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生誕125年記念 速水御舟 【山種美術館】

この前の日曜日に恵比寿の山種美術館で「山種美術館 広尾開館10周年記念特別展 生誕125年記念 速水御舟」を観てきました。この展示は前期・後期で入れ替えがあり、私が観たのは後期の内容でした。

DSC00853.jpg

【展覧名】
 山種美術館 広尾開館10周年記念特別展 生誕125年記念 速水御舟

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/2019/hayamigyoshu.html

【会場】山種美術館
【最寄】恵比寿駅

【会期】2019年6月8日(土)~8月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて場所によっては人だかりができるような感じでした。

さて、今回の展示はかつては幻の画家とも呼ばれた速水御舟の個展となっています。この山種美術館が現在の地に移ってきて10年になるのを記念したもので、開館記念の際にも速水御舟展をやっていた訳ですが今回はその展示以来となる山種美術館の速水御舟作品の全公開(前期・後期で入れ替えあり)の機会となっています。速水御舟は40歳で亡くなるまでに700点あまりの作品を残しましたが、その多くは所蔵家に秘匿されて公開される機会が少なかったそうです。1976年に旧安宅産業コレクションの御舟作品105点を山崎種二(山種美術館創設者)が一括で買ったことでこうして速水御舟を我々も観ることができるようになったようです。展示は4章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)
  再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち- (山種美術館)


<第1章 画塾からの出発>
まずは画業の始まりに関するコーナーです。速水御舟は1829年に質屋を営む蒔田良三郎と いと の次男として浅草に生まれ、本名は蒔田栄一という名前です。後に祖母の速水キクの養子になったことで速水姓になり、御舟というのは俵屋宗達の「源氏物語澪標関屋図屏風」の舟から取った後の時代の画号です。幼い頃から絵が好きで、14歳で著名な歴史画家だった松本楓湖に入門、10代の頃には屋外の写生や個展の模写で学びました。その画塾で今村紫紅と出会い、紫紅の参加する紅児会に入りました。しかし紅児会が解散すると、今村紫紅が中心に結成された赤曜会で行動を共にしたようで、今村紫紅の「僕は壊すから君たちは建設してくれたまえ」という言葉は速水御舟を大いに刺激したようです。1914~1916年にかけては極端な縦長の画面にリズム感のある筆触で、鮮やかな色調なのが特徴らしく、今村紫紅の南画風の影響を受けたようです。ここにはそうした初期の作品が並んでいました。

11 速水御舟 「春昼」 ★こちらで観られます
こちらは埼玉県の新座市辺りの茅葺きの農家を描いた作品で、速水御舟はこの辺に滞在して多くの風景画を残しています。1人も人がいない光景ですが、軒先の屋根に6~7羽の鳩の姿があり、巣箱も見えています。全体的にややぼんやりしていて静けさや長閑さを感じるかな。こちらは院展への出品作とのことでした。

この近くにはこぶとり爺さんを題材にした「瘤取之巻」、初期作の「錦木」、南画風の「赤城路之巻 (小下図)」などもありました。

5 速水御舟 「富士 (小下図)」
こちらは横長で中央に富士山が描かれた作品で、末広がりで山の中腹あたりに雲がかかっています。稜線などに輪郭線が使われていて、色は淡く滲むような表現となっていました。雄大さより静けさを感じるような作品でした。

近くには南画に影響を受けた「山科秋」などもありました。


<第2章 古典への挑戦>
続いては古典を取り込んだ作風のコーナーです。速水御舟は1920年の「京の舞妓」以降、徹底した写実に向かい日本画の絵の具で油彩画的な質感表現に迫ろうとしたようです。その結果、「桃花 」のような厳密な自然観察に基づき精緻に描く宋代院体花鳥画を意識した境地に辿りついたようです。しかしその後は細密描写から離れ、琳派の装飾構成へ志向を強めていきました。速水御舟は生涯を通じて琳派を意識していたようで、先述の通り画号の由来にもしているほどです。ここにはそうした先人から学んだ作品などが並んできました。

8 速水御舟 「桃花」 ★こちらで観られます
こちらは長女の為に描いた桃の花の枝先の絵です。一部をクローズアップしているのは院体花鳥画を意識している為で、「折枝画」の様式に則っているようです。油彩画に質感を寄せていて、淡い金地に写実的で陰影もついて立体的に見えます。この頃、洋画家の岸田劉生と交流があったようで、中国画の話に花を咲かせることがあったのだとか。落款も徽宗皇帝の書に倣っているとのことで、深い研究の成果を観ることができました。

この近くには関東大震災直後の街の様子を描いたキュビスム風の「灰燼」もありました。西洋画も研究していたんでしょうね。

12 速水御舟 「百舌巣」
こちらは最後の部屋にある「炎舞」と同時期の作品で、巣の中に入っている2羽の百舌鳥の雛が描かれています。右の方を見つめていて、その先に親鳥でもいるのかもしれません。羽根の質感や体躯がふわっとした感じですが 目つきは割と鋭くて、可愛いようで警戒しているような緊張感がありました。

42 速水御舟 紅梅・白梅 のうち 「紅梅」「白梅」 ★こちらで観られます
こちらは2幅対で、右幅に紅梅、左幅に白梅が描かれていて、白梅の隣には細長い月も浮かんでいます。背景にはぼんやりと墨が流れるように塗られていて、空間の広がりや梅の香りなどを連想させます。全体的に静寂が漂い、神秘的な光景となっていました。解説によると、これは琳派を学んだ頃に描いたそうで、写実と様式化のバランスが絶妙に思えました。

19 速水御舟 「供身像」
こちらは埴輪の武人を描いたもので、笑みを浮かべてちょっと眉をひそめるような顔つきをしています。全体的に茶色っぽい画面なのですが、ボリュームたっぷりに埴輪が描かれ、さらにその周りにオーラのような流れがあるので存在感がありました。特に解説はありませんでしたが、これも洋画からの影響じゃないかなと思ったり。

この近くには「炎舞」と同じく昆虫を主題にした「葉蔭魔手」や「粧蛾舞戯」などもありました。

23 速水御舟 「翠苔緑芝」
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こちらの作品だけ撮影可能となっていました。速水御舟の作品の中でも特に琳派風に思える作品です。

注目はこの紫陽花の花で、ひび割れの表現に工夫があります。
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ひび割れを作るために胡粉を焼いたりしたそうです。紫陽花の雰囲気がよく出ているように思います。

こちらは紫陽花の近くのウサギのアップ
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金地・緑に白が映えます。赤目もアクセントになっているように思えました。

こちらは黒猫のアップ。
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視線の先には何があるのかな? ウサギとは若干角度が違うように思うけど… 毛並みのふわっとした感じが可愛い。

この隣には同じく装飾的な「名樹散椿」もありました。


<第3章 10ヶ月にわたる渡欧と人物画への試み>
続いては10ヶ月の渡欧とその後の人物画に関するコーナーです。速水御舟は1930年にローマ日本美術展覧会の為に横山大観らと共にイタリアに2ヶ月以上滞在し、さらにギリシャ、フランス、スペイン、イギリス、ドイツ、エジプトなどを10ヶ月間かけて歴訪しました。特にエル・グレコに興味を持っていたようで、スペインでエル・グレコの絵を見るのが大きな目的の1つだったようです。そして帰国すると日本画家のデッサン力不足を痛感し、モデルを使った裸婦デッサンを頻繁に行ったり、人体解剖の講義を聞きに行って人物画に意欲的に取り込んだようです。翌年以降は毎回 人物画を出品していたとのことで、ここにはそうした渡欧や人物画に関する品が並んでいました。
 参考記事:大倉コレクションの精華II-近代日本画名品選- (大倉集古館)

61 速水御舟 「聖フランチェスコ寺のあるアッシジの村 (写生)」
こちらはヨーロッパでのスケッチで、急な坂道とそこに建つ家が描かれています。坂道には女性の姿があり、遠くには山が見えていて、水彩と色鉛筆で写実的に描いています。それが何とも異国情緒があって、風情が感じられました。

他にも同様のスケッチが数点ありました。ギリシャ遺跡を描いた日本画などもあり、変わった画題で面白いです。

80 速水御舟 「裸婦 (素描 9)」
こちらは椅子に座る裸婦の素描です。頭が小さくて、やけに体が大きく見えるかな。肉感的だけどちょっとバランスが妙な感じに見えました。裸婦はそれほど得意じゃなかったのかな??

70 速水御舟 「埃及所見」
こちらはロバに乗った2人のエジプト人と、その後ろで荷物を背負って後を追うロバが描かれています。背景は無地なのですが、紙の繊維?が砂漠のような質感となっていて、余白が見事に生かされていました。構図も面白いし、中々の傑作だと思います。

近くには朝鮮を訪れた時の作品や、裸婦の素描などもありました。


<第4章 更なる高みを目指して>
最後は晩年のコーナーです。速水御舟は渡欧で人物画に挑戦する一方で花鳥画の佳作も制作していました。しかし、自分の絵に批判的だったようで、「世間が褒めてくれる絵を描くのは簡単だけども、これからは売れない絵を描くから覚悟しておいてくれ」と夫人に語っていたようです。1つの画風を極めてはまた崩して新しい画風に挑んでいたのが速水御舟の大きな特徴と言えそうです。晩年には親友の小山大月と共に伊豆に隠棲して制作に没頭する計画を建てていたようですが、40歳の若さで急逝して叶わなかったようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

89 速水御舟 「春池温」
こちらは手前にピンクの桃、背景に水面をターンしている鯉が描かれています。鯉と水面は水墨なので、モノクロとカラーが混ざった斬新な試みとなっています。枝と鯉の体は円を描くような流れとなっているのも面白い構図でした。

この辺には無地を背景にした花のスケッチなどが並んでいました。写実的だけど簡潔な線で簡略化しているように見えました。

91 速水御舟 「椿ノ花」
こちらは無地を背景にした椿の花で、花には滲みを使った「たらし込み」のような技法が観られます。かなり色が強く、特に緑が濃く感じられるかな。やや装飾的で、枝ぶりが窮屈な感じにも思えました。

この近くには「あけぼの」と「春の宵」などもありました。続いては第二展示室です。

98 速水御舟 「白芙蓉」
こちらは白い花と赤い雄しべが目を引く芙蓉を描いた作品です。葉っぱや茎は墨で描いていて、特に茎は安田靫彦が「二度と引けない またと引けない天来の線」と賞賛していたらしく、優美な線となっています。滲みを生かしていて、琳派風となっているように思えました。

13 速水御舟 「炎舞」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている速水御舟の代表作です。炎の周りを蛾が舞っている様子を描いたもので、炎はまるで仏画や不動明王の光背の炎を思わせる装飾性があり、螺旋を描くように舞い上がっています。一方、蛾はみんな正面向きで舞っていて神秘的な光景です。解説によると、速水御舟は軽井沢に3ヶ月間滞在し、毎晩 焚き火をして群がる蛾を観察していたそうです。西洋画のルドンにも蝶を描いた幻想的な作品がありますが、この作品はそれに勝るとも劣らない象徴姓を感じる大傑作だと思います。日本の伝統も組み込んでいるし、観れば観るほど素晴らしい作品です。


ということで、見覚えのある作品が多かったですが、久々に観るものもあって貴重な機会となっていました。画業の変遷も観られるのはこれだけの速水御舟のコレクションを持っている山種美術館でしかできない展示だと思います。特に「炎舞」は近代日本画の中でも屈指の名作ですので、興味がある方は是非どうぞ。

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