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へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで 【府中市美術館】

日付が変わって昨日となりましたが、府中市美術館で「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」を観てきました。非常に注目を集めている展示となっていますので、早めにご紹介しておこうと思います。なお、この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは前期の最終日でした。

DSC04290.jpg

【展覧名】
 へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

【公式サイト】
 http://fam-exhibition.com/hesoten/
 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/hesomagari.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王府中駅

【会期】2019年3月16日(土)~5月12日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
非常に混んでいてチケットを買うのに5~10分待ちで、中も列を組んで観るような混雑ぶりでした。この美術館がこんなに混んでいるのを観たことがないくらいの混雑です。

さて、この展示は「へそ曲がり」をテーマにした展示で、江戸時代から現代にかけて絵の上手さや美しさを追い求めず独自の世界を開いた個性派の作品が並ぶ内容となっています。中には伊藤若冲や長沢芦雪といった本来は絵の巧みな画家の作品もありますが、あえて素朴で拙かったり不気味だったりと一筋縄ではいかない表現ばかりです。展覧会は4章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。


<第1章 別世界への案内役 禅画>
まずは禅画のコーナーです。禅画は禅の教えを実践したり広めるたもの物なので、従来の絵画芸術には無いような大胆な作品が多く並んでいました。

37 仙厓義梵 「豊干禅師・寒山拾得図屏風」
こちらは六曲一双の屏風で、右隻には巻物を持つ寒山と箒を持つ拾得、左隻には虎に乗った豊干禅師が描かれ、その傍らには3匹の子虎の姿もあります。全体的に早描きでまるで漫画のようなタッチとなっていて、粗く思えるかな。○の中に点を打っただけの虎の目が何とも間が抜けて可愛いw 3箇所(小さいのがもう1つ)ほど賛があり、解説によるとそれぞれ「屏風の仕立てが悪いから上手く描けない」 「私は前世で豊干に会ったので上手く描けた」 「世の中の絵には描き方というものがあるが、私の絵にはない」という旨となっているようです。上手く描けたのか描けなかったのかどっちやねん!と、これも禅問答かと疑ってしまいますw 早描きで雑に見えても寒山拾得のやや狂気を感じる表情なんかは特徴がよく出ているように思えました。
 参考記事:仙厓礼讃 (出光美術館)

この辺には雪村周継の三幅対の布袋を描いた作品なんかもありました。

10 狩野山雪 「松に小禽・梟図」
こちらは直角に曲がる松の枝にとまっているフクロウを描いたもので、その近くにいる2羽の小鳥がフクロウをじっと見ています。フクロウはちょっとゴリラのような変わった見た目をしてるかなw 解説によると、「フクロウは不孝・悪声とされ 鳥の中で孤立してきたが、見方を変えればどうしてフクロウが悪いものか。人の印象など実体のないものだ」と賛に書いてあるようです。素朴で可愛らしいですが、ちゃんと意味が込められている作品でした。

この辺は白隠慧鶴の作品などもありました。
 参考記事:
  白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

23 惟精宗磬 「断臂図」
こちらは達磨に弟子入りしに行ったのに無視されるので、自らの手を切り落として覚悟を示す慧可を描いた作品です。刀を持って今まさに切り落とそうとしているのですが、かなり ゆるい雰囲気となっていて、表情も何だか悲しげで情けないw 緊迫のシーンのはずなのにほのぼのとしていてギャップが可笑しく思えました。

27 風外本高 「南泉斬猫図」
こちらは「南泉斬猫」という禅の逸話を描いた作品です。禅僧たちが猫も人と同じように仏になる資格はあるか?という話をしていたところ、南禅和尚が「議論の余地のない正しい答えを言ってみよ。さもなくば猫を斬る」と言ったのですが、結局誰も答えられず あえなく猫が斬られたという話です。この絵では和尚の傍らに胴を真っ二つに斬られた猫の姿があり、絵のゆるさと対照的に可哀想に見えます…。この時不在の弟子がいれば答えられて猫も助かったのにということですが、何度聞いても酷い話です。

41 42 長沢芦雪 「狗子図」 円山応挙 「時雨狗子図」
こちらは師弟の2点を並べて比較するという趣旨となっていました。両方とも子犬が群れている様子を描いたもので、師の応挙は写実的に犬の毛をフサフサに描いていてリアリティもあるかな。一方の弟子の芦雪はややデフォルメ気味に滑らかな曲線で体を表している違いがありました。いずれもコロコロした感じで可愛いけど、先生と弟子でやや表現が違っているのがよく分かる展示方法でした。


<第2章 何かを超える>
続いては理論や芸術上の考えに注目したコーナーです。人と違ったり権威に背いた作品などが並んでいました。

45 小林一茶 「苦の娑婆や 自画賛」
こちらはやや後ろ向きに座っている自画像で、賛が付けられています。かなり筆数が少なくて一筆書きみたいな簡素な作風ですが、ちょっと悩んでいるような顔をしているのが分かります。賛には「苦の娑婆や さくらが咲ば さいたとて」とあるそうで、桜が散ってしまうことに気をもんでいるのかもしれません。ちょうどこの日の桜の散り具合とマッチしているようで面白く思えました。

この辺は俳画や南画が並んでいました。俗世間の美しさとは離れた非技巧の世界が広がります。

59 佐竹蓬平 「山水図」
こちらはいかにも南画といった感じの山水図で、山と麓の家、手前には外で語らう2人の文人らしき姿が見えています。点々を多用した描き方で、割と大雑把ではありますが理想郷のような雰囲気が出ていました。
この作品の隣には応挙の風景画があり、比べるとそのゆるさがよく分かる趣向となっていました。

66 夏目漱石 「柳下騎驢図」
こちらは夏目漱石の晩年の作で、柳の木と その隣に架かる橋を驢馬に乗って渡る中国風の人物が描かれています。木を見上げるような感じで、全体的に穏やかな印象を受けるかな。南画風で木の葉っぱを点々と表現しているものの、かなり素朴で子供の絵のような味わいがあります。解説によると、世俗的な美術を嫌い高い教養と純粋な心を拙さの中に表現する文人の精神を自覚していたのではないかとのことです。まあ夏目漱石は美術に詳しいので、間違いなくそれを念頭にしていたんでしょうね。
 参考記事:
  夏目漱石の美術世界展 感想前編(東京藝術大学大学美術館)
  夏目漱石の美術世界展 感想後編(東京藝術大学大学美術館)

67 伊藤若冲 「伏見人形図」
こちらは芭蕉扇のようなものを持った坊主頭の人形が7体縦に連なっている様子を描いた作品です。赤・緑・青の服の色の違い以外は同じ顔で、線と点で表現された表情が可愛らしく思えます。超絶技巧で有名な若冲ですが、この作品では簡素でゆるい雰囲気となっていました。ちなみに若冲は今回数点並んでいました。特に水墨はゆるい絵があったりするのも魅力だと思います。
 参考記事:
  Kawaii(かわいい) 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで- (山種美術館)
  伊藤若冲 アナザーワールド (千葉市美術館)
  伊藤若冲 アナザーワールド 2回目(千葉市美術館)

この近くには歌川国芳の「荷宝蔵壁のむだ書」もありました。わざと下手な落書き風に描いているところが逆に技術の高さと反骨精神を感じさせます。
 参考記事:破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)

73 三岸好太郎 「友人ノ肖像」
こちらは洋画で、椅子に座ったスーツ姿の男性が描かれています。しかし手足の大きさのバランスがおかしくてやけにズングリした印象を受けるかな。表情もポカンとしているような妙な味わいがあります。背景は暗く、どことなくシュールさを感じました。解説によると、この作品はルソーに影響を受けたとのことで納得w
この隣には世田谷美術館が所蔵するアンリ・ルソーの「フリュマンス・ビッシュの肖像」もありました。大正時代に日本にもルソーが伝わってきて拙いブームが起きたようです。みんな一生懸命上手くなろうとしているところにルソーの素朴な絵が来て最新美術と言われたらショックを受けたでしょうねw
 参考記事:
  アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界 感想前編(世田谷美術館)
  世田谷美術館の常設 (2010年08月)

その先には1970年代のヘタウマ漫画のコーナーがありました。糸井重里・湯村輝彦の『情熱ペンギンごはん』と蛭子能収の『骨正月』は一部が抜粋されてコピーをパネルで読むことができます。どちらも話が読めないシュールさで、特に蛭子能収は不条理と呼ばれるのも致し方ない意味不明さがありましたw ペンギンごはんは愛嬌があるからちょっと読んでみたい。

続いてはお殿様の絵のコーナーです。将軍や藩主が描いた絵が並んでいました。ここはかなりツボでしたw

84 徳川家光 「木菟図」
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この写真はロビーの記念撮影の所にあったコピーを撮ったものです。ひと目でミミズクと分かる特徴的な造形ですが、子供の絵みたいな素朴さを感じます。この頃、狩野探幽などが奥絵師として仕えていた訳ですが、その画風とも全く違っているのも興味深いところです。羽を丹念に描いているところやズングリした体躯など可愛らしい絵となっていました。

85 徳川家光 「兎図」
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この写真はロビーの記念撮影の所にあったコピーを撮ったものです。まるで兎の縫いぐるみみたいなw 韓非子の兎の話(ころりころげた木の根っ子の話)をモチーフにしているようですが、マスコット的なゆるさです。家光って将軍の中でも厳格なイメージがあるんですけどね…w

86 徳川家光 「鳳凰図」
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この写真はロビーの映像を撮ったものです。鳳凰というと威厳のあるものを想像しますが、小鳥かな?w 愛嬌たっぷりでこんな可愛い鳳凰を観たことがありません。

88 徳川家綱 「鶏図」
こちらは立派な黒い尾っぽを持つ鶏を描いた作品です。鶏冠や喉の部分が赤くなっていて、くちばしは黄色に着色されています。これも子供が描いたような簡素さで父親の家光に負けないくらい緩いw きょろっとした目が可愛らしく、やけに掛け軸下の方に小さく描いてあるのも萌えポイントでした。

他にも伊達藩の藩主の作品も良かったし、お殿様の純粋さが凄いw


<第3章 突拍子もない造形>
続いてはちょっと他とは違う造形の作品のコーナーです。ここも様々な時代やジャンルの作品が並んでいました。

104 岸礼 「百福図」
こちらは大きな掛け軸で、お多福みたいな顔の女性が画面中に無数にいて、洗濯したり化粧したり機織りしたり、中にはブランコ遊びみたいなことをしている女性の姿もあります。髪が真っ黒なのでカラスが群れているような不気味さもあるかなw 奇妙でちょっとキモいんだけど楽しげで目を引かれる作品でした。

108 児島善三郎 「松」
こちらはオレンジの幹と黄緑の葉から成る松を描いたもので、殴り描くような線を使ったり ぐちゃぐちゃに塗った筆致も見て取れます。松の葉は何故か楕円形となっていたりデフォルメが進んでいるのですが、それがリズミカルに感じられ、色の取り合わせと共に心地よく思えました。不思議な魅力のある作品です。

101 中村芳中 「十二ヶ月花卉図押絵貼屏風」
こちらは六曲一双の屏風で、一曲ずつに季節の草花が描かれています。松、梅、牡丹など形はやけに丸っこくデフォルメされていて、輪郭を描いて中を色面で表すような手法です。中村芳中は琳派に大きな影響を受けた画家で この絵でもそれがよく伝わるのですが やたらと滲みを活かした「たらし込み」を使っていたりするのも特徴です。華やかなのに拙いような面白い味わいとなっていました。


<第4章 苦みとおとぼけ>
最後は綺麗とか心地よさと対極にある苦味と、おとぼけという2つの要素を取り上げていました。

110 岸駒 「寒山拾得図」 ★こちらで観られます
こちらは箒を持つ拾得が念珠を持つ寒山の肩に手をかける様子が描かれた作品で、2人ともニヤニヤと笑っている表情となっています。まるで妖怪のようで尖った爪やボリューム感ある髪など 狂気を感じさせます。岸駒は実力ある画家だけに気味悪さも強く表現されていて、確かに「苦み」と言えそうな作品でした。

120 祇園井特 「美人図」
こちらは画面いっぱいに描かれた女性の肖像で、簪をして唇には笹紅を付けています。非常に目が大きく、全体的に濃ゆい顔に見えるかなw 色も強めで妙なリアリティがあり、理想化・様式化されていない女性像となっていました。

128 曽我二直庵 「猿図」
こちらは蔦に掴まっている猿を描いたもので、顔が白く手が長いテナガザルみたいな猿です。やや不敵な笑みを浮かべているようにも見えて人間ぽさも感じます。毛並みは丹念に描かれるなど絵自体は上手いのですが、確かにトボけた味わいがありました。

136 萬鉄五郎 「仁丹とガス灯」
こちらは暗い画面に赤々と「仁丹」の広告が描かれた作品です。かなり厚塗りされていて、仁丹の文字が非常に目を引きます。また、周りには星型のガス灯の光もあって、強烈な色彩感覚となっていました。どうして仁丹の広告?という可笑しさも魅力の作品です。


ということで、本当に個性豊かで絵の楽しさを再認識するような展示でした。西洋ではルソーなどによって認識されたジャンルですが、日本では江戸時代からこんなにも豊かな表現があったのかと驚くばかりです。既に非常に人気の展示となっていますので、これから出かけられる方は混雑を勘定してなるべく時間を多く取ってスケジュールしたほうが良さそうです。幅広い層が楽しめる今季オススメの展示です。

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