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クリムト展 ウィーンと日本 1900 (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回に引き続き上野の東京都美術館の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」についてです。前半は影響を受けた様々な様式を観てきましたが、後編は特に見どころとなっている5章から最後までご紹介して参ります。


 → 前編はこちら


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【展覧名】
 クリムト展 ウィーンと日本 1900

【公式サイト】
 https://klimt2019.jp/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_klimt.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年4月23日(火)~7月10日(水)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半も前半同様に混んでいました。後編も各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。

 参考記事:同時期に開催の展示
  クリムト展 ウィーンと日本 1900 感想前編(東京都美術館)
  クリムト展 ウィーンと日本 1900 感想後編(東京都美術館)
  ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道 感想前編(国立新美術館)
  ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道 感想後編(国立新美術館)
  世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて 感想前編(目黒区美術館)
  世紀末ウィーンのグラフィック-デザインそして生活の刷新にむけて 感想後編(目黒区美術館)

 参考記事:過去の展示
  ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)
  クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 感想前編(宇都宮美術館)
  クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 感想後編(宇都宮美術館)


<Chapter 5. ウィーン分離派>
5章は最も見どころとなっている章です。クリムトたちはウィーン造形芸術家協会に属していましたが、保守的な体制への不満から他の進歩的な芸術家と協会を脱退し、1897年にウィーン分離派を立ち上げました。分離派は新設された分離派会館で展覧会を開いて各国の芸術を広く紹介し、ウィーン美術界の国際化を図り、クリムト自身も慣習や世論に囚われない新たな表現を模索していきます。そして1902年の第14回ウィーン分離派展ではベートーヴェンをテーマに平面・立体・建築・装飾などの芸術家の作品で構成され、クリムトは「ベートーヴェン・フリーズ」という壁画を制作しました。これは金箔など様々な素材を用いた壮大なもので、総合芸術を目指した分離派の理念の体現と言える作品だったようです。ここにはそうした分離派としての活動を示す品などが並んでいました。

63 グスタフ・クリムト 「ユディト I」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターとなっている油彩で初めて金箔を用いた作品です。額縁はクリムトがデザインし弟のゲオルグ・クリムトが制作していて、ユディト ホロフェルネスと書いてあります。これは旧約聖書(外典)に出てくるユディトを題材にしたもので、ユディトはユダヤを裏切ったふりをして敵将ホロフェルネスの元に参じて酒を飲ませ、泥酔したところを寝首をかいて首を持ち帰り、混乱したアッシリア軍を打ち破るという話です。ここでは恍惚の表情を浮かべた黒髪の女性で、手には敵将ホロフェルネスの首を持っています。裸体に金箔の首飾りをつけて異国風で絢爛かつ妖しいファム・ファタール的な雰囲気です。 赤い唇と白い肌が目を引き、体は淡く繊細な色使いとなっていますが、それ以外の部分は結構大胆な紋様(特に頭の周り)となっているのも面白く思えました。これはかなりの傑作なので、長い間記憶に残りそうな作品です。

62 グスタフ・クリムト 「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」 ★こちらで観られます
こちらは水の中?で鏡を持って真正面を向いて立つ裸婦が描かれています。頭には花がいくつか飾りのように付いているのかな? 足元には蛇が巻き付いていて、蛇はだまし絵のように下の枠のような部分まではみ出しています。淡くぼんやりした体と 背景のシダのように渦巻く紋様が神秘的に思えます。解説によると、鏡と裸婦は真実のシンボルとのことで、足元に絡みつく蛇は罪を暗示しているのだとか。また、上部の文字は詩人シラーの言葉で、真の芸術を目指し大衆に迎合しない芸術家の態度を象徴的に示しているとのことでした。かろうじてシラー(SCHILLER)だけは読めたw

そしてその後は「ベートーヴェン・フリーズ」(★こちらで観られます)の再現がありました。コの字の3面から成る全長34mにも及ぶ壁画で、ベートーヴェンの交響曲第9番をテーマにしています。再現と言っても実寸大な上に素材も本物と思うようなものを使っているので、真に迫った出来です。各場面はそれぞれ、
 左面:幸福への憧れを抱いて苦悩する人々・黄金の騎士
 中央:敵対する力。ティフォンとその娘たち。ゴルゴン三姉妹。
 右側:幸福への憧れ。琴を持つ詩の女神、歓喜の歌、接吻する男女
といった感じです。金や真珠を使っていて、ヒヒのようなティフォンの目や太った女の装飾品などが特に輝いて見えます。最後は金の紋様が流れるようで、まさに圧巻の光景となっていました。解説機を使うと第9を聞きながら観られるので、雰囲気が出て非常に感動しました。敵対勢力の妖しさなんかもクリムトの魅力ですね。

この近くには分離派会館の模型や、マックス・クリンガーの「ベートーヴェン」の彫像もありました。これはオリジナルから寸法を変えて縮小したヴァリエーションですが、第14回分離派展ではこの像を中心にベートーヴェンを礼賛したようです。

少し先には「第1回ウィーン分離派展ポスター(検閲後)」等もありました。ウィーン分離派を意味する「SECESION」が目を引くポスターがいくつかあります。ちなみに六本木の国立新美術館のウィーン展では第1回のポスターの検閲前と検閲後を比較して観ることもできました。(後日改めてご紹介予定)

84 グスタフ・クリムト 「鬼火」
こちらは右側に5人くらいの女性たちの横顔と裸体が描かれ、左側は茶色い背景のような空間がある大胆な構図となっています。ところどころに白い点があって、これがタイトルの鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)を表しているようです。女性たちは鬼火の擬人化らしく、妖しく誘惑するような表情をしています。ぼんやりとして非常に象徴的な作品でした。


<Chapter 6. 風景画>
続いては風景画のコーナーです。クリムトは30代半ばから風景画を描くようになり、エミーリエ・フレーゲ(弟エルンストの妻の妹で、クリムトが最も信頼した女性)らとザルツカンマーグートの湖水地方に避暑に訪れたのがそのきっかけだったようです。初期は印象派的な画風のようですが、装飾的に仕上げる様式はクリムト独自のスタイルと言えるようです。一方で都市の風景を描くことは無かったそうで、ここには郊外の風景画などが並んでいました。

92 グスタフ・クリムト 「アッター湖畔のカンマー城III」 ★こちらで観られます
こちらは水辺越しに見える黄色い壁の建物と、その手前の木々を描いた作品です。水面は印象派っぽい表現にも思えますが、木はモザイク紋様のような描き方になっているのが装飾的に見えるかな。正方形の画面となっているのも特徴的で、クローズアップしたような構図になっているようです。これは望遠鏡を用いて描いている為のようで、確かに建物全景の様子ではなくトリミングしたような感じでした。

93 グスタフ・クリムト 「丘の見える庭の風景」 ★こちらで観られます
こちらも正方形の風景画で、画面一面に様式化されたような花がびっしりと並んでいます。1つ1つ輪郭で縁取っているので結構な存在感で、荒々しい描法と共に迫りくる感じすら受けますw この輪郭を描いてから彩色するのはゴッホからの影響と考えられるそうで、50代頃に描いたようです。ちょっと狂気じみたものと抽象画のような構成に驚きました。


<Chapter 7. 肖像画>
続いては肖像画のコーナーです。クリムトは「自分には関心が無い。それよりも他人、特に女性に関心がある」という言葉を残していたようです(…納得感が凄いw) その為、男性の肖像は少なく、自画像は描かれたことがないようです。この章は点数少なめで、油彩2点、デッサン3点と同時代の画家3点といった感じでした。

103 グスタフ・クリムト 「オイゲニア・プリマフェージの肖像」 ★こちらで観られます
こちらはパトロンだった銀行家の妻の肖像で、真正面を向いて座り 服はパッチワークのように緑や赤、オレンジなどの紋様で表されています。背景の明るい黄色と共に色使いが強く感じられ、筆致も大胆です。一方で顔は写実的で、意志の強い聡明な女性に見えました。右上の方に東洋の鳳凰らしきものが描かれた壺?があるのも面白いかな。金は使っていませんが、華やかで輝くような印象を受ける作品です。


<Chapter 8. 生命の円環>
最後はクリムトの芸術を貫くテーマの1つである「生命の円環」に関する章です。クリムトが人間の生死に向き合うようになったのは父と弟の死と、1902年に3人目の息子オットーを亡くしたことだったようで、ここでは受胎・誕生・成熟・死などをテーマにした作品が並んでいました。

105 グスタフ・クリムト 「《医学》のための習作」
こちらは大スキャンダルとなった作品の1つで、マッチュと共にウィーン大学講堂の天井画の依頼を受けて「哲学」「医学」「法学」を制作したうちの「医学」の習作です。ドクロのような顔や病める人が浮かんでいたりして、手を広げて叫ぶような裸婦などが目を引きます。全体的に不気味で、医学というよりは真っ先に死や亡霊を連想するかな。隣には同作品の写真があって習作よりも一層禍々しい雰囲気ですw 解説によると、学問について悲観的な側面を捉えた表現や、男女の性愛を描いたことで激しい批判を受けたそうで、依頼を辞退して作品を引き取ったそうです。このエピソードはクリムト展で何度か目にしていますが、現代でもこれは中々理解されづらいのでは…と思えました。

近くには「哲学」の写真なんかもありました。これは妖精か幽霊の群れみたいな神秘的な感じです。 法学は昔の写真のみ残っていて、いずれも第二次世界大戦で焼失したようです。

119 グスタフ・クリムト 「女の三世代」 ★こちらで観られます
こちらは子供を抱いて頬を寄せる裸婦と、その後ろでうなだれて立つ痩せ細った裸婦(老婆)が描かれた作品です。それぞれ人生の幼年・青年・老年を表しているようで、まさに生命の円環を思わせます。背景は抽象的で銀の水玉の紋様など並んで静かな印象です。解説によると、この銀が点状に散らされているのは日本の工芸品からの影響ではないかと考えられているようです。ポーズや装飾的な紋様などクリムト独自の作風が表れていて、これも見どころと言えそうです。

その後は素描が並んでいました。抱き合って寝ている恋人同士や妊婦を描いた作品なんかもあります。

120 グスタフ・クリムト 「家族」
こちらは毛布のようなものに包まって寝ている三人の母子を描いた作品です。青白い顔をしていて顔だけが浮かんでいるように見えます。ちょっと生気が無いので生きているのか死んでいるのかも分かりません。色の重さがそう感じさせるのかな…。
この近くには生後81日で亡くなった自分の子供の肖像などもあって、生だけでなく死にも真摯に向き合っている様子が伺えました。


ということで、期待以上の内容で大満足したので図録も買ってきました。特に5章の内容が素晴らしく、ベートーヴェン・フリーズの再現には驚きました。この展示と同時期に国立新美術館、目黒区美術館でウィーン分離派関連の展示をやっていますが、この展示がぶっちぎりで見応えあります。構成も分かりやすく長く語り継がれる展示になりそうなので、美術初心者の方にもオススメできます。今季最も注目の展示です。

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■2011/9/29
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■2009/10/28
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