関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

イサム・ノグチと長谷川三郎―変わるものと変わらざるもの 【横浜美術館】

ご紹介の順序が前後していますが、横浜美術館に行った際に「イサム・ノグチと長谷川三郎―変わるものと変わらざるもの」を観てきました。この展示は既に終了していますが、参考として記事にしておこうと思います。

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【展覧名】
 イサム・ノグチと長谷川三郎―変わるものと変わらざるもの

【公式サイト】
 https://yokohama.art.museum/exhibition/archive/2018/20190112-520.html
 https://yokohama.art.museum/special/2018/NoguchiHasegawa/

【会場】横浜美術館 アートギャラリー1、Café小倉山、美術情報センター
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅

【会期】2019年1月12日(土)~3月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
最終日1日前だったこともあってお客さんは結構いましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は日系アメリカ人のイサム・ノグチと日本の長谷川三郎の交流に注目し2人の作品が並ぶ内容となっていました。イサム・ノグチは彫刻・陶芸・建築・デザインなど多彩な分野で活躍し、長谷川三郎は日本の抽象美術のパイオニアとして名を残しましたが、2人の根底には日本文化への深い理解があったのではないかと思います。この展示ではそうした点も踏まえて6章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共に簡単に振り返って行こうと思います。
 参考記事:イサム・ノグチ ─ 彫刻から身体・庭へ ─ (東京オペラシティアートギャラリー)


<1章 長谷川三郎 抽象美術のパイオニア 伝統と現代をつなぐ>
まずは長谷川三郎のコーナーです。長谷川三郎は1906年に山口県に生まれ、幼少から高校卒業までは神戸と芦屋で育ちました。高校の頃から画家を志し、小出楢重の元で油彩を学び、東京帝国大学に入ると美術史を専攻し雪舟に強い関心を持ったようで、卒論も雪舟を取り上げるほどだったようです。そして1929年から3年に渡って渡米し、帰国後は新時代洋画展などで活躍しました。転機となったのは1936年の紀伊国屋画廊での個展で、ここで初めて抽象的な作品を発表し、翌年には「無限連結」という抽象作品(今回の展示にもありました)も出品しています。長谷川三郎は、画家も現代人である以上、科学者の目で現実の本質を掴み、画家の道でそれを表現すべきと考えていたようで、現代の科学の精神や日本の伝統文化に見いだせる現代と伝統に即した芸術のありかたを模索していたようです。ここには初期から様々な作風の品が並んでいました。

Y2 長谷川三郎 「アブストラクト・デザイン」
こちらは紀伊国屋画廊での個展に出した作品で、細かい網の上に赤い帯や手形のようなものが無数に描かれています。幾何学性と浮かぶような手形の組み合わせがちょっとシュールに感じられ、半具象・半抽象のような作風となっていました。

この辺は作風が異なる作品ばかりで、色々と模索していた様子が伺えました。彫刻作品や写真作品なんかもありました。

Y15 長谷川三郎 「郷土誌-砂」
こちらは白黒写真で、砂山が3つ並んでいるのをクローズアップして撮ったものです。滑らかな山肌で、具象ではありますが一種の抽象のような単純化されたシンプルな画面です。写真でも抽象的な試みをしているように思えました。

この辺は白黒写真が並び、障子や衣など生活の中にある幾何学性を捉えたものが多かったように思えました。


<2章 1950年代の長谷川三郎 イサム・ノグチとの出会いを経て>
続いてはイサム・ノグチと出会った頃のコーナーです。イサム・ノグチは1950年5月に世界旅行の最終目的地として19年ぶりに来日し、日本アヴァンギャルド美術クラブの歓迎会で長谷川三郎と出会いました。2人は後日じっくりと対談して意気投合し、早速 文化遺産や生きた伝統を観に京都・奈良・伊勢を巡る旅行に出て、長谷川三郎が案内役となって2人で日本美を発見していきました。その旅から1年して、長谷川三郎はカマボコ板に円・直線・短形などを彫り出し、ポスターカラーを塗って紙に摺りだすという作品を作りました。これは桂離宮で形態の均衡や沈黙、虚無を感じ取り、それを抽象的に表現したものらしく、イサム・ノグチとの旅の成果とも言えそうです。ここにはそうした品も含めて1950年代頃の長谷川三郎の作品が並んでいました。

19 長谷川三郎 「環境」
こちらは2曲1隻の屏風仕立ての作品で、4枚の絵が貼り付けてあります。絵と言うよりは記号の集合体のような感じで、小さな積み木のよう様々な形が散らしてあるモノクロの抽象です。しかし、その並びはリズムと秩序が感じられて、素朴さと先進が同居したような面白い画面となっていました。

この近くには同様の掛け軸や屏風が並んでいました。

30 長谷川三郎(比定) 「無題(3点の写真によるコラージュの連作)」
こちらは小型の白黒写真の作品です。何が写っているのか分からないくらい抽象的ですが、四角や丸を組み合わせているように見えるかな。見た目はかなり違いますが、方向性としては先程の作品と共通するものがあるように思えました。

25 長谷川三郎 「Time」
こちらは木目を判子のように写して、その上から「時」と筆で書いた作品です。ついでにサインに「サブ」と書いてあるのがちょっと可愛いw 木目が波のように見えて侘びた雰囲気を出していて、日本文化の一端が現れているように思えます。タイトルは年輪が木の生きた時間を表していることを示しているのかな?
この辺には同様に木目を活かした作品がいくつかあり、切り株に彫刻した版木と共に展示されたものまでありました。結構驚きの作風です。


<3章 長谷川三郎とイサム・ノグチを結びつけるもの>
2人の交流でイサム・ノグチは日本美への理解を深め、長谷川三郎は絵画制作に自信を深めました。さらに1950~52年にかけて2人は雑誌や新聞で古い日本美の再評価とそれに根ざした創造を呼びかけています。日本の古い美に現代が必要とする抽象の精神を見出し、その本質から現代の表現を作り出すと考えたようです。ここにはそうした日本的なものを感じる作品が並んでいました。

91 イサム・ノグチ 「夢窓疎石の教え」
こちらは5つの石が並んだ作品で、ぱっと観で枯山水の岩のように思えます。日本の伝統的な美をそのまま作品に活かしているようで、臨済宗の祖である夢窓疎石へのオマージュ的な作品となっていました。
 参考記事:番外編 京都旅行 祇園~清水寺エリアその2

この辺にはイサム・ノグチの抽象的で奇妙な形の彫刻作品もありました。縦長のモニュメントが多いかな。

y25/y23 長谷川三郎 「Non-figure」「無題」
こちらは白黒の水墨で、下の方には格子のようなものが並び、中央に大きく黒々とした墨が滲んでいます。周りに飛び散ったり滲んだりしていて、どことなくジャクソン・ポロックのポーリングみたいな躍動感がありました。墨のもつ力強さを遺憾なく発揮しているような作品です。

この近くには横浜美術館の常設にあるイサム・ノグチ「真夜中の太陽」などもありました。


<4章 イサム・ノグチの日本における制作活動の始まり 1950-1954>
続いてはイサム・ノグチの日本での活動に関するコーナーです。イサム・ノグチは来日した際に猪熊弦一郎や丹下健三、剣持勇など各界の巨匠に迎え入れられ、長谷川三郎との旅行の後に愛知県の瀬戸で作陶したり、慶應義塾大学の番來舎の庭園彫刻のマケットや家具の制作などを行っています。また、猪熊弦一郎と剣持勇の尽力で日本橋にアトリエを設け、日本での個展も実施していたようです。さらに1951年には広島の平和大橋・西平和大橋の欄干など芸術と社会が結びつく仕事を実現させたり、岐阜に立ち寄ったことで「あかり」シリーズのデザインのインスピレーションを得ています。そして、女優の山口淑子と結婚し、北大路魯山人の所有する北鎌倉の古い農家で陶芸に没頭し、古代の土器のような作品も残しています。他にも東京渋谷の東横ホールの緞帳のデザインなど様々なところで活躍したようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

65 イサム・ノグチ 「戦争」
こちらは信楽焼の茶色の陶器で、兜や鎧を思わせるような形をしています。何処と無く弥生土器みたいな抽象的な雰囲気もあって、日本の古代への関心を伺わせました。

この辺は陶器の作品が並んでいました。かなり幅広い作風です。

74 イサム・ノグチ 「緞帳のためのマケット」
こちらは東急会館の東横ホールの緞帳の為の小型のマケットです。縦横に帯が走る幾何学的な地に 三角や棒状の物が浮かぶように散らされているデザインで、リズミカルで有機的な印象を受けます。一方で色彩は控えめで、落ち着いた雰囲気もありました。

y28 イサム・ノグチ 「広島の死者の為のメモリアル(1/5模型)」
こちらはドーナツの上半分のような形のモニュメントで、よく観ると左右対称に線が入っていてブロック状に組み合わさっているように見えます。これは元々は原爆の死者のためのメモリアルだったのですが採用されなかったものです。以前の展示でアメリカ人というのが選定に影響したような話を見聞きしたのを思い出しました。ちょっと残念な話です。

近くには少し形の違う石膏モデルもありました。


<5章 開かれた道 アメリカでの長谷川三郎>
続いては再び長谷川三郎のコーナーです。イサム・ノグチとの出会いで国際交流に活躍の場を得た長谷川三郎は、『墨美』という雑誌で抽象表現主義の作家を紹介したり、アメリカの抽象美術協会の第18回年次大会に出品する日本人作家の取りまとめをするなど奮闘していたようです。この展示の為に日本アブストラクトアートクラブを設立して1954年には10ヶ月間ニューヨークに滞在し、マルセル・デュシャンなどとも交友したようです。さらに個展も開催するなど多忙を極めていたようで、その為かこの時期は即興的な傾向が強くなっています。また、現地では道教や禅など哲学的なテーマを論じることが多かったこともあって、それも作品に反映されているようです。その後1955年に一旦は帰国したのですが、すぐにサンフランシスコに移住し、研究所の講師として詩人や若い芸術家と議論を深めました。この頃は抽象や墨画、書などの枠組みに囚われない自由で伸びやかな表現になっていったようです。しかし病で倒れ、1957年に50歳で生涯を全うしました。ここにはそうしたアメリカでの作品などが並んでいました。

49 長谷川三郎 「Flower」
こちらは中央に「花」と書いてあり、周りに墨が飛び散ってそれが花のように見える抽象画です。滲みが面白い一方で即興的な作風が強まっているように感じられました。

39 長谷川三郎 「いろは」
こちらは赤地に黒で行間を仕切り、右から縦書きで「いろはにほへと~」と書いた作品です。所々の赤が目に鮮やかに感じるかな。
この辺は同様に漢字と抽象画を組み合わせたような作品が多く並んでいました。日本っぽいのが向こうでは受けたのかも? 他にも老子にインスピレーションを得た作品なんかもありました。


<6章 古い伝統の真の発展を目指して 1954年以降のイサム・ノグチ>
最後はイサム・ノグチの1954年以降の作品のコーナーです。1954年以降はニューヨークと日本を往復しながら制作と作品発表を行っていたようです。ここにはそうした時代の品々が並んでいました。

81 イサム・ノグチ 「身ごもる鳥」
こちらはイサム・ノグチの師匠であるコンスタンティン・ブランクーシに捧げた作品で、ブランクーシの代表作である「空間の鳥」に似た縦長の大理石のオブジェとなっています。滑らかな三ヶ月状で、洗練されたフォルムが美しい抽象性となっていました。

67 イサム・ノグチ 「あかり(1A)」
こちらは竹の骨を持つ照明で、卵型をした提灯に見えるかな。和紙によって柔らかい光となって、シンプルで日本の伝統を感じる一方、モダンな雰囲気となっていました。

この辺には石・木・金属など様々な素材の作品が並んでいました。

53 長谷川三郎 「精苦」
こちらは長谷川三郎の作品ですが、1点だけこの章にありました。晩年の作で、黄麻布に墨で「精苦」と右から書かれています。太く力強い筆跡に思えるけど、これを書いた頃には病だったようで、まさに精魂を込めた作品のようです。最後の力を振り絞るような迫力がある傑作でした。

展覧会の最後にはイサム・ノグチ「あかり」がいくつも連なったような品がありました。独鈷杵みたいな形をしていてモニュメントのようでもあります。


ということで、結構難解な作品が多かったですが日本美を感じるものが多かったので、感覚で理解できたような気がします。2人とも戦後の日本における重要なアーティストであるので、今回の展示でその関係性を知ることが出来たのも良かったです。既に終了してしまいましたが、今後の鑑賞の参考にもなりそうな展示でした。

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