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ギュスターヴ・モロー展― サロメと宿命の女たち ― 【パナソニック汐留美術館】

10日ほど前に新橋のパナソニック汐留美術館で「ギュスターヴ・モロー展― サロメと宿命の女たち ―」を観てきました。

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【展覧名】
 ギュスターヴ・モロー展― サロメと宿命の女たち ―

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/190406/

【会場】パナソニック汐留美術館
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2019年4月6日(土)~ 6月23日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会場が狭いこともあって割と混雑感がありましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は象徴主義の巨匠であるギュスターヴ・モローの個展で、パリのギュスターヴ・モロー美術館の作品を中心に特に女性像に着目していくつかの系統に分けて紹介する内容となっています。このパナソニック汐留美術館はジョルジュ・ルオーのコレクションを所有しているため毎年のようにルオー展を開催していますが、今回はちょっと変化球でルオーのアカデミー時代の先生であったモローを取り上げた感じでしょうか。展示はテーマごとに4章構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 モローが愛した女たち>
まずはギュルターヴ・モローが愛した恋人と母親をモデルにした作品が並ぶコーナーです。モローは建築家の父と音楽好きの母の元で育ち、両親を心から敬愛していたようです。特に母は妹を13歳で亡くしたことを機に絆を強めたそうで、この世で最も大切な存在と表現して繰り返し描きました。また、結婚はしなかったものの30年近く共に過ごしたアレクサンドリーヌ・デュルーも親密な視点で度々描いたようで、彼女が亡くなった際には墓は2人のイニシャルのAとGを重ねたデザインを施すほど愛は深かったようです。モローは小説家のジョリス=カルル・ユイスマンスに「パリの真ん中に閉じこもった神秘主義者」と呼ばれ、ミステリアスなファム・ファタル(破滅を招く運命の女)を描き続けたわけですが、社交界やジャーナリズムに距離を置いて生涯独身を貫き、老いた母親と自宅にひきこもって生活していたようです。ここには身近だった2人の女性を描いた作品が並んでいました。

1 ギュルターヴ・モロー 「24歳の自画像」
まずは自画像がありました。横向きでやや下の方に目をちらっと向けている表情に見えるかな。油彩での自画像はこれが唯一だそうで、アカデミックな教育で成果が得られずロマン主義へと傾倒した頃の姿のようです。ややぼんやりして顔に柔らかい光が当たるような表現なので、ちょっとそれも頷けるかも。口髭や顎髭があるけど厳格さはそれほど感じず、優しい雰囲気に見えました。既にモローっぽさを感じるような神秘性も若干あります。

この辺は母を描いた鉛筆の素描や、パレット、母に宛てたメモなんかがありました。母の晩年は耳が悪かったらしく、筆談で自分の絵を説明していたそうで、今ではそれが貴重な資料になっているようです。

6 ギュルターヴ・モロー 「アレクサンドリーヌ・デュルー」 ★こちらで観られます
こちらは鉛筆とインクのデッサンで、横向きで顔をこちらに向ける恋人のアレクサンドリーヌ・デュルーが描かれています。2人はモローのイタリア留学後に出会ったそうで、当時 彼女は家庭教師をしていて、モローが絵の手ほどきをしたのがきっかけだったようです。心優しい人だったようで、この絵でも理知的な目をしています。さっと描いたように見えるけど、流石のデッサン力で逆に画力の高さを再認識しました。

この隣にも木炭による肖像がありました。ランプのもとで新聞?を読んでいるようでリラックスした親密さを感じます。ちなみに母が亡くなってからはこの恋人が心の支えとなっていたのですが、彼女にも先立たれてしまい晩年は喪失感と共に制作をしていたようです。先述のお墓のデザインと実際のモンマルトルにあるお墓の写真なんかも観ることができました。また、パリのギュルターヴ・モロー美術館には彼女に送った作品なんかもあるらしく、写真で紹介していました。

10 ギュルターヴ・モロー 「パルクと死の天使」
こちらは馬に乗った死の天使と、手綱を引くパルク(人間の運命を支配する女神)を描いた作品です。右の方には丸い太陽があり、天には星が1つ輝いています。この2柱は顔もわからないほど粗いタッチとなっていて、死の天使は剣を構えて背後に光輪もあって威圧感のようなものを感じます。解説によると、この作品は恋人の死後に描かれたらしく、悲しみや喪失感のエネルギーをこの絵に転嫁しているとのことでした。


<第2章 《出現》とサロメ>
続いてはモローがよく描いた「サロメ」についてです。サロメは舞の褒美としてヘロデ王に洗礼者ヨハネの首を所望したユダヤの王女ですが、モローが数多く描いたファム・ファタルの中でも突出して描いたテーマでもあります。モローはサロメを男を幻惑する妖女として描いていて、ここにはそれを代表する作品も並んでいました。

11 ギュルターヴ・モロー 「洗礼者聖ヨハネの斬首」
こちらは油彩でサロメを描いた中で最も早い時期の作品です。中央の祭壇のような所で手を合わせ跪いている半裸のヨハネの姿が描かれ、後ろでは剣を構えた刑吏、その脇にはじっと見つめている黄色い衣のサロメの姿もあります。背景には縦長の円柱などがあり、明暗が神秘的な効果を生んでいて、左上から差し込む光が天からの光のようにも思えました。静かだけど恐ろしくも劇的な1枚です。

この辺には首を切ったあとの作品もありました。

16 ギュルターヴ・モロー 「サロメ」
こちらは1876年のサロン出品作「ヘロデ王の前で踊るサロメ」より 踊るサロメ像の部分の習作で、完成作と同じサイズで描かれています。祈るように右手を顔の前に出し目を瞑り、東洋風の長い衣をまとっている姿で、美しく魔術的な雰囲気があります。これだけ観るとミステリアスな美女って感じで、ファム・ファタルの妖しい色気が漂っていました。

18 ギュルターヴ・モロー 「出現」 ★こちらで観られます
こちらは中央に光り輝く光背を持つヨハネの首が空中に浮かび、それをサロメが指さしているという幻視の場面を描いた作品です。ヨハネの首は血が滴り目を開いてサロメを観ています。一方、サロメは睨むような顔に見えますが、後ろにいる王などはヨハネの首に気づいていないようで、サロメだけにしか見えていないようです。この絵は未完成らしく、背景の柱や宮殿の装飾などは白い線が下書きのように残っているのも特徴じゃないかな。偶像や装飾なども細かく描かれていて、緻密さが逆に際立って分かるようになっていました。ポーズや構成なども含めて独創的な作品です。

34 ギュルターヴ・モロー 「サロメ」
こちらは手をクロスして肩の上に置き、花を持っているサロメの裸婦像です。均整の取れた体つきで、腰を捻って優美な姿となっています。暗い背景に白く輝くような肌が特に妖しい美しさで、背後では王や母と思われる人物が裸体をじっと見つめています。妖艶さと神秘性を兼ね備えていて、まさにファム・ファタルといった1枚でした。


<第3章 宿命の女たち>
続いてはファム・ファタルの女たちを描いたコーナーです。魅惑的で呪われた宝石のように輝くような女性ばかりで、モローは「女というのはその本質において未知と神秘に夢中で、背徳的 悪魔的な誘惑の姿をまとって現れる 悪に心を奪われる無意識的存在なのである」という言葉を残しているそうです(現代だったら大問題になりそうな発言ですw) 歴史画家を自認して神話や聖書を題材にした作品を手がけていたこともあって、ここには神話に出てくるファム・ファタルたちが並んでいました。

37 ギュルターヴ・モロー 「トロイアの城壁に立つヘレネ」
こちらは夕日を背に城壁の上に立つヘレネを描いた作品です。パリスの審判のエピソードでパリスがウェヌスとの約束(賄賂みたいな)によってヘレネを掠奪して2人は結ばれる訳ですが、それがきっかけでトロイア戦争が起きてしまうので、ヘレネは傾国の美女として描かれています。ヘレネの右下には戦争で命を落とした兵士が折り重なっていて、血があちこちに滴っています。ヘレネの顔はのっぺらぼうのように何もないのですが、それでも美しく気品がある雰囲気をまとっています。不吉さと美しさが同居する破滅的な魅力がありました。

この近くには淫蕩のメッサリーナ、サムスンの怪力の秘密である髪を切ったデリラ、謎掛けをしては旅人を殺すスフィンクス、オルフェウスを八つ裂きにしたバッカスの巫女などの絵もありました。

47 ギュルターヴ・モロー 「ヘラクレスとオンファレ」
こちらはヘラクレスとリュディアの王女オンファレを描いた作品で、友人を殺した罰としてヘラクレスがオンファレの奴隷となるものの、愛人となったとエピソードとなっています。ここでは2人とも裸体で、座って花冠を被っているヘラクレスの頭に手をおいて立つオンファレの姿があり、背後には翼をもったキューピッドのような人物も描かれています。オンファレはなまめかしく柔らかい肉体表現で、それに従うヘラクレスは神妙な感じに見えるかな。筋骨隆々なのに良いようにされているようで面白かったですw

49 ギュルターヴ・モロー 「セイレーン」
こちらは夕日を背景に海の岩場で腰掛ける3人の裸婦を描いた作品です。足は蛇のようになっていて、男の死体に巻き付いている様子も描かれていて、どうやら彼女たちは船乗りを引き寄せては殺すセイレーンのようです。幻想的で美しい夕景と裸体の艶やかさとは似つかわしくないような、恐ろしさが同居しているのが何とも面白い。これぞファム・ファタルって感じでした。

この隣にも似た作品がありました。

51 ギュルターヴ・モロー 「レダ」
こちらはレダと白鳥の神話を元にした作品で、裸体のレダがゼウスが変身した白鳥を抱き寄せて口づけするように顔を近づけています。ストーリー的には白鳥(ゼウス)がレダに迫るはずなので、この構図は役割が逆になっているようでちょっと珍しいかも。むしろレダが誘っているような感じです。色は薄く、下書きが見えているので未完成かもしれないと思いながら観てました。暗い中で白く浮かび上がるような色彩でした。

57 ギュルターヴ・モロー 「エウロペの誘拐」 ★こちらで観られます
こちらはオウィディウスの変身物語の一場面で、王女エウロペと牡牛に姿を変えたゼウスが描かれています。顔だけゼウスになって光り輝いているのがちょっとキモいw 背に乗るエウロペはゼウスと視線をあわせていて官能的な雰囲気すらあるかな。エウロペの乗り方が妙な感じですが、体を斜めにして飛ぶような姿勢になっているのも面白い構図でした。大型なので特に目を引く作品です。

この近くにはアダムとエヴァのエヴァ、恋に破れて投身自殺した詩人サッフォー、クレオパトラなどをテーマにした作品もありました。


<第4章 《一角獣》と純潔の乙女>
最後の章は清らかな乙女のコーナーです。背徳的な美女を描いていた一方で汚れなき乙女も描いていたようで、処女だけが捕獲できる一角獣の題材はそれにぴったりだったようです。また、母と恋人を失った孤独の中で手がけたのは愛と慈悲の象徴である聖母マリアで、15世紀のヴェネツィア派の画家カルパッチョに構図を学んだ作品などもあるようです。ここにはそうした清らかな女性像が並んでいました。

63 ギュルターヴ・モロー 「一角獣」 ★こちらで観られます
こちらはクリュニー中世美術館のタピストリーを参照して描いた作品で、水辺の森で脇にユニコーンを抱えて寝そべる裸婦が描かれています。その脇にもドレスの女性が両脇にユニコーンを抱えていて、穏やかで理想郷のような光景です。女性の装飾品は中世フランス風らしく、細かい紋様がありかなり緻密です。女性たちは優しい眼差しをしていて、ここまで観てきた女性たちとはちょっと雰囲気が違っていましたw

66 ギュルターヴ・モロー 「妖精とグリフォン」
こちらは岩の洞窟の中で頭の後ろに手を回して横たわる真っ白な体の裸婦と、その手前で伏せたグリフォンが描かれた作品です。解説によると、冒し難い美しさゆえに欲望の対象となる女性を象徴的に描いているそうで、グリフォンは険しい表情でそれを護っているようです。真っ白で大理石像のように見えますが、確かに気品ある姿となっていました。
なお、この絵のバージョン違いを観たアンドレ・ブルトンは絵の虜になったのだとか。

最後にパリのギュルターヴ・モロー美術館の案内の映像もありました。狭い美術館に14000点もあるそうで、2回は画家の愛した調度品なんかも展示しているようです。パリに行った時、時間がなくて行けなかったのが悔やまれる…


ということで、ファム・ファタルだけでなく母や恋人、清らかな女性を描いた作品まであってモローの女性観を多面的に観ることができました。元々モローが好きなので十分満足できましたが、できればもう少し油彩が観たかったようにも思います。とは言え、サロメなど見応えのある作品もあるので、この展示でモロー好きが増える気がします。洋画好きにオススメの展示です。


おまけ:
ちなみの今回の展示から「パナソニック 汐留ミュージアム」から改名したわけですが、また改名か!と思ったのは私だけでないはずw その前は「パナソニック電工汐留ミュージアム」で、その前は「松下電工 汐留ミュージアム」と、本社の名前が変わる度にコロコロ変わってきました。今回は大阪のパナソニックミュージアムと紛らわしいのと博物館に指定されたので変更したのだとか。覚えづらいんで今度こそ定着してほしいものです…。

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