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山口蓬春展 新日本画創造への飽くなき挑戦 (感想前編)【日本橋タカシマヤ】

この間の土曜日に日本橋の日本橋タカシマヤ8階で「山口蓬春展 新日本画創造への飽くなき挑戦」を観てきました。この展示は既に終了していますが、大阪への巡回があり 今後の参考にもなりそうでしたので前編・後編に分けて記事にしておこうと思います。

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【展覧名】
 山口蓬春展 新日本画創造への飽くなき挑戦

【公式サイト】
 https://www.takashimaya.co.jp/store/special/event/hoshun.html

【会場】日本橋タカシマヤ(日本橋高島屋)
【最寄】日本橋駅

【会期】2019年8月7日(水)~8月19日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会場が狭いこともあって場所によっては混雑感もありましたが、概ね自分のペースで観ることが出来ました。

さて、この展示は大正から戦後に活躍し「蓬春モダニズム」と呼ばれる西洋画の要素を感じさせる日本画で名高い山口蓬春の個展となっています。デパートの催事場での展示ということで50点程度の内容ですが、初期から晩年まで網羅的に並び 代表作も数点あるなど充実のラインナップとなっていました。
まず簡単に山口蓬春の略歴があり それによると、1893年に北海道の松前で生まれ1915年に東京美術学校西洋画科に入学しました。後に日本画科に移り、そこで松岡映丘に師事しています。卒業後は松岡映丘が主催する「新興大和絵会」の同人となり、1926年に帝展に出品した作品が特選・帝国美術院賞・皇室買い上げという三重の栄誉を受けて華々しいデビューを飾りました。その後、大和絵の第一線で活躍していたものの、より自由な表現を求めて流派を超えた「六潮会」に参加し、絵画感覚を磨いていきます。戦後は伝統的な日本画の技法を規範としつつ、マティスやブラックら西洋近代絵画の表現を吸収して「蓬春モダニズム」と呼ばれる清新な作風を作り上げました。しかし、その作風にも留まることはなく写実的な画風を経て 晩年は日本と西洋の融合を目指し、再び日本の伝統的な画題へと回帰していったようです。 この展示ではそうした画風の変遷を6章に分けて構成していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<Ⅰ やまと絵の頂点へ>
まずは初期のコーナーです。西洋画科に入学した山口蓬春(洋画時代は本名の山口三郎)は二科展に入選するなど洋画家への道を進んでいましたが、指導教授の長原孝太郎から助言を受けて 悩んだ末に日本画科へと転科し、そこで指導に当たったのが松岡映丘でした。この頃の生活は苦しかったようで、京都に移住して古都の風景を描いて生計を建てていたようです。そこで観た新鮮な感動を卒業制作の「晩秋(深草)」や帝展で初入選した「秋二題」などで叙情的に表していきました。その後 日本画科を主席で卒業し、松岡映丘の新興大和絵会の同人となり更なる研鑽を積みます。そして第7回帝展に出品した「三熊野の那智の御山」で三重の栄誉を得て、翌年の帝展でも鮮烈な色調を復活させた近代的な作品を発表していきました。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。
 参考記事:生誕130年 松岡映丘-日本の雅-やまと絵復興のトップランナー (練馬区立美術館)

3 山口蓬春 「小径」
こちらは油彩の洋画で、木に囲まれた道を細かい点描を重ねるように描いています。厚塗りで筆跡が残る感じで、近くで観ると抽象画のようにも見えるほどです。緑とオレンジの補色関係が力強く、全体的に落ち着いているものの鮮やかな色彩に思えました。 色合いや手法などに後期印象派からの強い影響が感じられました。

この辺は油彩画が並んでいました。

6 山口蓬春 「ニコライ堂」
こちらはニコライ堂の見える風景を描いた洋画で、手前に赤と緑の葉っぱの木が描かれています。簡略化されていて、外国の風景のようにも思えるかな。一見してゴーギャンのような画風ですが、やや沈んでいながら力強い色彩が印象的でした。

この隣にあった路面電車を描いた作品も好みでした。指導教授の長原孝太郎は山口三郎の絵を「君の絵は渋い。日本画のようなところがある」と評していたのだとか。
この先は日本画が並びます。

8 山口蓬春 「伊都久嶋」
こちらは日本画の掛け軸で、厳島神社の回廊と海岸に佇む鹿が描かれています。松の緑青と柱の朱色が明るく、背景の木々も緑鮮やかな色彩です。滲みを使った屋根の表現も面白く、松岡映丘だけでなく琳派なども研究していたのかも? 先人に学びつつ新しい作風にたどり着いているように思えました。

10 山口蓬春 「秋二題」
こちらは二曲一隻の屏風で、右隻は薬師寺の塔が見える奈良の新秋の農村風景で 笠をかぶり腰に手を当てている農夫らしき姿があります。左隻は月の浮かぶ野を背景に農家の家屋が描かれ、柿の実が成る晩秋のようです。こちらは人がいない寂しげな風景ですが、非常に詩情溢れる光景で秋の風情や郷愁が感じられました。空のグラデーションなど柔らかく繊細な色彩で表現されていました。

近くにあった「木場」も良い作品でした。幾何学的でセザンヌのような要素を感じます。


<Ⅱ 蓬春美への飛躍>
続いては日本画家として認められ飛躍していく時代のコーナーです。山口蓬春は新興大和絵会の活動に限界を感じ、1930年に六潮会に入りました。ここでは洋画家・日本画家・評論家が集まり、流派を超えて自由な雰囲気で学び合っていたようで、この上ない研鑽の場として10年続いたそうです。一方この頃、山口蓬春は画壇で派閥の板挟みとなって苦しみ、1935年には六潮会以外の全団体と決別したそうです。そして古典の模写に励みつつ新しい日本画を模索し、1936年には初の個展を開催しています。また、徹底した自然観察を行い、西洋美術に関心を寄せて美術画集を蒐集し、省略や強調を交えた新しい表現を追求していき、これが戦後の蓬春モダニズムに繋がっていきました。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

15 山口蓬春 「那智の滝」
こちらは第7回帝展に出品した「三熊野の那智の御山」と同じく那智の滝をモチーフにした作品で、水が流れ落ちる様子が描かれています。奥には山々の合間に大きな月が浮かび、宮曼荼羅の形式に則った古典的な題材です。しかし画面は青・赤・黄・緑といった色彩鮮やかな光景となっていて、斬新さが伝わってきました。やはり色彩感覚は西洋っぽいのかも。

ちなみに第7回帝展の少し前の1926年に、山口蓬春は日本画家を志す斎藤春子(はる)と結婚しました。茶の湯や三味線も嗜む女性で、蓬春の生前から死後まで支えになった奥さんだったようです。

13 山口蓬春 「緑庭」
こちらも帝展で特選を得た作品で、手前に牛のいない牛車(網代車)が3台、奥には水辺に松などが並ぶ森の様子が描かれています。緑青をふんだんに使っていて、全体的に緑がかって初夏の生い茂る生命感が感じられます。一部に金泥を使って光が差し込む様子も表されていて一層に清々しく見えるかな。置かれた車は人の余韻を感じさせて、物語性があるように思えました。

この近くには琳派風の「扇面流し」という屏風もありました。

17 山口蓬春 「夏雨秋晴」
こちらは二曲一双の屏風で、右隻は水墨で水辺と竹林が描かれています。そこに2羽の鷺?がいて、1羽は飛び立って行く姿となっています。全体的に霧が霞むような幽玄の光景で、繊細な濃淡で表されています。一方、左隻は金色の三角形の山と、金と赤に染まる紅葉した急斜面が描かれています。こちらも霧が沸き立つような感じですが、雅な雰囲気で右隻とは大分違った印象を受けました。1つの作品でモノクロとカラフルな世界を同居させていて面白い作品でした。

18 山口蓬春 「如月」
こちらは曲がりくねった梅の木を描いた作品です。カクカク曲がった枝は軽やかでリズミカルな印象すら受けるかな。花は単純化されていて、琳派風のように思えます。全体的にモノクロで静かな色ですが、動きを感じるようなうねりが見事な作品でした。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。ありそうで中々無かった山口蓬春の個展で、前半は山口蓬春が西洋画家としてスタートした異色の経歴がよく分かる内容となっていました。後半はその感覚が新日本画として花開く様子を観ることができましたので、次回は残りの章についてご紹介していこうと思います。

 → 後編はこちら

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