関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回に引き続き竹橋の東京国立近代美術館の「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」についてです。前半は1章まででしたが、後編は2~4章についてご紹介して参ります。

 → 前編はこちら

DSC00511_201907152208004db.jpg

【展覧名】
 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの

【公式サイト】
 https://takahata-ten.jp/
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/takahata-ten/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2019年7月2日(火)~10月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半は各時代ごとにアニメ作品のセル画や原画などが並んでいました。引き続き、気になったキャプションなどと共にご紹介していこうと思います。

<第2章 日常生活のよろこび アニメーションの新たな表現領域を開拓>
2章は日常生活を舞台にした作品が多いコーナーです。東映動画を去った高畑勲 氏はAプロに入り、「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」といったテレビの名作シリーズを手がけ、新境地を開きます。ここにはそういった作品にまつわる品が並んでいました。

[パンダコパンダ]
まず「パンダコパンダ」の絵コンテや「長くつ下のピッピ」に関する品がありました。元々は「長くつ下のピッピ」のアニメを企画していたそうですが、原作者に不許可とされ 代わりに立てた企画が「パンダコパンダ」だったそうです。当時のパンダブームに乗って人気となり、映画化もされていて、映画館では馴染みやすい「パンダコパンダ」の主題歌を歌う子供で溢れたようです。この作品はCSで観たことがあるけど、確かに一度聞いたら耳に残るフレーズかなw トトロの原点はパンダコパンダのパパンダではないか?と思うほどキャラクター的に似たものを感じます。

[アルプスの少女ハイジ]
そしてその後は「アルプスの少女ハイジ」のコーナーで、最初に「レイアウト」というものがありました。このレイアウトは絵コンテと作画の間に描かれるもので、これによって画面の設計をしてクオリティの維持を図ることもできるようです。書き込みも入っていて意図を徹底して統一しているようでした。また、ハイジで面白いエピソードが海外へのロケハンで、高畑勲 氏、宮崎駿 氏、小田部羊一 氏(作画監督)の3人で実際にアルプスに出向いて行ったようです。現地ではハイジの家のモデルとなった山小屋を観たり、物語に出てくる町並みを観たりと 制作において大きな収穫となった様子が伺えました。この後の作品でも高畑勲 氏はロケハンを行っているようなので、やはりリアリティを出すためには欠かせないのでしょうね。

この先にはセル画などもありました。井岡雅宏 氏による背景は絵画的で、これだけでも絵画作品と思えるくらい情感溢れる光景でした。また、オープニングでハイジとペーターが輪になって踊っている原画なんかもあって、ちょっと懐かしい感じw 会場ではハイジのオープニングの映像も流していました。

ハイジのコーナーには舞台となった山小屋や町並みのジオラマがありました。ここだけ撮影可能です。
DSC00506.jpg
山小屋がやたら大きい気がしますが、よく出来ています。モデルになったのはマイエンフェルトという町です。

丘を観ると走って登るペーターの姿があります。
DSC00513.jpg
とんでもない急勾配ですw 厚着していたハイジが、暑くてどんどん脱いで下着姿で駆け上るシーンとかありますが、それも納得ですw

山小屋ではハイジだけでなくおじいさんとヨーゼフもいました。
DSC00514.jpg
おじいさんは元傭兵という設定があります。村人と離れて暮らしたいので山小屋に住んでいたり、割と闇は深いw

山の麓には鉄道も走っている町があります。
DSC00508.jpg
鉄道に乗ってフランクフルトに行く話とかありましたね…

こうした地形もしっかり設定としてあるようで、アニメをじっくり観るとこのジオラマの造りになっているのかも?? 観る機会があったら注意して観ようと思います。

その後に、小田部羊一 氏によるハイジのキャラクター設定がありました。最初は三つ編みのおさげでソバカスのある顔となっていて、イメージがだいぶ違います。むしろ赤毛のアンみたいな感じでした。

[母をたずねて三千里]
このコーナーには原画や背景画がありました。やはり22日間のロケハンをしていたようで、美しい背景画が物語を彩ります。郷愁と旅情を誘う異国情緒がたまりません。このアニメは全部観たことは無いので話をあまり覚えていません… ちなみに英語のタイトルは「アペニン山脈からアンデス山脈まで」となるので、終着地の壮大なネタバレ感がありますw

[赤毛のアン]
続いては「赤毛のアン」のコーナーで、絵コンテやラフ原画、レイアウトなどが並んでいます。原作のセリフを重視して作っていたそうで、独特の美化された表現がこの物語の魅力と言って良いのではないかと思います。ここにはキャラクタースケッチなどもあったのですが、この作品から小田部羊一 氏ではなく近藤喜文 氏が担当したようです。また、途中で宮崎駿 氏が抜けて「ルパン三世 カリオストロの城」の監督となったようで、絵柄もテイストが少しだけ変わった感じもしました。


<第3章 日本文化への眼差し 過去と現在の対話>
続いては主に1980年代の作品のコーナーです。これまで海外が舞台の作品が多かったですが、この頃から高畑勲 氏は日本を舞台にした作品を手がけていきました。1981年の「じゃりン子チエ」、1982年の「セロ弾きのゴーシュ」、以降は日本に特化し、日本の風土や庶民の生活のリアリティを追求していきます。そして1985年にはスタジオジブリの設立に参画し、「火垂るの墓」など代表作となる作品も手がけて行くことになります。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

[じゃりン子チエ]
大阪の下町を舞台にした作品で、これもドヤ街の木賃宿に宿泊してロケハンを行ったそうです。レイアウトも町のごちゃごちゃ猥雑な感じが出ているかな。私が2000年くらいに新世界の辺りに行った時、じゃりン子チエの世界そのもので驚いたのをよく覚えています。妙にリアルで子供の頃はちっとも面白いと思わなかったけど、今見たら面白いのかも。。。

[セロ弾きのゴーシュ]
こちらは自主制作のアニメで、宮沢賢治の童話を原作とした作品です。背景画がファンタジーっぽい感じもあって、映像を観ていると音楽にも凝っているようでした。この話、猫がちょっと気の毒なんですよね…w

[柳川堀割物語]
こちらは実写のドキュメンタリー映画で、福岡県柳川市の水路「堀割」に関する内容となっているようです。ロケハンで九州を訪れた際、汚染の進む堀割の埋め立て計画を撤回させた市職員(広松伝 氏)に出会い、市民との協働で美しい堀割を取り戻した実話に感銘を受けてこの映画を作ることにしたそうです。5年もかけて自主制作したらしく、里山をテーマに繋がる視点を獲得し、ドキュメンタリー的なアニメに舵を切ったそうで、後の「平成狸合戦ぽんぽこ」などにも影響を与えているようでした。これは存在自体を知らなかったので、ちょっと興味が湧きました。テーマや内容がジブリの作品のメッセージに近しいように思えます。

[火垂るの墓]
高畑勲 氏の作品の中でも特に評価の高いのはこの「火垂るの墓」ではないでしょうか。ここには絵コンテ、レイアウト、イメージボードなどが並び、駅でうなだれて死ぬシーンをはじめ 見覚えがあるシーンが多々ありました。会場にはB29の焼夷弾とホタルの光が一体化したポスターの大型版があり、光が揺らめいていました。他にも美術ボードがあり、リアリティを感じる暗い雰囲気になっています。また、ここには色指定の資料もあり、同じキャラクターでもいくつかバージョンがあり、夜色や橙色バージョンなどかなり細かい指定となっていました。他にも人形、レコード、食器など一瞬しか出ないようなものまでしっかりと色指定しています。こうした入念な色の指定が印象的なシーンを生むんですね…。 
 参考記事:「映画を塗る仕事」展 (三鷹の森ジブリ美術館)

[おもひでぽろぽろ]
私が高畑勲 氏の作品で最も好きなのがこの映画ですw 子供の時はちっとも面白いと思わなかったのですが、大人になったら非常に面白くなりましたw ここにもレイアウトがあり、やはり山形でロケハンしてきた成果が生かされているのが分かります。また、この映画は先に声を録るプリレコの方式で作られたそうで、その際の役者たちの顔の動きなどを記録し、シワや筋肉の動きを作画にも生かしているようです。以前 私がこの映画で苦手だったのは やたら人物のシワが多い点だった訳ですが、これはシワなどで心の表現をしている為のようでした。 …今でもちょっとやりすぎじゃないかとは思いますw
他にはセル画などが並んでいました。失われつつある昭和の頃の風景などが懐かしく、ノスタルジックな気分になります。

[平成狸合戦ぽんぽこ]
こちらも高畑勲 氏の中でも有名な作品かな。ここにはタピストリーのように繋がれたイメージボード(の複製)や美術ボードなどがありました。季節感がある絵もあるけど、一方で多摩丘陵が無残に削り取られるシーンなんかもあって、この映画のテーマを如実に示しているように思います。ここまで観てくると、この作品は先程の「柳川堀割物語」のドキュメンタリー性や、浮世絵や祭りといった日本文化の研究成果を融合させたものだというのがよく分かります。この作品も歳を取るに連れて好きになったので、子供より大人向けなのかもしれませんね。


<第4章 スケッチの躍動 新たなアニメーションへの挑戦>
最後は90年代以降のコーナーです。90年代は絵巻の研究に没頭し、日本の視覚文化の伝統を掘り起こすことに力を入れていたようで、人物と背景が一体化したアニメーションの新しい表現を模索したようです。そしてそれは「ホーホケキョ となりの山田くん」と「かぐや姫の物語」に結実し、デジタル技術を利用し、手書きの線を活かした水彩画風の描法に挑み、セル画様式とは一線を画した表現となりました。

ここにはフレデリック・バックの「木を植えた男」についてのコーナーがありました。何年か前にこの作品の展示をやってた記憶がありますが、このアニメーションは高畑勲 氏にも大きな影響を与えていて、フレデリック・バックをアニメーションの師と仰いでいたようです。素描をアニメにしたような感じなので、確かに方向性は共通しているように思えます。高畑勲 氏はフレデリック・バックが亡くなる8日前に「かぐや姫の物語」を観て貰って賞賛されたそうで、2人の関係性も伺えました。

[ホーホケキョ となりの山田くん]
こちらは素朴な線が動くアニメで、普通のセル画のアニメとは違った味わいとなっています。まさに水彩画が動いているような感じなのですが、これを作るのには気の遠くなるような作業が必要だそうで、素朴に見えてかなりの力作のようです。この映画は観ていないのですが、アニメに疎いので普通のアニメよりシンプルな造りなのかと思っていましたw MoMAのパーマネントコレクションにもなっているそうで、詳しい人には評価が高いアニメのようでした。

[かぐや姫の物語]
こちらは最後の映画で、8年かけて映画化したものです。山田くんで培った表現をさらに進化させ、線の力を活かし、あえて塗り残したりして、ドローイングアニメーションの原点に立ち戻ったようです。そのため、線画のダイナミズムが生まれて迫力ある映像を生んでいるようです。ここでは かぐや姫がいたたまれなくなってダッシュで屋敷から逃げるシーンを流していて、非常に躍動感がありました。物凄いスピードで走っているのがよく分かるw わずか2秒の為に52枚もの絵を描いていたりするそうで、この作品も荒々しく見えて非常に手間がかかっているようでした。観た当時はそんなこと分からなかったので、この展示を観て納得。アニメの表現の革新とか、一般の視聴者が期待するものとは違う次元で挑戦していたのですね…。
 参考記事:映画「かぐや姫の物語」(ややネタバレあり)


ということで、後半は代表作が目白押しとなっていて各作品の意図などもよく分かるようになっていました。今まで映画を観ても気づかなかった点や、各作品を並べることで表現を発展させていったことも理解できたように思います。高畑勲 氏やスタジオジブリの作品が好きな方はこれを観ることで一層に理解が深まると思いますので、ファンの方にオススメの展示です。

おまけ:
会場出口にあったハイジの山小屋の内部の模型
DSC00525.jpg
こうしてみると結構狭いかも
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