関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

松方コレクション展 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回に引き続き上野の国立西洋美術館の「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」についてです。前半は4章まででしたが、今日は5章から最後のエピローグまでご紹介して参ります。

 → 前編はこちら

DSC09990.jpg

【展覧名】
 国立西洋美術館開館60周年記念
 松方コレクション展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/matsukata2019/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019matsukata.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編は第一次世界大戦の頃までのコレクションをご紹介してきましたが、後半はそれ以降についてです。引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 ※当記事で写真を使っているのはこの展示ではなく以前に撮影可能だった展示で撮ったものを流用しています。この展示は撮影不可ですのでご注意ください


<V パリ 1921-1922>
5章は1921~1922年の頃にパリで集めたコレクションのコーナーです。1921年4月に再び渡欧した松方幸次郎は「画廊から近代絵画を空っぽにしてしまった」とパリの画廊に言わしめるほど絵画を買ったようで、翌年の1922年にかけてコレクションは飛躍していったようです。ロダン美術館のベネディットやフランス文学者の成瀬正一、美術史家の矢代幸雄、画家の和田英作などの協力も得て、優れたフランス近代絵画を購入し、その名が知られるようになったようです。この頃にモネのジヴェルニーの自宅で「舟遊び」なども入手したそうで、ここには松方コレクションの中でも珠玉の作品が並んでいました。

まずは常設で見慣れた作品がいくつかありました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「帽子の女」
DSC_6196.jpg
この美術館でも特に人気の高いコレクションです。ルノワールらしさが詰まっている名品ですね。

ジャン=フランソワ・ミレー 「春(ダフニスとクロエ)」
DSC_6182.jpg
ミレーは農村や労働者をよく描いた画家ですが、こうした神話を題材にした作品も手がけていました。結構大きめの作品で見栄えがします。

近くには横浜美術館のギュスターヴ・クールベ「海岸の竜巻(エトルタ)」もありました。あれも松方コレクションだったとは…。この章にある作品は本当に日本のフランス絵画の最高峰とも言えるコレクションが集結しています。

116 フィンセント・ファン・ゴッホ 「アルルの寝室」 ★こちらで観られます
こちらはあまりに重要過ぎて接収後に日本に返還されなかった作品です。ゴーギャンと生活を共にしたアルル時代の部屋の中を描いたもので、同じようなバリエーションが3つあるうちの最後の1つで母親の為に描いたようです。日本も返還交渉をしたようですが、フランスに留め置かれ今はオルセー美術館の所蔵となっています。青い壁の部屋にベッド、机、椅子、肖像画などが描かれていて遠近感が強調されたような感じに見えます。色使いの明るさにゴッホの個性を強く感じる作品です。解説によると、、矢代幸雄がこれを買って欲しいと松方幸次郎に懇願したそうで、一度はつれない態度をしてみせたものの、それは画商との駆け引きの為だったとも考えられるのだとか。商売人らしいエピソードですねw 
 参考記事:
  ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)
  ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

118 ポール・ゴーガン 「扇のある静物」 ★こちらで観られます
こちらはゴッホとの共同生活が破綻した直後に描いた作品で、やはりフランスから返還されなかった重要な傑作です。手前にリンゴやカップなどの静物が描かれ、奥には花が描かれた扇が飾られています。ややセザンヌにも似た感じですが、色鮮やかで生き生きとした雰囲気がありました。描いた時期も時期だけに、これも返して貰えないのも分かる気がします…。

109 クロード・モネ 「舟遊び」 ★こちらで観られます
31098849_95343500.jpg
こちらはモネを訪ねて入手した作品。この作品も下手すれば日本に返還されなかったのではないかという傑作です。船の半分しか描かないという大胆な構図が面白い。

他にもモネのロンドンの橋を描いた連作やゴーギャン、セザンヌなど国立西洋美術館を代表するコレクションが並んでいました。


<VI ハンセン・コレクションの獲得>
続いてはウィルヘルム・ハンセンのコレクションをまとめて買ったことに関するコーナーです。松方幸次郎は1922年に、コペンハーゲンの実業家ウィルヘルム・ハンセンの優れたフランス絵画コレクションの一部を購入するチャンスが舞い込み、各国のコレクターと競合の末に34点の作品を購入することに成功しました。これらは一旦 ロダン美術館で保管され、1930年代半ばまでにほとんどが日本に送られましたが、散逸期にその多くが売却されてしまったようです。

ここにはブリヂストン美術館のアルフレッド・シスレー「サン=マメス 六月の朝」や、北九州市立美術館のエドガー・ドガ「マネとマネ夫人像」(★こちらで観られます)、西洋美術館の常設のエドゥアール・マネ「ブラン氏の肖像」(★こちらで観られます)、ブリヂストン美術館のエドゥアール・マネ「自画像」(★こちらで観られます)など、国内の展示でよく見かける傑作が並んでいました。特に面白いのがドガによるマネ夫妻の絵で、右側が切り取られているのですが、これはマネがピアノを弾く妻の描写が気に入らずに切り取ったというエピソードがあります。2人の画家の関係性を示す上でも非常に貴重な作品といえると思います。

エドゥアール・マネ 「ブラン氏の肖像」
DSC_9093.jpg
常設でお馴染みですが、これは元々ハンセン・コレクション→松方コレクションのルートだったんですね。爽やかさと威厳が感じられます。

ちなみにブリヂストン美術館のマネの自画像は2点しかない自画像のうちの1点で、特に重要な品となっています。
 参考記事:
  セーヌの流れに沿って-印象派と日本人画家たちの旅 感想前編(ブリヂストン美術館)
  ドガ展 (横浜美術館)

134 クロード・モネ 「積みわら」 ★こちらで観られます
こちらは大原美術館の所蔵品で、積みわらの連作の1つです。積みわらの傍らでモネの2番目の妻アリスと次男が日蔭に入って休んでいる様子が描かれています。全体的に斜めにタッチが残っていて風の流れのようなものを感じると共に、明暗がついて強い日差しまで伝わってきました。のんびりとして理想的な光景です。
 参考記事:大原美術館名品展 (宇都宮美術館)


<VII 北方への旅>
続いての章では松方幸次郎の意外な側面について紹介されていました。1921年の渡欧の際、松方幸次郎は海軍から最新鋭のドイツの潜水艦の設計図を密かに入手するように依頼されていたそうで、1921年8月にはドイツ・スイス・北欧を訪れてゴーギャンやムンクなどを購入しています。そしてそれらを日本に送ったわけですが、その中に設計図を紛れ込ませていたのではないか?と考えられるようです。派手に絵画を買っていたのも陽動かもしれないとのことでスパイ映画さながらのエピソードです。

ピーテル・ブリューゲル(子) 「鳥罠のある冬景色」
DSC_0822.jpg
こちらは西洋美術館の常設でよく見かける作品。画面右側の鳥かごの鳥の運命と、凍った川(穴が空いている所がある)でスケートしている人々の運命が紙一重であることを示しています。フランドル絵画はこうした教訓やことわざを込めているものが多いのが特徴です。

他にもウジェーヌ・ドラクロワ「馬を連れたシリアのアラブ人」などもありました。

143 エドヴァルド・ムンク 「雪の中の労働者たち」 ★こちらで観られます
こちらは西洋美術館に寄託されているけど観る機会が少ない作品。雪の中でツルハシやスコップを持った労働者が列をなして作業している様子を描いたもので、寒々した中で逞しい雰囲気となっています。特に肩にスコップを担いだ労働者は大きく描かれ、存在感と共に労働への賛歌を感じさせました。
 参考記事:ムンク展―共鳴する魂の叫び 感想後編(東京都美術館)

147 アルノルト・ベックリン 「眠れるニンフとふたりのファウヌス」
こちらは今は国外のコレクション。寝ている裸婦(ニンフ)と角が生えた半人半獣のファウヌスが描かれています。写実的で色彩鮮やかで、何処と無く官能的な感じもするかな。ベックリンを日本で観る機会は殆ど無いので、じっくりと観てきました。これが日本に来ていれば…と思うとちょっと残念。


<VIII 第二次世界大戦と松方コレクション>
続いては散逸期に関するコーナーです。1927年3月の昭和金融恐慌で川崎造船所は破綻し、松方幸次郎は私財をなげうって会社の精算に奔走したそうで、1928年には社長を辞任しました。それ以降、第二次世界大戦期にかけて松方コレクションの散逸期となってしまいます。日本では1941年まで差し押さえの売りたてが続き、ロンドンでは1939年にコレクションを預けていた倉庫の火災が起きました。また、フランスではドイツ軍の侵攻が迫ったので郊外に疎開させたのですが、後にフランス政府に接収されています。ここにはそうした時期の混乱の様子と共にいくつかの旧コレクションが紹介されていました。

D15 「日置釭三郎からジョルジュ・グラップ宛の1939年10月6日付の手紙」
こちらはフランスでの疎開当時の手紙で、海外送金も困難な時代であったので、疎開資金の為にマネやモネ、マティス、ボナールなど20点の売却を指示する内容となっているようです。むしろフランスには感謝してもらいたいくらいの話ですけどね…。当時の苦境を物語る手紙です。

特別出品 エドゥアール・マネ 「嵐の海」
こちらは疎開資金の為に売られた作品でナチスの協力者に渡ったそうですが、2013年にミュンヘンで見つかったそうです。嵐の海に2艘の帆船が描かれ、水面は高めに描かれています。空は暗くどんよりとしていて、何だかこの絵の運命を暗示しているようにも見えました。つい最近まで見つからなかったとは数奇な運命の絵ですね。

150 アンリ・マティス 「長椅子に坐る女」 ★こちらで観られます
こちらも疎開の時に売られた作品で、ニースのホテルでくつろぐアンリエット・ダリカレールという女性が描かれています。ソファで肘をついて休んでいて、ちょっとアンニュイか感じがするかな。ピンクのカーペットや青いドア、緑の花瓶など色彩が鮮やかで、縞模様が多用されるなどリズムも感じられます。非常に良い絵なのに何故よりによってこれを売ったのか疑問でした。良い絵だから資金になったのかな?
 参考記事:マティス美術館 【南仏編 ニース】

151 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「男の頭部(《ホメロス礼讃》のための習作)」
こちらは今はポーラ美術館の所蔵で、接収されて競売に出されたアングル唯一のコレクションです。ルーヴル美術館にある「ホメロス礼賛」の為の習作と考えられるそうで、見上げるような男性の首から上だけが描かれた肖像となっています。滑らかで気品があるのはアングルならではかな。好みの作品でした。

他にも返還されなかったハイム・スーティンの「ページ・ボーイ」などもありました。暗い背景に真っ赤な服が目を引く作品です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」
31098849_3357991463.jpg
こちらは西洋美術館の人気のコレクションですが、危うく返還されないところでした。
フランス政府は松方コレクションの返還の条件として美術館の設立を要求し、それがきっかけとなってル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館が出来たという経緯があります。何だかんだで松方幸次郎が夢見た共楽美術館が実現したとも言えますね。


<エピローグ>
最後は疎開の際に損傷が酷くて返還リストにも載らなかったモネの大作に関するコーナーです。

クロード・モネ 「睡蓮、柳の反映」 ★こちらで観られます
こちらはモネのアトリエで購入したものの行方が分からなくなり、2016年にフランスで発見されて西洋美術館の寄贈されました。縦2m、横4mほどある大画面ですが、上半分は失われてしまっています。それでも下半分は睡蓮の花が咲いていたり、青い葉っぱが連なっているのが分かるくらいには修復されています。オランジュリー美術館の「木々の反映」に関連付けられるとのことで、元々はかなりの名作だったんでしょうね…。近くには当時の白黒写真をもとにAIのパターン分析でデジタル再現した映像などもありました(この記事の冒頭のはそれと同じだと思います)


ということで、後半は名作過ぎて日本に返還して貰えなかった作品などもあり、見ごたえがありました。今では上野で気軽に観られる松方コレクションですが、松方幸次郎の偉業によるものであることや、激動の時代をくぐり抜けてきたこともよく分かる内容となっていました。その話を抜きにしても名画揃いですので、西洋絵画が好きな方は是非どうぞ。
関連記事


記事が参考になったらブログランキングをポチポチっとお願いします(><) これがモチベーションの源です。

 

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter



コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

21世紀のxxx者

Author:21世紀のxxx者
 
多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。

関東の方には休日のガイドやデートスポット探し、関東以外の方には東京観光のサイトとしてご覧頂ければと思います。

画像を大きめにしているので、解像度は1280×1024以上が推奨です。

↓ブログランキングです。ぽちっと押して頂けると嬉しいです。





【トラックバック・リンク】
基本的にどちらも大歓迎です。アダルトサイト・商材紹介のみのサイトの方はご遠慮ください。
※TB・コメントは公序良俗を判断した上で断り無く削除することがあります。
※相互リンクに関しては一定以上のお付き合いの上で判断させて頂いております。

【記事・画像について】
当ブログコンテンツからの転載は一切お断り致します。(RSSは問題ありません)

更新情報や美術関連の小ネタをtwitterで呟いています。
更新通知用twitter

ピックアップ
オランジュリー美術館展
 前編 後編

コートールド美術館展
 前編 後編

バスキア展
 前編 後編

ゴッホ展
 前編 後編
展覧スケジュール
現時点で分かる限り、大きな展示のスケジュールを一覧にしました。

展展会年間スケジュール (1都3県)
検索フォーム
ブログ内検索です。
【○○美術館】 というように館名には【】をつけて検索するとみつかりやすいです。
全記事リスト

全記事の一覧リンク

カテゴリ
リンク
このブログをリンクに追加する

日ごろ参考にしているブログです。こちらにも訪れてみてください。

<美術系サイト>
弐代目・青い日記帳
いづつやの文化記号
あるYoginiの日常
影とシルエットのアート
建築学科生のブログ
彫刻パラダイス
ギャラリークニャ
「 10秒美術館 」 ~元画商がほんのり捧げる3行コメント~ 
だまけん文化センター
横浜を好きになる100の方法
美術品オークション

<読者サイト>
アスカリーナのいちご日記
Gogorit Mogorit Diary
青い海(沖縄ブログ)
なつの天然生活
月の囁き
桜から四季の花まで、江戸東京散歩日記
うさみさんのお出かけメモ (u_u)
森の家ーイラストのある生活
Croquis
ラクダにひかれてダマスカス

<友人のサイト>
男性に着て欲しいメンズファッション集
Androidタブレット比較
キャンペーン情報をまとめるブログ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
メディア掲載
■2012/1/27
NHK BSプレミアム 熱中スタジアム「博物館ナイト」の収録に参加してきました
  → 詳細

■2011/11/21
海の見える杜美術館の公式紹介サイトに掲載されました
  → 詳細

■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
  → 詳細

■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
  → 絵画
  → 関東 > 絵画

記事の共有
この記事をツイートする
美術鑑賞のお供
細かい美術品を見るのに非常に重宝しています。
愛機紹介
このブログの写真を撮ってます。上は気合入れてる時のカメラ、下は普段使いのカメラです。
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
19位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
デザイン・アート
2位
アクセスランキングを見る>>
twitter
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

※できるだけコメント欄にお願い致します。(管理人だけに表示機能を活用ください) メールは法人の方で、会社・部署・ドメインなどを確認できる場合のみ返信致します。