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ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 (感想後編)【国立西洋美術館】

前回に引き続き上野の国立西洋美術館の「国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」についてです。前編は1章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC03147.jpg

【展覧名】
 国立西洋美術館開館60周年記念
 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 

【公式サイト】
 https://lecorbusier2019.jp/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019lecorbusier.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年2月19日(火)~5月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
2章以降は展示順が複雑になっていました。私が観た順にご紹介していこうと思いますが、作品番号などを見ると各章を行ったり来たりしていたようです。作品名の隣に作品番号を記載しておきますので、詳しくは出品リストをご参照ください。
 参考リンク:出品リスト(PDF)


<2.キュビスムとの対峙>
2章はキュビスムとピュリスムの関係についてです。キュビスムは1910年代に最も革新的な絵画として興隆していましたが、第一次世界大戦で主要な芸術家が従軍し、保守派からの批判もあって存亡の危機にさらされました。しかし、大戦後は勢力を回復し、実験的性格の薄い平明で安定した構成を特徴とする古典主義的傾向が主流を占めるようになったようです。前章で観た通り、ジャンヌレとオザンファンはキュビスムを批判していた訳ですが、実のところは戦後のキュビスムの方向性と基本的に一致していたようで、1921年以降はキュビスムの芸術家との交流を深めていきました。そして支援者であるラ・ロシェの代理人としてキュビスム絵画のオークションで作品を集め、コレクションを築くのに寄与したようです。そして1910年代初頭のピカソ、ブラック、レジェの作品に初めて接したことで認識を完全に改めていくことになります(って、一体何を観て批判してたんだ?って話ですがw) 既にキュビスムの創始者たちが「構築と総合」の芸術を実現したと悟り 多義的な空間表現に理解を深め、それ以降のジャンヌレ(ル・コルビュジエ)の絵画・建築は大きな影響を受けているようです。ここにはそうしたキュビスムとの関係を示す品などが並んでいました。

50 フアン・グリス 「ギター、パイプ、楽譜のある静物」
こちらは離れて観たらブラックの作品かと思いました。タイトル通りの品が並ぶ静物で、幾何学的な平面を組み合わせて描いています。落ち着いた色彩で、陰影も感じられるかな。オザンファンやジャンヌレもグリスに大きな影響を受けたようで、彼らは物がパズルのように組み合わさる方法を学んで取り入れていったようです。ピュリスムのルーツの1つと言えそうです。

この辺にはジョルジュ・ブラックやフェルナン・レジェの作品もありました。

41 パブロ・ピカソ 「静物」
こちらは机の上の水差しとギターらしきものが描かれた作品で、ジャンヌレたちの支援者のラ・ロシェのコレクションです。赤やくすんだ青、線で表した影のようなもの等、シンプルな構成でかなり抽象化している印象を受けました。

この辺にはキュビスムのいい作品が結構ありました。東近美のファン・グリスの「円卓」なんかもあります。

104 東京芸術大学美術学部建築科 益子研究室(当時) 「ヴァイセンホフ・ジードルンクの住宅」1/50模型
こちらは近代建築の三大巨匠の1人であるミース・ファン・デル・ローエが全体計画を行ったヴァイセンホフ・ジードルンクという33棟17人の建築家による住宅郡のうち、ル・コルビュジエが担当した2つの建物の模型です。(時期的にはピュリスム終焉後の4章の内容です) 地面から浮かび上がるような建物で、1階部分が柱になっています。この作品はル・コルビュジエが唱えた近代建築の五原則をよく表していて、その5つとは
 1.ピロティ
 2.屋上庭園
 3.自由な平面
 4.水平連続窓
 5.自由な立面
となります。この建物は大評判だったようで、近代建築の代表作とされるようです。ル・コルビュジエの建物は同様に5つの原則に従っているのが多いので、覚えておくと見方も変わりそうですね。

72 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「多数のオブジェのある静物」 ★こちらで観られます
こちらはピュリスム後期の代表作で、半透明の色面が重なり合う多層的な空間となっています。瓶、カップ、ポットなどが並んでいるようですが、かなり複雑に絡み合っていて、どこからどこまでというのが明確でないものもあります。そうした点からキュビスム的な要素が強まっているようにも思えるかな。複雑な重なり合いとなる一方、色は以前より薄くなっていて軽やかなリズムとハーモニーを奏でるような雰囲気です。解説によると、この頃にはオザンファンとの画風の違いが明らかになり、やがて別の道へと進むことになります。(割とオザンファンは以前のままですが、ピュリスム以降は結構迷走している感がある気がします)

なお、ピュリスム後期の特徴は、モティーフを平面で捉えることで、重なり合う部分は透明か輪郭線が重なって前後が曖昧となり、連続した繋がりになっています。これはル・コルビュジエとしての建築設計にも生かされていて、重なり合う空間として閉じられていな空間が連続することで空間の変化を生んでいるようです。現にこの国立西洋美術館の常設(今回の会場)は、吹き抜けがあって仕切りもなく連続しているのが実感できると思います。


<3.ピュリスムの頂点と終幕>
続いてはピュリスムの頂点から終幕にかけてのコーナーです。前編でご紹介した雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』の建築の連載を通じてジャンヌレは建築家ル・コルビュジエとしての顔を世に示して行きましたが、1922年頃に財政難から1年数ヶ月に渡って休刊していたようです。1923年に再開されると、その2年後に開催が予定されたパリ国際装飾芸術博覧会に焦点を定め、装飾芸術論と都市計画論の連載を発表していきました。そして、それは1925年にパビリオンとしてエスプリ・ヌーヴォー館によって具体的に示されることになります。これはピュリスム最大のプロジェクトで、「諸芸術の総合」の最初の試みだったようです。 この博覧会のテーマでもある「装飾芸術」を真っ向から否定し、規格化し大量生産の原則に基づく近代的な生活環境を提示したのですが、絵画や彫刻といった「純粋芸術」は近代の都市生活にも不可欠と訴えたようです。
一方、このプロジェクトがきっかけでオザンファンとの関係は修復不可能となり、オザンファンはエスプリ・ヌーヴォーの編集から降りて、ピュリスムは終焉しました。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

55 ジャック・リプシッツ 「ギターを持つ水夫」 ★こちらで観られます
こちらはエスプリ・ヌーヴォー館に協力したキュビスムの作家による彫刻です。人物像をキュビスム的に表していて、どこから観ても立方体が組み合うような感じに見えるのが面白い。確かにギターを持っているようにも見えるし、キュビスム絵画が立体化したような単純化ぶりも見事でした。

この辺にもレジェの作品が数点ありました。

87 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「エスプリ・ヌーヴォー館の静物」 ★こちらで観られます
こちらは先程の「多数のオブジェのある静物」の隣に展示されていました。多くの瓶やグラスが並ぶ様子が描かれた作品で、やはり重なってくっついているように見えます。しかしこちらのほうが すっきりした構成となって形態も幅広になって安定しているように思えるかな。ますます色に透明感が出ていて、色彩も一層軽めに見えます。解説によると、この作品はタイトルの通りエスプリ・ヌーヴォー館に展示されていたようです。近くにはエスプリ・ヌーヴォー館の内部の様子の写真などもありました。(★こちらで観られます


<4.ピュリスム以降のル・コルビュジエ>
最後はピュリスム以降のコーナーです。ピュリスム運動は1925年に終焉を迎えた訳ですが、建築家ル・コルビュジエの知名度は格段に広まり重要な注文を引き受けることになります。1927年には先述のヴァイセンホフ・ジードルンクの近代住宅建築展で「新しい建築の5つの要点(近代建築の五原則)」が発表され、近代建築の第一人者として国際的な名声を得ました。一方、絵画においては1925年以降の制作は個人的な活動と位置づけ、展覧会への出品は止めてしまいましたが、熱意が衰えた訳ではなく毎日午前中はデッサンと絵画を描くことを習慣づけていたようです。絵画は自然の形態に接し、造形の着想を引き出す為の考察と実験の場になっていったらしく、1928年から絵画作品にル・コルビュジエの名で署名されるようになりました。この頃からまた画風も変わっていて、曲線的な瓶や水差しに有機物のような生命体を描いたり、自然の風景や女性などもレパートリーに加わっています。こうした変化は幾何学的な秩序に変わって人間と自然との調和が絵画の新しいテーマになったことを物語っていて、その方向性はピュリスム建築の集大成とされるサヴォワ邸の設計にも生かされたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

95 アメデ・オザンファン 「グラス、壺、瓶のある静物」
こちらはグラス、壺、瓶が暗い部屋に並んでいるような静物です。真ん中辺りに青空のようなものが描かれているのが目を引きます。単純な形態が並ぶスッキリとした感じで、以前のように上から見た瓶の口が無く、横からの視点のみのようにも思えます。しかし瓶や壺には縞模様があってリズムが感じられるかな。とは言え、それほど以前と大きく画風が変わった訳ではなく、激変していくル・コルビュジエとは既にだいぶ違っているのがよくわかりました。

96 アメデ・オザンファン 「真珠母 No.2」
こちらは瓶やカップ、水差しなどが並んだ静物です。透明がかっていて中心に寄っている構図で、平坦に組み合う様子などはル・コルビュジエに寄せている感じがするかな。仲違いしたというのにちょっと意外です。解説によると、オザンファンはレジェと共に美術学校を建てたり、1930年代以降はピュリスムとは全く違う人物画なども手がけたのだとか。もう完全にル・コルビュジエとは別の道ですね…。

この近くにはレジェによるピュリスム的な作品もありました。

135 ル・コルビュジエ 「灯台のそばの昼食」
こちらは瓶、フォーク、ナイフ、スプーン、手袋、貝殻などがテーブルの上に置かれ、テーブルの下には遠くの灯台が見えているという面白い構図となっています。確かに全ての物が有機的なウネリを出していて、直線がかなり減って柔らかい印象を受けます。それでも以前の幾何学性と自然を対立したものとして捉えていた訳ではないようで、自然界は混沌としていても幾何学的な原理が根底にあると考えていたようです。

140 ル・コルビュジエ 「レア」
こちらも色とりどりな有機的な品が並ぶ作品で、庭のテーブルとやバイオリン、牡や骨などを描いているようです。しかし、もはや抽象画のようにも見えるくらいで、一見すると画風は初期とだいぶ違います。むしろ色彩なんかはレジェの作品と共通するものを感じるかな。ちょっとシュールさもあるのですが、これは妻や犬と過ごした幸福な時間を表現しているとのことでした。サインがル・コルビュジエの名前となっていることも確認できます。

最後辺りにサヴォワ邸の設計図、映像、写真、模型などがありました。近代建築の五原則をすべて満たしているのがわかります。西洋美術館に雰囲気がよく似ているように思えました。 他には回転式アームチェアやスツールなんかもありました。シンプルで滑らかな形をしていて、人間工学に基づくデザインとなっています。


ということで、ル・コルビュジエの建築が如何に自身のピュリスムやキュビスム絵画から影響を受けているのか よく分かる内容となっていました。その分、建築の方は内容少なめな気がしますが、会場自体がル・コルビュジエの設計なので非常に説得力があると思います。ル・コルビュジエの作品群は今や世界遺産として認知度が高まっていますので、この機会に何が凄いのか知っておくのも良いのではないかと思います。

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