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トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美 【国立新美術館】

GWの頃に、六本木の国立新美術館で「トルコ文化年2019 トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」を観てきました。この展示は既に終わっていますが、6/14から京都国立近代美術館にも巡回するのでご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 トルコ文化年2019
 トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美 

【公式サイト】
 https://turkey2019.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2019/turkey2019/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2019年3月20日(水)~5月20日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会期末頃に行ったこともあり、結構混んでいて小さい作品の前などは人だかりができるような感じでした。

さて、この展示はトルコが誇る「トプカプ宮殿」に伝わる品々を紹介するもので、オスマン帝国時代の豪華絢爛な宝飾品が多めとなっています。過去にもトプカプ宮殿の展示は何度も観ているので行くのが後回しになってしまった訳ですが、今回は特にチューリップに焦点を当てていてイスラム文化におけるチューリップの重要性なども紹介されていました。展覧会は3つの章に分かれていましたので、簡単に各章ごとにご紹介していこうと思います。


<1章 トプカプ宮殿とスルタン>
まずはトプカプ宮殿とスルタン(支配者)についてのコーナーです。トプカプ宮殿はオスマン朝時代に4世紀に渡って帝国の国政が行われた宮殿で、スルタンはハーレムを築いて元異教徒の女性を奴隷として1000人集めていたようです。この章ではその栄華と当時の様子を伝える品が並んでいました。

2 「スルタン・マフムート2世の玉座(支配者の肘掛け椅子)」
5 「玉座用吊るし飾り」 ★こちらで観られます
こちらはセットで展示されていました。玉座はスルタンを示す花押を中心に剣や槍を表した彫刻があり、椅子自体はソファのような豪華な作りになっています。一方の吊るし飾りは大粒のエメラルドで出来た6角形が3つ組み合わされたもので、非常に鮮やかな緑で美しい色合いです。まさにスルタンの権力を象徴するような貴重な品となっていました。

3 「スルタン・アブデュル・ハミト2世の花押」
こちらはスルタンの花押で、様々な機会で使用され重要な役割を担ったものです。イスラム世界では書道が発達し、書道は芸術の中でも最高の地位にあるようです。スルタンも書道を嗜んだそうで、黒紙に金泥で複雑な文字を組み合わせた美しい書体となっていました。「アブデュル・ハミト・ハーン、常なる勝利者アブデュル・メジトの息子」と書かれているそうで、花押の右には尊称の「凱旋者」、下にはタアリーク書体で「パーディシャー(スルタン)、啓示に成就されたもの」と書かれているのだとか。

16 「スルタン・メフメト4世の宝飾短剣」 ★こちらで観られます
こちらは宝飾で出来た鞘で、柄の部分は大きな緑の宝石で出来ています。刃を収めた部分には花模様があり、これはチューリップのようです。巨大な宝石を惜しみなく使う所にオスマン帝国の国力が垣間見えました。

今回の展示で主役となるチューリップですが、何故イスラム世界で好かれるのかという理由が説明されていました。トルコ語でチューリップは「ラーレ」で、これを組み替えると神の名前(アッラー)となります。さらに逆さに読むと新月(三日月)となり、トルコ国旗のシンボルとなります。 そのため神への畏敬を表す象徴として多様されるようになったようです。偶像を作ってはいけない宗教なので、独特の文化かも。ちなみにオスマン帝国のチューリップは我々が想像するような形ではなく、それは後ほど出てきます。

少し進むと儀式用宝飾水筒やターバン飾りなどがあり、やはり金や緑の宝石を多用しています。びっしり宝石を埋め込んでいて、綺麗で豪華だけどやりすぎ感があるというか、宗教心と豪華さが強調されているので私の感覚にはそれほど響かないかな。日本人が侘び寂びとかシンプルさを好むと言うのは世界的には特異なんでしょうね。

その他にもスルタンの儀式用の兜、カフタンという服、刀剣などもありました。アラビア文字や三日月のモチーフで装飾されているのが多かったように思いました。

20 「柳装飾の盾」
こちらは笠のような形の盾で、表面に赤地に黄色でチューリップが描かれています。結構緻密な装飾なので実用品かは分かりませんが、信仰心を感じさせる品でした。

23 「宝飾手鏡」
こちらはラケットくらいある大きな手鏡で、持ちての部分や裏面にルビーやエメラルドでチューリップを表しています。分厚くて重そうですが、金地に宝石が色鮮やかでした。
こうした品はハレムの女性が使ったようです。ハレムの女性は異教徒の奴隷ですが、お給料を貰っていて出世して権力を得ることもできたようです。


<2章 オスマン帝国の宮殿とチューリップ>
続いてはチューリップをモチーフにした作品が多く並ぶコーナーです。ここは一層にチューリップへの熱意を感じる内容となっていました。

26 「立法者スルタン・スレイマン1世」
こちらは肖像画で、オスマン帝国が最大規模になった時のスルタンの像です。歴代スルタンの中でも珍しくイスラム法に則って正式な結婚をしたそうで、妻となったヒュッレムはハレム出身でやがて権力を持ち魔女と噂されたほどだったようです。ここではスルタンは豪華な衣装を着た姿で描かれていますが、イスラームでは偶像崇拝を禁止しているので、理想化する感じではなく歴史の挿絵のような感じで細密に描かれていました。

この先にはチューリップをモチーフにした服や靴、布団などまでありました。紋様のように単純化されているのが面白いです。

34  「兜」
こちらは金の兜で、前立てがチューリップの花の形をしています。多分、取り外しができるんじゃないかな。他の兜の解説でこの部分を外してスプーンとして使うと説明していて、給料日に宮廷で振る舞われる料理を食べていたようです。中々機能的な前立てですねw

この辺には「宝飾吊るし飾り」など重厚な飾りもありました。やはりチューリップの花のような形です。また、この辺りから会場の壁紙が王宮のようになっていて雰囲気が出ていました。

51  「チューリップ花暦」
こちらはチューリップの品種の一覧で、オスマン帝国では品種の登録が義務付けられていたようです。その数2000種もあったようですが、今残っているのは1割程度のようです。当時は花が細長く先が尖っているのが人気だったようで、近くにあった挿絵を観ると 花の先が捻れたような独特の形で、我々が思い浮かべる丸っこい花の形とは違っています。この先に出てくるチューリップをモチーフにしたものも細長い形をしているなど、当時と今の違いに驚きました。

55 「ナフス書体扁額」
こちらはアラビア文字の書道で、大きな文字の間に小さな文字が踊るように配されています。日本の書道とはだいぶ趣が異なりますが、元々流麗なアラビア文字が、組み合って抽象絵画のような美しさとなっていました。

76 「聖遺物用箱」
こちらは聖遺物を入れる小さめの箱で、深い赤地に細長いチューリップ紋が周りを埋め尽くしています。こうした聖遺物の容器はムハンマドの歯や髭、コート、弓などを収めたようで、隣には髭を収めた風呂敷などもありました。実際に聖遺物が残っているなんて驚きですね。

79 「礼拝用敷物(セッジャーデ)」
こちらはお祈りする時に敷く敷物で、やはりチューリップが表されています。近くにはメッカの方向を示すミフラーブという目印を携帯できるように品があり、こうした品にもチューリップの紋様が使われているようでした。お祈りは信仰心が現れる時なので、絵柄にチューリップを選ぶのも納得できますね。

この近くには中国から伝わった染め付けに金や宝石を嵌め込んだものが並んでいました。無理やり改造された感が否めないけど、この辺が美意識の違いでしょうね。他にもタイルに色鮮やかなチューリップを紋様として使用した品などもありました。こちらはパターン化されているのが面白かったです。

さらに先にはフルーツの間という花を壁一面に描いた部屋の再現(写真の壁紙)がありました。また、香炉のコーナーもあり、ムハンマドはバラの香りがしたので、チューリップだけでなくバラもイスラムでは大事な花らしく、香炉にはバラ水を入れていたという話などが紹介されていました。

102 「スルタン・アフメト3世の施水場模型」
こちらは巨大な銀製の建物の模型で、施水場らしく大きな蛇口らしきものが4面に付いています。ここにもチューリップ紋や、神を讃えた詩人の詩なども書いてあるようで、かなり緻密な模型となっていました。これはこの展示でも特に見応えあると思います。

103-117 「チューリップ用花瓶(ラーレ・ダーン)」
これらは底が遠景で長い首の変わった形の花瓶で、チューリップ用に作られているようです。素材はガラスらしく色とりどりで模様もマーブルやレース模様、金彩など様々です。いずれも清廉で可憐な雰囲気があり、チューリップへの思いが現れているように思えました。

123 「サーイェバーン(日蔭テント)」
こちらは巨大なテントで、テントと行っても立てかけて日蔭を作るためのものとなっています。まるで曼荼羅のように太陽と三日月を中心に円形の紋様が描かれ、もちろんチューリップも描かれています。 近くに映像でこうしたテントの使い方なども観ることができました。砂漠が多いのでこうしたテントも身近なんでしょうね。

133 「スルタン・スレイマン1世のものとされる儀式用カフタン」
こちらは儀式用の服(カフタン)で、大きなチューリップ紋が施されています。しかしこれはイタリアに注文して作らせたものだそうで、シルクに赤々とした花が見事です。チューリップ熱はやがてヨーロッパの国々(特にオランダ)に伝わり、トルコに逆輸入される程にまでなったようです。オランダでは球根に高値が付きすぎて、人類史上初のバブルが起きたというのは有名な話ですねw 当時のトルコの影響力が伺えるエピソードでした。

近くには中国から来た皿もありました。こちらも特注されチューリップが描かれた品です。外国にも及ぶ権力と繁栄ぶりを感じさせますね…。


<3章 トルコと日本の交流>
最後は日本とトルコの関係についてのコーナーです。両国が正式に国交を結ぶ前に、和歌山沖でトルコのエルトゥールル号が遭難し、それを和歌山の住民たちが必死に救助したという事故があるのですが、これが現在までトルコの人たちの親日感情の下地となっています。エルトゥールル号の事故の後、義援金を渡しに山田寅次郎がトルコに渡り、家宝の鎧や太刀などをスルタンに献上していて、それが今日でもオスマン帝国時代の宮殿・博物館に所蔵されている日本の作品群の基礎を成しているそうです。ここにはそうした事情でトルコに渡り、この度 里帰りした品々が並んでいました。

ここには明治天皇からスルタン・アブデュル・ハミト2世に贈った勲章(大勲位菊花大綬章)や、大工道具が並んでいました。何とスルタン・アブデュル・ハミト2世は大工仕事の名人でもあったそうで、明治天皇から個人的な贈り物としてノミなどを贈ったようです。しっかり菊の御紋なども入っていて、驚きのエピソードでした。

その先には有田焼などがあり、金襴手様式の豪華なものとなっています。また、有線七宝の2mくらいある花瓶なども目を引きました。そしてここには山田寅次郎が贈った甲冑・金太刀・合戦図の3点の家宝もありました。山田寅次郎は後に貿易商となり今でもトルコで一番有名な日本人なのだとか。

最後に寄せ木の机などもありました。


ということで、チューリップとイスラムという意外な関係を知ることが出来ました。イスラム文化が西洋文化に与えた影響は非常に大きいので、それも感じられたかな。もう終わってしまいましたが、記憶に留めておきたい展示でした。
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