関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

素描礼讃 ―岸田劉生と木村荘八― 【うらわ美術館】

GW中に浦和にある うらわ美術館で「素描礼讃 ―岸田劉生と木村荘八―」を観てきました。

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【展覧名】
 素描礼讃 ―岸田劉生と木村荘八―

【公式サイト】
 https://www.city.saitama.jp/urawa-art-museum/exhibition/whatson/exhibition/p063254.html

【会場】うらわ美術館
【最寄】浦和駅

【会期】2019年4月20日(土)~6月23日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は大正期を代表する画家である岸田劉生と、その仲間で昭和期に挿絵で独自の地位を築いた木村荘八の素描やスケッチが並ぶ内容となっています。2人は10代の頃に白馬会の画塾で出会い、早くからポスト印象派に関心を向けて情熱的な色彩の油彩画を描きましたが、やがて素描の重要性への認識を深めていったようです。展覧会は各人ごとに章分けされていて、笠間日動美術館、うらわ美術館、小杉放菴記念日光美術館が所蔵する200点もの作品が展示されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1 岸田と木村 銀座築地スケッチ&エッセイ>
まずは2人の名前を冠した章となっていますが、大半は木村荘八の銀座界隈を描いた小さめのスケッチとなっていました。

29 岸田劉生 「木村荘八之像」
こちらはメガネを掛けた木村荘八の肖像です。コンテで丹念に描かれ、微妙な陰影でリアルな存在感があります。1917/7/14の日付もあり、しばしば描いていた木村荘八の像のうちの1枚のようでした。

この辺では岸田劉生が雑誌『みずゑ』に寄せた素描に関する文書を紹介していました。それによると、「素描は骨子で色は素描に比べればむしろ客の感がある」とのことで、素描の重要さを説いています。一方の木村荘八も雑誌『アトリエ』で「挿絵、すなわち素描である」と述べている文があり、同様に素描を重要視していたことが伺えました。

161 木村荘八 「銀座一丁目日就社『東京繁昌記』「築地-銀座」」
こちらは日就社(今の読売新聞。1917年に改称)の建物を描いた作品で、1912年にこの建物の3階で岸田劉生らが主催する「フュウザン会」の旗揚げが行われました。路の角に入口があるモダンな造りの洋館で、結構な早描きでフリーハンドで描いている感じがします。注釈があり、中の階段を3階へ登ったという思い出が記載されているようでした。彼らにとっては特別な場所なんでしょうね。

164 木村荘八 「汽車開通式の図『東京繁昌記』「築地-銀座」」
こちらは旧新橋駅(今の旧新橋停車場 鉄道歴史展示室がある場所)の前で鉄道の開通式を行っている様子を描いた素描です。人は丸と線で単純化されていて、即興的な感じに見えますが、建物は今と変わらない外観となっています。ツリー状の祝いのための飾りがあり、電飾イルミネーションが灯るなど当時の賑わいが伝わってくるようでした。

この辺の素描を見ると当時の暮らしの様子がよく分かる作品が多かったように思います。関東大震災の後の資生堂や歌舞伎座、松屋、築地の「延遼館」などの姿も描かれていました。
 参考記事:浜離宮と新橋停車場~東京150年 江戸から明治へ~ (旧新橋停車場 鉄道歴史展示室)

131 木村荘八 「明治初年図 銀座及周辺『銀座界隈』」
こちらは銀座辺りの地図を描いたもので、今の浜離宮の辺りには外国人居留地や海軍省などが置かれているのが分かります。他にも年代ごとの地図がいくつか並んでいて、銀座・築地あたりの変遷の様子を比較しながら観ることができました。この辺は歴史的な意味でも貴重な作品かも。


<2 岸田劉生 素描・単色画を中心に>
続いては岸田劉生の素描のコーナーです。意外と油彩画も多く、久々に日本画もまとめて観ることができました。
 参考記事:没後80年 岸田劉生 -肖像画をこえて (損保ジャパン東郷青児美術館)

8 岸田劉生 「自画像」
こちらは笠間日動美術館にある油彩の自画像で、1913/10/26に描いて個展に出品したと考えられている作品です。こちらをじっと観るメガネに短髪の容貌で、ざらついた画面となっています。岸田劉生は「自分は寂しい微笑みを浮かべる」と述べていたそうで、この絵からもそうした雰囲気が出ているかな。同時に実直そうな感じも出ているように思えました。

12 岸田劉生 「第2回フュウザン会展会場装飾画」
こちらは半円状の油彩の装飾パネルで、中央にうずくまって顔を押さえる人と、うなだれている(祈っている?)男がいて、後ろには畑を耕す2人の人物の姿もあります。また、右には網を引いて漁をする人がいて背景は太陽が真っ赤に輝いています。何故か太陽の両脇に謎の渦があって、ムンクを彷彿とするような作風かな。恐らくアダムとイブの失楽園をテーマにしていると思いますが、大胆なタッチと構図となっていて目を引きました。

岸田劉生も銀座・築地界隈にした作品がいくつかありました。

66 岸田劉生 「夏の路(鵠沼海岸)」
こちらは油彩で岸田劉生が療養していた鵠沼の周辺を描いた作品です。濃い緑と濃い青空、そこに土の路が質感豊かにかかれていて、中央辺りに日傘の女性の姿があります。明暗が強く、夏の強い日差しを感じさせるような作品でした。

この辺には版画などもありました。

61 岸田劉生 「丸山君の像」
こちらは弟子の丸山行雄を描いた油彩の肖像で、手にミカンを持ち 青い服に赤い帽子を被っている姿となっています。写実的でデューラーに影響を受けていた時期の作品ではないかと思います。 人柄まで伝わってくるような岸田劉生の肖像画らしい作品でした。

その後は静物画等もありました。また、雑誌『白樺』が1918/7月号~1923/5月号あたりまでずらりと並んでいます。岸田劉生は白樺の表紙を描いたこともあったようで、麗子像らしきものもありました。
 参考記事:白樺派の世界展 (清春白樺美術館) 山梨 北杜編

213 岸田劉生 「水彩素描 麗子於松」
こちらは18枚のA3サイズくらいの大きさの麗子像(岸田劉生の娘の像)です。大体は右向きで、おかっぱ頭で着物を着ています。頭に椿の花を乗っけているのも多いかな。写実的な作品や、寒山拾得のようなちょっと妖しい雰囲気のものもあります。岸田劉生の作風の変化や、提唱していた「デロリの美」を試している様子が伺えました。それにしても麗子ちゃんは実際は可愛かったみたいなのに妖怪っぽい肖像が多くてちょっと気の毒ですw (後に画家になっています)

この先には童話の装丁などもありました。童話は素朴な絵柄となっていて親しみやすいです。素朴な絵柄で描いた麗子像なんかもありましたw

72 岸田劉生 「猫図」
こちらは白黒の猫が丸まっている様子を描いた作品です。目は鋭く、こちらをじっと伺っているように見えるかな。かなり毛並みを細かく描いていて中国風の画風となっています。解説によると、これは1926年の夏に描いたらしく、宋代の画家に倣って描いたと書いてあるそうで、微宗皇帝(皇帝でありながら画家としても北宋時代最高と言われる人物)の作と伝わる猫図を意識しているようです。緻密で透けるような毛並みが見事な作品でした。

この辺には南画のような作風の掛け軸もありました。

84 岸田劉生 「麗子十六歳之像」
こちらは岸田劉生の晩年の作(38歳で亡くなった)で、髪飾りを付けて雅な着物姿をしている娘の麗子を描いています。ここでは珍しく美人に描いていて、化粧をした顔を写実的に表しています。下塗りの線が見えるくらいの薄塗りで繊細に表現されていて、愛娘を素直に写生した作品となっていました。

74 岸田劉生 「寒山拾得図」
こちらは掛け軸で、墨で大胆に寒山と拾得の2人を描いています。巻物を持った寒山と 背を向けて箒を持つ拾得は妖怪のようにニタっと笑っているのがやや不気味ですw この近くには同じように寒山拾得を描いた作品がいくつかあり、宋元画に「卑近美」を発見したというエピソードなんかも紹介されていました。そしてデロリとか卑近美の実験に使われるのはいつも麗子像です…w


<3 木村荘八 挿絵原画を中心に>
最後は再び木村荘八のコーナーで、こちらは挿絵原画を中心にと言いつつ様々な作品が並んでいました。

27 木村荘八 「襟巻きをせる自画像」
こちらは黒い洋服に茶色い帽子の自画像で、メガネに口ひげという風貌で背景には緑の布のようなものがあります。こちらをじっと見る表情は厳しく凛々しい雰囲気があるかな。かなり写実的で岸田劉生の画風に似ているように思えました。

この近くにあった日比谷公園を描いた作品は後期印象派風の厚塗りの画風となっていました。

14 木村荘八 「祖母の顔」
こちらは祖母の顔を大きく描いた肖像で、背景は恐らく戸外かな。かなり粗い筆致が残っていて、厚塗りの画面です。近くで観ると表情が分かりづらいのですが、離れて観ると困ったような表情がよく分かりました。こちらも後期印象派の影響を受けた作品のようでした。

この後には再び風景のスケッチが並んでいました。街中を描いたものが多く、メモも添えてあります。

26 木村荘八 「裸婦」
こちらは腰の後ろに右手を当てて立つ裸婦を描いた作品です。ややうつむき加減で、線で明暗をつけて立体感がある写実的な画風となっています。やや太腿が太すぎる気もしますが、堂々たる姿となっていました。当時の木村荘八の指導者は岡田三郎助だったらしいので、何だか納得ですw

この辺は人物の顔の素描が並んでいました。その後は日本橋あたりのスケッチが並び、水辺や町並みを描いていて当時の風情が伝わってきます。簡素ながらも幾何学的なリズムのある作品が多いようでした。

更にその後もスケッチが並び、寄席や舞台、落語などを描いた作品がありました。

88 木村荘八 「歌妓支度」
こちらは大型の油彩で、鏡に向かって着付けする女性の後ろ姿と、その背後でしゃがんで腰の帯を直している女性が描かれています。立っているのは後の奥さんらしく、すらりとした立ち姿で顔は見えませんが美しく凛としています。着物の縞模様も流れるようで、優美な雰囲気がありました。

この辺は和装の人を描いた小さなスケッチがありました。その先には湯浴みやストリッパーを描いた素描などもあります。木村荘八は人物を描く時、裸体を描いて構図を決め、そこに衣装を身に着けていくという手順で描いていたようです。足などの体のパーツだけを描いた作品もあり、研究を重ねていた様子も伺えました。

最後は江戸時代の物語を描いた作品や、戯画・漫画のような挿絵がありました。素朴で親しみを感じさせます。


ということで、予想以上に盛りだくさんで見応えのある内容となっていました。あまり時系列的でなく説明も少ないので、この2人の画家についてある程度の事前知識は必要にも思えますが、この2人を少しでも知っている方には楽しめると思います。


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