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松方コレクション展 (感想前編)【国立西洋美術館】

先週の土曜日に上野の国立西洋美術館で「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」を観てきました。非常に点数が多く、内容も充実していましたので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 国立西洋美術館開館60周年記念
 松方コレクション展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/matsukata2019/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019matsukata.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて、チケットを買うのに5分くらい並びました。中もあちこちで人だかりが出来るような感じで、思ったより鑑賞するのに時間がかかりました。

さて、この展示はこの国立西洋美術館のコレクションの礎を築いた松方幸次郎の「松方コレクション」についての展示で、国立西洋美術館以外に散逸した品々も集結するという貴重な機会となっています。松方幸次郎は1866年の薩摩の生まれで、神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)の社長として第一次世界大戦時の船舶需要を背景に事業を拡大し、1916~1927年頃に画家のフランク・ブラングィンらの勧めでロンドンやパリで大量の美術品を買い集めました。一時は1万点にも及ぶ規模にまでなり、モネやゴッホなど近代美術の重要作品も含まれるコレクションでしたが、1927年に昭和金融恐慌のあおりで造船所は経営破綻すると借金返済の為にコレクションは売却され、ロンドンに置いてきたコレクションは火災で焼失、フランスに残したコレクションはナチスを逃れて疎開したものの フランス政府に敵国人財産として接収され、戦後に返還されたものの重要作品は戻ってこない等、波乱の運命をたどりました。この展示ではそのコレクション形成から散逸・返還なども含めて紹介すると共に、名作の数々が並んでいました。構成は10章ほどに分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、写真を使っているのはこの展示ではなく以前に撮影可能だった展示で撮ったものを流用しています。この展示は撮影不可ですのでご注意ください


<プロローグ>
まずはプロローグで、特に有名なモネの「睡蓮」や松方幸次郎について紹介していました。

1 クロード・モネ 「睡蓮」 ★こちらで観られます
こちらは正方形の大型の作品で、モネの代名詞的な作品郡の1つです。いつも常設の部屋にあるので見慣れている感じはありますが、睡蓮の葉っぱ、花、水面、木々の反映などが色とりどりに表現されていてリズム感を感じさせます。解説によるとこれはオランジュリー美術館の睡蓮の連作の準備中の頃に描かれたものだそうで、松方幸次郎がジヴェルニーのモネの家で本人から直接購入したもののようです。モネは日本趣味(ジャポニスム)に傾倒していたこともあり、日本で本物の西洋美術を観せたいという松方幸次郎の志に共感するものがあったのかもしれません。これだけの名作を日本で観られるのは、松方幸次郎のおかげで、まさに偉人と言えますね。
 参考記事:
  【番外編 フランス旅行】 オランジュリー美術館とマルモッタン美術館
  【番外編 フランス旅行】 ジヴェルニー モネの家

2 フランク・ブラングィン 「松方幸次郎の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは口髭を生やしパイプを握ってソファに座る背広姿の紳士を描いた作品で、これが松方幸次郎の姿です。背景には赤紫色の花模様があり、何処と無く華やかな雰囲気もあるかな。かなり素早いタッチで描かれていて、カンバスの裏側には「1時間で描く」との旨が書いてあるそうです。何気ない仕草に松方幸次郎の人柄やフランク・ブラングィンとの親密さが伺えるようでした。ちなみにこのフランク・ブラングィンは先述のロンドンの火災で多くの作品を焼失した画家です。当時のイギリスで人気の画家だっただけに非常に惜しまれます…。
 参考記事:フランク・ブラングィン展 (国立西洋美術館)

3 フランク・ブラングィン 「共楽美術館構想俯瞰図、東京」 ★こちらで観られます
こちらは麻布に作る予定だった美術館の構想図です。ロの字状の回廊と中央に噴水があり、堅牢な西洋風の建物となっています。日本人画家が本物の西洋美術を観る機会もないので、この美術館で本物を見せてあげたいという考えで計画したようで、日本人が西洋を知ることの助けにもなると考えていたようです。かなり準備は整っていたのですが、先述のように経営破綻してこの美術館は夢のままに終わってしまいました…。しかし別の形で実現したのが国立西洋美術館と言えるかもしれません。松方幸次郎の思いが詰まった構想図です。


<I ロンドン 1916-1918>
続いてはロンドンで購入した作品が並ぶコーナーで、地下の部屋の壁一面に沢山の作品がずらりと並んでいました。松方幸次郎は第一次世界大戦の際にストックボート(既製の貨物船)を売り込む為に1916年春~1918年秋までロンドンに拠点を持って滞在し、巨額の利益を得ることに成功しました。その際、イギリスを代表する画家の1人であるフランク・ブラングィンや 美術商の山中商会ロンドン支店長 岡田友次、総合商社 鈴木商店の高畑誠一らの助けを得て1000点を超える作品を購入し日本に送られました。しかしこれらのコレクションは散逸期に多くが売却されてしまったようです。この章では散逸作品の中でも近年に国立西洋美術館が再収蔵し修復をした作品なども展示されていました。

20 ジャック・クルティヨー(ジョン・クロスターマンの原画による) 「スペイン王妃マリア・アンナ・フォン・デア・プファルツ=ノイブルク」
こちらは赤い服を着て正面を向いているスペイン王妃の肖像です。質感豊かで写実性の高い画風で、巻髪が優美な印象を受けます。キリッとした表情をしていて凛々しい雰囲気もありました。近代美術だけでなくこうした古い王侯貴族の絵も集めていたことに改めて感心させられますね。

この辺には常設でよく観るダンテ・ガブリエル・ロセッティの「愛の杯」やジョン・エヴァリット・ミレイの「あひるの子」などもありました。
P1150835.jpg
↑こちらがロセッティの「愛の杯」 ロセッティの描く人物は似た顔が多いように思います。

他にも多くの作品があり、私も観たことが無い作品が結構ありました。西洋美術館にはよく行ってますが、観ていたのは松方コレクションのほんの一部のだったようですw

47 レオン・オーギュスタン・レルミット 「牧草を刈る人々」
こちらは大型の作品で、高さ4mくらいあるかな。牧草を刈る男性2~3人と、休んでいる男性に水を与えている人物、背景には丘の長閑な風景が広がっています。牧歌的だけど割と重労働そうに見えるかな。タッチは粗目で生き生きとした筆使いとなっていました。

この先には7章の内容となる大型のタピスリーなどもありました。

D3 「パンテクニカン倉庫保管絵画等リスト:松方幸次郎資産」
こちらはイギリスの焼失した倉庫にあった絵画のリストです。近年見つかったそうで、316件、連作も含めると960点もの絵画があったそうです。重要な作品や、盟友のフランク・ブラングィンの作品もあって、非常に悔やまれます。フランク・ブラングィンは代表作が燃えてしまい、現代ではそれほど知られていない画家になっているし、運が悪ったとしか言いようがないです。この頃の松方幸次郎は呪われているんじゃないかというくらいの転落ぶりです…。
この近くには売立てに出されたリストもありました。本当に惜しいですね…


<II 第一次世界大戦と松方コレクション>
続いては第一次世界大戦の頃のコーナーです。この頃、大戦を題材とする絵画や版画、ポスターなどが多く作られたそうで、松方コレクションにも第一次世界大戦を巡る作品が多数含まれているようです。戦争で財を得ると共に悲劇から目を逸らしていなかったとも考えられるようで、ここにはそうした戦中戦後の作品が並んでいました。

52-56 エリック・ケニントン 「『大戦 英国の努力と理想』より」
こちらは数枚から成る素描で、兵士や工場などが描かれています。擬人化された作品もいくつかあり、タイトルと共にプロパガンダ的な要素を感じました。

70 リュシアン・シモン 「墓地のブルターニュの女たち」 ★こちらで観られます
こちらはフランスのブルターニュ地方の女性たちが喪服姿で描かれ、真新しい墓の前でじっと墓を観ているようです。傍らには娘らしき子供もいて、戦争によって失われた家族の存在の大きさを感じさせます。フランスの旗のような物や花が供えられていることもあり、何故か全体的に明るく爽やかな色彩となっているのが意外な感じです。水彩の軽やかさもあって、ちょっと奇妙な感覚でした。解説によると、この画家は従軍したそうで、戦後の様子も描いていたのだとか。


<III 海と船>
続いては海と船をテーマにした作品のコーナーです。松方幸次郎が最初に買ったのはフランク・ブラングィンの造船所の絵だったと言われるそうで、本業が造船所だけあって気になる題材だったのかもしれません。

76 ウジェーヌ=ルイ・ジロー 「裕仁殿下のル・アーヴル港到着」 ★こちらで観られます
こちらは皇太子時代の昭和天皇が訪欧した際に 現地の画家に注文して描かせた作品の1つです。皇太子が乗船した御召艦「香取」と供奉艦「鹿島」がル・アーブルに着いた様子らしく、万国旗や旭日旗が掲げられ沢山の人が岸に集まっています。甲板にも多くの制服姿の人の姿があるかな。全体的に色は淡く軽やかで、筆致も大胆で爽やかな雰囲気となっていました。

74 シャルル・コッテ 「悲嘆、海の犠牲者」
こちらは大型作品で、水死した人物を中心に沢山の仲間や家族らしき女性が集まり、嘆き悲しむ様子が描かれた作品です。何となく死んだ人がキリストのようで、まるで十字架降下の様子を描いているようにも思えます。背景には台形の家が連なっていて幾何学的なリズムがあり、色鮮やかな色彩となっていました。悲しい題材の割に何だか色々と面白い作品でした。


<IV ベネディットとロダン>
続いては松方幸次郎の盟友となったロダン美術館のベネディットに関するコーナーです。松方幸次郎はパリのロダン美術館を率いたレオンス・ベネディットとロダンのブロンズ像の鋳造に関する契約を結び 50点を超えるロダンコレクションを築くことができました。また、ベネディットは松方コレクションの収集を手伝ったり、第二次世界大戦の際にはコレクションを礼拝堂に保管するなど協力してくれたようです。ここではロダンやその弟子のブールデルの作品が並んでいました。
 参考記事:手の痕跡 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描 (国立西洋美術館)

ずらりとブロンズ像が並び、有名な「考える人」や「地獄の門」のマケットなどもありました。
P1070868.jpg
考える人は「地獄の門」の門の上で地獄を観ている人物を切り出したもので、ダンテ(『神曲』で地獄や天国を巡った様子を書いた)を表しているとも言われています。この肉感的で力強い表現はロダンの魅力ですね。

こちらは弟子のブールデルの「瀕死のケンタウロス」
P1070692.jpg
苦しそうで窮屈な格好をしているのが非常に印象的です。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。松方コレクションはいつでも西洋美術館で観られる…と思ったら大間違いで、散逸してしまった旧コレクションも集結していて質・量ともに非常に充実した内容となっています。もしすべての作品が残っていたらと思うと残念でなりませんが、それでも松方幸次郎の偉大さがよく分かると思います。後半はあまりに貴重で日本に返還されなかった作品などもありましたので、次回はそれを含めてご紹介していこうと思います。


 → 後編はこちら


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