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美を紡ぐ 日本美術の名品 -雪舟、永徳から光琳、北斎まで- 【東京国立博物館 本館】

先週の土曜日に東京国立博物館 本館で特別展「美を紡ぐ 日本美術の名品 -雪舟、永徳から光琳、北斎まで-」を観てきました。色々とネタを貯めていますが会期末の展示なので先にご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 特別展「美を紡ぐ 日本美術の名品 -雪舟、永徳から光琳、北斎まで-」

【公式サイト】
 https://tsumugu-exhibition2019.jp/masterpiece/index.html
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1942

【会場】東京国立博物館 本館
【最寄】上野駅

【会期】2019年5月3日(金)~6月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
会期末ということもあって結構混んでいました。狭いところも多いので一層そう感じたのかも。

さて、この展示は「日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト』―皇室の至宝・国宝プロジェクト―」の一環として行われるもので、以前ご紹介した現上皇の文化交流に関する展示とワンセットで行われるものです。今回は狩野永徳の「唐獅子図屏風」をはじめ、少数ながらも日本の至宝とも言える作品が惜しげもなく並び、大変見応えある内容となっています。構成は特に時系列やテーマがある訳ではなさそうですが、第4会場まで分かれていましたので各会場ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:両陛下と文化交流―日本美を伝える― (東京国立博物館 本館)


<第1会場>
最初の会場では初っ端に「唐獅子図屏風」が展示されています。その後も驚くほどに豪華な作品が並んでいました。

1 狩野永徳(右隻)・狩野常信(左隻) 「唐獅子図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは非常に大型の六曲一双の屏風で、右隻を狩野永徳、左隻をひ孫の狩野常信が描いています。まず右隻は日本人なら誰しもが知っているであろう有名作で、2頭の唐獅子が並んで歩いている様子が描かれています。渦巻く尻尾やたてがみ、金雲たなびく背景など全体的に豪放かつ力強い印象を受けます。獅子の体躯もどっしりしていて堂々たる雰囲気となっていました。一方の左隻は唐獅子というよりは犬が駆け寄ってくるような感じで、コミカルで親しみの湧く表情となっています。背景に滝などもあってこちらは全体的に動きを感じさせる構成になっているように思えます。解説によると、この作品は豊臣秀吉が毛利攻略の際に携えていて、信長の訃報が来たのでこの品を講和の証として送ったという伝承があるようです。しかし実際には秀吉が建てた大坂城本丸御殿または聚楽第などの建物の障壁画として作られたと考えられているようです。その後、毛利家の所蔵となり1639年には江戸に移されていることから、孫の狩野探幽による極書きと ひ孫の狩野常信の左隻制作は江戸で行われたと考えられるとのことでした。実に10年ぶりに観られてこれだけでも大満足です。
 参考記事:皇室の名宝―日本美の華 <1期> 感想前編 (東京国立博物館 平成館)

この近くにあった長沢芦雪の「花鳥遊魚図巻」も見事でした。11mにも及ぶ巻物で、様々な動物が描かれていて 特に犬がコロコロしていて可愛かったw

2 狩野永徳 「檜図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは元は襖絵だった作品で、今は四曲一双の屏風となっています。金地を背景にうねるヒノキの大木と青々とした川が描かれ、色が非常に強く感じられます。木の幹には苔のようなものもあり風格を漂わせ、単純化されつつも生命感に溢れる表現となっていました。狩野永徳の最晩年の傑作です。

この隣には狩野永徳の作と伝わる「四季草花図屏風」もありました。こちらはだいぶ雰囲気が変わって雅な印象となっています。
また、この近くには藤原定家による更級日記の写本(★こちらで観られます)や、後伏見天皇による古今和歌集の写本などもありました。

12 雪舟等楊 「秋冬山水図」 ★こちらで観られます
こちらは2幅対の水墨画で、右が秋、左が冬の光景となっていて、いずれも岩場の向こうに楼閣が見える光景となっています。南宋の夏珪の水墨山水画に学んで描いたもので、結構太めのカクカクした輪郭を用いています。幾重にも連なり、遠景、中景、近景といった感じで奥行きを感じさせるかな。遠くのほうは薄っすら描いていたり繊細さも持ち合わせているように思いました。
 参考記事:本館リニューアル記念 特別公開 (東京国立博物館 本館)

この隣には尾形光琳、尾形乾山の兄弟の作品がありました。いずれも伊勢物語の東下りをテーマにしていて、燕子花が描かれています。兄弟の作風の違いも比較できました。

16 葛飾北斎 「西瓜図」
こちらは北斎直筆の肉筆画の掛け軸で、画面下方に赤い断面の半球状のスイカが置かれ、断面に和紙を敷いてその上に包丁が乗っています。また、その上にはスイカの皮を紐状にして吊るしている様子も描かれていて、謎の静物となっています。解説によると、この和紙を天の川、包丁とスイカをそれぞれ彦星と織姫に見立てて七夕を意味しているという説があるようです。細くむかれたスイカの皮の透き通る感じや、和紙越しのスイカの質感などを繊細な色彩で表現していて見事でした。

18 野々村仁清 「色絵若松図茶壺」 ★こちらで観られます
こちらは仁清黒と呼ばれる黒光りする壺で、側面に松や椿などが描かれています。松の幹や背景の山は金色で描かれ、黒地と強いコントラストになっています。また、葉っぱの緑や花の赤(花の輪郭も金)などの色彩が豊かで、リズミカルな配置と共に軽やかな印象を受けました。


<第2会場>
続いての会場は明治の帝室技芸員の作品が並んでいました。

特21 濤川惣助 「七宝富嶽図額」
こちらは1893年シカゴ・コロンブス世界博覧会への出品作で、無線七宝の技法で富士山が雲間から頭だけ出している様子を描いています。雲は柔らかく表現されていて、薄っすらと富士の稜線が透けて見えていたりします。焼き物とは思えないほど繊細な技術に驚きでした。

近くにはもう1人のナミカワ(並河靖之)による「七宝花蝶文瓶」もありました。こちらも超絶技巧の作品です。

20 海野勝珉 「太平楽置物」
こちらは舞楽『太平楽』を舞う演者を彫金で表した人形です。鎧兜に刀を持った姿で、右足を前に出すポーズをしています。本物さながらの質感で、緊張感が漂っているように思います。解説によると、明治天皇が美術工芸振興のために作らせた品だそうで、1900年のパリ万博に出品する目的もあったようです。恐ろしく高い技術を感じるのは明治の帝室技芸員の作品ならではかなw

この部屋の壁には文化財の修復に関するパネル展示がありました。和紙の産地や種類なども紹介していて修復の奥深さを感じます。先程の狩野永徳の「檜図屏風」はしばらく観なかったと思ったら2012年から18ヶ月に及ぶ修復をしていたようで、その様子なども紹介されていました。


<第3会場>
続いて第3会場は2階となります。ここからは特別展示の作品が多かったかな。

特2 狩野探幽 「唐子遊図屏風」
こちらは中国の子どもたち(唐子)が笛を吹いたり太鼓を鳴らしたりしている様子が描かれた屏風です。鶏合、花合、獅子舞、春駒など初春にちなんだ遊びをしているようで、獅子舞の獅子の顔は狩野永徳の唐獅子に通じるものを感じます。全体的に輪郭の細い典雅な作風で、楽しそうな雰囲気となっていました。

この近くには万葉集や古今和歌集を題材にした作品がありました。また、仁清の「色絵牡丹図水指」などもありました。

特3 久隅守景 「納涼図屏風」
こちらは家の前にある瓢箪のなる棚の下で農民らしき親子3人がござを敷いて寛いでいる様子が描かれていて、その目の先にはぼんやりと浮かぶ月が描かれています。割と荒々しい筆致で、瓢箪などは素朴な表現にも思えますが、女性は細い輪郭を使い男性には太い輪郭を使うなど対象によって使い分けているようでした。中々味わいのある作品です。

この近くの円山応挙の「牡丹孔雀図」も久々に観ました。見事な写生ぶりで応挙の代表作です。


<第4会場>
最後は江戸から明治の頃の作品が並ぶコーナーです。

特9 谷文晁 「虎図」
こちらは掛け軸で、川で水を飲もうとする虎が描かれています。水面には虎の顔が写っていて、中々リアルな描写です。解説によると、西洋から渡来したヨンストン著「動物図譜」をヒントに描いたようです。かなり筋肉質で頭はやけに小さいように見えますが、虎っぽさをよく表しているように思います。特に毛並みの表現が驚異的で、全身の毛を1本1本表現していました。

この近くには俵屋宗達による「西行物語絵巻 巻一」もありました。幾何学的な構成で画中画の襖絵も面白い作品です。

特13 西村五雲 「秋茄子」
こちらは大きな掛け軸で、中央に木になったナスが描かれ、その周りに3匹の狐の姿があります。1匹は寝ていて2頭は戯れている感じかな。体の形は簡単な輪郭で表す一方、毛並みはふんわりと描いているのが面白く、柔らかみを感じます。この西村五雲は竹内栖鳳の弟子なので、その表現は師匠譲りと言えそうです。徹底した写生をするために自宅で狐を飼っていたというエピソードも紹介されていました。

特6 伊藤若冲 「玄圃瑤華 [檀特・華鬘草][花菖蒲・棕櫚]」
こちらは白黒が反転した48図から成る拓版画です。黒地に白で植物や虫、トカゲなどを描いていて、写実と簡略のバランスが面白く感じられます。超細密の世界とはまた違った伊藤若冲の別の魅力が感じられる作品でした。

特14 横山大観 「龍蛟躍四溟」
こちらは第1回帝展の出品作の六曲一双の屏風で、龍と蛟(みずち。龍の一種)が水墨で向き合うように大きく描かれています。お互いに視線を交わすようですが、何だか可愛いというかトボけた顔に見えるかなw しかし水や風が大きく渦巻く様子はダイナミックで、迫力ある画面となっていました。


ということで、1品1品が展覧会の目玉となってもおかしくないような作品ばかりとなっていました。三の丸尚蔵館の作品が多いので10年前の皇室の名宝展を凝縮したような感じかも。この記事を書いている時点で残り数日ですが、日本美術が好きな方は是非どうぞ。

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