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河鍋暁斎 その手に描けぬものなし (感想前編)【サントリー美術館】

3週間ほど前の土曜日に六本木のサントリー美術館で「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC01892.jpg

【展覧名】
 河鍋暁斎 その手に描けぬものなし

【公式サイト】
 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_1/

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年2月6日(水)~3月31日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
場所によっては人だかりができていて、やや混雑感はありましたが概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は画鬼とまで言われた幕末から明治にかけての絵師である河鍋暁斎を取り上げた内容となっています。河鍋暁斎は歌川国芳や狩野派に学び、当初は戯画や風刺画などで人気を博した絵師ですが、一方では古画を学習し狩野派の伝統を受け継いでいた側面があり、今回の展示ではその両面を観ることができました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この展示は会期が細かく分けられていて、私が観たのは2/6~2/11の内容となります。
 参考記事:
  「寅年の祝い」展 (河鍋暁斎記念美術館)
  河鍋暁斎の能・狂言画 (三井記念美術館)
  北斎と暁斎 奇想の漫画 感想前編(太田記念美術館)
  北斎と暁斎 奇想の漫画 感想後編(太田記念美術館)


<第1章 暁斎、ここにあり!>
まずは代表作が並ぶコーナーです。河鍋暁斎は着色も水墨も使いこなした絵師で、多岐に渡るジャンルで優れた作品を残しています。さらに画風も様々で、即興的なものから じっくりと構想を練った作品まであり、ここにはその多様さが分かる品々が並んでいました。

1 河鍋暁斎 「枯木寒鴉図」 ★こちらで観られます
こちらは木の枝にとまるカラスを描いた水墨画です。墨の濃淡で枯れ木やカラスの羽根の色を描き分け、ぽつんと寂しげな雰囲気となっています。遠くをじっとみていて、余白が広々とした空に見えるのも面白い構図です。よく観ると細部までしっかり描かれているのが驚き。 解説によると、これは明治14年(1881年)の第二回内国勧業博覧会で事実上の最高賞を貰った作品で、当時では破格の百円という値段をつけて批判されたそうです。しかし河鍋暁斎は長年の苦学の値であると言ったそうで、実際に日本橋の菓子屋栄太郎の主人が言い値で買ったというエピソードがあります。それまで戯画で知られていた河鍋暁斎が狩野派であるということを世に再認識させた作品です。

3 河鍋暁斎 「観世音菩薩像」
こちらは滝の岩に腰掛ける観音と、その前で手を合わせる善財童子を描いた作品です。観音の足の下や滝は胡粉で水飛沫が飛び散るような表現となっていて勢いを感じさせます。また、観音のまとった薄布や光背は透けて見えるなど高い技量が見て取れました。緻密で繊細な描写が見事です。


<第2章 狩野派絵師として>
続いては狩野派絵師としての側面についてのコーナーです。河鍋暁斎は7歳で歌川国芳に入門した後、10歳で駿河台狩野派の前村洞和に入門しました。この前村洞和が河鍋暁斎を画鬼と呼んだそうで可愛がられていましたが、前村洞和が病気になった為 洞和の師匠である駿河台狩野家七代目当主・洞白陳信の教えを受けることになり、19歳という異例の若さで修行を終えています。さらにその後も駿河台狩野家九代目当主・洞春の臨終の際に「画技遵守」を依頼され、宗家・中橋狩野家の永悳立信に再入門するなど、狩野家との関係は晩年まで続いたようです。ここにはそれを伺わせるような作品が並んでいました。

9 河鍋暁斎 「毘沙門天像」 ★こちらで観られます
こちらは18歳の頃の作品で、宝塔を持って炎の光背を背負う毘沙門天が描かれています。やや首を傾げて上目遣い気味に睨む顔には迫力があり、緊張感が漂います。しかしこの絵には下書きのような部分もあって、踏みつけた邪鬼は描き終わっていないなど未完成のようです。それでも18歳とは思えないほどの画技を感じさせる出来栄えで狩野派からの影響を感じさせる作品となっていました。

この章では河鍋暁斎が観音を毎日描いていたというエピソードも紹介されていました。画技への飽くなき探究ぶりが伺えます。

16 河鍋暁斎 「豊干禅師と寒山拾得図」
こちらは襖紙4枚を張り合わせた大画面の掛け軸で、臥せる虎に横たわる豊干禅師と 岩に向かって筆を向ける寒山、その脇で墨を摺る拾得が描かれています。太めの輪郭線が力強く、岩の硬そうな表現などは狩野派の特徴がよく出ているかな。虎の鋭い目や 拾得のちょっと危ない笑顔など 表情も豊かで河鍋暁斎らしさも感じられました。

23 河鍋暁斎 「虎図」 ★こちらで観られます
こちらは水墨で、正方形の大型の画面いっぱいに虎が身をくねらせて歩くような姿で描かれています。目は鋭く髭もピンと伸びて緊張感があるのですが、胴体部分が異様に曲がっているように見えるかな。等身とか考えると妙な感じもするけど、画面に収める為にこのように描いているようです。下から上へと流れるようなフォルムが独特な面白さでした。解説によると、この作品は後に菩提寺となった寺に1ヶ月半滞在したお礼で描いたのだとか。


<第3章 古画に学ぶ>
続いては古画の学習に関するコーナーです。河鍋暁斎は古画に学んでそこに自分の個性を加えて新しい命を吹き込んだ作品が数多くあるようです。狩野派の教育の中に和漢の大家の臨写があり、それが認められると師匠の手伝いが許されるという過程となっているので、河鍋暁斎も狩野派の基礎として最晩年まで続けていたようです。ここにはそうした古画と共に河鍋暁斎の写しなどが並んでいました。

32 河鍋暁斎 「鍾呂伝道図」
こちらは32歳の頃の作品で、鍾離権が呂洞賓に仙術を伝える場面が描かれています。隣には顔騎が描いたと伝わる「鍾離権・呂洞賓問答図」が並んでいて、比べてみると構図は同じものの顔がやや異なっていたり、口の辺りにオリジナリティが感じられます。また、衣文線の輪郭が強く描かれている点などは狩野派的な要素を付け加えているようでした。古画に学びつつ独自の解釈も追加していた様子が伺える作品でした。

この他にも狩野探幽や円山応挙、英一蝶、雪舟等楊を写した作品などがありました。この辺はオリジナルに寄せている感じがするかな。自身の伝記によると他にも狩野元信を始め、土佐派、円山派、尾形光琳、谷文晁、鈴木春信、喜多川歌麿など幅広い先人の作品を模写していたようです。

44 河鍋暁斎 「放屁合戦絵巻」
「放屁合戦」をテーマにした作品が2作品ほど並んでいました。これはオナラで戦うという非常にお下品かつコミカルな画題で、絵巻物としてちょくちょく展覧会で目にしますw ここでも芋を食べては勢いよく屁を出す全裸の男たちが描かれ、お尻から線が出ていて漫画みたいな描写となっています。可笑しくて笑えるけど これも古画学習の一環で、河鍋暁斎の戯画はこうした作品を取り入れているようです。古画学習によって作風に幅が出ているのが伺える作品でした。

この辺には九相図(★こちらで観られます)という人間が死んでから骸骨になるまでの9段階を描いた作品もありました。骸骨や地獄をよく描いた河鍋暁斎の着想源の1つかもしれません。また、狩野探幽による「鳥獣戯画」の縮図の模本も展示されていて、河鍋暁斎は探幽の縮図をいくつか持っていたようです。自分が狩野探幽に連なることを強く意識していた様子が伺えます。

62 河鍋暁斎・野馬一道 「竹に仔犬」
こちらは竹専門の画家である野馬一道との合作で、竹の前にいる白と鉢割れの2匹の子犬が描かれています。竹は野馬一道、犬は河鍋暁斎が担当していて、コロコロした犬は円山応挙が描く犬にそっくりです。河鍋暁斎の作と書かれていなければ円山応挙の作だと思ってしまいそうなw ここまで似てると本当に画力を感じさせました

51 河鍋暁斎 「蛙の学校」
こちらは棒を持って蓮の葉っぱを傘として差している蛙と、その傍らで座っている蛙が描かれています。これは明治維新後の学校教育を鳥獣戯画のように描いたもので、ちょっと風刺も入っているのかな? 楽しそうで生き生きした感じがありました。
この辺には当時の様子を鳥獣戯画のように描いた作品が並んでいました。

52 河鍋暁斎 「蛙の人力車と郵便夫」
こちらは撮影可能だったコピー。
DSC01893_20190303015343a7c.jpg
人力車や郵便夫という新しい時代の産物をコミカルに描いています。鳥獣戯画からの影響はかなり強そうですね。


ということで長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。河鍋暁斎の展覧会は今までいくつか観ていますが、前半は特に狩野派や古画との関係を深く掘り下げているのが特徴と言えそうです。変わった絵を描く奇才みたいな扱いではなく、本格派だったことを強く印象つける内容でした。後半にはもう1つの魅力である戯画的な作品もありましたので次回は残りの展示について書いていこうと思います。

 → 後編はこちら

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