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コートールド美術館展 魅惑の印象派 (感想前編)【東京都美術館】

2週間程前に上野の東京都美術館で「コートールド美術館展 魅惑の印象派」を観てきました。非常に濃密な内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 コートールド美術館展 魅惑の印象派

【公式サイト】
 https://courtauld.jp/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年9月10日(火)~12月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
沢山のお客さんで賑わっていて 列を組んでいる場所が多かったですが、少し待てば目の前で観られるくらいの混雑具合でした。会期末には混雑すると思われますので、気になる方は早めに行くことをオススメします。

さて、この展示はロンドンにあるコートールド美術館で改修工事が行われていることから、選りすぐりの絵画・彫刻など60点が20年ぶりに来日しているもので、研究機関としての側面にも注目して 各テーマごとに読み解くという内容となっています。コートールド美術館は20世紀初頭にレーヨン(人造絹糸)産業で成功した実業家のサミュエル・コートールドが収集したコレクションを核にしていて、当時はまだ評価の定まっていなかった印象派の作品に魅了され、イギリスの市民にその魅力を紹介するために1920年代を中心に精力的に蒐集されたようです。1932年にはロンドン大学附属コートールド美術研究所を創設し、サミュエル・コートールドはコレクションの大半を寄贈しました。この展示では3つの視点からそれらのコレクションを読み解いていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1 画家の言葉から読み解く>
まずは画家自身の言葉から作品を読み解くコーナーです。画家たちは画商・画家仲間・友人・家族に多くの手紙を書いていて、大半は失われてしまいましたがゴッホは820通以上残されているなど手がかりがあるようです。そして今日に伝わる手紙や生前のインタビューは画家の日常や芸術観・生前の様子を伝えてくれるようで、この章ではそうした画家の言葉に注目しながらゴッホ・モネ・セザンヌなどの作品が展示されていました。

2 フィンセント・ファン・ゴッホ 「花咲く桃の木々」 ★こちらで観られます
こちらはアルルの小高い場所から見渡すような光景を描いた作品で、手前から横に連なる柵と脇の道、桃の木々、畑、まばらな家々、山並みなどが描かれています。遠くに見えている山は雪が積もってやや富士山のような形をしていると解説していて、確かにそう見えなくもないかな。ゴッホは「この地のすべては小さく、庭、畑、庭、木々、山々でさえ まるで日本の風景画のようだ。だから私はこのモティーフに心ひかれた」と語っていたようで、日本を意識していたのは間違いなさそうです。細かい線を重ねる点描の発展のような技法で厚塗りされていて、筆致は強いものの全体的には長閑な雰囲気が漂い心休まるような風景でした。
 参考記事:ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

この隣にはホイッスラーの日本の桜をイメージした作品がありました。当時のジャポニスムの興隆が見て取れます。

3 クロード・モネ 「アンティーブ」 ★こちらで観られます
こちらは南仏のアンティーブの海岸の風景画で、手前に大きな松の木が描かれ 奥には海、さらに奥には対岸が霞んで見える光景となっています。粗めのタッチですが臨場感のある陰影を深い青で表現していて爽やかです。中央に松が大きく描かれているのは浮世絵からの影響じゃないかな。モネ自身はロダン宛ての手紙に「私は太陽と刃を交え闘っています。~中略~ 黄金と宝石で描かねばならないのです」と書いていたようです。煌めくような海がその言葉通りの美しさとなっていました。

続いてはセザンヌのコーナーです。セザンヌはコートールドが最も多く作品を購入した画家で、「プロヴァンスの風景」を観て魅了されたようです。驚くような傑作ばかりが並んでいました。

1-1 「エミール・ベルナールに宛てたセザンヌの手紙 1904年4月15日」
こちらは1904年4月15日の手紙で、後のキュビスムにも繋がる非常に重要な内容が書かれています。「自然を円筒、球、円すいによって扱いなさい。物や面の各側面が1つの中心点に向かって集中するように全てを遠近法の中に入れなさい」とベルナールに説いていて、この理論が近代絵画の父と呼ばれる由縁だったりします。まさに歴史的な資料で、絵画作品同様に見どころになると思います。

この辺は手紙がずらりと並んでいました。自然観察の大切さなどを語っているのが多いかな。これもセザンヌの特徴がよく表れた考えだと思います。

9 ポール・セザンヌ 「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」 ★こちらで観られます
こちらは高いところから眺めたサント=ヴィクトワール山を描いた作品で、左側には大きな松が描かれ その枝のたわみが山の稜線と平行している部分があります。緑が多く清々しい光景で、家や石橋の形などに幾何学的なリズムもあって セザンヌ独特の色合いと形態になっています。サント=ヴィクトワール山はセザンヌがよく描いた故郷の山ですが、これは特に見ごたえがある作品だと思います。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり 【南仏編 エクス】

11 ポール・セザンヌ 「カード遊びをする人々」 ★こちらで観られます
こちらは有名作で、小さなテーブル越しに向かい合ってカード遊びをしている2人の帽子を被った農民が描かれています。お互いに自分の手元をじっと見ていてゲームに没頭しているようで、心なしか右の男性は浮かない顔に見えるかなw テーブルが妙に傾いていたり人の身体のバランス(特に左の人の足の長さなど)がおかしいようですが、細部よりも画面全体の調和を重視しているそうです。筆を重ねてちょっとくすんだ質感で描かれている点なども面白く、セザンヌの作品の中でも特に名作といえると思います。
実はこの絵はそっくりの絵が他に2点(オルセー美術館所蔵・カタール王族所蔵)あり、さらにメトロポリタン美術館とバーンズ財団に同様のカード遊びの主題の作品があります。この絵を含む3点の2人バージョンの中で、この絵は2点目となるのだとか。オルセーのも観たことがあるのであと1点! …ってカタールの王族の所蔵のは観られそうもないかなw

この隣には同じ人物を描いたと思われる「パイプをくわえた男」もありました。他にも「キューピッドの石膏像のある静物」などどれも素晴らしい作品で、セザンヌだけでもかなりの満足度です。


<2 時代背景から読み解く>
続いて2章は時代背景から作品を読み解くコーナーです。印象派の時代、中産階級が台頭し都市生活や余暇を謳歌する人々が増えました。また、鉄道網が整備され郊外に気軽に足を運べるようになり、汽車や蒸気船・工場の煙突など近代化の波も押し寄せてきていたようです。印象派以降の画家たちはそうした光景をよく描いていて、ここには時代を象徴するモティーフの作品などが並んでいました。

15 ウジェーヌ・ブーダン 「ドーヴィル」
こちらは広々とした砂浜と海を描いた作品で、地面はかなり下の方に描かれ空を大きく取った開放的な画面となっています。青空に雲がもくもくと浮かび、「空の王者」と評されたブーダンらしい空の表現を堪能できます。一方、人々は小さく描かれていて手前に馬車の姿もあります。リゾート地となったドーヴィルの楽しげな雰囲気が伝わり、明るい印象を受けました。

16 エドゥアール・マネ 「アルジャントゥイユのセーヌ河岸」
こちらは手前に母と子が川岸に並び、目の前の小舟とセーヌ川を眺めている様子が描かれた作品です。対岸には四角い洗濯船の姿があり、当時のセーヌ川の日常の風景と言ったところでしょうか。全体的に筆致は大きく大胆で、色が明るく感じられます。特に水面は揺らめいているように見えました。また、母子の後ろ姿を観ていると、2人は何を想って川を眺めているのか?と色々と想像が膨らんできて面白かったです。

この近くにあったモネの「秋の効果、アルジャントゥイユ」(★こちらで観られます)も爽やかな傑作でした。

18 カミーユ・ピサロ 「ロードシップ・レーン駅、ダリッジ」 ★こちらで観られます
こちらは印象派が描いた最初の鉄道絵画とされる作品です。跨線橋の上から見た光景のようで、向こうから汽車がこちらに向かってきています。ピサロは普仏戦争でロンドンに疎開していた時期があり、これはその頃に描いたもののようです。白い噴煙を上げて貨車を引っ張っている汽車は力強いというよりかは小さくポツンとした感じで、どんよりしたロンドンらしい曇り空と相まってやや寂しい印象を受けました。

この隣にあったシスレーの「雪、ルーヴシエンヌにて」も好みでした。

23 アンリ・ルソー 「税関」
こちらは税官吏だったルソーが自分の職場を主題とした唯一の作品です。しかし当時の資料に類似した風景はなく、現実と想像を組み合わせて描いているようです。木々に囲まれ 黒い鉄の門があり、奥に2本の細い煙突も見えていて、煙突は近代化の象徴とのことです。2人の黒い制服の人物もいつのですが、玩具の人形のように見えるかなw この素朴さがルソーの魅力です。 解説によると、滑らかな絵肌は新古典主義からの影響ではないかとのことで、下手なのか上手いのか何とも絶妙な味わいが出ていました。


ちょっと長くなってきたので、中途半端な所ですが今日はここまでにしておこうと思います。前半の見どころは何と言ってもセザンヌだと思います。傑作の数々が一気に観られてそれだけでも行った甲斐がありました。後半にもマネをはじめ見どころばかりでしたので、次回は最後までご紹介の予定です。

 → 後編はこちら


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