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アルヴァ・アアルト もうひとつの自然 【東京ステーションギャラリー】

3週間ほど前に東京ステーションギャラリーで「アルヴァ・アアルト もうひとつの自然」を観てきました。

DSC02480.jpg

【展覧名】
 アルヴァ・アアルト もうひとつの自然

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201902_aalto.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2019年2月16日(土)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいて場所によっては人だかりができるほどでした。

さて、この展示はフィンランドを代表する建築家でありデザイナーであるアルヴァ・アアルトの広範な仕事を紹介する内容となっています。アアルトには芸術と文化には日常の暮らしに気品を与える効果があるという信念があったそうで、自然の形を取り入れつつモダンなデザインが特徴と言えそうです。私は以前にアアルトのデザインが気に入っていたので、この展示はかなり期待していて、葉山や名古屋の巡回展に行こうかと思っていたのですが東京に回ってくるまで待っていましたw しかし、実際に観てみたら資料と写真が多いしキャプションが小難しくて期待ほどではなかったかな… 展覧会は時系列ではなくテーマごとに8章構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに展示の様子を簡単にご紹介していこうと思います。
 参考記事:フィンランド・デザイン展 (府中市美術館)


<1 選択的親和力>
まずはイタリア旅行で影響を受けたデザインについてです。アアルトは1924年に最初のイタリア旅行におもむき、その文化と歴史から生涯に渡る影響を受けました。ルネサンス建築から得た霊感の徴候は1920年以降の数多くの宗教建築の計画に見て取れるようで、ここにはそうした教会等の仕事が紹介されていました。

まずは「墓地礼拝堂、ユヴァスキュラ、フィンランド」という墓地礼拝堂の平面図があり、1案ではトスカーナに観られるアーチ状の回廊のある図となっています。それが2案になると四角を組み合わせたようなモダンな様式となっているのですが、イタリア建築からの影響が観られるようです。他にもアアルトが育った地に近いムーラメの村の教会のプランもありました。

その先には「トイヴァッカの教会」の燭台がありました。木の先端に燭台が付いていて、まるで花のようにも見えます。葉っぱと茎の曲線も優美でアール・ヌーヴォー的な雰囲気がありました。他にもトイヴァッカ教会の窓やステンドグラスのデザインもあり、建築だけでなくデザイナーとしても一流であることが伺えました。

この章にはアイノ・アアルト(奥さん)による写真もありました。アイノ・アアルトはヘルシンキ工科大学で建物を撮る撮影実習を受けていたそうで、視点が面白い大胆な写真となっています。トリミングしたような構図が印象的でした。


<2 多感覚的空間>
続いては多感覚的な建築についてのコーナーで、空間知覚の心理的・生理学的側面を考慮した作品などを紹介していました。

ここには第三回フィンランド博覧会の会場デザインがあり、その為の広告塔の透視図が目を引きました。三角形の側面にカラフルな広告があり、いくつかの段になっています。広告自体も幾何学的になっているので、洗練された印象を受けるかな。他にも円形のレストランの設計図や、新聞社の設計などもありモダンでル・コルビュジエ等に通じるものを感じました。

また、アアルトは「南西フィンランド農業協同組合ビル」を手がけたそうで、その中にあるフィンランド劇場の舞台装置までデザインしていたようです。写真で演劇「S.O.S. 」という前衛的で反国家主義・平和主義的な演劇の様子を展示しました

この章で一番の見どころは「パイミオのサナトリウム」というサナトリウムの一室の再現です。ベッド、キャビネット、電気スタンド、テーブル、洗面所などが置かれ、簡素で直線的なデザインかな(洗面所だけ丸みがある感じ) 壁が緑で家具もエメラルドグリーンを使うなど爽やかで心安らぐような視覚体験となっています。現地の写真もあって、森に囲まれた落ち着いた環境のようでした。

他にも「ヴィープリ(ヴィーボルク)の図書館」という建物も紹介されていました。当初は新古典主義風のデザインを特徴としていたようですが、着工が遅れてモダニズムを取り入れたデザインに設計しなおしたようです。中の写真を観ると2階まで吹き抜けになった開放的な図書館で、本を収蔵している場所以外は大きなガラス張りになっていて明るい印象を受けます。椅子などもアアルトによるものじゃないかな。木の素材が多くて滑らかな曲線となっているのも特徴的でした。


<3 芸術と生活>
続いては絵画などの芸術との関わりのコーナーです。アアルトは生涯に渡って熱心に絵を描いていて、建築と芸術に共通する源が深く根ざしていると信じていたそうです。ここにはアアルトと関わりのあった画家などの作品が並んでいました。

まずフェルナン・レジェの作品がいくつかありました。レジェは1930年代に諸芸術の総合についての議論に時折アアルトとともに加わったそうで、色彩と美術品によって壁面に生命を吹き込むことを主張していたそうです。
その先にあった曲げ木のマテリアル・スタディ(レリーフ)は、植物や蔦・枝を思わせる有機的なデザインで、ちょっとレジェっぽい感じもあったかな。風にそよいでいるような印象を受けます。

その先にはマイレア邸という家に関する品が並んでいました。この家はアアルト夫妻の友人であり美術コレクターで画家でもあるマイレ・グリクセン夫妻の依頼で作られたもので、写真と図面で紹介されています。モダンな建物の中に波状の仕切りや木の柱など滑らかな有機的なデザインが組み込まれていて、優美で洗練された印象を受けました。近くには波状の衝立も展示されていて、この辺も絵画からの影響なのかな?


<5 自在な影>
続いては2階の展示です。4章と5章は入り混じったような感じです。ここではアアルトの自在なデザインについて紹介していて、有機的なフォルムを持つ建築やガラス製品が並んでいました。

ここには1939年に手がけた「ニューヨーク万国博覧会フィンランド館」の写真がありました。オーロラのような曲線の壁が特徴で、縦に連なるヒダ状の壁に写真が並びます。せり出すように傾斜しているのが驚きの光景で、これがきっかけでアアルトの名前はアメリカで広く知れ渡ったようです。
また、この近くにはフィンランド館でアアルト夫妻が上映したドキュメンタリー映画も流していました。木材を川に流して運搬する様子や、砕石、金属加工、陶芸、ボート遊びなどフィンランドの工業や文化を紹介するような内容で、20分ほど見入ってしまいました。

4章の後にはアイノ・アアルトによるガラス製品が並んでいます。平鉢からボウル、カップのような形までの5点セットがあり、それぞれかなりシンプルな形ですが重ね置きすると薔薇の花のように見えるのが素晴らしいデザインでした。他にも「フルーツボウル4279」という緑の円形の平鉢のような作品では、縞模様に凹凸があり、こちらもシンプルながらも気品が感じられます。同様に縞模様の凹凸のタンブラーやピッチャーもありシリーズ化しているようでした。

ここでもう1つ有名なのが「サヴォイ・ベース」という作品で、これは縦長の筒状のガラス器なのですが、切り株のような形で切り口はぐにゃぐにゃしたアメーバみたいに見えます。この変わった有機的なデザインはアアルト夫妻の象徴のように思えました。隣には木でできた型や作業の映像なんかもあって、参考になります。


<4 よりよいものを毎日の生活に>
アアルトは多くの建築において家具や照明器具などのデザインも手がけていて、最初期にはインテリア製品を個々にデザインしていたそうですが、1920年代後半からアイノとともにデザインのシリーズ化を図ったようです。やがて国際的な販売促進の為にアルテックという会社も設立し、アートとテクノロジーを融合させ、工業生産化された作品を日常生活へ供することを目指しました。この会社を通じてフィンランド国外の展示などでも発表し、国際的な展示会で受け入れられたことで名声は一気に高まったようです。

ここにはアルテックのマニフェストがあり、言葉を繋げたマインドマップみたいな表となっています。他にはギャルリーアルテックの展覧会招待状などがあり、文字だけですが洒落たフォントを使っているのが見て取れました。その先の椅子のカタログは写真付きで分かりやすいかなw 椅子の設計図などもあります。
 参考記事:埼玉県立近代美術館の椅子 2018年07月

そしてこの部屋の中央にはアルヴァ・アアルトによる椅子の実物が並んでいました。アルヴァ・アアルトの椅子は曲げ木を使ったデザインが特徴で、柔らかい曲線を組み合わせて流麗な雰囲気です。色も黒と茶色など落ち着きと気品ある色彩感覚となっているのも好みでした。中にはシンプルなデザインの椅子もあり、円形の台に三脚がついた椅子は一見すると普通っぽい感じです。しかし重ね置きできる実用性があって、重ねていくと螺旋状に並んで美しく見えるのが面白かったです。

美術館入り口にあった撮影可能な椅子。こんな感じです
DSC02476.jpg

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他にも背もたれが倒れた「リクライニングチェア 39」という椅子では胴体部分が生地素材を編み込んだものとなっていて、太めの編み込みと隙間部分が幾何学的な模様に見えるのも洗練されたデザインでした。アアルトの椅子はもっと沢山観たかったなあw


<6 融通性のある規格化と再構築>
続いては融通性のある規格化というコンセプトについてのコーナーです。アアルトの時代に融通性のある規格化が求められたそうで、アアルトはその例を自然界に見出しました。果実は同じ植物のパーツを持っているにも関わらずそれぞれが個性的であり、これをデザインに応用させようと考えたようです。そして組み合わせが自由で統一されたパーツを基本にしたデザインを考案し、第二次大戦後には融通性のある規格化の方針に基づきながら戦後の復興に務めたようです。

ここには規格化住宅の写真がありました。先述の通りアアルトは幾通りも組み合わせ自在な融通性のある規格化を望んだようですが、共同で商品化したアールストロム社には理解されなかったそうです。他にはトナカイの角のような形の幹線道路のある町の再生計画のマスタープランなどもあり、大規模な計画においても融通性の規格化を意図しているのが伺えました。


<7 照明-合理性と人間性>
続いては照明器具のコーナーで、ここも5章あたりとごっちゃになっていました。

ここにはアルコールランプのような形の吊り下げランプがあり、底の部分が照明になっているような感じです。傘が多く間接照明のようになっているのもお洒落かな。他にも幾重にも同心円状の傘が連なる照明などもあり、花のような美しさがありました。アアルトのシンプルで植物的な雰囲気のデザインがひと目で分かるのが照明だと思います。


<8 総合的建築>
最後は街や交通網、自然など環境そのものとの平衡を作り出すことを目的とした建築のコーナーです。ここには大規模なプロジェクトの計画資料などが並んでいました。

ここには実際に作られた計画の「スニラ・パルプ工場と住宅地区」の模型がありました。工場近くに家々が立ち並び、運動場らしきものも見えます。単に1軒1軒の家や工場をデザインするだけでなく、環境そのものまで計画するというスケールの大きさです。他にも実現しなかったバグダッドの美術館のデザインや、サゥナッツァロのタウンホールという都市計画などの模型、スケッチなどもありました。

その先にはアルミン・リンケによるアアルトの夏の家やスタジオの写真、レンガやタイルなどの素材が並びます。プライベートな空間でありながら実験の場として計画したようで、様々な素材をフィンランドの気候に耐えうるか実験したようです。自分の家まで実験場にするとはとことん追求する人のようですねw

最後は実現した唯一の都市計画である「セイナヨキの市民センター」という計画や、ヘルシンキの文化の家というレンガ造りの建物、アメーバ状の屋根のフィンランディアホールなどの模型や写真などが並んでいました。


ということで、結構盛りだくさんな内容でしたが、細切れで紹介されているし現物や模型等も少ないので いまいちピンと来ないというのが正直なところでした。展示構成と説明が下手すぎる… 幅広いだけに体系的にしてほしかったです。 また別の機会にでも改めて観たい建築家・デザイナーです。
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