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黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶 (感想前編)【サントリー美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、同じミッドタウンの中にあるサントリー美術館で「サントリー芸術財団50周年 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶」という展示を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は4つの会期に分かれていて、私が観たのは第1期でした。

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【展覧名】
 サントリー芸術財団50周年
 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶

【公式サイト】
 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年9月4日(水)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は現在の岐阜県の美濃(東濃地域)で生まれた黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部の4つの陶器について取り上げていて、前半は桃山時代の名品、後半は近代陶芸家の代表作が並ぶ 2章構成となっています。これらの陶器が美濃で焼かれたとわかったのは昭和のことで、それ以前は瀬戸で焼かれたと考えられていたらしく、昭和5年(1930年)に荒川豊蔵が岐阜県可児市の古窯で志野の茶碗の陶片を発掘したことにより瀬戸ではなく美濃で焼かれたことが判明したそうです。この発見によって美濃焼に関心が集まり、数寄者や陶芸家・研究家の審美眼も鍛えられていったそうで、後半ではそうした好事家のコレクションも紹介されています。構成はその2つの章ごとにいくつかの節に分かれていましたので、詳しくは各コーナーごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<冒頭>
まず冒頭にハイライト的に今回の展示を象徴するような作品が並んでいました。

89 「志野茶碗 銘 卯花墻」 桃山時代
こちらは志野茶碗を代表する名碗で、国宝指定を受けています。銘の「卯花墻」は白く清浄な釉景色と籬(まがき。垣根)の絵を垣根に咲く卯の花に例えているそうで、淡くピンクのざらついた志野独特の地の側面に ほぼ等間隔に縦の茶色い線が並んでいます。横に入った線もあって確かに垣根みたいに見えるかな。やや歪んだ形や細かいポツポツした穴など志野のイメージそのものと言った感じです。落ち着いた華やぎと温かみが感じられる陶器でした。


<第1章 美濃における茶陶創造>
1章は美濃焼について6つのキーワードで魅力を探るコーナーです。黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部は16世紀末から17世紀はじめに次々と花開いた独創的で力強い美しさを持つ陶器で、これらの美濃焼は今の岐阜県の可児市、多治見市、土岐市、瑞浪市辺りで生まれたようです。この地域は7世紀の須恵器制作にまで遡る古い窯業の歴史があるそうで、現在でも窯業が盛んな地です。この章では主に桃山時代の作品が展示されていました。

[姿を借りる]
まずは美濃焼がお手本にした中国磁器と見比べるコーナーです。美濃焼には桃山時代までに中国陶磁・古銅器・漆工品など様々な茶道具を象ったものが作られたようですが、決して模倣にとどまらずに新しい茶陶として作られたようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

1 「黄瀬戸立鼓花入」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは鼓のような形をした「立鼓」という形態の黄瀬戸の花入れで、黄色っぽく薄手で光沢のある釉薬がかかっています。鉄分の加減でちょっと縞模様のようになっていて、くびれの部分にはシミのような模様もあります。全体的に気品があってシンプルな造形美を感じるかな。隣には同様の品を参考にしたと思われる中国の明時代の「黄銅立鼓花入」が置いてあり、これはくびれが一層に細くなっていました。両者を比較するとただ真似しただけではないというのも分かり面白い趣向です。

8 「織部鷺文輪花皿」 桃山時代
こちらは全体的に緑色の円形の皿で、表面に葦・蓮・つがいの鷺などが簡略化して描かれています。これらは中国由来の吉祥文様で、その意匠から中国からの影響が伺えます。また、この隣には中国明時代の「華南三彩鉢」もあり、色と緑が多めの三彩となっています。ぱっと観ると織部とそれほど似ていませんが、共通点も多いようで華南三彩は目指していたものの1つであると考えられるようです。私には織部にも独特な簡略化もあるように見えて、これも日本らしさを感じさせる部分があるように思えました。。

[描く]
続いては絵が描かれた陶器のコーナーです。鉄を絵具として釉薬の下に筆で描く「鉄絵」の技法により様々な絵が描かれた作品が並んでいました。

10 「志野織部傘鷺文向付」 桃山時代
こちらは雲のような形の向付けで、中に傘・鷺・柳などが描かれ、側面の縁には縦縞が描かれています。これは判じ絵(なぞなぞ的な絵)として観ると歌言葉である「かささぎの橋」と読むことが出来るそうで、当時流行した『扇の草子』に通じる文様のようです。鉄で描かれていて、風流な題材の割には素朴な絵に見えるかなw 隣には箕と笠を描いた「三笠の山」を示す作品もあり、判じ絵が流行っていた様子も伺えました。

この辺は判じ絵風の皿がいくつか並んでいました。志野にも判じ絵があります。

20 「鼠志野鶺鴒文鉢」 桃山時代
こちらは青みがかった地の「鼠志野」の鉢で、川の中にある岩にとまる鶺鴒を掻き落として白く表現しています。青っぽい地が川の意匠にぴったりで、涼し気な印象を受けます。また、器の歪みも川の流れのように思えて面白い趣向となっていました。

23 「志野草花文向付」 桃山時代
こちらはやや四角っぽい円筒形の向付で、側面にアヤメやワラビ、籬などが描かれています。一筆でさらさらっと描いたような素朴でゆるい雰囲気で、形もやや歪んでいることから日本的な美意識が感じられました。


[歪む]
続いては歪んでいる器についてのコーナーです。歪みの造形は、伊賀焼・唐津焼・信楽焼・備前焼など他の地域も含めた桃山時代の和物茶陶に共通して現れた美意識で、あえて歪めて1点1点に個性を与えているようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

40 「備前矢筈口水指」 桃山時代
こちらは円筒形の分厚く大きな水差しです。深い茶色で蓋の部分に歪みがあるのがよく分かります。どっしりとしていて歪みによって自然物のような力強さが生まれているように思えました。

この辺には本阿弥光悦と俵屋宗達の合作の「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」がありました。この内容の展示で急に出てきて驚きましたが、これも見逃せない名品です。

37 「黒織部花文茶碗」 桃山時代
こちらは真っ黒な黒織部の茶碗で、口の部分はハマグリのような形に歪んでいます。側面には白く☆のような文様や、蝶か花のような文様、三角を3つ並べたような文様もあり、地の黒と模様の白のコントラストが強く感じられます。解説によると、これは黒釉を塗る際に型紙を貼って釉薬を掛け残すことで表しているそうです。それにしても斬新な幾何学文様で、まるでシュプレマティスムの絵画のようなモダンな感性があるように思えました。

この辺には黒織部の歪んだ茶碗などがありました。整った形でなく歪んだ形が好まれたあたりに日本らしさを感じます。


[型から生まれる]
続いては型を用いて作られた器のコーナーです。轆轤で成形した後の素地や粘土板を型に押し当て器を形作る「型打」の技術は、大量生産を実現にした上、円形や円筒形以外の自由な造形を可能にしたそうです。ここにはそうした「型打」によって作られたと思われるユニークな品々が並んでいました。

45-47 「黄瀬戸六角猪口」「瀬戸六角猪口」「織部六角猪口」 桃山時代
こちらはいずれも小ぶりな六角形のお猪口で、薄手となっています。黄瀬戸は黄色、瀬戸は鉄が錆びたような色、織部が薄い緑色で、釉薬の微妙な変化も見どころとなっています。六角形は轆轤で大量に作るのは困難と思われるので、こうした造形は型打ならではのものかもしれませんね。

43 「土型(四方入隅形、六角形)」 桃山時代
こちらは型打に用いる土製の型で、この型に布をかぶせて伸ばした生地を押し付けて形を作るようです。型打によって作られた多種多様な器が現存しているわけですが、土型はここで展示されている2つしか見つかっていないとのことで、かなり貴重な品のようです。製造元にとっては型の方が重要な気がするのに見つからないのがちょっと不思議。製法が見て取れて面白い品でした。

48 「織部扇面形蓋物」 桃山時代
こちらは扇形の蓋付きの織部の器です。格子の幾何学文様や花のようなもの、扇の骨に当たる部分には凹凸をつけるなど非常に凝った模様が付けられています。緑釉と9種類の鉄絵を掻き落として表しているとのことで、かなり手がこんでいます。形も洒落ていて一際目を引く作品でした。

53 「織部切落向付」 桃山時代
こちらは四角い凹形の5つセットの向付で、対角線上に深い緑とオレンジっぽい色の境があります。その色の対比が鮮やかで、緑の部分は山のようにも見えるかな。団扇や梅などの文様もあり、華やかで楽しげな印象を受けました。

55 「織部葛屋形向付」 桃山時代
こちらは傘の形の向付で、中の絵には傘骨らしきものも描かれています。その他の部分は木の枝のような感じの文様となっていて、形は若干UFOみたいにも思えるw これも型を使った作品ならではの造形の面白さがありました。


[異国情緒]
続いては異国情緒を感じさせる器のコーナーです。ここには南蛮屏風が置かれ、南蛮人に関する器などが置かれていました。

61 「織部南蛮人燭台」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは腰に壺をぶら下げた南蛮人を象った人物像で、頭の帽子の先に針があり そこに蝋燭を刺す燭台となっているようです。今は何も持っていませんが、手の部分には穴が開いていて何かを掴んでいたと考えられるそうで、竿状のもの(釣り竿?)を持っていたのではないかとのことです。ユーモラスな雰囲気で、異国情緒とエビスさん的なものを混ぜた感じに見えました。


[掌中の美]
上階の最後は小さめの香合が2点並んでいました。

56 「織部分銅形香合」 桃山時代
こちらは分銅形(銀行の地図記号みたいな形)の香合で、緑釉と白を斜めに染め分けています。菊の花のような文様もあり、小さいのに形や絵に趣向を凝らしている様子が伺えました。


この辺で上階の展示は終わりなので今日はここまでにしておこうと思います。今まで何度も観てきた美濃焼の品々ですが、まだまだ知らない話ばかりで特に型打のコーナーが面白く感じました。後半は近代の名品も展示されていましたので、次回は残りの下階についてご紹介の予定です。

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