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没後50年 坂本繁二郎展 (感想前編)【練馬区立美術館】

この間の土曜日に練馬区立美術館で「没後50年 坂本繁二郎展」を観てきました。充実の内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 没後50年 坂本繁二郎展

【公式サイト】
 https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201906011559351169

【会場】練馬区立美術館
【最寄】中村橋駅

【会期】2019年7月14日(日)~9月16日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は独特の静けさを漂わせる馬や牛を描いた作品を多く残した坂本繁二郎の回顧展となります。坂本繁二郎は幼い頃から神童と呼ばれ、小学校時代の同級生には青木繁がいて互いに切磋琢磨した青春時代を過ごします。後にフランス留学を経て己の目指す美術の道が正しいことを確信し、やがて独自の絵画表現を切り開いていきました。この展示では幼少期から晩年まで時系列や作品テーマ別に構成されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 神童と呼ばれて 1897-1902年>
まずは幼少期の頃のコーナーです。坂本繁二郎は1882年に久留米で生まれ、父も母も絵心があったそうです。10歳の時にそんなに絵が好きならと知人の紹介で洋画家の森三美の画塾へと通いはじめ、日本画が普通の時代に洋画家に接して遠近法などに驚いたようです。坂本繁二郎の4ヶ月遅れで青木繁も久留米に生まれ、小学校で2人は出会って青木繁も森三美の画塾へと入っています。森の画塾では模写が中心で、手製の絵の具とカンバスの作り方なども教わっていたようです。やがて坂本繁二郎は神童と呼ばれ、森の後任として久留米の高等小学校の代行教員も務めましたが、本格的な洋画習得には東京を目指す必要性を感じていました。一足先に東京美術学校で学んだ青木繁が徴兵の検査で帰省すると、その上達ぶりに触発されて上京を決意するようになりました。ここには上京前の作品などが並んでいました。

1 坂本繁二郎 「立石谷」 ★こちらで観られます
こちらは15歳の時の作品で、流れ落ちる滝を描いています。白黒で表された日本画で、水が勢いよく流れて飛沫を上げる様子や、岩の硬そうな質感などを濃淡のみで見事に描き分けています。卓越した技術や構成で、神童と呼ばれた理由がよく分かる作品でした。

2 坂本繁二郎 「夏野」
こちらは16歳の頃(森三美の画塾で学んでいた頃)の作品で、畑と小高い丘が広がる風景が描かれています。空には暗い雲が去りつつあり、虹も掛かっています。夕立の後らしく まだ暗いものの晴れ初めて光が差してきているような感じです。畑のあたりには前かがみで歩く人などもいて、夕立の臨場感なども出ていました。遠近法を見事に使いこなして結構大胆な画風に思いました。

5 坂本繁二郎 「刈入れ」 6 森三美 「刈入れ」
こちらは同じような構図の作品が2つ並んでいました。藁束の側に休む人や馬、衝立のようなものが観える光景で 所々にモチーフの違いがありますがほとんど同じ様子となっています。森のほうは水彩、繁二郎は和製絵具で色の乗りが違って見えて、森の方が精緻な印象を受けるかな。繁二郎はのんびりした雰囲気に思えました。

この辺には森三美の作品や、青木繁の海を描いた絶筆などもありました。青木繁とは1902年に群馬や長野にスケッチ旅行にも出かけていて、切磋琢磨しあう仲でした。
 参考記事:没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術 (ブリヂストン美術館)


<第2章 青春-東京と巴里 1902-1924年>
続いては上京からパリ留学の頃のコーナーです。坂本繁二郎は1902年に青木繁と上京し、画塾 不同舎に入門し 後に太平洋画会研究所で学んでいます。東京では自己流を精算し本格的な洋画の会得を目指していたようです。青木繁の方が先に名が売れたようですが、1907年の東京勧業博覧会で青木繁は不本意な結果を受け、父の死もあって帰郷しています。その後は九州で放浪の末に1911年に病に倒れて若くして亡くなってしまいました。 一方で坂本繁二郎は文展に入選(青木繁は落選)し、1910年には妻を描いた作品で褒状を獲得、1912年の第6回文展では夏目漱石の目にとまり理解を得て大きな励みになったようです。1914年には文展から独立を図る二科会に誘われ、以降は二科展が主な発表の場となっています。夏目漱石の目にとまった「うすれ日」以降、牛のテーマにこだわって描いていましたが、1920年の「牛」を総決算としてフランス留学を決意しました。1921年にはパリに渡って、二科会をはじめとした多くの日本人留学生と交流し、アカデミー・コラッシでシャルル・ゲランに師事しました。しかし半年で辞めてしまい、以降はパリ近郊のブルターニュ地方で写生したり、アトリエで人物画制作に励んだようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

22 坂本繁二郎 「うすれ日」
こちらは千葉県の御宿で描いた作品で、第6回文展で夏目漱石に注目されて出世作となりました。木の脇で佇む牛が描かれ、ぼんやりした印象ですが背中の部分に光が当たっているなど、柔らかい日差しが感じられます。後の繁二郎らしい画風に繋がっていくような特徴も観られて、静かで繁二郎の精神的なものが出ているようにも思いました。

16 坂本繁二郎 「町裏」
こちらは画壇のデビュー作で、町の裏通りのような所の人々が描かれています。不同舎では石膏像やヌードモデルを用いた本格的な人物デッサンを学んでいたそうで、ここでは薪を運ぶ半纏の男性たちを力強く描いています。色は落ち着いていて 若干ぼんやりした感じもありますが、逞しい体つきで動きまで感じられるデッサン力でした。

20 坂本繁二郎 「張り物」
こちらは第4回文展で褒状を貰った作品です。縁側で奥さんが張り物(着物にノリや染料を塗る作業)をする為に前かがみになっている様子が描かれ、周りには赤い水の入ったタライなども置かれています。衣は赤く、そこに光があたって反射していて 奥さんは下からの照り返しで赤く染まっている部分もあります。全体的に明るく爽やかな色彩で、生き生きとした雰囲気となっていました。

この近くには牛、馬、豚などを描いた作品が並んでいました。

30 坂本繁二郎 「牛」
こちらは第7回文展の出品作で、これを総決算としてパリに留学する決意をしました。全体的に白黒の沈んだ色彩で、樹の下で伏せている白黒の牛を描いています。牛はうずくまるような姿勢で、色彩と共に静かで重々しい印象を受けるかな。画面が大きいこともあって異色の作品に思えました。

36 坂本繁二郎 「ヴァンヌ郊外」
こちらは北仏ブルターニュのヴァンヌの光景を描いた作品で、坂本繁二郎はここに1ヶ月滞在したようです。ピンクや水色を多く使ってぼんやり淡い色彩で描いていて、家々が連なり 通りには猫らしき影もあります。細部はハッキリしないものの、この地で活躍したナビ派やゴーギャンに通じるものがあるかな。実際、坂本繁二郎はゴーギャンに惹かれていたようです。繁二郎のルーツが垣間見られる作品でした。

この辺にはアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)の「帽子を持てる女」などもありました。フランス時代の代表作です。


<第3章 再び故郷へ-馬の時代 1924-1944年>
続いては帰国後のコーナーです。坂本繁二郎は1924年9月に帰国すると、東京ではなく久留米に戻りました。フランス留学で得たのは「画人としての歩みようについて日本で抱いていた気持ちに少しも迷いが生じなかった」ことだったそうで、豊かな明るい色調に堅牢なマチエールの獲得も留学の成果と言えるようです。1931年には画壇の煩わしさを避けて八女に転居し、自宅から1キロの場所にアトリエを建てて毎日通って制作に没頭しました。当時の関心は馬にあり、九州各地の放牧場や馬市に出かけて取材したそうで 馬を描くきっかけとなったのは友人でアトリエの土地を提供した梅野満雄だったそうです。1939年には専属の画商も得て坂本繁二郎の作品が世の中に出ていきましたが、一方で戦時色が強まり旅行なども不便になり、馬も減って 自身の視力も衰えた事から身近な自然である柿・栗・馬鈴薯などを描くようになっていきました。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

46 坂本繁二郎 「自像」
こちらはフランス時代から描いて帰国後に仕上げた自画像です。薄い黄土色を地に、似たような色の服と帽子の姿で描かれていて 振り返るようなポーズでやや怪訝そうな顔でこちらを見ています。解説によると厳しい表情に1人で信じる絵の道を進む覚悟が出ているのではないかとのことで、この頃の心境が現れた作品のようでした。

47 坂本繁二郎 「鳶形山」 ★こちらで観られます
こちらは自宅から見える八女の山を描いた作品です。地平線がかなり下の方にあり 画面の大半は空と雲になっているのですが、雲はやけにカクカクした十字形の不思議な形をしています。文豪の川端康成は、この絵の雲を随筆『花は眠らない』の中で「食パンを切ったような十字型の雲」と著しているそうで、確かにその通りに見えますw 山よりも雲が目立っていて、ややシュールな印象を受けました。

この辺には林檎、馬鈴薯、柿などを描いた作品も並んでいました。

58 坂本繁二郎 「柿」
こちらは枝のついた4つの柿を描いた作品です。枝は連続した流れのように配置されていて、リズムがあって面白い効果となっています。全体的に落ち着いた色調で明暗は浅めに見えるかな。素朴な自然を感じる作品でした。

この部屋の最後には帰国後に初めて描いた馬の絵もありました。坂本繁二郎は「馬と柿は一生描く」と言っていたそうで、牛から馬に乗り換えたという旨の発言もあったようです。坂本繁二郎が馬のイメージが強いのはこの時代の為でしょうね。

56 坂本繁二郎 「窓の馬」
こちらは馬房の窓から頭を出している馬を描いた作品です。こちらを観ている馬の目が優しくて何とも可愛いw 茶色と水色で陰影をつける表現は坂本繁二郎ならではで、馬への愛情も感じられる穏やかな雰囲気となっていました。

この部屋は馬の作品がズラリと並んで壮観でした。坂本繁二郎の代表的な画風というとこのコーナーの作品ではないかと思います。

48 坂本繁二郎 「放牧三馬」
こちらは第19回二科展の出品作で、坂本繁二郎の代表作の1つです。青空を背景に3頭の馬が寄り添っていて、特に中央の白馬が目を引きます。金色のたてがみで光を浴びて神々しい雰囲気です。また、隣の馬は後ろ向きで、ポーズの対比なども面白く感じられました。動きもあるし、この展覧会でも指折りの傑作だと思います。
ちなみにこの作品は旧ブリヂストン美術館の所蔵品です。来年早々にアーティゾン美術館として生まれ変わるので、また観られる機会もありそうです。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。3章には坂本繁二郎の代名詞とも言える馬の作品が多く並んでいて、それを観られただけでも満足度の高い内容でした。後半は静物を中心に晩年の幻想的な作品なども並んでいましたので、次回は残りの4~5章をご紹介していこうと思います。

  → 後編はこちら

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