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速水御舟展 -日本画への挑戦- 【山種美術館】

今年は美術館の新設・移転・リニューアルが多いように思いますが、先月に千鳥が淵から広尾に移転した、山種美術館で新美術館開館記念特別展「速水御舟展-日本画への挑戦-」を観てきました。

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【展覧名】
 新美術館開館記念特別展
 速水御舟展 -日本画への挑戦-

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.or.jp/exh_current.html

【会場】山種美術館 (移転してきました!)



【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅
【会期】前期 2009年10月1日(木)~11月1日(日)
    後期 2009年11月3日(火)~11月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日10時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
せっかくなので、まずは新しくなった美術館の写真からご紹介。場所は私の中では、九十九ラーメンの坂の上と覚えましたw
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さすが新しい美術館だけあって、明るいイメージのある建物になっていました。
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カフェも新しくできてお洒落な感じです。
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展覧会は地下で行われています。この地下の広さは以前と同じくらいの広さかな。若干、通路が狭くて人で溢れかえっていたような…。(特に2章の最後の方はやばかった)


さて、特別展ですが、初回を飾るのは速水御舟の個展でした。予想以上に人気があるのか移転した美術館目当てか、かなり混みあっていました。
この画家は40歳の若さで腸チフスにかかって急逝してしまったのですが、残した700点余の作品の多くが個人所有らしく、山種美術館の所有する100点余りのコレクションは貴重なものだと思われます。今回の展示でも初展示となる作品もあり、一気にこの画家を知る機会となっていました。
いつもどおり、章ごとに気に入った作品をご紹介します。私が行ったのは前期展示でした。

<第1章:画塾からの出発>
このコーナーは修行時代の作品が展示されていました。解説によると、速水御舟は松本楓湖の安雅堂画塾に入門し、模写を通じて中国画や、琳派、土佐派、狩野派、円山四条派、浮世絵などを学んだそうです。(松本楓湖は放任主義だったらしく自由に色々学べたようです。)

「錦木」
19歳の頃の作品です。白い服を着て黒い傘を被った男性が描かれています。手にはオレンジ色の棒を持ち、うつむき加減で左方向に歩いています。これは東北地方にあった風習を描いたもので、女性の家の前に棒を立てかけておいて、それに対してOKのサインがあると両思いって事だったかな。(うろおぼえですw) 白い胡粉が印象的でした。

「山科秋」
23歳の頃の作品。手前はぼかしの効いた黄土色の野原、奥には群青の森に木々が描かれ、その中にあるオレンジの柿がアクセントになっています。速水御舟本人の弁によると、この頃、黄土色中毒にかかっていたと回顧するように、黄土色と群青色の色使いが印象的でした。この作品などを含めて、横山大観らに絶賛されて日本美術院に推挙されていったそうです。


<第2章:古典への挑戦>
速水御舟は岸田劉生の影響も受けていたようで、この頃徹底した細密描写を行っていたようです。また、それとは逆に平坦で単純化された琳派風の作風の作品もありました。
 参考:没後80年 岸田劉生 -肖像画をこえて

「灰燼」
関東大震災をスケッチした作品。3つの建物が壊れていて、手前には無数のレンガの破片が散乱している絵です。空は暗く、無人で寂しい雰囲気でした、

「炎舞」 ★こちらで観られます(PDF)
今回の目玉作品です。力強くも儚い炎の上に、蛾が舞飛んでいる様子が描かれています。炎は仏画の炎(不動明王とかの炎)に似ている気がしますが、先端の方はぼかしてあって幻想的な感じです。舞飛ぶ蛾も、9羽すべてが正面を向いていて、自然ではありえない光景です。羽にもぼかしてあって、羽ばたきの揺れなのかな? 写実性・装飾性・象徴性が1つの絵に表されていると解説されていました。(それって岸田劉生の展覧でもテーマになっていたような…)

「翠苔緑芝」 ★こちらで観られます(PDF)
琳派を意識した金地の屏風です。右隻は黒猫とつつじ、びわの木?が描かれています。 左隻にはアジサイとウサギが描かれのんびりした雰囲気です。アジサイの花が独創的な技法でかかれていて、ひび割れさせて質感を出しているようでした。
また、この屏風の近くには下図もあって、右隻には白猫と黒猫と朝顔、左隻は同じモチーフだけれども、本図に比べてアジサイの花と葉は少なめでした。推敲していた様子がわかるのも興味深かったです。

「粧蛾舞戯」 ★イメージ検索の結果
先ほどの「炎舞」に似た作品。暗い闇で上を見上げたような感じで、上部の朱色の渦に吸い込まれていきそうな蛾たちが描かれています。この作品も蛾はカラフルで羽にぼかしが入っています。隣にはくもの巣を描いた作品があり、蜘蛛の絵が「陰」と「広がり」、この蛾の絵が「陽」と「集束」という対比があるようです。神秘的で昇天の絵を連想しました。

「紅梅・白梅」
左に白梅と月、右に紅梅が描かれています。枝先だけが描かれ、空間を大きくとった構図で、張り詰めた空気が感じられると解説されていました。また他の絵と違った画風だったような…。多彩な画風に驚きます。

「名樹散椿」 ★こちらで観られます(PDF)
琳派の祖である俵屋宗達の松図から影響を受けている作品で、金地の屏風にうねったような木と、それに咲く鮮やかな椿を描いています。均一で平坦な金地は重厚感を持たせ、椿は装飾的で妖しい雰囲気すらします。この絵は朱色の絵の具を使いたくて椿を題材にしたというエピソードが解説されていました。確かに椿の朱色が映えていました。


<第3章:渡欧から人物画へ>
速水御舟はローマの日本美術展覧会の使節の一員として、中国を経由してヨーロッパへ外遊したらしく、ここではその道中の作品やそこで得たものから変わり行く作風が紹介されていました。
なお、この辺は通路が狭い割りに道の両側に展示されていて窮屈でした。さすがに一等地だから土地が無いのかなあ。

「オリンピア神殿遺址」
2週間滞在したギリシアを題材にした縦長の掛け軸です。神殿の柱が2本、どーんと大きく描かれています。線の細い輪郭でギリシアを題材としているのに日本画らしい作品でした。

「裸婦(素描1)」
これは西洋画風のタッチで後ろ向きの裸婦を描いた素描です。西洋の作品に触発されて、日本に帰ってからは女性も描くようになり、肉感的な表現を重視していたようです。わざわざ人体解剖学の講義を受けたりしたというエピソードもありました。ついに西洋画まで画風を広げました。これだけ成功しているのに基礎から勉強するって凄いことです。

 「婦女群像(未完)」 ★こちらで観られます
色を塗る途中で中止したままになった未完の大作です。かなり大きくて、縦2.2m×横3.1mもあります。絵には傘をさす女性やコンパクトを持つ女性、横たわる女性など、着物の女性が7人描かれています。緩やかな線が多くて女性らしい美しさを感じます。この絵を描くために御舟は女性の流行を知りたいと宝塚を観にいって、観客の着物を観察してきたそうです。傑作になりそうだったのですが、これを描いている途中にヤニが浮き上がってしまい、いずれ描き直そうと思っていたら翌年に病死してしまったそうです。残念で仕方ありません。

<第4章:挑戦者の葛藤>
ここまでも様々な画風の変化を見せた御舟ですが、「売れる(評価される)絵を描くのは簡単、これからは売れない(評価されない)絵を描く」と家族に言って、さらなる挑戦を続けます。外遊によって改めて日本の自然の美しさを認識し、自然の写生から離れた大胆なデフォルメと構図の工夫のある花鳥画を多く作成していったそうです。残念ながら40歳で亡くなりますが、最後まで挑戦し続けたのがわかる内容でした。

「和蘭陀菊図」
深い紫と紅の菊が密集して描かれています。緑の葉も濃い緑と白っぽい緑の対比が華やかです。また、紫の花にモンシロチョウが止まっていました。上半分は余白になっている構図も大胆で面白かったです。

「あけぼの・春の宵」
2枚セットです。右の「あけぼの」には柳の枝とカラスが描かれ、背景は薄いピンクで開けていく空が淡くて爽やかな印象でした。左の「春の宵」は、灰色の夜空の下、白い桜が花を散らしているようすが描かれています。空にはうっすらと月があり静寂を感じます。右下に大きな余白があるのも潔い感じでした。

この辺で一旦、ミュージアムショップの前を通って第2会場へ移動。(第2会場と言っても10点くらいの部屋が1つあるだけです。) ここには晩年の花のスケッチが展示されていました。写生を離れて行こうとする方向性が観られる内容で、最後のスケッチにはキュビスムを思わせるような単純化も観られると解説されていました。

「牡丹花(墨牡丹)」  ★こちらで観られます(PDF)
最後のコーナーにある作品。金の花弁を持った黒い牡丹が描かれています。輪郭線が無く柔らかい質感を感じます。ごく淡い緑の葉が黒い花を引き立てているようでした。


ということで晩年までタッチが変わるなどかなり画風の幅広い画家だったように思います。常に挑戦しつづける姿勢は芸術家の鑑ですね。新しい美術館共々、楽しめました。
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Comment
No title
中学の時に美術の教科書の速水御舟の「炎舞」を見て鳥肌が立つほどの衝撃を覚えました。それ以来、いつかは本物を見てみたいと思っていたのですが、移転する前の山種美術館にいったときには見れなかったので今回はいいチャンスです。
Re: No title
炎舞が教科書に載っていたとは知りませんでした。この幻想的で儚いふんいきは心を捉えるものがありますね。
山種美術館は前のところよりは通いやすくなったし、良い機会なのでおでかけされてみては? やっぱり本物は素晴らしいです^^
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