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シャルル=フランソワ・ドービニー展 【東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館】

GWの祝日に新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で「シャルル=フランソワ・ドービニー展」を観てきました。

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【展覧名】
 シャルル=フランソワ・ドービニー展
 バルビゾン派から印象派への架け橋

【公式サイト】
 https://www.sjnk-museum.org/program/current/5750.html

【会場】東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
【最寄】新宿駅

【会期】2019年4月20日(土)~6月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんは多かったですが、快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はバルビゾン派と交流し印象派に大きな啓示を与えた画家シャルル=フランソワ・ドービニーの個展で、これだけ本格的に紹介されるのは日本初の機会となっています。ランス美術館を中心に国内外の作品が並び、時系列的に章分けされていました。詳しくは各章ごとに気に入った作品とともにご紹介していこうと思います。


<序章:同時代の仲間たち>
1830~40年代のフランスは産業革命により資本主義経済が発達し、ブルジョワが台頭する一方で貧富も広がり 労働者階級を中心に社会主義運動も盛んに行われたようです。こうした社会主義運動の高まりとともに美術の世界でも古典的な理想美に代わり現実を描くレアリスムが登場しました。また、新興のブルジョワは難解な古典よりも失われつつある田園を描いた風景画などの親しみやすい主題を好んだようです。そしてこの頃、バルビゾン派と呼ばれる画家たちはフォンテーヌブローに集まり、農村や自然を描きました。ここにはまずバルビゾン派の画家たちや同時代の画家の作品が並んでいました。
 参考記事:
  【番外編 フランス旅行】 バルビゾン村とフォンテーヌブロー宮殿
  山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き (府中市美術館)

4 カミーユ・コロー 「オンフルール」
こちらは水辺にヨットが浮かぶ様子を背景に、手前の木々の下で休む2人の農婦を描いた作品です。地べたに座って向き合っていて、のんびりした雰囲気かな。全体的にぼんやりしていて、特に木の葉っぱの表現にコローらしさを感じました。穏やかにゆっくり時間が過ぎるような光景です。
なお、コローとドービニーは親しい友人で、共に制作旅行に行ったり、ドービニーのアトリエ舟の名誉提督としてコローの名前を挙げていたようです。

9 テオドール・ルソー 「沼」
こちらは広大な平地を背景に、小さな林の前にある沼の縁に女性が座っている様子を描いた作品です。白い布をかぶって、スカートの赤が目を引くかな。水面にもそれが写っていて、静かな雰囲気です。近くで観ると結構大胆な筆致だったりしますが、離れて観ると緻密に見えるのも面白い作品でした。

近くにはディアズや写実主義のクールベやオノレ・ドーミエなどの作品もありました。

13 フランソワ=オーギュスト・ラヴィエール 「オプトゥヴォスの池」
こちらは荒れ地のような所にある池らしきものを描いた作品です。しかしハッキリとは分からず、何となく緑がかって見える程度かな。何故か画面全体に縦方向に引っ掻いたような無数の線があって、気になりましたがこの意図もよく分からず…。この時代の作品にしては斬新に思えました。 
なお、この作者はモレステテル派の代表的な画家だそうで、明るい色彩を貴重とした風景画を描き、モレステテルやリヨン、ローヌ川周辺などをよく描いたそうです。バルビゾン派ではコローやドービニーと親交があったのだとか。


<第1章:バルビゾンの画家たちの間で(1830~1850)>
続いては初期のコーナーです。ドービニーは1817年にパリで生まれ、生後間もなくヴァルモンドワの里親に預けられて自然豊かな中で9年過ごしました。その後パリに戻ると風景画家だった父から絵の手ほどきを受け、1835年から画家サンティエの元で本格的に学びました。1836年から翌年までは自費でイタリア旅行をして古典に刺激を受けたようで、帰国後に再度イタリアを目指してローマ賞に挑戦したのですが、落選してしまいます。そのため、1840年にローマ賞受賞者を多く排出したポール・ドラローシュのアトリエで学んで再挑戦しましたが、これも落選しています。以後、1840年代は出版物の挿絵を提供するなどで生計を立て、パリを拠点にフランス各地を巡って描いてはサロンに出品して行きます。そして、これらの旅を通して自然を描き、専ら風景画を描くようになったようで、1843年にはフォンテーヌブローに滞在し、以降はバルビゾン派の1人として方向性を確立しました。なお、ドービニーはバルビゾン七星の1人に挙げらますが、作品の数は後にオーヴェールやノルマンディー地方のヴィレールヴィルで描いたものの方が多いのだとか。ここには1850年頃までの作品が並んでいました。

16 シャルル=フランソワ・ドービニー 「聖ヒエロニムス」
こちらは大型の作品で、荒野の谷間の石に本を開き、半裸姿で木の十字架を見上げている聖ヒエロニムスを描いた宗教画です。しかし谷の向こうに暮れゆく夕日や三日月が描かれ、ヒエロニムは暗い中にいるので むしろ夕日が目を引くかな。そうした風景画的な要素もあるので「歴史的風景画」とも呼べる作品となっています。当時は風景画が絵画の題材としては格下で、神話や宗教画が崇高なものとされていましたが、こうした神話・宗教の中の風景は比較的高貴なものと考えられていたようです。最初期の作品でサロン出品作だったのだとか。

24 シャルル=フランソワ・ドービニー 「パリ、マリー橋」
こちらはパリの橋と川、川岸の光景を描いたグワッシュの小品です。油彩よりもかなり精密に描かれていて、建物の窓や人物まで細かく描写されています。グワッシュ独特の軽やかな色彩で柔らかい印象も受けますが、明暗はしっかりしていて光の強さを感じさせました。

22 シャルル=フランソワ・ドービニー 「リヨン郊外ウランの川岸の眺め」
こちらは「く」の字にカーブしている川岸で沢山の女性たちが洗濯している様子を描いた作品です。近くでは火を焚いていたり荷車が置いてあったりして、ちょっと小高いところでは洗濯物を干して休んでいる婦人たちの姿もあります。青空と木々の緑が爽やかで、当時の様子をそのまま描いたんじゃないかな。のんびりと牧歌的な光景となっていました。


<第2章:名声の確立・水辺の画家(1850~1860)>
続いては1850年代頃のコーナーです。この時期はサロンを中心に精力的に発表し、1852年以降はサロンでの受賞や国家買上げを重ねていき1859年までには写実主義の風景画家として広く認知されていきました。サロン出品作は本物の自然が目の前に現れるような高い表現力の作品だったそうです。一方、有名になるに連れて保守的な批評家からは「印象を荒描きしたに過ぎない。未完成に過ぎない」と非難されたようです(印象派への非難と同じような感じですね) しかしブルジョワの嗜好に合致し、ますます需要は高まっていきました。
また、この頃から水辺を描いた作品が増えていったようで、1857年にはアトリエ船ボタン号(ボッタン号)を入手し、以降は旅をしながら数多くの河川の風景を描いています。ここでは水辺の画家として名声を確立した頃の作品が並んでいました。

27 シャルル=フランソワ・ドービニー 「ブゾンの小島」
こちらは縦長の画面で、川の真ん中から両岸が見える構図となっています。手前は影になっていて奥は背の高いきが光に当たっています。水面にはその光景や青空も反射していて、清々しく明暗の強さを感じました。まさにその場にいるような作品です。

31 シャルル=フランソワ・ドービニー 「兎のいる荒れ地」
こちらは荒れ地を描いた作品です。全体的にオレンジ色に染まっていて夕暮れ時かな? 手前には2羽の兎がちょこんと描かれていて、奥にも1羽の兎っぽい影があります。荒涼とした雰囲気の中にほっこりさせる兎がいて、どこか郷愁を誘われました。


<第3章:印象派の先駆者(1860~1878)>
続いては特に見どころとなっている章です。ドービニーはアトリエ船のボタン号で各地を周って多くの習作を描きました。特に2代目ボタン号はより大きな船で、英仏海峡まで出かけるほどだったようです。この時期は夏はヴィレールヴィルで静養し、冬はオーヴェールやパリでサロンに備えて作品を描くスタイルの生活をしていたようです。ボタン号によって屋外で活動し、各地でモネやピサロなどに出会って影響を与えたようで、彼らは自然に近いところで出来るだけみずみずしく描くという姿勢を学びました。特にモネは船をアトリエとして使うという啓示を受けています(モネも船上で描いた作品を多く残しています) 一方、ドービニーもモネ達から筆触分割の手法を知り、それを自作に取り入れていきました。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

37 シャルル=フランソワ・ドービニー 「ボッタン号」 ★こちらで観られます
こちらは2代目のボタン号を描いた作品で、マストがあって三角になった帆をかけています。その下では絵を描いている画家自身と思われる姿もあって、自画像かな? 手前にはボートを漕いでいる人もいますが、全体的に静かな光景です。一方、表現方法は結構大胆な筆致で、空や水面の描き方は印象派に近いものを感じます。川辺の風情がありこの展示でも特に気に入った作品でした。

この辺にはボタン号の模型もありました。スケールは分かりませんが、扉の大きさ等から察するにそれほど大きい船ではなさそうです。それでも絵を描くには十分な広さに思えました。また、版画集「船の旅」というボタン号で各地に行って描いた版画集もありました。(★こちらで観られます

66 シャルル=フランソワ・ドービニー 「オワーズ河畔、夜明け」
こちらはピンクがかった夜明けの川辺の風景で、川岸には4頭の牛が川に入って行き、その後ろに牛飼いらしき姿もあります。朝の清々しい光景で、水面に風景が反射しているのも美しい作品でした。
この辺はオワーズ河畔を描いた作品がいくつか並んでいました。この絵とよく似た構図でそっくりな題材のもあって、気に入っていたのかも。

64 シャルル=フランソワ・ドービニー 「オワーズ川、日没」
手前に川、奥に木々が並ぶ川岸の光景で、空が赤く染まり日が沈む様子となっています。河畔には人らしき影もいくつかあるかな。結構粗い筆致となっていて、特に空の表現は印象派のような感じでした。叙情性が豊かな作品です。

69 シャルル=フランソワ・ドービニー 「森の中の小川」
こちらは森の中の小川を描いた作品で、びっしりと画面中に木と葉っぱが描かれています。大きな筆跡で点描のような表現となっていてこれまで以上に大胆な作風になっています。ある意味、抽象画に近づいているような感じにも思えますが 離れて観ると水面と実景の境目まで分かるのが面白いです。ドービニーのイメージとはちょっと違った作風で驚きました。

この辺はオーヴェールあたりで描いた作品が多く並んでいました。オーヴェールには家を建てて、印象派の女性画家ベルト・モリゾと共に食事をしたり、セザンヌと交流したり、多くの弟子や友人と過ごしたようです。ゴッホもドービニーにあこがれてこの地に住みましたが、ドービニーの亡くなった後だったようです(他にこの地はヴラマンクとかも住んでたし、芸術家にゆかりが深い土地です)

1 シャルル・シャプラン 「ドービニーの肖像」
こちらはドービニーの肖像で、パレットを持って右手をポッケに突っ込んでこちらを観ている姿となっています。口髭・顎髭を生やして、髪の毛はちょっと寂しいかなw 穏やかな顔でイメージ通りと言った風貌でした。

この辺にはメゾン=アトリエ・ドービニーという宿泊可能なアトリエ兼住居の写真もありました。部屋の中にはコローやドーミエが装飾したものもあるようです。
続いてはノルマンディー地方のコーナーです。ヴィレールヴィルを描いた作品が多く、漁夫や漁師がいるような風景を好んで描いたようです。

83 シャルル=フランソワ・ドービニー 「ポルトジョアのセーヌ川」
こちらはなだらかな坂になっている川岸の風景を描いた作品で、左には家々が並んでいます。これまでの作品の中でもかなり厚塗りとなっていて、筆跡がそのまま残っているなどドービニーとは思えないような筆致です。たまにこういう別の手法の作品もあって今回の展示はイメージが変わりそうな驚きがありました。

92 シャルル=フランソワ・ドービニー 「ブドウの収穫」 ★こちらで観られます
こちらはぶどう畑に沢山の男女が集まって収穫している様子を描いた作品です。腰をかがめている人や立っている人、後ろの方には樽に向かって作業している人の姿もあります。空を広く取って、遠くの山も霞むなど広々とした感じかな。細部は描かれていませんが、写実性が高くも風情を感じさせる1枚でした。

1875年になると友人のミレーやコローを亡くし、自身は痛風に苦しんだようです。晩年は体調不良と治療を繰り返しながら旅と制作を続け、1877年にセーヌのルーアンまでボタン号で旅しましたが、それが最後の航海となり1878年に亡くなりました…。


<第4章:版画の仕事>
最後は版画と家族に関するコーナーです。ドービニーは初期から晩年まで版画(特にエッチング)を手がけていて、これは1840年代に生計を立てるために挿絵を制作して技術を高めたことが背景にあるようです。サロン出品作の複製を制作してプロモーションの役割を担ったこともあるそうですが、成功してからは版画の制作ペースはゆるくなったようです。しかし晩年まで制作を続け、ゴッホは版画を通じてドービニーを受容したのだとか。ここは少数ですが版画作品などが並んでいました。

106b シャルル=フランソワ・ドービニー 「にわか雨」
こちらは沢山の羊たちが川岸の坂を下って川に向かう様子の版画で、後ろには羊飼いと犬の姿もあります。画面右の方には黒い雲から降ってくる雨が描かれていて、にわか雨で急いでいるようにも思えます。結構細かい描写となっていますが、情感も感じられる主題でした。

一番最後に子供の作品がありました。ドービニーには4人の子がいて、次男は画商、長女は静物画家、長男は父に近く海景や風景を描く画家だったようです。ボタン号の見習い水夫として父と共に旅したようで、長男の作品も並んでいました。

102 カール・ドービニー 「オワーズ河畔の釣り人」
川で釣りをする人を描いた作品で、広々と川と空が描かれ開放感があります。かなり父親と似た画風で構図も似ているように思えました。息子もこんな良い絵を描いていたのは初めて知りました。


ということで、これまで本格的に紹介されなかったのが不思議なくらいですが、この展示でドービニーを詳しく知ることができました。貴重な機会なので図録も購入したし満足です。 印象派のルーツの1つでもあり前後の時代が繋がるので、西洋絵画が好きな方はこの展示を観ると流れが分かって一層楽しいと思います。

おまけ:
記念撮影スポット
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