関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

田中一村と刑部人 ―希望と苦悩のあいだ― 【とちぎ蔵の街美術館】

10日ほど前の日曜日に、栃木市のとちぎ蔵の街美術館で「企画展 田中一村と刑部人 ―希望と苦悩のあいだ―」を観てきました。

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【展覧名】
 企画展 田中一村と刑部人 ―希望と苦悩のあいだ―

【公式サイト】
 https://www.city.tochigi.lg.jp/site/museum/8664.html

【会場】とちぎ蔵の街美術館
【最寄】栃木駅・新栃木駅

【会期】2019年1月16日(水曜日)~3月21日(木曜日・祝日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は近年人気が急上昇している田中一村(たなかいっそん)と、栃木ゆかりの油彩画家である刑部人(おさかべじん)の2人展となっています。(田中一村というと奄美大島を描いた作品が有名ですが、生まれは栃木市らしく この美術館での開催となったようです) 栃木出身という共通点以外の2人の接点は定かではありませんが、 田中一村は初期の東京時代・千葉時代の作品が30点程度、刑部人は15点という小展示で、1階が田中一村、2階が刑部人というように分かれていました。それぞれの画家について気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1階 田中一村>
まずは田中一村のコーナーです。田中一村は木彫家の息子として栃木で生まれ、子供のうちに東京に移り住みました。父の手ほどきと独力で南画の技法を習得し、東京美術学校の日本画科に入学したものの、2ヶ月で自主退学しています。その後、千葉に移り住んで川端龍子の青龍展などで入選したこともあったようですが、自信作が入選しなかった際には辞退するようなこともあったようです。有名な奄美大島への移住は50歳以降ですが、生涯あまり評価されないまま69歳で亡くなっています。今回の展示では千葉時代くらいまでで、まだ田中一村を名乗る前の田中米邨の画号の時代の作品から並んでいました。(詳しい経歴や奄美大島時代については以前の記事をご参照ください)
 参考記事:
  田中一村 新たなる全貌 感想前編(千葉市美術館)
  田中一村 新たなる全貌 感想前編(千葉市美術館)

7 田中米邨 「山水図」
こちらは佐野にいた頃の初期作品です。南画風の粗目のタッチで山水を描いていて、谷間に赤い柿のような実がなっているのがアクセントとなっています。晩年の作風とはだいぶ違っていて、やや素朴さで郷愁を誘うような雰囲気です。佐野ではまだこうした作品がたまに見つかるそうで、ちょっとそれも驚きでした。

この近くには父親の田中稲邨による紫檀に彫刻したお盆や、霊芝、仏手柑、びわなどをリアルに表現した彫刻が並んでいました。父親の作品も見事なので、一村はその才能を受け継いでいたのかもしえません。

4 田中米邨 「蘇鉄図」
こちらは以前の展示で観たような気がします。モコモコした蘇鉄の幹と風になびく葉っぱが表され、題材は南国風なので晩年に通じるものがありますが、タッチは南画風です。解説によると、墨の濃淡で筋目描きの技法を使って描いていて、その上から濃い墨で重ねてモコモコ感を出しているそうです。また、青年時代には中国の趙之謙(ちょうしけん)や呉昌碩(ごしょうせき)に影響を受けていたそうで、これは趙之謙に倣って描いているとのことでした。これも晩年とはだいぶ異なりますが、力強い印象を受けました。

3 田中米邨 「僊桃(延寿萬歳図)」
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写真は看板を撮ったものです。やや荒く強い輪郭と、赤々とした桃が目を引きます。これも趙之謙に倣った画風で、篆書のような文字も含めて中国風に思えました。

11 田中米邨 「宣富当貴」
こちらは牡丹を描いた作品で、赤の花と緑の葉の取り合わせが非常に強い色彩に感じられます。一方、白い花もあってそちらは太い墨の輪郭で素早く描いているようで、勢いを感じさせます。荒々しくダイナミックな印象と可憐さが両立していて面白い作品でした。

↑この作品を描いた頃(1931年頃。柳条湖事件や満州事変の年)には日本と中国の関係が悪化し、米邨の中国に倣った作品の需要が減ってしまったそうです。そして1945年に終戦を迎えると40歳で画号を柳一村に改め 青龍展で入選するなどの活躍を見せますが、次の青龍展で自信作の「秋晴」が落選したため、「波」の入選を辞退したのだとか…。そして画号をさらに田中一村へと変えたとのことで、どうも不運と人柄によって中央画壇とはあまり縁が無かったようですね。

18 田中一村 「軍鶏図」
こちらは田中一村に画号を改めた以降の作品で、赤い鶏冠の軍鶏が描かれています。輪郭が強く鋭い顔つきの軍鶏で、スリムな姿からは緊張感が漂います。解説によると、昭和28年(1953年)に軍鶏師と知り合い、その家に通いつめて描いたとのことで、この後も軍鶏が出てくる作品があります。間近で写生している為か、真に迫るものがありました。

19 田中一村 「白梅にジョウビタキ」
こちらは掛け軸で、白い花を咲かせる白梅が右下から左上へと勢いよく伸びている様子が描かれています。枝の先にはジョウビタキの小さな姿があって可愛いw 墨の濃淡でかすれていたりして、勢いを感じさる画風となっていました。

17 田中一村 「農村風景」
こちらは向き合う2羽の軍鶏と、その周りで見物している農民たちを描いた作品です。手前には3本の木が大きく描かれているので木の隙間から覗いているような感覚を覚えるかな。のどかな風景だけど構図が大胆で面白い作品です。解説によると、これは千葉にいた頃に描いたもので、与謝蕪村などの文人画の世界に親しんだのが表れているようです。画風はちょっと変わりましたが、やっぱり南画が好きなんですね…w

この辺は情感ある作品が多かったように思います。

28 田中一村 「一村が奄美大島で撮影した写真」
こちらの作品だけが奄美大島の時代のものですが、自身で撮影した写真作品となります。8枚ほどあって、スケッチする自画像や、蘇鉄・アダン・藁葺き屋根の家など、奄美大島ならではの光景を撮っています。この写真を観ると奄美大島の時代の絵画と題材が被っているので、奄美の風土に非常に強い関心を持っていたことが伺えました。

12 田中一村 「秋草」
こちらだけは2階に展示されていて、赤や紫に染まる秋草と枝の先にとまる小鳥が描かれています。たらしこみのような滲みを使って表現した葉っぱや枝は琳派に通じるものを感じるかな。小鳥は可愛いというよりは凛々しい雰囲気となっていました。


<2階 刑部人>
続いて2階は刑部人のコーナーです。刑部人は父から絵を教わって、川端龍子が主催するスケッチ倶楽部の添削を受けるなどして絵を学んだようです。父の転勤で上京すると、東京美術学校の西洋画科に進み3年で和田英作の教室に入って特待生となるなど、非常に優秀な学生時代だったようです。しかしその後に新しい美術の潮流の中でスランプを味わったりしたようで、先輩の金山平三とのスケッチ旅行を経て画風を変えていったようです。ここではざっくりとその画風の変遷も観ることができました。

31 刑部人 「友人の肖像」
こちらは外のベンチで腰掛ける丸メガネの男性を描いた作品で、背後は緑の野が広がり 脇には金魚の入った円筒の水槽が置かれています。男性は白いシャツ姿で日焼けした肌となっていて、全体的に陰影は深めに見えるのに軽やかな色彩に思えるのが面白い画風です。真面目そうな内面まで感じられる肖像となっていました。

34 刑部人 「黒衣の少女」
こちらは椅子に座る黒い服の女性を描いた作品で、中に赤いシャツも着ていて色が対比的に感じられます。モダンな雰囲気があり、どこか見つめる目が気になるかな。写実的で割とアカデミックな雰囲気で和田英作に通じるものもあるように思えました。
なお、1920年代にはパリから帰った画家たちが増えてきて、和田英作に「君は帝展で不利になる。もっと個性的な絵を描かねば」と言われたそうです。その潮流の中でスランプとなったようで、スランプ時代の作品は自身で破棄してしまい あまり残っていないのだとか。

36 刑部人 「少年通信兵」
こちらは戦時中に戦争画を描いていた頃の作品で、森の中で銃を背負って馬の世話をしたり 荷車の通信機器を扱う3人の少年兵が描かれています。写実的な作風で、戦争画にしては爽やかな雰囲気にも見えるかな。まだ晩年の作風とは違う雰囲気となっていました。

40 刑部人 「天平古寺(海竜王寺)」
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写真は看板を撮ったものです。こちらは戦後の作品で、古く味わいのある寺を描いています。人がいなくて草が生い茂ってるので廃寺か?と思ったりもしましたがw 壁や瓦などの質感が出ていている一方で素早いタッチとなっているように思いました。

42 刑部人 「塩原渓流紅葉」
こちらはペインティングナイフを使って描いた作品で、塩原の渓流が荒々しく表現されています。赤~オレンジの楓も流れるように描かれていて、細部は省略されているものの情感豊かな光景となっています。ここまで観てきた精緻な作風から一気に大胆になっていて驚きました。

この近くには同様に素早い筆致で描いた渓流の作品がいくつかありました。


ということで、2人の画家の作品を楽しむことができました。田中一村は代表的な作風の品が無かったのがちょっと残念ですが、生地ならではの作品もあって大規模展示とは異なる味わいがありました。刑部人も簡単に画風の変遷が観られて良かったです。この美術館は建物自体が歴史的な蔵となっているのも見どころなので、栃木に行く機会があったら寄ってみるのもよろしいかと思います。

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