法そのものといった感じで、意味を模索すると同時に言いしれぬ不安感が起きました。これも何度か観ていて心に残っていた1枚です。
 参考記事:<遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える- 感想前編(損保ジャパン東郷青児美術館)

その後は瀧口修造からの手紙や展覧会の案内状、当時の作品集なども展示されていました。また、書庫には子供の頃の写真、書斎にはクリスチャン・ディオールのデイ・ドレスなんかもありました。


<4.壁紙からフォトコラージュへ>
続いては岡上淑子のファッションへの憧れについてのコーナーです。岡上淑子は小学生の頃に人形の洋服を作ろうと型紙を制作していたそうで、小さい頃から洋裁に関心があったようです。洋裁学校でも学んでいて、洋裁のハサミを写真雑誌へと持ち替えてコラージュが生まれたとも言えるようです。

ここには洋服の型紙が展示されていました。確かに岡上淑子の作品はハサミを使うしファッション誌を切っているので、フォトコラージュとの接点が伺える品に思えました。


<5.コラージュ以降>
続いてはコラージュ以降の作風のコーナーです。1950年代半ばになるとコラージュ制作に限界を感じるようになったそうで、瀧口修造の励ましもあってカメラによって自ら現前の被写体を捉えるストレート写真を手がけるようになったそうです。1956年のタケミヤ画廊での第2回個展はコラージュに加えてそうした写真作品も出品していたそうで、被写体は身近な人物や風景だったようです。また、その後の1957年の結婚を機にコラージュから遠ざかってしまいましたが、それ以降でも日本画やスケッチを手がけていたようです。ここにはそうしたコラージュ以降の作品が並んでいました。

52 岡上淑子 「りんごと釘」
こちらは縦に半分に切られた林檎に釘を刺した写真です。林檎も やや古くなっているように見えるかな。他にも林檎にチェーンが伸びていて鍵が付いている作品や、林檎に時計を埋め込んだ作品なんかもあり、、現実ではあるもののコラージュ的な奇妙な取り合わせとなっています。ハサミで切り取るのではなく被写体を組み合わせたような作風となっていました。

この辺には愛用のカメラと露出計などが展示されていました。

63 岡上淑子 「祖母像」
こちらは和室で座っている作者の祖母を写した作品です。横向きの写真と後ろ姿の写真があって、両方共 普通のポートレートに見えるかな。静かに置物のように座っていて今までの作風とはだいぶ違う作品となっていました。

そのさきにはスケッチのコーナーがありました。色が塗られていて花や草などがモチーフとなっています。割と素朴な感じを受けつつ、女性らしい華やかさもあって繊細な感性が見て取れました。


<6.その他関連資料>
こちらは岡上淑子の作品にまつわる資料のコーナーです。ここまで観てきた作品の出展となった雑誌が展示されていて、先程の「幻想」はヴォーグ、「沈黙の奇跡」はLIFEといった感じで元ネタが分かります。これを観ていると岡上淑子が元の写真の特徴を上手く活かしながらコラージュしているのが分かり、一層にセンスが感じられました。おまけにしては面白い資料です。 他には岡上淑子の作品を掲載した雑誌などもありました。


ということで、本館の展示は岡上淑子のざっくりとした作風の変遷を観ることができました。本館はそれほど点数が無いように思えましたが、1つ1つがインパクトのある作品ばかりで非常に満足できました。庭園美術館での開催というのもぴったりで、雰囲気も2割増しくらいじゃないかなw さらに新館には代表的な作風の写真がずらりと並んでいましたので、次回は新館についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら

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