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ラファエル前派の軌跡展 (感想前編)【三菱一号館美術館】

2週間ほど前に丸の内の三菱一号館美術館で「ラファエル前派の軌跡展」を観てきました。豪華で見どころの多い展示となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

20190321 160211

【展覧名】
 ラファエル前派の軌跡展

【公式サイト】
 https://mimt.jp/ppr/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2019年3月14日(木)~6月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
開催序盤に行ったにも関わらず結構な混雑ぶりでラファエル前派の人気ぶりが伺えました。会期末になると一層に混雑することが予想されますので、気になる方はお早めに足を運ぶことをオススメします。

さて、この展示はイギリスで1848年に結成されたラファエル前派同盟(兄弟団)がタイトルに入っていますが、ラファエル前派だけでなくその前後の時代も取り上げています。今年はジョン・ラスキンの生誕200年ということで、ラファエル前派よりもジョン・ラスキンがメインテーマといった感じです。ジョン・ラスキンはイギリスの美術評論家であり優れた素描家でもありました。そして、ジョン・ラスキンが自然観察の重要性を説いたことに感銘を受けて結成されたのがラファエル前派で、さらにアーツ・アンド・クラフツ運動にも大きな影響を与えています。そうした流れを踏まえて展示は5章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 ターナーとラスキン>
まずはイギリスで最も偉大な画家であるウィリアム・ターナーとラスキンについてのコーナーです。ラスキンがターナーと初めて対面したのは1840年の夏(21歳)の時で、その頃からラスキンはターナーの作品を買い集めだしたそうです。(ワイン商の息子で裕福だった) その後、1843年には『現代画家論』の第1巻を出版し、この本でラスキンはヴィクトリア朝きっての美術評論家とみなられるようになります。この『現代画家論』は全5巻の大著となるのですが、この本を出したのはターナーの大胆な筆使いを擁護するのが出発点だったようです。特に版画集『研鑽の書』の作品群と水彩を丹念に考察し、自然界をあらゆる角度から知るために素描を重視していたようです。ここにはそうしたターナーとの関わりを示す品などが並んでいました。

1 ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー 「ナポリ湾(怒れるヴェスヴィオ山)」
こちらはナポリ湾を書いた水彩で、イギリス人画家ヘイクウィルによる素描を元に描いた作品です。割と小さめの画面に細部まで緻密に描かれていて、ヴェスヴィオ山は噴火してもうもうと赤い噴煙をあげています。手前の海までも赤く染まっているのですが、自然の怖さというよりは色彩の美しさを感じるかなw 解説によると、この作品がラスキンが初めて観たターナーらしく、手に入れて嬉しいという言葉も残っているのだとか。

この辺はターナーの水彩が並んでいました。
 参考記事:
  ターナー展 感想前編(東京都美術館)
  ターナー展 感想後編(東京都美術館)

5 ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー 「カレの砂浜-」 ★こちらで観られます
こちらは遠浅の砂浜で小魚を取る女性たちが描かれた作品です。遠くには沈みゆく夕日が見え、水平線がはっきりしないぼんやりした光景となっているかな。油彩なのに水彩のような軽やかさで、大気までも表現するような瑞々しい色彩となっていました。

13 ジョン・ラスキン 「アヴランシュ-モン・サン・ミシェルを望む眺め」
こちらはラスキンが妻エフィとの新婚旅行で訪れたノルマンディの光景を鉛筆とインクで描いた作品です。丘から海を望む光景で、かなり細かくありのままに描こうとしています。場所によっては陰影を付けたりしていて、素描と言っても完成度は高めに思えます。まさに言葉通りの観察眼が伺えました。

この辺は緻密な素描が並んでいました。自然をありのままに描くことを繰り返し主張していたらしく、それを実践しているのがよく伝わってきます。雪山を題材にした作品が多かったかな。

23 ジョン・ラスキン 「ストラスブール大聖堂の塔」
こちらはストラスブールの大聖堂と、その隣の木造の家屋を描いた作品です。木造家屋のほうは部分的に赤く着色していて、聖堂のほうはかなり緻密に装飾を描いています。全体的にはやや歪んでいるようにも思えましたが、高い素描力と建物への関心が見て取れました。

この辺は教会や柱の彫刻などを描いた素描が並んでいました。中世の自由な創造に感銘を受けていたらしく、職人の手仕事を見直すきっかけになったのだとか。確かにアーツ・アンド・クラフツへの流れが既に見え始めてます。


<第2章 ラファエル前派>
続いてはラファエル前派のコーナーです。ラファエル前派同盟(pre-Raphaelite Brotherhood)は1848年に20歳前後の7人の画家によって結成された集団で、公的な芸術家の養成機関であるロイヤル・アカデミーに反旗を翻して指導方針を批判しました。アカデミーではルネサンスの巨匠ラファエロを至上として型通りの描き方に縛り付けていたので、真の人間感情の表現から遠ざかっていると訴えたようです。その為、ラファエロより前の芸術への回帰を意味する名前を掲げ、中世美術の簡潔で真実味のある表現を蘇らせることを目標にしました。もちろん、当初は酷評された訳ですが、ラスキンが1851年に『タイムズ』誌で擁護論を展開し、メンバー(ミレイやロセッティ)と親密な関係を築いて彼らを支援していきました。ここには初期メンバーを始めとしたラファエル前派の作品が並んでいて、大部屋だけ撮影可能となっていましたのでいくつか写真を使おうと思います。
 参考記事:
  ラファエル前派展 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  ラファエル前派展 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)

52 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「滝」
20190321 143857
こちらはラスキンの肖像を描くためにスコットランドを訪れた際に描いた作品で、右で座っているのはラスキンの奥さんです。非常に緻密で写実的、かつ色彩が濃いめなのが特徴に思えるかな。わざわざ奥さんを描いているのはミレイが恋慕っていた為で、後にこの女性はミレイの妻になっています。若いグループだけあってグループ内で恋愛関係が交錯してた事情なんかも知ると、見る目も変わりそうですねw

ちなみにラスキンは元々はミレイ推しだったみたいですが、奥さんのことで禍根を残しロセッティ推しに変わったようです。しかしロセッティもまた違う理由で離れることになります…。

ウィリアム・ホルマン・ハント 「甘美なる無為」
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こちらは途中でモデルと破局して一時中断した後、妻となる女性に替えて完成したという作品。タイトル通り甘い雰囲気があり、特に教訓などを描いている訳ではないようです。色彩の鮮やかさも相まって質感豊かで現実よりも美しいのではないかと思えました。

この辺にはアーサー王伝説を元にした作品なども並んでいました。聖書の話だけではなく、そうした伝説やテニスンの詩などを題材にしてる点などもラファエル前派の特徴ではないかと思います。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「祝福されし乙女」
20190321 144734
こちらは自身で発表した詩を絵画化したもので、若くして世を去り恋人と天国での再会を心待ちにしている乙女を描いた作品です。ロセッティの女性は顔が特徴的なのですぐ分かりますw ちょっと物憂げというか…。下の方にいるのが恋人かな? こちらも色鮮やかで目を引きました。解説によると、これはオリジナルと同時期に描かれた再作成作品なのだとか。

63 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」
20190321 144831
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、手に持っているのは黄金の林檎なのでパリスの審判で貰ったやつかな? ティツィアーノに影響を受けているそうで、透明感のある筆使いにそれが観られるようです。非常に美しくて素晴らしい作品に思えるのですが、ラスキンは気に食わなかったようで「官能性の為に真実を歪めている」と批判し、花の描き方が雑 と指摘したそうです。ロセッティはそれを受けて花を丹念に描き直したようで、どこが雑なの?ってくらいしっかり描かれています。まあ、要するに方向性の変化がラスキンは許せなかったんでしょうね。観たままを描くという信念を一貫しているが故にこの絵は認めないといった所でしょうか。めっちゃ良い絵なのになあw

67 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「ラ・ドンナ・デッラ・フィネストラ(窓辺の女性)」
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こちらはウィリアム・モリスの妻を描いた作品で、ロセッティの作品でよく見かける女性です。ちょっと冷たい雰囲気でつれない表情をしているのに恋い焦がれたのだとか。怪訝な表情にすら見えますねw

この辺でターナーとラファエル前派の共通点についての考察がありました。一見すると両者は全然画風が違っていますが、ラスキンにとっては真実を誇張することなく描くというのが重要だったので、その点において両者は共通するようです。とは言え、ラファエル前派も段々と変質化していくので、前述のように批判もあるようですね。

77 アーサー・ヒューズ 「音楽会」
こちらはラファエル前派の第2世代の画家による作品で、リュートを奏でる女性を中心に 膝で甘える子供と背中でじっと観ている子供、傍らには頭に手を当てて聞き入っている男性(夫?)の姿があります。背景はかなり精密な模様のカーテンが描き込まれていて、色鮮やかに表現している辺りにラファエル前派らしさを感じます。また、目を半分閉じている女性の表情は非常に気品があり、うっとりするような雰囲気となっていました。解説によると、『不思議の国のアリス』の作者のルイス・キャロルも展覧会でこの絵を観て称賛していたのだとか。

この部屋にあったジョン・ウィリアム・インチボルトの「アーサー王の島」という大型の海景画も緑がかった海の色が美しい作品でした。


ということで長くなってきたので今日はこの辺までにしようと思います。何度かラファエル前派の展示は観ていますが、今回も素晴らしい作品が多く、特に2章は満足度高めです。(ラファエル前派だけの展示だったら間違いなく満足度5だったと思います) 後半はラファエル前派の周辺やアーツ・アンド・クラフツなども取り上げていましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。


 → 後編はこちら


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