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キスリング展 エコール・ド・パリの夢 【東京都庭園美術館】

前回ご紹介した松岡美術館の展示を観た後、東京都庭園美術館に移動して「キスリング展 エコール・ド・パリの夢」を観てきました。

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【展覧名】
 キスリング展 エコール・ド・パリの夢

【公式サイト】
 https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/190420-0707_kisling.html

【会場】東京都庭園美術館
【最寄】白金台駅・目黒駅

【会期】2019年4月20日(土)~7月7日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00s分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多く、会場が狭くなっている所では若干の混雑感もありましたが概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は「エコール・ド・パリ」と呼ばれるフランス以外の国の画家が活躍していた頃を代表する画家であるモイーズ・キスリングの個展となっています。これだけまとまった展示は日本で12年ぶりとのことなので、恐らく府中市美術館で観た展示以来だと思います。若干、構成が分かりづらいものの、個性的で華やかな作品が60点ほど並んでいましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<序 キスリングとアール・デコの時代>
まずはこの美術館特有のアールデコの部屋の中でキスリングの名品を観るというコーナーです。エコール・ド・パリとアール・デコの時代は重なる部分があり、キスリングは影響を受けたわけではなさそうですが、1920~30年代頃の取り合わせとなっていました。

58 モイーズ・キスリング 「花」
こちらは大型の作品で、花瓶にぎっしりと色とりどりの沢山の花が活けられている様子が描かれています。色彩が強く、花の形に沿って厚塗りしていて暗い背景に対して明るすぎじゃないか?というくらいの存在感です。暗い中から花が浮き上がるようにも感じられ、一際目を引く作品です。

69 モイーズ・キスリング 「アトリエの画家とモデル」
こちらはキスリングのアトリエの中を描いた作品で、右手前でイーゼルの前で絵筆を取るキスリング、左奥の窓辺にポーズを取る裸婦が描かれています。遠近感がちょっと奇妙でやけに裸婦が小さく見えるかな。部屋中にある絵や家具などは幾何学的・直線的でキュビスムに通じるものを感じました。色が淡く水彩のような軽やかさも特徴的な作品です。

57 モイーズ・キスリング 「花」
こちらは花瓶に入った紫の花や黄色い花(ミモザ?)などを描いた作品です。ミモザの部分は渦巻くように絵の具が厚塗りされていて、実際に花の部分が盛り上がって見えます。それが離れて観ると立体感があって面白く感じました。キスリングの作品は実物を観ないと分からない要素がありますね。

17 モイーズ・キスリング 「赤い長椅子に横たわる裸婦」 ★こちらで観られます
こちらは真っ赤な部屋を背景に、裸婦がベッドで横たわり頭の後ろに腕を回している様子が描かれた作品です。手前には皿に乗った洋梨のような果実もあって、全体的にセザンヌ風の作風のように見えます。解説によると、マネの「オランピア」やティツィアーノの「ウルビーノのビーナス」からも影響を受けているようです。濃密な色彩ですが、裸婦の体が一際目を引く色の配置も面白く感じられました。

13 モイーズ・キスリング 「サン=トロペでの昼寝(キスリングとルネ)」 ★こちらで観られます
こちらは南仏の庭で後の奥さんと過ごす画家自身が描かれた作品です。午睡のテーマや保養地の情景はルノワールやボナール、マティスらが好んで描いた画題で、彼らも南仏に住んでいたこともあります。キュビスム的な画風で色とりどりに描かれていて、対比的な色彩の使い方はフォーヴィスムからの影響のようでした。明るく穏やかな雰囲気で、夕日が郷愁を誘う光景です。

55 モイーズ・キスリング 「ベル・ガズー(コレット・ド・ジュヴネル)」 ★こちらで観られます
こちらは後に映画界やジャーナリズムで活躍した女性の20歳頃の姿を描いた肖像です。背景はアンリ・ルソーのような南国風というかちょっと不思議な葉っぱで、女性のドレスは黄色・緑・赤のチェック柄(伊勢丹の包みたいなw)となっていて背景に映えます 手には純粋・純血を表す百合を持っていて清廉な感じかな。若干つまらなそうな顔をしているのが気になりますが、大型ですらりとした等身が優美でした。

続いて2階の展示です。

68 モイーズ・キスリング 「赤い長椅子の裸婦」
こちら今回の展示でも特に見どころとなる作品で、ピンクっぽい長椅子に横たわり、右腕を背中のほうに回している裸婦が描かれています。こちらを見る目は艶めかしくミステリアスで、白く透けるような肌も滑らかで色気を感じます。よく観ると腰の辺りは異様に太くなっているのですが、これはドミニク・アングルからの影響らしく、全体的に引き伸ばしたような誇張された姿となっています。それでも写実性は高めで、非常に魅力的な裸婦像となっていました。

<第1部 1910-1940:キスリング、エコール・ド・パリの主役>
<第1部 セザンヌへの傾倒とキュビスムの影響>
この章は2つの節に分かれているようですが、境目がよく分かりませんでしたので合わせてご紹介。キスリングは1910年にパリに着き、19歳の頃にモディリアーニやピカソ、ブラックらと親交を結び、その2年後にはスーティンとも出会っています。初期はセザンヌやキュビスムに傾倒していたようで、特にセザンヌっぽさは端々に観ることができます。ここにはそうした初期の頃から次第に自分の作風を見出していく様子が伺える作品が並んでいました。

02 モイーズ・キスリング 「水差しと果物のある静物」
こちらは林檎や洋梨といった果物と水差しが並ぶ静物で、モチーフから色使いまでセザンヌそのものと言った感じですw 手前のナプキンと林檎などもその研究の様子が観られ、相当に傾倒していたのが伺えました。

04 モイーズ・キスリング 「ルシヨンの風景(セレのジャン・サリ橋)」
こちらは縦長の画面に家々が立ち並ぶS字の坂道を描いた作品です。幾何学的なリズムがあって こちらも色彩や構成はセザンヌの風景画を思わせます。やや重めの色調で、ゴーギャンからの影響もあるようです。まだこの頃はキスリングの個性は感じられませんが、キスリングの解釈も入ってきているように思えました。

11 モイーズ・キスリング 「レオポルド・ズボロフスキーの肖像」
こちらは親友のモディリアーニの画商だった人物の肖像で、椅子に座って腕組みして足も組んでいる様子が描かれています。何だか痩せていて、足とかひょろっとした感じに見えるかな。アトリエに対しても小さめなので、ぽつんとした印象を受けました。さっきの裸婦とえらく画風が違って見える作品です。

この先の殿下居間は写真とパネルが並んでいました。セレ、サン=トロペ、サナリー=シュル・メール、カーニュ=シュル・メールなどにゆかりがあるようです。また、キスリングの仲間に関しても紹介されていて、モンマルトルの洗濯船やモンパルナスのラ・リューシュの写真もありました。日本の藤田嗣治とも深い親交があったことなども書かれていました。
 参考記事:
  【番外編 フランス旅行】 パリ モンマルトル界隈
  【清春芸術村】の写真 前編 (山梨 北杜編)

29 モイーズ・キスリング 「北イタリア、オルタ風景」
こちらは湖と山を望む風景で、手前には家々が連なる坂道が描かれています。建物が織りなす幾何学的な構成と 背景へと目を誘導する構図が面白く、色の取り合わせもリズムが感じられます。割と軽めの色彩で全体的に調和した風景画となっていました。

この少し前には松岡美術館の「ブルターニュの女」もありました。

54 モイーズ・キスリング 「座る若い裸婦」
こちらは裸婦の上半身を描いた作品で、肉感的な体つきとフランス人形のような顔をしています。1930年代の暗い時代を思わせるような憂いを帯びた表情で、陰影もしっかりつけられています。ピカソの新古典主義の時代ほどではないですが、古典に立ち戻っているようにも思えるかな。解説によると、この作品でもセザンヌに倣って手を粗描きのまま未完成にして、顔の印象を際立たせているのだとか。それでもだいぶキスリングの個性が出てきたように感じられました。

この辺にも松岡美術館の「シルヴィー嬢」がありました。ご近所の松岡美術館が大活躍ですw
 参考記事:松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に (松岡美術館)

47 モイーズ・キスリング 「緑色のスカートの女性」
こちらは白いブラウスと緑のスカートの女性が地面に座っている様子が描かれています。ツヤのある黒い髪と赤い首飾りがアクセントとなっていて、色が強く感じられるかな。微笑んで親しげな様子で、異国情緒ある雰囲気です。解説によるとオランダ旅行に行った際に描いたと思われるのだとか。この頃になるとキスリング独自のスタイルとなっているように思えました。

51 モイーズ・キスリング 「ジプシーの女」
こちらは褐色の肌に黒髪のジプシーの女性の上半身を描いた作品で、他に比べてやや写実要素が高めの画風となっているように思えます。強い目をしていて明暗も強いこともあって神秘的な印象を受ける一方、やや肩から下が異様に広いようにも思えました。

73 モイーズ・キスリング 「花」
こちらは花瓶に様々な花が入っている様子を描いた作品です。花が正面を向いているようなのが多く、アンドレ・ボーシャン等の素朴派の作品を彷彿とするかな。デフォルメ具合が面白く、筆跡が残っているのも大胆に思える作品でした。

71 モイーズ・キスリング 「長椅子の裸婦」
こちらは緑の長椅子に横たわり、左手を頭の後ろにまわしている裸婦が描かれています。非常に滑らかな色彩と緩やかな曲線のハーモニーが美しく、大型の画面と相まってここまで観た中でも指折りの傑作です。解説によるとモンパルナスの画家たちがこぞってモデルにしたキキに似ているとのことでした。

この隣にはモンパルナスのキキを描いた作品もありました。2人はカフェ「ラ・ロトンド」で出会ったのだとか。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 パリ市街の写真

62 モイーズ・キスリング 「トゥーロンの港」
こちらは青空と海を大きく取った港の光景で、海には黒い煙を吐く船が無数に停泊しています。キスリングには珍しい画題で、サナリー=シュル・メールに家を建てた年に描いたそうです。青が多く、同じ方向に流れる煙で風の流れも感じられ爽やかな光景となっていました。

この隣にはユダヤ系であるためにナチスに追われ、死刑宣告をされた頃に描いた「マルセイユの港」という作品もありました。アメリカに亡命する前に描いたようですが、そうとは思えないくらいの爽やかな作品です。


<第2部 1941-1946:アメリカ亡命時代>
続いてはアメリカに亡命していた戦中・戦後の頃のコーナーです。先述の通りユダヤ系で反ナチスの活動をしていたこともあり、死刑宣告をされアメリカに亡命した頃の作品が数点並んでいました。

78 モイーズ・キスリング 「ブルターニュの女」
こちらは黒い服と白いレースを頭に被った女性の肖像で、これはブルターニュの伝統的な衣装のようです。やや横向きの姿となっていて、目は憂鬱そうでこの時代の心情を表しているようにも思えます。水彩かと思うような軽やかな色彩も特徴的でした。

この近くにも松岡美術館の「グレシー城の庭園」がありました。あれはアメリカ亡命時代の作品だったんですね…


<第3部 1946-1953:フランスへの帰還と南仏時代>
最後は亡命からフランスへ帰還した晩年のコーナーです。晩年はサナリーに住みつつパリにアトリエを持っていたようで、パリで行った展覧会では戦前の輝きを取り戻し称賛されたようです。

92 モイーズ・キスリング 「果物のある静物」
こちらはテーブルの上に置かれた林檎・レモン・バナナ・パイナップルなど様々な果物の静物です。テーブルの手前にそれが反射して写っていてツヤツヤした質感を感じます。果物もツヤがあって瑞々しいかな。全体的にキュビスム的な構図となっているのも回帰のようで面白く思えました。


ということで、キスリングの傑作の数々を観ることができました。特に女性像は流石で、それだけでも観た甲斐がありました。人気の割に貴重な機会なので図録も買って満足です。キスリングはエコール・ド・パリを語る上で欠かせない存在ですので、洋画好きの方にオススメの展示です。

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