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田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964 (感想後編)【世田谷美術館】

前回に引き続き用賀の世田谷美術館の「田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

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【展覧名】
 田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00192

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2019年2月9日(土)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半の方が混んでいると思ったらギャラリートークをやっていました。この展示はキャプションがほぼ無いので、ギャラリートークで話を聞くと一層楽しめるかも。後編も私の簡単な感想だけですが、気に入った作品と共に各章についてご紹介して参ります。


<第3章 忘れ得ぬ街の変貌>
3章は戦後から昭和の東京オリンピックまでの街の変貌を捉えた写真のコーナーです。復興し豊かになって発展していく反面、社会問題や環境問題も発生した時代で、田沼武能 氏も様々な時代の象徴を撮っていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

123 田沼武能 「渋谷駅前広場」 1948年 渋谷
こちらは1948年頃の渋谷の駅前を撮った写真です。奥に井の頭線のホームが見えているのですが、その位置から考えると現在とはだいぶ風景が違っていて、木造などまだまだ長閑な印象を受けます。下の方にはハチ公像もあるけど恐らく今とは違う場所じゃないかな。渋谷は時代ごとに大きく異なる街なので、東京の変貌の象徴のように思えました。

131 田沼武能 「山手線電車と有楽町駅界隈」 1952年 千代田区
こちらは有楽町駅のホームから西口方面(今のビックカメラのあたり)を捉えた写真です。山手線はまだ茶色の車体なので古い写真のように思えますが、町並みは割と今も面影が残っているように思えます。この近くにあった有楽町駅駅界隈の写真も見覚えある風景だし、この辺はそれほど大きく変わっていないのかも。

この部屋の中央にはオート三輪や「ジム・ライトvs力道山」のポスター、冷蔵庫やテレビのチラシなどが展示されていました。電化製品の三種の神器とかその辺の時代かな。

139 田沼武能 「新橋駅前広場に設置されたテレビ、この年2月から本放送始まる」 1953年港区
こちらは駅前に設置されたいくつものテレビの前に黒山の人だかりが出来ている様子が撮られた写真です。まだテレビの本放送が始まるかどうかの時期なので街頭テレビの先駆けみたいなものかな。テレビは高めの場所に設置されているので小さくて見えるのだろうかという感じですが、かなり後ろの方まで見物人がいました。最先端の技術に興味津々なのはいつの時代も同じですね。

141 田沼武能 「年々モダーンになったショーウインドウ」 1955年 銀座
こちらはショーウインドウを撮った写真で、額縁にキュビスム風に女性の顔が描かれた絵が入っています。また、服やスカーフの柄も洒落た印象で、戦後10年くらいでだいぶモダンで洋風な雰囲気となっています。ガラスに反射する町並みも綺麗で、戦後からの復興の様子が見て取れました。

149 田沼武能 「尾竹橋と4本のオバケ煙突」 1954年 荒川区
こちらは川の舟から仰ぎ見るような構図の橋と、その背後に立つ4本の通称「オバケ煙突」を撮った写真です。橋にはトラック等に混じって荷馬車の姿があるのがちょっと驚き。一方、煙突はもうもうと黒煙をあげていてまだ環境問題に対する意識の希薄さが伺えます。その背景には工場もあって、この後の時代の公害問題を予兆しているように思えます。この写真ではレガッタしている人も写っているのでまだ大丈夫だったのかな? この近くには1963年に撮られた悪臭を放つ隅田川に鼻をつまむ人たちの写真もあり、公害が悪化していったことを感じさせました。

156 田沼武能 「建設中の東京タワー」 1958年 港区
こちらは東京タワーの建設現場を撮った写真で、見上げるような構図となっています。笑顔を見せるヘルメットの青年が何とも爽やかで生き生きしています。みんな狭い足場で平然と作業していて熟達した職人のように見えました。労働環境は厳しそうだけど労働にも未来への希望がある時代に思えます。
この辺は建設中ラッシュの写真などもありました。戦後日本が最も活気に満ちていた頃ですね。

この辺には皇太子妃時代の美智子様の紙の着せ替え人形なども展示されていました。十二単などの衣装を切り取って人形に乗せる玩具です。1959年にご成婚で、当時は平民出身のお妃様に日本中がお祝いムードだったようですね。もうすぐ平成も終わるのでちょっと感慨深い玩具かも。

159 田沼武能 「通勤ラッシュで押し込む駅員」 1959年 新宿駅
こちらは通勤電車に人が入り切らずに駅員に押し込まれている様子を撮った写真です。今もこうした光景を観ることがよくありますが、当時はエアコンも無いし電車も少ないのでラッシュ時はいまより厳しかったんじゃないかな。この後の1960年代から高度成長期に入るわけですが、その裏ではこういう猛烈で過酷な実態もあったことを思わせました。

164 田沼武能 「国会議事堂近くで座り込む安保反対デモ隊」 1960年 千代田区
こちらは沢山の警官と座り込んでいる人たちを撮った写真です。マイクを持った警官や諭しているような表情の人もいて、当時のデモの一幕を端的に表しています。安保闘争真っ只中といった感じの写真でした。

この辺には新幹線の試乗券やパンフレットなどもありました。(新幹線開業は1964年)

177 田沼武能 「自動車と都電と歩行者で混雑する晴海通り」 1964年 中央区
こちらは沢山の車や市電が行き交う晴海通りで、合間を縫って歩いている人も大勢います。まさに交通戦争と言った様相で道は飽和状態となっていました。都電があちこち走って荷電も縦横に張り巡らされているのが電車好きとしては気になりましたw

この近くには日本橋の上に高速道路を作っている写真もありました。あれは頂けない…。

167 田沼武能 「若いカップルとマイカー時代のはしり」 1962年 深川
こちらは車に乗ってドライブする男女を正面から撮った写真です。車はやけに小さくてカートじゃないか?と思うほどです。しかし2人は楽しげで微笑みあって幸せそうに見えました。マイカー時代の始まりはこんな玩具みたいな車だったのかとちょっと驚き。


<特別展示 世田谷の文化人>
続いては田沼武能 氏のもう1つのライフワークである各界を代表する文化人の肖像写真のコーナーです。前編でも書きましたが、田沼武能 氏が最初に入った会社は給料が期日通りに支払われないような状態だったこともあり、師匠の木村伊兵衛に紹介してもらい、『藝術新潮』の仕事を得て芸術家たちの肖像写真を撮るようになりました。それが出世作となったわけですが、その後も撮り続けたようで ここにはその中から世田谷ゆかりの芸術家の写真が並んでいました。

田沼武能 「柳田國男」 1956年
こちらは民俗学で有名な柳田國男の肖像で、書斎に座った姿で撮られています、丸メガネをかけて笑顔を浮かべ、誰かと話しているような表情に見えます。そのため、柔和そうな印象を受けるかな。また、部屋の中は物が多く置かれているものの整然とした感じで、人となりを感じさせました。

田沼武能 「遠藤周作」 1986年
こちらは椅子に座って電話している作家の遠藤周作を撮った写真です。手前の机には沢山のものが置かれ、ランプの上には十字架が吊り下がっています。この十字架が結構目を引くので、遠藤周作の作品を連想させ、象徴的に思えました。

田沼武能 「岡本太郎」 1963年
こちらは自身の作品の前で腕を組んで座っている画家の岡本太郎を撮った写真です。やや斜めに視線をむけていて何かを観ているのかな。背景の絵は ほとばしるような筆跡があって、岡本太郎のオーラのように見えました。これも岡本太郎のイメージそのものですw

この辺は画家の肖像が多めでした。

田沼武能 「黒澤明」 1968年
こちらカメラの脇に立って何かをチェックしている黒澤明監督を撮った写真です。サングラスをした姿はよく知られる黒澤明のイメージ通りで、気難しそうな緊張感が漂っていました


最後にサザエさんで有名な長谷川町子の写真もありました。長谷川町子の髪型がサザエさんそのもので面白いw


ということで、後半も時代の生き証人的な作品が多くて楽しめました。田沼武能 氏は報道でも活躍した方なので、その面も出ているように思います。この記事を書いている時点でもうすぐ会期末となっていますので、気になる方はお早めにどうぞ。ちなみに裏の砧公園は桜の名所でもあります。
 参考記事:砧公園の桜(2011年4月)

おまけ;
現在、田沼武能 氏の展示は他にもいくつか開催されているようです。写大ギャラリーでも子供をテーマにした展示をやっています。
 参考リンク:写大ギャラリー:田沼武能 写真展「童心 - 世界の子ども」
          2019年3月5日(火) ~ 2019年4月27日(土)
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