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高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの (感想前編)【東京国立近代美術館】

先週の土曜日に東京国立近代美術館で「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」を観てきました。ボリューム感のある展示となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC00502.jpg

【展覧名】
 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの

【公式サイト】
 https://takahata-ten.jp/
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/takahata-ten/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2019年7月2日(火)~10月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構多くの人で賑わっていて、特に冒頭の辺りは混雑感がありました。後半はそれほどでもなかったかな。

さて、この展示は昨年(2018年)の4月に亡くなったアニメーション監督の高畑勲 氏の個展で、初期作品から晩年の作品まで紹介する内容となっています。高畑勲監督作品と言えば映画だと「火垂るの墓」や「かぐや姫の物語」、連続アニメだと「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」などが有名なところでしょうか。まず簡単に略歴があり、それによると高畑勲 氏は三重で生まれ岡山で育ち、東京大学仏文学科を卒業しました。そして1959年に東映動画(東映アニメーション)に入社し、1968年に「太陽の王子ホルスの大冒険」で初の長編演出(監督)を務めました。この「太陽の王子ホルスの大冒険」は大人の鑑賞にも耐える壮大なスケールの映像世界だったようで、その後続々と表現の領域を開拓していくことになります。その後、「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」など人間ドラマを手がけ、1980年代以降は日本を舞台とした「じゃりン子チエ」や「火垂るの墓」、「平成狸合戦ぽんぽこ」といったリアリティを持った作品を手がけます。そして晩年の「かぐや姫の物語」ではスケッチの線を活かした表現に挑み、従来のセル画様式を乗り越える革新的な表現を確立したようです。
構成は時代を追いながら各アニメの制作の様子をブースで展示する感じとなっていましたので、詳しくは各章ごとに気になったキャプションなどと共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:映画「かぐや姫の物語」(ややネタバレあり)


<冒頭>
まずは高畑勲 氏が手がけた作品を振り返るコーナーです。最初に「かぐや姫の物語」のかぐや姫が生まれるシーンと、竹林を模した回廊がありました。ジブリの世界観を再現するのは東京都現代美術館の十八番かと思ってましたが、東京国立近代美術館もこういう凝った展示をするんですね。
その後、年譜があり2018年に82歳で亡くなった時点から遡るような感じとなっていました。「かぐや姫の物語」は2013年、「平成狸合戦ぽんぽこ」は1994年、「おもひでぽろぽろ」は1991年、「火垂るの墓」は1988年(となりのトトロと同時上映)、スタジオジブリ設立は1985年となります。さらにジブリより前は「じゃりン子チエ」の映画や、「赤毛のアン」は1979年、「母をたずねて三千里」は1977年、「アルプスの少女ハイジ」は1974年 といった感じです。 私は「じゃりン子チエ」はそれほど観ませんでしたが、それ以外は子供の頃に観た覚えがあるので、結構お世話になっていたのかも。私の年齢的に本放送ではないので、名作として何度も再放送していたんでしょうね。不朽の名作ばかりです。

さらにここには面白いものがいくつかありました。まず「ドラえもん」のアニメ(日テレ版かテレ朝版か分からず)の企画書があり、これを書いたのが高畑勲 氏だったようです。また、「ルパン三世」の制作絵コンテなどもありました。ルパンは元々シリアスな感じだったのが、高畑勲 氏らによってコミカルな要素を取り入れられました。 ルパンは知っていたけど、ドラえもんにも関わっていたとは驚きでした。高畑勲 氏がいなかったらこの2大国民的キャラクターも今ほど世に出てこなかったのかも…。
 参考記事:ルパン三世展 (松屋銀座)

他には「風の谷のナウシカ」の資料があり、文字でストーリーを説明していました。これはどちらかというと宮崎駿 氏のほうが手がけた感じに思えます。

そしてここにはフランス映画の「やぶにらみの暴君」と「王と鳥」という作品についてのコーナーがありました。簡単にいうと「王と鳥」は「やぶにらみの暴君」のリメイクみたいなもので、アニメ監督のポール・グリモーと国民的詩人のジャック・プレヴェールが手がけました。「やぶにらみの暴君」は1947年から制作していたようですが、制作が遅れて制作費も尽きたことから1952年にプロデューサーが勝手に完成させてしまったそうです。しかし、皮肉にもそんな中途半端な状態でも世界的な評価を得て人気となったそうで、1955年には日本でも公開されて日本のアニメ界にも大きな影響を与え、高畑勲 氏もその1人のようです。アニメーションで内面性や思想を語れるのかと驚いたようで、それがきっかけでアニメの世界へと入っていったのだとか。ここでも「やぶにらみの暴君」の映像を流していましたが、確かに凄いクオリティで、階段を下っていくシーンの滑らかな動きは戦後間もない頃のアニメとは思えない出来栄えでした。
その後、1967年にポール・グリモーが作品の権利とネガフィルムを買い取り、再びジャック・プレヴェールと組んで手を加えて1979年に「王と鳥」と改めて発表されました。


<第1章 出発点 アニメーション映画への情熱>
1章は初期のコーナーです。高畑勲 氏は1959年に東映動画に入社し、演出助手時代には「安寿と厨子王丸」に関わり、「狼少年ケン」でも技術とセンスを発揮したそうです。そして「太陽の王子ホルスの大冒険」は同僚と共に試みた集団制作などにも特徴があるそうで、ここではそうした制作の様子も踏まえて紹介されていました。

まず「安寿と厨子王丸」のセル画がいくつかあり、その近くに入社して間もなく書いた「竹取物語」の漫画映画の企画書がありました。これはプロットの社内募集にも出さず実現しなかったものの、「ぼくらのかぐや姫」という企画ノートにぎっしり書いていたようです。晩年に「かぐや姫の物語」を手がけたことを考えると、およそ半世紀も前から構想はあったのかも知れませんね。

その後に「狼少年ケン」の絵コンテや資料、ゴリラと戦う172話の映像などを流していました。ちょっとこの辺は現代には通じないかも…。

そして「太陽の王子ホルスの大冒険」のコーナーがありました。この作品は企画から3年半かかっているようで、交渉資料なども残っています。作画が完了するのは何時か?などのやり取りがあり、スケジュールの遅延で制作を中断を言い渡されたこともあったようです。また、この作品ではスタッフの意見を取り入れる方式が取られたそうで、分業になっても全員が何を作っているのか分かるようにキャラクター・企画・脚本なども全員で意見する民主的な環境だったようです。最若手の動画員として宮崎駿 氏が参加していて、村の労働の様子を緻密に描くことでリアリティが生まれるなどの意見があったようです。この方式があったからこそクオリティが上がったのが伺えます。これは一般的な企業でも重要と言われる目的意識に繋がる施策だけに学ぶ所は大きいですね。

ここで面白いのが、物語を観る感情の起伏を表現した「番盤表」というもので、どこで感情が盛り上がるのかが時系列的に表現されています。また、登場人物の登場している箇所をガントチャートのように表したり、人物の関係図を描くなど、様々な角度で物語性を深く追求しているようでした。

その先には東映動画のアニメーターの机などもありました。割と普通の学習机みたいなw そして「太陽の王子ホルスの大冒険」の一部を映像で流していました。絵柄は時代を感じますが、動きが多く躍動感があり民族音楽のような音楽も印象的です。元々はアイヌの神話をベースに脚本を組んでいるらしく、音楽は間宮芳生 氏に依頼したのだとか。

少し先にはもう1人の主人公であるヒルダという少女のコーナーもありました。このヒルダは悪魔の妹で村を滅ぼす一方で、人間的な感情もあるそうで、ベテランアニメーターの森康二 氏が担当して 苦悩と悲しみの目・眉と、嗤いの口をモンタージュした般若のような複雑な表情となったそうです。私はこの映画を観たことがありませんが、これらの資料を観ていると相当に考え抜かれて作られているようなので、一度観てみたくなりました。

その後は「やぶにらみの暴君」も手がけた詩人ジャック・プレヴェールの本がいくつか並んでいました。これらは高畑勲 氏が翻訳し、現代アーティストの奈良美智 氏が挿絵を描いたもので、奈良美智 氏らしい女の子の絵が字の上にまで描いてありますw 豪華なコラボレーションですが、ジャック・プレヴェールは反権力・反権威的な作風らしいので、3人の共通項が何となく納得できました。
 参考記事:奈良美智 君や 僕に ちょっと似ている (横浜美術館)


ということで、長くなったので今日はこの辺にしておこうと思います。前半は資料が多かったように思えますが、早くも高畑勲 氏らしさを感じられるエピソードもあって興味深い内容でした。後半はセル画や原画が多めとなっていましたので、次回はそちらについてご紹介予定です。

 → 後編はこちら

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