コートールド美術館展 魅惑の印象派 (感想後編)【東京都美術館】
今日は前回に引き続き東京都美術館の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」についてです。前編は2章の途中まででしたが、後編は最後までご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。
→ 前編はこちら

【展覧名】
コートールド美術館展 魅惑の印象派
【公式サイト】
https://courtauld.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2019年9月10日(火)~12月15日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
前編に引き続き、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。
<2 時代背景から読み解く>
2章の後半はルノワールやマネの傑作が並んでいました。コートールドが近代フランス絵画蒐集をした大きなきっかけの1つは1922年にロンドンで開催されたヒュー・レーン卿のコレクションを紹介した展示だったそうで、フランス絵画に魅了されて その年のうちにルノワールを2点購入しています。その中の1点はルノワール最晩年の「靴紐を結ぶ女」で、この章の途中で観ることができます。コートールドはルノワールを近代美術の動向を代表する画家の1人と考えていたようで、ルノワールについても傑作コレクションが展示されていました
26 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」
こちらは有名な画商のヴォラールを描いた肖像で、やや禿げ気味で 丸々とした顔と体つきをしています。裸婦の彫刻を手にもってしげしげと眺めていて、作品の出来栄えを見ているのかな。背景は茶色く全体的に割としっかりした輪郭で、身体に沿ってやや影がついているように見えます。現実よりもかなり魅力的に描いているとのことで、穏やかな紳士といった雰囲気でした。
参考記事:ルノワール-伝統と革新 感想前編 (国立新美術館)
27 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「靴紐を結ぶ女」 ★こちらで観られます
こちらは最晩年にカーニュで描かれた作品で、コートールドが初めて購入したフランス絵画です。椅子に腰掛けて靴紐を結んでいる女性が描かれ、肉付きが良く顔は赤っぽく染まっています。全体的に温かみを感じる色彩で、背景はベッドがありますが形態よりも色を重視しているように思えます。ルノワールが得意とした女性像の特徴がよく出ていて、最初のコレクションから良い品を手に入れたように思いました。
参考記事:ルノワール美術館 【南仏編 カーニュ・シュル・メール】
29 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「桟敷席」 ★こちらで観られます
こちらは劇場の桟敷席に座る花飾りを付けた女性と、その右後ろで双眼鏡で上の方を見ている男性が描かれています。女性は流行のドレスらしく、白と黒の縞模様で洒落た雰囲気です。それにしても2人とも舞台ではなく別の所に目線が行っている訳ですが、これは当時の桟敷席はパリの最新のファッションが観られる場所だったこともあり、それを観たり観られたりするのを意識しているようです。恋の駆け引きなんかもあったらしいので、社交の場として機能していたと思われ 華やかで当時の流行の様子なども伝わってきます。解説によると、この女性のモデルはお気に入りだったニニ・ロペス、男性は弟のエドモンとのことです。また、当時のモード誌では盛んに桟敷席のファッションを取り上げていたようですが、これを絵画の主題にするのは当時は革新的だったそうです。コートールドはこれを特別に大切にしたというのも頷ける素晴らしい傑作で、人間模様も伺えて面白い作品でした。
31 エドガー・ドガ 「舞台上の二人の踊り子」 ★こちらで観られます
こちらは手を広げて舞っている2人のバレリーナを描いた作品で、2人はやけに右上の方に立っていて余白が多い画面となっています。この斬新な構図は日本美術からの影響のようで、下から光が当たって絶妙な陰影となっている点と合わせて 動きを感じさせます。よく観ると左のほうにもう1人の姿があり、衣装の一部だけが描かれています。これもまるで何処かの席からの光景の一瞬を切り取ったような臨場感を感じさせました。
この近くにはドガの彫刻作品もありました。
33 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「個室の中(「ラ・モール」にて)」
こちらは「死んだネズミ」という意味のパリのカフェ・レストランの個室を描いた油彩作品で、真っ赤な口紅の女性が紳士と逢引している様子が描かれています。この女性は高級娼婦らしく着飾っていますが顔は不気味な笑みを浮かべて妖怪っぽい雰囲気ですw ロートレックらしい皮肉の効いた誇張気味の人物像に思えました。
34 エドゥアール・マネ 「草上の昼食」
こちらは一大スキャンダルを巻き起こしたオルセー美術館所蔵の作品と同じ名前ですが、別物です。オルセーの作品を製作している時に背景の検討の為に描いたと考えられるそうで、全体的に構成はかなり似ています。手前で3人の男女が草の上に座って寛いでいるのですが、女性は何故か裸体で これが批判される要因となりました。(裸婦は神話ならOKだけど現実の裸婦は不道徳と思われていた) 奥には川に入ってかがんでいる人物もいて、神話の世界に男性たちが迷い込んだみたいな感じにも思えるかな。習作のためかオルセーで観た本作に比べると若干粗めのタッチになっているように見えました。
参考記事:【番外編 フランス旅行】 オルセー美術館とセーヌ川
35 エドゥアール・マネ 「フォリー=ベルジェールのバー」
こちらは今回のポスターにもなっているマネの晩年の傑作で、思ってた以上に大きくて目を引きます。パリのミュージック・ホールのバーが描かれ、中央にバーメイドが立ち その背後には鏡に写ったバルコニー席や曲芸師の足などが見えています。ちょっと妙なのが鏡に映るバーメイドの後ろ姿とシルクハットの紳士で、実際にはこんな角度で反射しないだろうという位置になっています(そのせいで私は別の人物だと思ってましたw) しかしこの2人は何度も描き直してこの場所にしていることが科学分析で分かっているそうで、バーメイドの存在感を引き立たせる為ではないかと考えられているようです。他にも瓶の位置とかも違ったりしますが、手前と鏡の中では筆の精密さが違っているように見えました。鏡によってバーの賑わいを感じさせると共に、自在に配置することで面白い効果を生んでいました。
ちなみにマネはこの絵の為に自宅のアトリエの一部にバーを作ってバーメイドにポーズを取らせたのだとか。その徹底ぶりがこの傑作に繋がったんでしょうね。
<3 素材・技法から読み解く>
最後は素材と技法から作品を読み解くコーナーです。コートールド美術館ではX線や赤外線を用いた科学的な調査・研究が行われているそうで、この章では普段観ることが出来ない画面の下に目を向けて 筆使いや使われた絵の具など 制作の痕跡に光を当てていました。
40 ジョルジュ・スーラ 「クールブヴォワの橋」 ★こちらで観られます
こちらはスーラが点描を画面全体に用いた最初の作品とされる風景画です。桟橋のあるセーヌ川の川岸が描かれ、川にはヨット、対岸には工業地帯が見えています。手前の草原の斜面には2人の人物が川に向かって立っていて、ポツンとしてちょっと黄昏れているような雰囲気です。全体的に点描で静かな色彩となっていることもあって寂しげに思えるかな。点はかなり細かく、新しい表現の始まりを目にすることができました。この後の新印象主義の影響を考えると時代を変えた作品とも言えそうです。
この隣にはスーラの小さな準備習作が並んでいました。まだ点描ではなく、中には有名作「グランドジャット島の日曜日の午後」の為の習作もありました。
58 ポール・ゴーガン 「メットの肖像」
こちらは妻の肖像彫刻で、大理石で出来ていてかなり滑らかな仕上がりとなっています。鼻が高く知的で、こんな高度な彫刻技術がゴーギャンにあったの??と疑問に思えるくらいの完成度ですw 解説によると、これは妻の29歳頃の姿らしく、大理石の加工には専門的な技術が必要なのに質感には熟練された技術が観られることから 当時の家主だった彫刻家が制作に関わった可能性が指摘されているそうです。その仮設がしっくり来るくらい、恐ろしく熟練した肖像彫刻でした。
なお、コートールドがポスト印象派に関心を持ったきっかけは1922年の「フランス美術の100年展」だったそうで、同年にゴーギャンを2点購入しています。感性に訴える色彩に魅了されて、1924年に初のゴーギャン個展が開催されると、その出品作の一部も購入しました。やがて油彩5点・版画10点・彫刻1点・素描2点ものコレクションを蒐集したのだとか。
60 ポール・ゴーガン 「テ・レリオア」 ★こちらで観られます
こちらは2人のタヒチの女性が座わる姿と、その傍らの犬や うつ伏せで寝ている子供などが描かれた作品です。背景には窓なのか絵なのか分かりませんが馬に乗った男の後ろ姿もあり、周りは壁画のようなもので囲まれています。平坦でやや沈んだ色調ですが力強い色となっていて、太めの輪郭線も人と物の存在感を強めているように思います。何をしているのか謎めいていますが、ゴーギャン自身はこの絵について「この絵の中ではすべてが夢だ。子供か 母親か 小道にいる馬に乗る男か、あるいは画家の夢なのか」と手紙に描いていたそうです。ってことは夢の中なのかな? 現実感はあるけどやや不思議な雰囲気はそのせいなのかも?と思いながら観ていました。
隣には「ネヴァーモア」(★こちらで観られます)もありました。これもタヒチの裸婦を描いていて、謎めいた神秘性を感じる作品です。
47 ピエール・ボナール 「室内の若い女」
こちらは後に結婚するマルトを描いた作品で、ソファに座っている姿となっています。やや口を開けて笑っているような表情で、誰かと話しているのかもしれません。(もしくはブドウをもって食べようとしている?) 全体的に俯瞰的な視点となっていて、静かな色調と共に親密な印象となっていました。日常の一場面を描いたような感じかな。
参考記事:ピエール・ボナール展 感想前編(国立新美術館)
近くにはヴュイヤールやスーティンなどもありました。
45 アメデオ・モディリアーニ 「裸婦」 ★こちらで観られます
こちらは頭を肩に乗せて目を瞑る裸婦を描いた作品で、後ろの壁にもたれ掛かるような姿勢をしています。単純化され 顔は引き伸ばされていて、アフリカやオセアニアの彫刻からの影響が伺えます。とは言え、まだそれほど誇張されていないように思えるかな。解説によると、髪の部分には乾かないうちに引っ掻いた線があり、顔には細い筆で薄く絵具が置かれ一層滑らかな仕上がりを目指した痕跡があるそうです。また、この絵はモディリアーニの個展の際にショーウィンドウに飾られたものの騒ぎになり、公序良俗に反するとして警察に撤去を求められたそうです。色々と逸話があるようですが、いずれにせよモディリアーニの個性がよく分かる名作じゃないかな。隣にはX線写真で筆跡を写したものがあり、その痕跡がよく分かりました。
最後はドガやロダンなどの彫刻が並んでいました。
ということで、後半も名作が目白押しとなっていました。特にルノワールの「桟敷席」とマネの「フォリー=ベルジェールのバー」は傑作中の傑作だと思います。これだけのコレクションを日本で観られる機会は中々無いので、洋画好きの方は是非どうぞ。会期は長いけど会期末は混むので行くなら早めがオススメです。
→ 前編はこちら

【展覧名】
コートールド美術館展 魅惑の印象派
【公式サイト】
https://courtauld.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2019年9月10日(火)~12月15日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
前編に引き続き、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。
<2 時代背景から読み解く>
2章の後半はルノワールやマネの傑作が並んでいました。コートールドが近代フランス絵画蒐集をした大きなきっかけの1つは1922年にロンドンで開催されたヒュー・レーン卿のコレクションを紹介した展示だったそうで、フランス絵画に魅了されて その年のうちにルノワールを2点購入しています。その中の1点はルノワール最晩年の「靴紐を結ぶ女」で、この章の途中で観ることができます。コートールドはルノワールを近代美術の動向を代表する画家の1人と考えていたようで、ルノワールについても傑作コレクションが展示されていました
26 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」
こちらは有名な画商のヴォラールを描いた肖像で、やや禿げ気味で 丸々とした顔と体つきをしています。裸婦の彫刻を手にもってしげしげと眺めていて、作品の出来栄えを見ているのかな。背景は茶色く全体的に割としっかりした輪郭で、身体に沿ってやや影がついているように見えます。現実よりもかなり魅力的に描いているとのことで、穏やかな紳士といった雰囲気でした。
参考記事:ルノワール-伝統と革新 感想前編 (国立新美術館)
27 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「靴紐を結ぶ女」 ★こちらで観られます
こちらは最晩年にカーニュで描かれた作品で、コートールドが初めて購入したフランス絵画です。椅子に腰掛けて靴紐を結んでいる女性が描かれ、肉付きが良く顔は赤っぽく染まっています。全体的に温かみを感じる色彩で、背景はベッドがありますが形態よりも色を重視しているように思えます。ルノワールが得意とした女性像の特徴がよく出ていて、最初のコレクションから良い品を手に入れたように思いました。
参考記事:ルノワール美術館 【南仏編 カーニュ・シュル・メール】
29 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「桟敷席」 ★こちらで観られます
こちらは劇場の桟敷席に座る花飾りを付けた女性と、その右後ろで双眼鏡で上の方を見ている男性が描かれています。女性は流行のドレスらしく、白と黒の縞模様で洒落た雰囲気です。それにしても2人とも舞台ではなく別の所に目線が行っている訳ですが、これは当時の桟敷席はパリの最新のファッションが観られる場所だったこともあり、それを観たり観られたりするのを意識しているようです。恋の駆け引きなんかもあったらしいので、社交の場として機能していたと思われ 華やかで当時の流行の様子なども伝わってきます。解説によると、この女性のモデルはお気に入りだったニニ・ロペス、男性は弟のエドモンとのことです。また、当時のモード誌では盛んに桟敷席のファッションを取り上げていたようですが、これを絵画の主題にするのは当時は革新的だったそうです。コートールドはこれを特別に大切にしたというのも頷ける素晴らしい傑作で、人間模様も伺えて面白い作品でした。
31 エドガー・ドガ 「舞台上の二人の踊り子」 ★こちらで観られます
こちらは手を広げて舞っている2人のバレリーナを描いた作品で、2人はやけに右上の方に立っていて余白が多い画面となっています。この斬新な構図は日本美術からの影響のようで、下から光が当たって絶妙な陰影となっている点と合わせて 動きを感じさせます。よく観ると左のほうにもう1人の姿があり、衣装の一部だけが描かれています。これもまるで何処かの席からの光景の一瞬を切り取ったような臨場感を感じさせました。
この近くにはドガの彫刻作品もありました。
33 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「個室の中(「ラ・モール」にて)」
こちらは「死んだネズミ」という意味のパリのカフェ・レストランの個室を描いた油彩作品で、真っ赤な口紅の女性が紳士と逢引している様子が描かれています。この女性は高級娼婦らしく着飾っていますが顔は不気味な笑みを浮かべて妖怪っぽい雰囲気ですw ロートレックらしい皮肉の効いた誇張気味の人物像に思えました。
34 エドゥアール・マネ 「草上の昼食」
こちらは一大スキャンダルを巻き起こしたオルセー美術館所蔵の作品と同じ名前ですが、別物です。オルセーの作品を製作している時に背景の検討の為に描いたと考えられるそうで、全体的に構成はかなり似ています。手前で3人の男女が草の上に座って寛いでいるのですが、女性は何故か裸体で これが批判される要因となりました。(裸婦は神話ならOKだけど現実の裸婦は不道徳と思われていた) 奥には川に入ってかがんでいる人物もいて、神話の世界に男性たちが迷い込んだみたいな感じにも思えるかな。習作のためかオルセーで観た本作に比べると若干粗めのタッチになっているように見えました。
参考記事:【番外編 フランス旅行】 オルセー美術館とセーヌ川
35 エドゥアール・マネ 「フォリー=ベルジェールのバー」
こちらは今回のポスターにもなっているマネの晩年の傑作で、思ってた以上に大きくて目を引きます。パリのミュージック・ホールのバーが描かれ、中央にバーメイドが立ち その背後には鏡に写ったバルコニー席や曲芸師の足などが見えています。ちょっと妙なのが鏡に映るバーメイドの後ろ姿とシルクハットの紳士で、実際にはこんな角度で反射しないだろうという位置になっています(そのせいで私は別の人物だと思ってましたw) しかしこの2人は何度も描き直してこの場所にしていることが科学分析で分かっているそうで、バーメイドの存在感を引き立たせる為ではないかと考えられているようです。他にも瓶の位置とかも違ったりしますが、手前と鏡の中では筆の精密さが違っているように見えました。鏡によってバーの賑わいを感じさせると共に、自在に配置することで面白い効果を生んでいました。
ちなみにマネはこの絵の為に自宅のアトリエの一部にバーを作ってバーメイドにポーズを取らせたのだとか。その徹底ぶりがこの傑作に繋がったんでしょうね。
<3 素材・技法から読み解く>
最後は素材と技法から作品を読み解くコーナーです。コートールド美術館ではX線や赤外線を用いた科学的な調査・研究が行われているそうで、この章では普段観ることが出来ない画面の下に目を向けて 筆使いや使われた絵の具など 制作の痕跡に光を当てていました。
40 ジョルジュ・スーラ 「クールブヴォワの橋」 ★こちらで観られます
こちらはスーラが点描を画面全体に用いた最初の作品とされる風景画です。桟橋のあるセーヌ川の川岸が描かれ、川にはヨット、対岸には工業地帯が見えています。手前の草原の斜面には2人の人物が川に向かって立っていて、ポツンとしてちょっと黄昏れているような雰囲気です。全体的に点描で静かな色彩となっていることもあって寂しげに思えるかな。点はかなり細かく、新しい表現の始まりを目にすることができました。この後の新印象主義の影響を考えると時代を変えた作品とも言えそうです。
この隣にはスーラの小さな準備習作が並んでいました。まだ点描ではなく、中には有名作「グランドジャット島の日曜日の午後」の為の習作もありました。
58 ポール・ゴーガン 「メットの肖像」
こちらは妻の肖像彫刻で、大理石で出来ていてかなり滑らかな仕上がりとなっています。鼻が高く知的で、こんな高度な彫刻技術がゴーギャンにあったの??と疑問に思えるくらいの完成度ですw 解説によると、これは妻の29歳頃の姿らしく、大理石の加工には専門的な技術が必要なのに質感には熟練された技術が観られることから 当時の家主だった彫刻家が制作に関わった可能性が指摘されているそうです。その仮設がしっくり来るくらい、恐ろしく熟練した肖像彫刻でした。
なお、コートールドがポスト印象派に関心を持ったきっかけは1922年の「フランス美術の100年展」だったそうで、同年にゴーギャンを2点購入しています。感性に訴える色彩に魅了されて、1924年に初のゴーギャン個展が開催されると、その出品作の一部も購入しました。やがて油彩5点・版画10点・彫刻1点・素描2点ものコレクションを蒐集したのだとか。
60 ポール・ゴーガン 「テ・レリオア」 ★こちらで観られます
こちらは2人のタヒチの女性が座わる姿と、その傍らの犬や うつ伏せで寝ている子供などが描かれた作品です。背景には窓なのか絵なのか分かりませんが馬に乗った男の後ろ姿もあり、周りは壁画のようなもので囲まれています。平坦でやや沈んだ色調ですが力強い色となっていて、太めの輪郭線も人と物の存在感を強めているように思います。何をしているのか謎めいていますが、ゴーギャン自身はこの絵について「この絵の中ではすべてが夢だ。子供か 母親か 小道にいる馬に乗る男か、あるいは画家の夢なのか」と手紙に描いていたそうです。ってことは夢の中なのかな? 現実感はあるけどやや不思議な雰囲気はそのせいなのかも?と思いながら観ていました。
隣には「ネヴァーモア」(★こちらで観られます)もありました。これもタヒチの裸婦を描いていて、謎めいた神秘性を感じる作品です。
47 ピエール・ボナール 「室内の若い女」
こちらは後に結婚するマルトを描いた作品で、ソファに座っている姿となっています。やや口を開けて笑っているような表情で、誰かと話しているのかもしれません。(もしくはブドウをもって食べようとしている?) 全体的に俯瞰的な視点となっていて、静かな色調と共に親密な印象となっていました。日常の一場面を描いたような感じかな。
参考記事:ピエール・ボナール展 感想前編(国立新美術館)
近くにはヴュイヤールやスーティンなどもありました。
45 アメデオ・モディリアーニ 「裸婦」 ★こちらで観られます
こちらは頭を肩に乗せて目を瞑る裸婦を描いた作品で、後ろの壁にもたれ掛かるような姿勢をしています。単純化され 顔は引き伸ばされていて、アフリカやオセアニアの彫刻からの影響が伺えます。とは言え、まだそれほど誇張されていないように思えるかな。解説によると、髪の部分には乾かないうちに引っ掻いた線があり、顔には細い筆で薄く絵具が置かれ一層滑らかな仕上がりを目指した痕跡があるそうです。また、この絵はモディリアーニの個展の際にショーウィンドウに飾られたものの騒ぎになり、公序良俗に反するとして警察に撤去を求められたそうです。色々と逸話があるようですが、いずれにせよモディリアーニの個性がよく分かる名作じゃないかな。隣にはX線写真で筆跡を写したものがあり、その痕跡がよく分かりました。
最後はドガやロダンなどの彫刻が並んでいました。
ということで、後半も名作が目白押しとなっていました。特にルノワールの「桟敷席」とマネの「フォリー=ベルジェールのバー」は傑作中の傑作だと思います。これだけのコレクションを日本で観られる機会は中々無いので、洋画好きの方は是非どうぞ。会期は長いけど会期末は混むので行くなら早めがオススメです。
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展覧会年間スケジュール (1都3県) 【2022年01月号】 (01/01)
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2021年の振り返り (12/31)
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ヘラルボニー/ゼロからはじまる 【BAG-Brillia Art Gallery】 (12/29)
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映画「キングスマン:ファースト・エージェント」(ややネタバレあり) (12/27)
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横溝美由紀「Landscape やわらかな地平のその先に」 【ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX】 (12/26)
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第15回 shiseido art egg 【資生堂ギャラリー】 (12/23)
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映画「マトリックス レザレクションズ」(ややネタバレあり) (12/21)
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ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ 【パナソニック汐留美術館】 (12/19)
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鈴木其一・夏秋渓流図屏風 【根津美術館】 (12/16)
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【根津美術館】の紅葉 2021年11月 (12/14)
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カフェラヴォワ 【新宿界隈のお店】 (12/12)
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川瀬巴水 旅と郷愁の風景 【SOMPO美術館】 (12/10)
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【SOMPO美術館】の案内 (12/06)
最新コメント
- 21世紀のxxx者:イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン (感想後編)【三菱一号館美術館】 (12/09)
- ゆーき:イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン (感想後編)【三菱一号館美術館】 (12/09)
- 21世紀のxxx者:奇蹟の芸術都市バルセロナ (感想前編)【東京ステーションギャラリー】 (01/03)
- うさぴょん:キヨノサチコ絵本原画の世界 みんな大好き!ノンタン展 【松屋銀座】 (03/21)
- 21世紀のxxx者:川豊 【成田界隈のお店】 (03/04)
- 21世紀のxxx者:劇団四季 「MAMMA MIA!(マンマ・ミーア!)」 (03/04)
- 萌音:川豊 【成田界隈のお店】 (03/03)
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