関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド (感想後編)【東京都美術館】

前回に引き続き東京都美術館の「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」です。前編は1~3章の若冲・蕭白・芦雪についてでしたが、今日は残りの5人の章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。なお、私が観たのは2019/02/09の内容となります。(会期中に入れ替えあり)

 前編はこちら

DSC01884.jpg DSC01882.jpg

【展覧名】
 奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド

【公式サイト】
 https://kisou2019.jp/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_kisounokeifu.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年2月9日(土)~4月7日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
1階半ばの岩佐又兵衛の絵巻が一番混んでいたように思います。作品が小さくて眼の前でしか観られないためかな。

後編も引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<執念のドラマ 岩佐又兵衛(1578-1650)>
岩佐又兵衛は現在の伊丹に戦国武将 荒木村重の子として生まれ、主君である信長に反旗を翻したことから一族は滅亡の危機を迎えますが奇跡的に生き残りました。その後、母の姓を名乗り、豊臣の滅亡後に現在の福井に移住して20年ほど過ごした後に江戸に移っています。その画風は1つの流派に属さず、大和絵と漢画を融合した画風で人物画に本領を発揮しました。題材は幅広く、古典から風俗まで描いて浮世絵の祖とされることもあり、ここにはそれが頷けるような作品が並んでいました。

48 岩佐又兵衛 「山中常盤物語絵巻 第四巻」 ★こちらで観られます
こちらは源義経の伝説のうち、母である常盤御前の仇討ちを題材にした絵巻です。常盤御前が賊に襲われる前半のクライマックスのシーンらしく、屋敷の中で野盗のような連中が狼藉を働いて逃げていく様子が描かれています。大和絵的な画風で、緻密な描写となっていて金なども使われているので雅な雰囲気も感じるのですが、戯画的なものも感じるかな。女性を身ぐるみ剥いで刺し殺すシーンなんかもあって、生々しい描写となっていました。

この隣には「堀江物語絵巻」もあり、こちらは更に緻密で極彩色となっています。首を跳ね飛ばされた女性や 斬られて血が吹き出すスプラッターシーンなんかも観られますw

65 岩佐又兵衛 「豊国祭礼図屏風」
こちらは六曲一双の屏風で、金雲たなびく中 京都の豊国神社の祭の様子が描かれています。左隻には物凄い数の人たちが槍のようなものを持っていたり踊る仕草で描かれていて、人々のエネルギーが渦巻くような感じです。人々の表情も豊かで、大画面なのに細部までしっかり描き込まれています。右隻の方も馬に乗っている人たちや、中央の能舞台のようなところの儀式などをつぶさに描いていて、圧倒的な質・量となっていました。

その後は掛け軸が数点並んでいました。会期によって入れ替えもあるようです。


<狩野派きっての知性派 狩野山雪(1590-1651)>
続いては京都の狩野派である狩野山雪のコーナーです。狩野山雪は元々は肥前の生まれで、16歳の頃に京狩野初代の狩野山楽に弟子入りし、婿養子となりました。学者肌で漢学に通じ 文人的な資質を持っていたそうで、日本最初の画家伝である「本朝画史」の草稿を描き、それを元に息子の狩野永納が完成させています。その画風は伝統的な画題を独自の視点で再解釈し、水平・垂直・二等辺三角形を強調した幾何学的構成が特徴となっています。ここにはそうした作品が並んでいました。

69 狩野山雪 「蘭亭曲水図屏風」
こちらは八曲一双の横長の屏風で、中国の蘭亭での宴の様子が描かれています。横一線に流れている川には葉っぱに乗った器が流され、河畔で人々が歌を読んでいて これは王羲之の「蘭亭序」が生まれた宴の様子です。 岩の表現は狩野派っぽい漢画に見えますが、建物などは直線が多用されていて整然とした個性とリズムを感じます。川の構図もちょっと変わっているんじゃないかな。人々が悩んでいる表情も豊かで、楽しげな雰囲気となっていました。
 参考記事:書聖 王羲之 感想後編 (東京国立博物館 平成館)

67 狩野山雪 「梅花遊禽図襖」 ★こちらで観られます
こちらは金地の4面の襖にうねった梅が描かれた作品で、梅は花を咲かせているのに絡みつく蔦は赤く紅葉しています。つまり季節が交じっている様子で、奇想の光景と言えそうです。うねりながらも勢いよく伸びる枝からは威厳が感じられる一方、岩の上の雉や木の上の小鳥などの姿は梅の花と共に可憐さを感じさせました。

68 狩野山雪 「龍虎図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは六曲一双の屏風で、左隻に虎、右隻に龍の姿が描かれています。龍は雲から出てきてトボけたような顔をしている顔がちょっと可笑しいw 虎も龍をみつめているのですが、前足をちょこんと揃えていて可愛らしく見えるかな。尻尾はヒョウ柄だし…w しかし、毛並みや鱗などは見事な質感だし、背景の岩や松は典型的な狩野派風に思えます。解説によると、師匠の狩野山楽の画風を継承しつつも個性を発揮し始めた頃の初期作品とのことでした。


<奇想の起爆剤 白隠慧鶴(1685-1768)>
続いては禅画の白隠慧鶴で、本業は臨済宗の中興の祖と言えるほどの僧で、500年に1人の英傑とまで呼ばれたそうです。現在の沼津に生まれ、15歳の時に出家し全国で修行を重ね、33歳で故郷の寺の住職となりました。42歳で悟りを開いたと考えられるようで、その後は民衆の教化に務め、その為の禅画や墨跡を1万点以上残しています。一見するとユーモラスで軽妙かつ大胆な作風ですが、宗教者としてあえて技巧を排除した独自の表現となっています。最近の研究では白隠慧鶴の禅画が京都の画家たち(応挙とか若冲とか)の個性表現の起爆剤になったと考えられているそうで、ここにはそうした個性的な作品が並んでいました。(ちなみに白隠は美術史家・辻惟雄 氏による『奇想の系譜』には含まれていないようです。)
 参考記事:
  白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

75 白隠慧鶴 「半身達磨図」 ★こちらで観られます
こちらは2mくらいある大型の掛け軸で、最晩年の作品です。ぎょろっとした目と赤い衣が特徴の達磨の肖像で、背景が真っ暗で輪郭が太いこともあって非常に迫力ある姿となっています。解説によると、下書きの線をそのまま残したり何度も線を引き重ねるなど、従来の筆法を覆すような技法も観られるようです。技巧を捨てたことで一層に絵画的な面白さが出てくるというのが興味深いですw 会場の遠くからでも目に入る非常に存在感のある作品でした。

81 白隠慧鶴 「すたすた坊主図」 ★こちらで観られます
こちらは しめ縄をつけただけの半裸の坊主を描いた作品で、寺社に代参りすると言って裕福な商家に金をせびりに行く底辺の坊主を描いています。手に桶と花を持っていて、顔は満面の笑みを浮かべていて布袋に見立てて描いているようです。(白隠の自画像でもあるという説も聞いたことがあります) デフォルメぶりがゆるキャラのようで可愛いですが、仏教的にはあまりよろしくない存在だったんでしょうね…。禅画だけに何か意味がありそうにも思えました。

禅宗だけあってこの辺は達磨の肖像が多めでした。それぞれの画風も異なるのも見どころです。

83 白隠慧鶴 「隻手」 ★こちらで観られます
こちらは手だけを大きく描いていて、手を開いて突き出すような構図となっています。これは「隻手音声」という白隠の禅問答を絵にしたもので、両手を叩けば音がするが片手はどうか?という内容となっています。画家のアプローチからではこんな大胆な作品は出てこないと思うので、禅僧ならではの発想じゃないかな。よく観ると下書きのようなものも残っていて、教えの為の絵であることが伺えました。


<江戸琳派の鬼才 鈴木其一(1796-1858)>
続いては江戸琳派の後継者の鈴木其一のコーナーです。鈴木其一は江戸に生まれ、酒井抱一に弟子入りして俵屋宗達や尾形光琳の流れを組む画風を学びました。抱一の作風を忠実に受け継ぎながらも師の死後は個性的な作風に傾倒したそうで、冷徹で理知的に構成し自然の景物を人工的に再構成する画風となっていったようです。ここには琳派風の作品や其一独自の作風の品などが並んでいました。(其一も『奇想の系譜』には含まれていないようです。)

91 鈴木其一 「藤花図」
こちらは藤が垂れ下がる様子を描いた作品です。藤の花は丁寧に滲みを使った表現となっていたり、全体的に洒脱な雰囲気となっている点など酒井抱一の画風に近いように思えます。色彩も気品があり、好みの作風でした。

近くには極彩色の「夏秋渓流図屏風」もありました。これは其一独自の画風だと思います。
 参考記事:国宝燕子花図屏風 琳派コレクション一挙公開 (根津美術館)

86 鈴木其一 「百鳥百獣図」 ★こちらで観られます
こちらは2幅対の掛け軸で、左幅には象・馬・駱駝などの他に想像上の白虎や唐獅子などの獣が描かれています。そして右幅には鶴・孔雀・鷲・鶏・鳳凰?などの鳥たちが描かれて、いずれも緻密な描写です。しかし琳派とはちょっと違うように見えて、南画を混ぜたような画風に思えるかな。解説によると、あらゆる生物を描きだそうとするのは伊藤若冲から感化されたのではないかと考えられるとのことでした。

近くには「四季花鳥図屏風」もありました。こちらは酒井抱一が好んだモチーフが多くて琳派風も強めですが、やや生々しい色彩感覚が抱一とは違うように思えました。私は琳派大好きですが、其一は南画風だったり色がどぎつくて、ちょっと苦手な存在ですw


<幕末浮世絵七変化 歌川国芳(1797-1861)>
最後は歌川国芳のコーナーです。歌川国芳は江戸に生まれ12歳で歌川豊国に入門し、水滸伝をテーマにしたシリーズが好評となり人気浮世絵師の仲間入りをしました。ユーモアや批判を込めた作品や 寄せ絵のような奇想の作品まで幅広く、国芳の作風を端的に説明するのはちょっと難しいかもw(詳しくは参考記事をご参照ください) しかし、ここには代表的な作品が並んでいて、その豊富な魅力の一端を伝えていました。
 参考記事:
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想後編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想後編(太田記念美術館)

94 歌川国芳 「一ツ家」 ★こちらで観られます
こちらは浅草寺に伝わる大型の絵馬で、旅人を泊めては殺して金品を奪っていた老婆の話をモチーフにしています。片胸を顕にしながらナタを持ち、逆の手では殺しを止めようとする娘の首を掴んでいて、鬼気迫る雰囲気です。背後には気持ちよさそうに頬杖を付いて寝ている女性がいて、これは観音菩薩が童子に化けた姿のようでした。歌川国芳はこの話を浮世絵にもしていますが、大画面で肉筆の迫力のある作品となっていました。

他にも巨大な骸骨の「相馬の古内裏」(★こちらで観られます)や、「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」といった妖怪の類の作品や「みかけハこハゐが とんだいい人だ」「猫の当字 ふぐ」といった寄せ絵、西洋の陰影技法を取り入れた「近江の国の勇婦於兼」など多彩な代表作がありました。中には6枚続きという贅沢かつ大胆な発想の浮世絵もあります。


ということで、後半も個性派揃いの内容となっていました。江戸時代からこんなに自由な絵を描いていたのかと驚かされる作品ばかりです。既に混雑していましたが今後はさらに混むと予想されますので、気になる方はお早めにどうぞ。入れ替えも結構あるようなので、お目当てがあるかたは事前に公式サイトの作品リストをチェックしておくことをオススメします。

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