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印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション (感想前編)【Bunkamura ザ・ミュージアム】

この前の休みに渋谷のbunkamuraで「Bunkamura30周年記念 印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」を観てきました。見どころが多かったので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC06949.jpg

【展覧名】
 Bunkamura30周年記念 印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション

【公式サイト】
 https://burrell.jp/
 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/

【会場】Bunkamura ザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅

【会期】2019/4/27(土)~6/30(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
思ったよりは空いていましたが、場所によっては人だかりが出来るくらいでした。

さて、この展示はイギリスのグラスゴー出身で海運王として財を成したウィリアム・バレルのコレクションを紹介する日本初の展示となっています。バレルコレクションは寄贈の条件として海外に持ち出さないことを挙げていたため、日本だけでなくイギリス国外にもほとんど公開されたことがないという貴重な機会となっています。フランス絵画を中心に写実主義から印象派に向かう時期のコレクションが多いようで、数千点のコレクションの中から70点が展示されていました。モチーフによって章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<序>
まずはバレルコレクションについてのコーナーで、ここは1点のみとなっています。

1 フィンセント・ファン・ゴッホ 「アレクサンダー・リードの肖像」 ★こちらで観られます
写真は表通りのショーウィンドウにあったコピーを写したものです。
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こちらはグラスゴー出身の画商の肖像で、ウィリアム・バレルはこの同郷のアレクサンダー・リードから多くの絵画を購入しコレクションを築いたようです。リードはゴッホの弟のテオの元で働いていたそうで、ゴッホ兄弟と暮らしていたこともあるようです。おでこの広い痩せた感じで、やや物憂げな視線でじっとこちらを観ています。細長い筆致の点描で、背景は流れのように線が並んでいるのが面白い表現です。オレンジの背景に緑のジャケットという補色関係になっていることもあり、明るく温かみが感じられました。


<第1章 身の回りの情景>
続いての1章は室内画と静物のコーナーです。ウィリアム・バレルは15歳の頃には美術品をオークションで買っていたそうで、19世紀フランスやオランダの落ち着いた雰囲気の作品を好んだそうです。印象派以降の前衛芸術には興味が無かったらしく、ここには穏やかな作風の品々が並んでいました。ビジネスで忙しいので絵に癒やしを求めたそうですが、15歳でその嗜好は中々渋い趣味ですね…

[1-1 室内の情景]
まずは室内の光景を描いた作品のコーナー。

6 フランソワ・ボンヴァン 「スピネットを弾く女性」 ★こちらで観られます
こちらは画家の2番目の妻(音楽家)がスピネットというオルガンのような楽器を弾いている後ろ姿を描いた作品です。スピネットには花瓶と つばの広い帽子を置いて、床には散った花が落ちています。女性の表情は見えそうで見えず、静かな色彩と共に 手元しか動きのない 音楽だけが聞こえるような光景となっています。動きが1点集中するようなモチーフはオランダのフェルメールに通じるものがあるように思えました。散った花も意味ありげに見えるけどどうかな…

8 テオデュール・リボー 「勉強熱心な使用人」
こちらは立って本を読む使用人の女性を描いた作品です。脇に箒を抱えて掃除中に読んでいるようで、二宮金次郎に通じるものがるかもw 背景は暗く静かな雰囲気ですが、女性には強い光があたって劇的な表現になっています。解説によると、これは17世紀スペインのリベーラやスルバランのテネブリズムの影響なのだとか。そのために使用人が崇高な感じに見えました。

11 ヤーコブ・マリス 「孔雀の羽を持つ少女」
こちらはソファに腰掛けて足を組み 孔雀の羽を持つ白い服の少女を描いた作品です。じっと羽を見ていて、あどけないようで女王のような風格があります。孔雀の羽根は虚栄や男を表すとのことで、可愛らしい少女が女性へと成長しているのを暗に示しているようでした。

この辺にはアンリ・ファンタン=ラトゥールの「入浴する女性」という幻想的な作品もありました。

2 カミーユ・コロー 「耳飾り」
こちらは耳飾りをつける上半身裸の女性を描いた作品で、うつむいて耳元に集中しているように見えます。ちょっと虚ろな表情にも見えますが、柔らかい光の表現で落ち着いた雰囲気がありました。陰影が特に見事です。


[1-2 静物]
続いては静物のコーナーです。イギリスはガーデニングが盛んなこともあって花の絵が特に好まれたのだとか。

26 エドゥアール・マネ 「シャンパングラスのバラ」 ★こちらで観られます
こちらはシャンパングラスに入っているピンクと黄色のバラを描いた作品です。色が淡く、花も葉っぱも明るい印象を受けるかな。ガラスには透明感があり、全体的に素早い筆跡が残っているので一層に軽やかに感じます。解説によると、これは病気で苦しんだ晩年の頃の作品で、重症化してからは扱いやすい小さめの作品を描いていたようです。そんな制作背景があるとは思えないほど生命感があり爽やかな作品でした。

この辺にはサミュエル・ジョン・ペプローというグラスゴーの画家の作品もありました。先程のリードと共に展覧会を開いたこともあるようです。厚塗りで大胆な筆致の画家のようでした。

27 アンリ・ファンタン=ラトゥール 「春の花」 ★こちらで観られます
こちらは白い花を咲かす水仙と 赤いビバーナムが花瓶に入っている様子をリアルに描いた作品です。色彩は静かで、写実的ながら明暗のバランスのせいか瞑想的なものを感じます。ラトゥールは元々好きな画家なのでこれは特に気に入りました。特に静物は流石ですね。

この隣にあったラトゥールの「桃」も浮かび上がるような写実性と神秘性がありました。

18 ルイ・ギュスターヴ・リカール 「静物-洋ナシと皿」
こちらは銀の皿に入った木の実?と脇に置かれた半分に斬られたリンゴ(洋ナシ?)を描いた作品です。何故かモチーフが中央ではなく端っこにあるのが面白くガランとした印象を受けます。また、右から光が辺り、静けさ漂う画面となっていました。

この近くにはクールベの静物やフランソワ・ボンヴァンの大型の静物などもありました。

22 ポール・セザンヌ 「倒れた果物かご」 ★こちらで観られます
こちらはカゴからリンゴや黄色い果実が転げ出たような構図の静物です。印象派を脱して独自の様式を模索していた頃の作品のようで、青いテーブルクロスを観ると四角く大きい筆を重ねて描いているのがよくわかります。まだ様式が完成されていないものの確実にセザンヌと分かる個性が芽生えている様子が伺えました。

23 ピエール・オーギュスト・ルノワール 「静物-コーヒーカップとミカン」
こちらはコーヒーカップと葉っぱのついた3つのミカンを描いた静物で、背景は柔らかい色彩で全体的に温かみが感じられます。青っぽいコーヒーカップとオレンジのミカンの色の取り合わせも面白く、視線が自然とミカンに向かいました。解説によると、これはルノワールの晩年の作品なのだとか。

この辺で映像コーナーがありました。先述の通りバレルコレクションはイギリス国外には出さないという方針ですが、今は改修工事をしているのでこの展示が開催できたようです。これが最初で最後の機会かも知れませんね。


<第2章 戸外に目を向けて>
続いては街と郊外をモチーフにしたコーナーです。長くなるので今日はそのうちの2-1だけご紹介しておきます。

[2-1 街中で]
まずは街中を描いた作品のコーナーです。

33 アーサー・メルヴィル 「グランヴィルの市場」
こちらは市場の様子を書いた作品で、手前には野菜の少ない台と痩せた女性、奥にはたっぷり野菜が置かれた台と太った女性が店番として描かれています。対比的に2人を描いているようで、明暗も奥のほうが明るく見えるかな。また、全体的に滲んだような表現となっていて路面が濡れて反射しているような効果を生んでいます。解説によると、この手法は亜鉛白を薄めて紙に染み込ませ、それが乾かないうちに描くので染みのようになるとのことです。この隣にはそれが遺憾なく発揮された作品もあり、この画家の個性となっていました。

30 オノレ・ドーミエ 「よき仕事仲間」
こちらは黒い衣の2人の弁護士が廊下ですれ違い 帽子を脱いで挨拶を交わす様子が描かれています。お互いに不敵な笑みを浮かべていて何か企んでいるような感じがします。背景には貧しそうな女性が両手を顔に当てて泣いていて、身分によって不孝な裁判結果が生まれることを示唆しているようです。ドーミエらしく法曹界を皮肉っているようですが、割とタイムリーな話かも。ゴーンとか上級国民の話とか、時代と場所は変われど…って感じですね。

29 エドガー・ドガ 「リハーサル」 ★こちらで観られます
写真は表通りのショーウィンドウにあったコピーを写したものです。
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こちらは今回の目玉作品で、ドガがバレエを描いた最初の作品の1つです。片脚を上げるアラベスクの練習や、それを見守る赤い服の指導者らしき男性、手前にはバレリーナの衣装を直している老婆など、あたかもその場にいるような自然な光景が広がっています。大胆に切り取られたような構図も驚きで、特に左上の螺旋階段には足だけ描かれている人物まであって臨場感があります。こうした構図は浮世絵からの影響かな。全体的に透明感があるのも爽やかで、動きのある軽やかな画面に華を添えているように思えました。


長くなってきたので2章の途中ですが今日はこの辺にしておこうと思います。初めて観る作品ばかりな上に良い作品が多いので見ごたえがあります。特にドガの「リハーサル」は前半の見どころとなっていました。後半は撮影可能な場所もありましたので、次回は写真を使いつつご紹介する予定です。


 → 後編はこちら



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