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ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ 【DIC川村記念美術館】

前回ご紹介したDIC川村記念美術館の敷地内のレストランで食事を楽しんだ後、常設と「ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ」を観てきました。(常設は今回はメモしなかったので割愛します)

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【展覧名】
 ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ

【公式サイト】
 http://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/

【会場】DIC川村記念美術館
【最寄】JR佐倉駅 または 京成佐倉駅

【会期】2019年3月23日(土) ~6月16日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は川村記念美術館の人気作の作者であるジョゼフ・コーネルの個展で、多くの美術ファンの間では「箱」のアーティストとして知られていると思います。身近なものを加工して作る箱は一種の世界観を作り上げていて面白いのですが、最初から箱のアーティストであった訳ではなく、初期はコラージュ作品から手がけていたようです。箱制作に集中した時期はコラージュから遠ざかっていたようですが、後期にまた多彩なコラージュを制作した他、映画を愛して自らも映画制作しています。
この展示ではそうした多彩な活動を初期から晩年まで時系列的に観ることができました。各章ごとに簡単にメモしてきましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 初期コラージュ>
まずは初期のコーナーです。ジョゼフ・コーネルは1931年(27歳)の時に初めて制作した作品がコラージュだったそうで、その年にマンハッタンのジュリアン・レヴィ画廊でマックス・エルンストの小説『百頭女』を観たことがその直接のきっかけとなったようです。コーネルは独学の作家で専門の教育を受けた訳でなかったようですが、伝統美術の技法に頼らずとも コラージュによって新しい文脈のもとで組み直すことで芸術作品を生み出すことができました。しかし、エルンストのコラージュが異なるイメージがぶつかり合ってショックを生むような効果を意図しているのに対して、コーネルの画面は穏やかなリズムとバランスを伴って、自然に共存しロマンティックな雰囲気となっていて、両者の作風には違いがあるようです。また、シュルレアリスムの過激さや性を強調した内容には1930年代から抵抗感を示していたようで、シュルレアリストが集うジュリアン・レヴィ画廊で発表しつつも、自分はシュルレアリストではないと明言していたようです。ここにはそうした初期の頃の作品が並んでいました。

ジョゼフ・コーネル 「無題」
こちらは横たわる人、トウモロコシ、ミシンの一部に花が付いたものなどがコラージュされています。背景にはミシンに向かう女性たちもいて工場の光景のように見えるかな。何となく機械化への批判のように思えて、無意識のうちに物語やストーリーを探そうとしてしまいますw しかし実際の意図は分からず、奇妙な調和と不思議さを漂わせていました。

ジョゼフ・コーネル 「無題」
こちらは馬車や人々が行き交う街を見下ろす光景と、手前には大きな燭台が置かれていてロウソクが灯台のように輝いています。その側面には人が描かれていたり奇妙ですが、静かで落ち着いた雰囲気です。何処と無くデルヴォーの絵を観た時と似たようなものを感じるかな。この静かな世界感は後の箱作品にも繋がっているように思えました。


<第2章 箱制作のかたわらで>
続いては箱制作に集中した時期の箱以外の作品のコーナーです。1930年代後半以降は箱制作に集中していったそうで、再びコラージュの仕事をするのは1960年代となりますが、その間にも雑誌の誌面などでコラージュを扱うことがあったようです。『ハーパース・バザー』誌の為のレイアウトの仕事に携わって以降、『ヴュー』、『ダンスインデックス』、『ヴォーグ』などで仕事し、副収入を得ることで会社務めから解放されていったようです。また、親しい友人やあこがれのバレリーナであるタマラ・トゥマノヴァに宛てた手紙の中にはコラージュ作品が観られるそうで、特にタマラ・トゥマノヴァは自身の写真や衣装の一部をコーネルの作品の素材にして貰うために同封することもあったようです。ここにはそうした時期のコラージュなどが並んでいました。

ジョゼフ・コーネル 「踊るタマラ・トゥマノヴァのコラージュ」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターになっているコラージュで、バレリーナのタマラ・トゥマノヴァが舞う様子が元になっています。背景は真っ暗で手前には無数の粒が川のように横切り、衣装と一体化するように見えます。まるで踊っている動きが花吹雪になっているように思えるかな。華麗な雰囲気の作品となっていました。

この隣にはタマラ・トゥマノヴァからコーネルに宛てた手紙がありました。何故か謝っているようですが、コーネルの作品が好きだと書いてあります。また、「トゥマノヴァ バレエスクラップブック」という冊子があり、切り抜いたバレエの女性像がいくつかありました。他にもここには『ヴュー』、『ダンスインデックス』などの雑誌がありました。


<第3章 箱作品を中心に 30-50年代>
続いては今回の展示で最も見どころとなっている箱作品のコーナーです。ジョゼフ・コーネルは1930年代前半には既に立体のオブジェも制作していたようで、1936年に最初の重要な箱作品と自身が認めるものが作られます。そして「幻想美術、ダダ・シュルレアリスム展」に出品した「無題(シャボン玉セット)」は、作家が最も長い期間に渡って取り組んだシリーズであり、箱の中に配置されるもの達と それらが帯びる象徴性は箱作品に共通する恒常的なテーマとなっていったようです。1940年代に入ると箱に集中して取り組み、1950年代にかけて優れた作品を生み出していきます。コーネルは鳥が好きで、箱作品にも鳥がよく出てくるようです。また、コーネルは生涯ニューヨークから離れることはなかったようですが、異なる国や時代に思いを馳せて想像力で旅し、ホテルもよく主題としたようで、それもコーネルにとって親密な意味があったと考えられるようです。
1950年代半ばから映画の制作も多くの時間を費やしていたようですが、到達点と言える重要な箱作品を作っていったようです。ここにはそうした箱作品が並んでいました。

ジョゼフ・コーネル 「シャボン玉セット(月の虹) 宇宙の物体」
こちらは箱の中の背景に地球の写真、上部に2本のレール上の鉄棒があり、その上に月のような球体が置かれた作品です。鉄棒には金属の輪っかもぶら下がっていて、下にはシャボン玉のパイプらしきものもあり、全体的には宇宙を表しているように思えます。静かでちょっと寂しげな感じもしますが、コラージュ以上に世界観が詰まっているように思えました。

他にもコペルニクスや宇宙をテーマにした箱はいくつかあり、宇宙好きだったのを伺わせました。

ジョゼフ・コーネル 「無題(オウムと蝶の住まい)」 ★こちらで観られます
こちらは箱の中に左右に分ける仕切りがあり、右に2羽のオウムが寄り添う彩色された木の彫刻と 虫取り網、左には蝶の標本のようなものがあります。仕切りは金網状になっていて、オウム達は蝶をじっと眺めているように見えます。どちらかが囚われているような、意味ありげな感じでした。

この近くには同様に川村記念美術館の所蔵品である「無題(ピアノ)」(★こちらで観られます)などもありました。これも好みの作品です

ジョゼフ・コーネル 「カシオペア #1」
こちらは国立国際美術館の所蔵品で、背景に牡牛座やカシオペアなどの星座図があり、上部にレール状の鉄棒に乗った白い球体、下にはパイプが置かれています。また、作品の裏に回ると2つの円形の星図と女神像、天体観測の人たち、彗星などをコラージュして貼っています。幻想的な雰囲気があり、宇宙の神秘への憧れやロマンティックなものを感じさせました。

ジョゼフ・コーネル 「無題(星ホテル)」
こちらは漆喰のような壁に顔のある太陽が描かれ、縦に円柱と円輪から垂れた鎖があり、側面には縦書きでHOTELと書かれた箱です。HOTELの文字の上には星図があったりして、風化した質感と共に欧米の寂れたホテルを再現しているように思えました。この作品は川村記念美術館の所蔵品の中でも特に好きな作品です。

この辺には似たような大原美術館所蔵の「無題(ホテル:太陽の箱)」や、国立国際美術館所蔵の「無題(北ホテル)」などもありました。


<第4章 後期コラージュ>
続いては再びコラージュのコーナーです。1960年代に入ると再び創作の中心は平面のコラージュとなったようです。しかし以前の1930年代の作品はヴィクトリア時代の版画の複製を用いたスタイルでしたが、この時代は同時代の雑誌を借用し、カラー写真が目立つようです。これはポップアートとの関連性を指摘されるようで、コーネルはアンディー・ウォーホルやロバート・インディアナ、ジェイムズ・ローゼンクイストらと交流があったらしく彼らが家に訪れてきたこともあったようです。ここにはそうした後期のコラージュが並んでいました。

ジョゼフ・コーネル 「気圧測定」
こちらは広い空に舞う2羽の鳥と、その下に羽のある女性像がコラージュされています。右の方に雲の気流を示す図のようなものがあり、これがタイトルに関連していそうです。奇妙な取り合わせですが爽やかなような寂しいような印象を受けました。

ジョゼフ・コーネル 「占星術の娘(カシオペア)」 ★こちらで観られます
こちらは本の目次を背景に裸婦と星図がコラージュされ、女性の股間の部分には北斗七星が貼り付けられています。また、裏には地球の地軸の傾きを説明した絵を使ってコラージュしているなど、両面で楽しむことができます。まるで星空を切り取ってまとうような姿がどこか色っぽく、神話的な雰囲気がありました。

箱作品と同じく、コラージュでも星座を使った作品がいくつかありました。

ジョゼフ・コーネル 「青く塗られた青のなかに(ヴォラーレ)」
こちらは何処かの海辺の断崖の写真を背景に、3体の子供の人形や岩山がコラージュされた作品です。岩山の上にはキューピットや空飛ぶ鳥の姿があり、岩からは何故かヤカンの口のようなものが出ていたり、人形の首が転がっています…。 これは今まで観てきたなかでも特に奇妙でシュルレアリスム的なものを感じるかな。それでも空が青いので爽やかな雰囲気もありました。


<第5章 日記・手紙>
続いては日記や手紙のコーナーです。コーネルは美術界や社交界から距離を取り、郊外に住んでいたため 内気で秘密主義者というレッテルを貼られたようですが、本人はこれを否定していたようです。実際には幅広い交友関係があったそうで、ここにはそれが伺える品が並んでいました。

まずいくつか展覧会の案内状や作品の素材の写真、手紙などが並んでいます。翻訳された内容を観ると、日本の道成寺の伝承を書いた手紙なんかもあって驚きます。たまにコラージュを使った手紙や日記などもあり、コーネルの人となりなども垣間見ることができました。


<第6章 モンタージュ 映画>
最後は映画のコーナーで、ここでは4部屋くらいの小部屋で短編映画を上映していました。コーネルは1930年代から映画黎明期の無声映画フィルムを集めて自宅や画廊でコレクション披露していたそうで、やがて自分でも実験作品を作るようになり、1936年に初めて手がけた「ローズ・ホバート」が高い評価を受けました(これも観られます) コーネルの映画はコレクションから選んだフィルムの短編をつなぎ合わせて制作したものがあるらしく、コラージュ映画と呼ばれるようです。一方で1950年代は映像作家との共同制作で コーネルが美しいと感じた人や物を映像にする試みが観られるようで、鳥・子供・少女など、箱やコラージュと共通するモチーフも登場するようです。

いくつか観てみましたが、ちょっとストーリーは理解できませんでしたw インドの物語のような作品やサーカスのような作品、最後の大きなスクリーンではアジアっぽい農村の様子を写した作品などもありました。
このコーナーの最後にはデュアン・マイケルズらによるコーネルの写真やアトリエの写真などもありました。


ということで、随分前から楽しみにしていた展覧会だっただけに、揃いも良くて満足できました。 この川村記念美術館は現代アートが充実していますが、コーネルは特に人気のアーティストなので、この機会に詳しく知ることができて良かったです。現代アートが好きな方にオススメの展示です。


おまけ;
 図録も買ったのですが、3種類の表紙を選ぶ注文制作のようで、6月中旬(会期終了後)に届くということで、まだ来ていませんw ちょっと高かったのは送料でしょうかね…。
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