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新・北斎展 HOKUSAI UPDATED (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

前回に引き続き六本木の森アーツセンターギャラリーの「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC03233.jpg DSC03234.jpg

【展覧名】
 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED

【公式サイト】
 https://hokusai2019.jp/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/hokusai/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年1月17日(木)~ 3月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編に引き続き、後編も各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第3章:葛飾北斎期─読本挿絵への傾注>
1~2章でも色々と画号を変えてきた様子を観てきましたが、3章はついに葛飾北斎の号を使った頃のコーナーです。1805年に葛飾北斎を名乗った頃は読本に注力して大きく貢献したようで、曲亭馬琴と共に『新編水滸画伝』や『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』などで読者を引きつけ、読本挿絵の第一人者と認識されていたようです。(前章でご紹介した通りその後の2人は絶交となります) この時期は中国絵画の影響を受けて豪快で大胆な画風となっているようです。ここにはそうした頃の品が並んでいました。

170 葛飾北斎 「吉原遊郭の景」
こちらは45歳頃に手がけた5枚続の錦絵で、吉原の大見世の店の中を描いています。流石に5枚も並ぶと大パノラマの光景で、数え切れないほどの遊女たちが描かれていて非常に賑わいを感じます。ここは最上級の遊郭らしいのでその豪華さを破格の画面で表現したのかな。料理を用意したり、化粧をしたり、女性たちも生き生きとしていて人物画としても面白い作品でした。

177 葛飾北斎 「在原業平」
こちらは座っている在原業平を描いた作品です。衣の皺を太めの輪郭で描いていて、一筆書きのような軽やかさが感じられます。この頃になると筆の迷いが無いような描写となっていて、達人の域に入っていることを感じさせました。

232 葛飾北斎 「『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』前編」
こちらは曲亭馬琴とのコンビで手がけた長編の読本です。中身は冒険ものらしく、武士が弓を放って猿?を退治している場面が展示されています。何かが炸裂したような表現もあって、現代の漫画に通じる手法を既に使っているのに驚きます。動きがあって迫力もあるので、人気になったのも当然と思えるような作品でした。

この近くには2人の代表作でもある水滸伝などもありました。こちらも迫力満点の作品です。

215 葛飾北斎 「猿図」
こちらは烏帽子を被って赤い衣を着た猿が片足で立っている様子を描いた肉筆画です。手には紙垂(稲妻型の紙のついた棒)を持っていて、擬人化されているようにも思えます。薄い墨でフワッとした毛並みを出しているのがさすがです。猿の顔はちょっと呆けて見えますが、この猿は日吉山王権現の神徒なのだとか。肉筆においても表現の幅が広がっているように思えました。

224 葛飾北斎 「鯉亀図」
こちらは水中の鯉と亀が描かれた肉筆画です。水面のゆらぎを微妙な濃淡で表現していて、遠近感や透明感を出しつつ鯉たちの動きも感じるという見事な表現となっています。これは卓越した技術と観察眼が光る作品でした。

解説によると、この頃の北斎は席画(宴会とかで即興で描く絵)でも有名だったらしく、将軍に招かれてパフォーマンスをしたようです。足の裏に朱を塗った鶏を紙の上に歩かせて、竜田川のモミジでござい と言ったというエピソードを紹介していました。将軍相手なのに大胆過ぎて驚きますねw


<第4章:戴斗期─『北斎漫画』の誕生>
続いては戴斗を名乗っていた時期です。1810年~1819年まで戴斗の号を用いていて、この時期は読本から遠ざかり様々な絵手本を発表しています。特に『北斎漫画』は死後の明治時代まで15版も作られ、日本のみならず海外にも大きな影響を与えました。こうした絵手本は自身の門下や私淑(直接の教えを受けていないが、敬意を持って学ぶこと)する者たちに自らの画風を広めようと考えて作ったようです。また、この時期にも数少ないものの版画や肉筆も手がけていたようで、そうした作品も含めて展示されていました。

249 葛飾北斎 「茶筅売り図」
こちらは月の下を歩く茶筅売りを描いた作品です。長い柄の先にいくつもの茶筅が刺さっているものを持っていて、顔を上げて歩いている後ろ姿となっています。粗いタッチとなっていますが月光に照らされてしんみりとした叙情性が感じられました。

この後は北斎漫画がずらりと並んでいました。初編から15編まであって、およそ3900の図があると言われています。各編ごとに特色もあったりします。
 参考記事:
  浦上コレクション 北斎漫画:驚異の眼、驚異の筆 (うらわ美術館)
  北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃 (国立西洋美術館)

北斎漫画以外にも絵手本が多数並んでいて、画風も一様ではなく様々でした。これだけでも展覧会が開けるくらいの充実した内容ですw

次の5章との間には休憩スペースがあり、そこでは最も有名な「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画の摺り工程について展示していました。8回の摺りでそれぞれどの部分を摺っているのかが解説されているので分かりやすくて興味深い企画でした。


<第5章:為一期─北斎を象徴する時代>
続いては北斎の中でも最も有名な作品が作られた時期のコーナーです。1820年(61歳)の頃から為一(いいつ)という号を使い始め、為一期は大きく前期と後期に分けられるようです。前期は1820年~30年頃で、狂歌摺物の連作などを手がけています。一方、後期は1830~34年という短い期間に「富嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」といった代表作を制作しました。この時期には風景以外にも花鳥や古典、武者絵、幽霊画など様々な作品を手がけていて、ここには北斎を代表するような作品が並んでいました。

まずは「琉球八景」が並んでいました。北斎は琉球に行ったことはなく想像で描いているので雪が降ってる様子なんかも描かれているシリーズです。 そしてその後は「富嶽三十六景」がならび、「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」、「山下白雨」といった有名作が目白押しです。特に今回の展示の品は発色が良く「ベロ藍」と呼ばれた青が鮮やかでした。(この辺は何度もご紹介しているので詳しくは参考記事を御覧ください) 他にも「諸国瀧廻り」や「諸国名橋奇覧」などのシリーズもあり、これだけの傑作の数々を僅かな期間で制作したのは奇跡としか思えないほどです。
 参考記事:
  北斎とリヴィエール 三十六景の競演 (ニューオータニ美術館)
  ホノルル美術館所蔵「北斎展」 (三井記念美術館)

415 葛飾北斎 「工芸職人用下絵集」
こちらは根付や目貫、煙草入れの表金具などの下絵を集めた画集です。2冊の348図も収められているらしくその数にも驚きますが、とにかく緻密で細かい! 題材も物語・風俗・動植物など幅広いので工芸用の絵手本みたいな感じです。職人たちはこれを写し取って図案として使うことができたのだとか。絵に飽き足らず工芸にも影響を与えるとは流石ですねw

383 葛飾北斎 「百物語 さらやしき」
この写真は他の展示で撮ってきたものです。この展示では撮影禁止です。
 参考記事:博物館できもだめし-妖怪、化け物 大集合- (東京国立博物館 本館)
DSC_18056.jpg
こちらも有名作かな。恐ろしくも首が皿になっている辺りに機知を感じさせます。
この近くにはもっと恐ろしい「百物語 笑ひはんにや」もありました。子供が観たらトラウマになるレベルw

414 葛飾北斎 「六歌仙図」
こちらは肉筆画で、縦長に並んだ六歌仙たちを描いた掛け軸です。上から順に大伴黒主、僧正遍昭、小野小町、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、の順で並んでいるのですが、それぞれの向きやポーズが異なっていて、正面を向いている大伴黒主から順に回転しながら流れるような配置となっています。絵も然ることながら発想の面白さが北斎の魅力じゃないかな。これもユーモア溢れる作品でした。


<第6章:画狂老人卍期─さらなる画技への希求>
最後は晩年のコーナーです。1834年に富士図を題材として「富嶽百景」を出版し、この巻末で「画狂老人卍」の号を用いてさらなる画技の向上を表明しています。最晩年には版画から遠ざかり、肉筆画に力を注いだようで、風俗画はほとんど描かず動物・植物・宗教などを題材にしていたようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

456 葛飾北斎 「狐狸図」
こちらは2幅対の肉筆掛け軸で、左幅は囲炉裏の側で坊主の姿をした狸、右幅は白蔵主という僧に化けた狐が罠に仕掛けられたネズミを気にしている様子が描かれています。色が濃いめとなっていますが、立ち上る煙の表現などは繊細です。いずれも擬人化されているわけですが、人間そのもののような感情表現が面白かったです。

459 葛飾北斎 「富士越龍図」 ★こちらで観られます
こちらは90歳で世を去る3ヶ月前に描かれた作品で、肉筆では絶筆に近い画業70年の最後を迎えた貴重な掛け軸です。白い縦長の富士と、その後ろに立ち昇る黒い雲の中に昇り龍が墨の濃淡で描かれています。爪を広げて仰け反るような龍は躍動感があり、黒い隅の中で白い姿が目を引きました。晩年まで恐るべし画力を発揮していたのがよく分かる作品です。

455 葛飾北斎 「向日葵図」 ★こちらで観られます
こちらは竹に支えられたヒマワリを描いた肉筆画です。まっすぐ伸びて縦長の構図となっていて、題材共々珍しい作品だと思います。ややピンクがかったヒマワリの花は可憐な印象で、葉っぱの緑は鮮やかでした。どこか人間の立ち姿のようにも思えるんですよね…

462 葛飾北斎 「弘法大師修法図」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、西新井大師に伝わる大型の絵馬です。左に金棒を持った筋肉隆々の鬼が迫り、右では巻物を持った弘法大師が祈る様子が描かれています。弘法大師の後ろには犬の姿があり、木に巻き付くように身を捩らせ鬼に唸っているように見えます。解説によると、これは弘法大師が西新井で流行の疫病を鎮めた逸話を元にしているようで、この鬼は病魔かな。暗闇に赤い肌が浮かび上がって非常に迫力があります。ポーズも独特で一層に恐ろしい雰囲気を出していました。
また、先日テレビで紹介されていたのですが、木に生えたキノコは木に寄生して朽ちさせる種類らしいので、そういった細かい部分まで幅広い知識を活かしているようでした。


ということで、後半は有名作や傑作が勢揃いといった圧巻の内容となっていました。正直、北斎の展示はしょっちゅう観ているので混雑しているなら観なくても良いかな?なんて思って会期終盤まで行かなかった訳ですが、予想以上の質・量に驚かされました。特に最後のあたりの肉筆画は見事です。もう会期末となっていますので、気になる方はすぐにでもどうぞ。


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