関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

原三溪の美術 伝説の大コレクション (感想前編)【横浜美術館】

日付が変わって昨日となりましたが、土曜日に桜木町の横浜美術館で「横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション」を観てきました。見所が多い展示でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念
 原三溪の美術 伝説の大コレクション

【公式サイト】
 https://harasankei2019.exhn.jp/
 https://yokohama.art.museum/exhibition/index/20190713-538.html

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅

【会期】2019年7月13日(土)~9月1日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多くて場所によっては混雑していました(ちょうど高校生以下が無料の日だったようです)

さて、この展示は横浜と深い縁のある原三溪のコレクションを紹介する内容となっています。原三溪は生糸貿易や製糸業で財を成した実業家で、関東大震災以降の横浜の復興に大きく貢献した偉人でもある訳ですが、美術に造形が深く「古美術のコレクター」「茶人」「アーティスト」「パトロン」の4つの顔も持っていました。生涯5000点ものコレクションがあったようで、この展示ではそのうち150点を前述の4つの顔ごとに章分けするという趣旨となっていました。詳しくは各章ごとに気になった作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この展示は細かく6つの会期に分けられていて、私が観たのは4期(2019/8/10)の内容でした。
 参考記事:
  三渓園の写真 (2013年6月 外苑編)
  三渓園の写真 (2013年6月 内苑編)

  
<プロローグ>
まずは2~5章に属する作品を数点ずつ紹介し、簡単に原三溪の人物像を紹介するコーナーとなっていました。

104 原三溪 「白蓮」 ★こちらで観られます
こちらは原三溪 自らが描いた掛け軸で、白い花を咲かせる蓮が描かれています。蓮は生涯で最も多く描いたモチーフらしく、故郷の岐阜で生産が盛んなことや茶席で供する食材としても親しみがあったようです。淡い色彩で輪郭を使わない没骨法や付立法を用いて描いているようで、優しい印象を受けます。原三溪は円山四条派の作品を所有したり、琳派をいち早く評価していたようで、そうした先人の作風を自らの表現に組み込んでいったとのことでした。中々素人離れしたセンスを感じる作品です。

46 伝 本阿弥光悦 「沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒」 ★こちらで観られます
こちらは蒔絵の笛の筒で、側面には螺鈿や鉛貼付で白・黒・青の鹿が23頭も表されています。軽やかなリズム感があり、何とも雅な雰囲気です。この展示の中でも特に目を引く作品でした。

この近くには茶人の側面として、掛け軸・香炉・硯台などもありました。また、パトロンとして今村紫紅の「伊達政宗」、下村観山の「十六羅漢」が並んでいました。いずれも横浜美術館の所蔵品なので見慣れた感じでした。


<1章 三溪前史-岐阜の富太郎>
続いては原三溪がまだ原家に婿養子となる前のコーナーです。原三溪は今の岐阜市で代々庄屋を務めていた青木家の長男「富太郎」として生まれました。父は村長を務め、母は南画家の娘(生まれる数ヶ月前に他界した母方の祖父は南画家の高橋杏村)だったようです。幼い頃から勉学に励む傍ら、母方の叔父(高橋抗水)に絵画や詩歌を学び、12歳からは漢詩・漢文・儒教の素養も身につけていきました。17歳で上京し、東京専門学校(今の早稲田大学)に政治と法律を学び、その後に跡見学校で助教師として教鞭を取っています。そこで教え子だった原善三郎の孫娘のやす(安)に見初められ、1981年23歳の時に結婚して原家に入籍しました。1899年に原家の家業の生糸・製糸業を継ぐと、近代的な経営手段を積極的に取り入れて事業を拡大したようです。 この章では原三溪が青木富太郎だった時代を中心に、生涯において重要な心的支えであった岐阜との関わりなども紹介されていました。

1 高橋杏村 「紅葉山水」
こちらは母方の祖父の作品で、富太郎が生まれる頃には亡くなっていたそうです。溪谷の様子が描かれた風景画で、天秤を担いで橋を渡る人の姿なども描かれています。控えめな色彩でのんびりした雰囲気があり、米点描法を用いて南画らしい作風です。
この隣には富太郎が師事した叔父の高橋抗水の作品もあり、高橋杏村の画風を受け継いでいることが伺えました。

4 原富太郎 「乱牛図」
こちらは16歳の頃に描いた掛け軸で、書経の故事『帰馬放牛』に取材した場面となっています。無数の牛が野山でのんびりしていて、人が乗ってたり、水に入ったり、寝転んだりとほのぼのした雰囲気です。筆致は結構細かくて生き生きしてるかな。かなりの腕前で、旧藩主から声が掛かるほどだったそうです。漢詩も書かれ、16歳にして深い造詣を得ていたことが伺えました。

この近くには岐阜にいた頃の写真や、日記などもありました。


<2章-1 コレクター三溪>
続いては古美術コレクターとしてのコーナーです。原三溪は原家に入籍してきてから晩年までの37年間に売買した実績を全5冊の買入覚に書いていたようで、大正中頃をピークとして 関東大震災を境に大幅に収集を縮小していたのが分かるようです。巨費を投じて豪華な所蔵名品選『三溪帖』を企てたものの、出版直前に関東大震災で消失してしまい未刊となったようです。(草稿は残ってたみたいです) ここでは『三溪帖』に掲載される予定だった作品を中心に紹介していました。

5 「愛染明王像」 ★こちらで観られます
こちらは真っ赤な体に6本の腕と3つの目を持つ愛染明王の仏画です。愛欲を悟りに変えてくれる仏で、平安時代に信仰を集めたようです。目を見開き口を開けて、迫りくる勢いと力強さを感じます。色彩も驚くほどに鮮やかで一際目を引きました。原三溪はこの愛染明王像について「余ガ見タル愛染像中ノ最古ニシテ最良ナルモノナリ」と評していたようです。確かにこれだけの愛染明王像は滅多になさそうな名品です。

この辺は仏画や仏像などが多かったかな。今回のポスターにもなっている「孔雀明王像」は既に展示終了となっていました。残念。

56 最澄 「尺牘(久隔帖)」
こちらは最澄が空海の元にいた弟子の泰範に宛てた書状で、現存唯一の最澄自筆の書状です(国宝)。中身は空海の五言律詩に不明な書名があるから大意を聞いて欲しいといったことが書いてあるようで、徐々に左下がりに改行してたり、列が斜めっているような気もしますw しかし、大阿闍梨と書くところで改行するなど、年下の空海に対して敬意を表す様子も見て取れるとのことでした。まだ仲が良かった頃でしょうね…。

近くには「寝覚物語絵巻」(★こちらで観られます)や、伝 藤原伊房の「万葉集巻第九残巻(藍紙本)」、藤原伊行の「芦手絵和漢朗詠抄 上巻」といった国宝がズラリと並んでいました。個人でこれだけ国宝となる作品を集めていたとは恐るべきコレクションです

24 雪舟等楊 「四季山水図(秋)」
こちらは恐らく雪舟が明に渡っていた頃に描かれたものと考えられる掛け軸です。大きな山を背景に山間の家々などが描かれています。岩のカクカクした感じや木の表現に雪舟らしさを感じるかな。幾何学的なリズムもあって面白い作品です。

すぐ近くには伝 雪舟等楊「四季山水図巻」(★こちらで観られます)もありました。これも雪舟らしい画風で、原三溪は亡くなる2日前にも開いて観ていたほど気に入っていたそうです。雪舟自身の作かどうかは異論もあるようですが、名品なのは確かに思えました。

34 伝 狩野山楽 「黄初平・許由巣父図」
こちらは水墨の六曲一双の屏風で、右隻は晋時代の仙人の黄初平、左隻には許由と巣父が描かれています。黄初平は白石を数万頭の羊に変える仙術を使うそうですが、ここでは岩に腰掛けて枝を手に持っていて、隣に座っている人と対話しているようにも見えます(後ろにもう1人、お供らしき人の姿も) 一方の左隻は有名な故事を題材としていて、堯帝から汚れた話(帝位を譲るという話)を聞いたので耳を清めようと滝で耳を洗う許由と、その水を牛に飲ませずに立ち去る巣父の姿が描かれています。いずれも輪郭や濃淡に強弱を付けていて、動きを感じる闊達な雰囲気となっていました。

この近くには中国の重要な画家たちの掛け軸も並んでいました。また、『三溪帖』の草稿なども並んでいました。

36 「南蛮図屏風」
こちらは六曲一双の屏風で、金雲棚引く中に南蛮船が到着した港町が描かれています。マント姿や宣教師の姿など異国情緒がある雰囲気で、中には黒人なども描かれています。また、町並を描いた辺りが連続しないような場面となっていて、これはいくつかの典型的な南蛮図を参照して描いた町絵師が、新しい新しい表現を試みたのではないかとのことでした。そこはちょっと不自然さはあるものの、当時の様子が伝わってくる作品だと思います。

この近くには宮本武蔵による掛け軸などもありました。原三溪は武人など専門の絵師ではない人の絵を好んでいたようで、そうした絵を集めて『余技』という本も出しているそうです。自分の境遇と重なる部分があったのかもしれませんね。


ということで長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。原三溪のコレクションには国宝となった品も含まれていて、雪舟や本阿弥光悦など非常に豪華な顔ぶれとなっています。特に2章は点数も多くて見ごたえがありました。後半も珠玉のコレクションが並んでいましたので、次回は残りの展示についてご紹介の予定です。

  → 後編はこちら 

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