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文化財よ、永遠に 【泉屋博古館分館】

先日ご紹介した大倉集古館を観る前に泉屋博古館分館で住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」を観てきました。この展示は前期・後期に会期が分かれていて、私が観たのは前期の内容でした。

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【展覧名】
 住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」

【公式サイト】
 https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html

【会場】泉屋博古館分館
【最寄】六本木一丁目駅/神谷町駅

【会期】
  前期:2019年9月10日(火)~9月29日(日)
  後期:2019年10月1日(火)~10月27日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
私が行った時にちょうどギャラリートークをやっていた為、話している作品周辺はかなり混んでいました。しかしそれ以外の所は自分のペースで観られたので、実際には3章から観ていきました。

さて、この展示はこの泉屋博古館分館の母体である住友財団の文化修復事業への助成30周年(2021年に30周年)を記念したもので、助成によって修復された文化財の一部を東京国立博物館、九州国立博物館、泉屋博古館(京都)、泉屋博古館分館(東京)で同時期に展示するという内容となっています。その為、今回は泉屋博古館分館のコレクションではない作品が大半を占めていて、重要文化財や国宝を含む豪華な顔ぶれとなっていました。点数はそれほど多くありませんが、5つの章で年代やジャンルごとに紹介されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1 中世の仏画>
まずは主に鎌倉時代の仏画が並ぶコーナーです。

2 「不動明王像」 鎌倉時代
こちらは剣と羂索を持つ不動明王の半跏像で、眉をひそめて下唇を噛む憤怒の形相を見せています。光背の炎が渦巻文様のようになっていて、輪郭と共に流れるような単純化が面白く思えます。不動明王の目も円を重ねたような表現で、シンプルながらも強さや迫力を感じさせました。様式化の具合がとてもユニークです。

8 「十二神将像のうち寅神・巳神・申神・亥神」 鎌倉時代
こちらは1幅に1尊ずつ12幅のセットで、4尊が並んでいました。右上には各神将に対応する本地仏の円相、左上には七曜の円相があり、足元には対応する動物の姿もあって どれが誰だか分かるようになっています。従者が沢山いる中で神将が一際大きく描かれていることで威厳が感じられ、表情は凛々しく思えました。いずれの作品も緻密で力強い作風です。

この近くには「十六羅漢像」も4幅並んでいました。


<2  中世の巻物>
続いては鎌倉時代の巻物が並ぶコーナーです。

11-1 「法華経一品経・授記品第六」 鎌倉時代
こちらは紺地に金銀の砂子や箔で植物文様を表した料紙に、金泥でお経を描いた作品です。しかしこの金泥の文字には真鍮泥も混ぜられている可能性があるらしく、真鍮泥は扱いやすいのでそうしたのではないかと考えられるようです。一方で真鍮泥は酸化・腐食を早めるらしく、修復されても一部はかすれて見えづらい部分もあります。それでも文字自体は美しく、きっちりとしながら流麗な印象を受けました。

近くには国宝の「無量義経」や重要文化財の「長谷雄草紙」(★こちらで観られます)もありました


<3 中国朝鮮の絵画と 室町水墨>
この章は入口正面と第二展示室辺りに数点だけありました。中国の元~明時代と日本の室町時代の水墨画が並んでいます。

15 「雪景山水図」 中国・明時代15~16世紀
こちらは角張った山を背景に、水辺の家、奥で橋を渡る人 左端に木などが描かれています。家の中には欄干に乗り出す高士の姿もあって、叙情的で心休まる理想郷のような風景です。解説によると、遠くの山に観られる短線を散らすかのように無数に重ねる技法は明時代の浙派(せっぱ。戴進を祖とする後付の流派)に通じるようです。また、雪舟の山水の雰囲気によく似ていて、東京国立博物館の雪舟の「四季山水図」と共通するモチーフも確認できるようです。雪舟は明時代の中国に渡って修行したので、似ていても不思議でないですが 確かに似た所があるように思えました。
隣にあった修復前の傷んでいる写真と見比べてみると修復の様子がよく分かりました。


<4 近世日本の絵画と 工芸>
続いては桃山時代から江戸時代までの絵画と工芸のコーナーです。大半は江戸時代の絵画でした。

19 伊年印 「秋草図」
こちらは2曲1隻の屏風で、ススキ・女郎花・白菊・サルトリイバラなどが描かれています。それらの草花が中央から噴水のように広がり、草の連なりにリズムを感じさせます。伊年印は俵屋宗達の工房による作品で、この屏風では緻密で風情ある描写となっていました。これも修復前は亀裂や破れ、汚染などがあったようです。

23 狩野一信 「五百羅漢図」 ★こちらで観られます
こちらは100幅のうち修復した10幅が展示されていました。1幅におよそ5人ずつの羅漢と、それ以外にも結構な人数の人々が描かれています。かなり緻密で極彩色の描写となっていて、これを描いていてノイローゼになって死んだというエピソードを思い出しましたw ちょっと不気味で異様な迫力があり、生々しさもあって狂気すら感じると言うか…。解説によると、狩野一信は琳派・土佐派・四条派なども学んで西洋画にも触発されたとのことで、特に「五百羅漢図うち第三十六幅 六道 人」は西洋っぽい表現に思えました。
 参考記事:五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信 感想前編(江戸東京博物館)

18 「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは円筒形の螺鈿の箱で、上面には「IHS」の文字を中心に太陽のような文様が螺鈿で表されています。側面は葡萄を単純化した模様が金銀で表されていて、優美な雰囲気です。IHSはイエズス会のマークで、葡萄はキリストの血と関連するモチーフじゃないかな。解説によると、これはキリスト教の聖餐式に用いる聖餅を入れる箱らしく 輸出用に作られたものの何故か明治時代まで尼寺だった東慶寺に伝わったそうです。かなり綺麗な状態に修復されていて、特に目を引く品でした。

21 円山応挙 「淀川両岸図巻」
こちらは16mもある巻物で、淀川とその両岸が描かれています。川を中心に両側の描写が上下逆さになっているのですが、これは古地図に倣った表現のようです。川沿いの木々や家々、橋などが緻密かつ写実的に描かれていて、当時の様子がそのまま伝わってくるかのようでした。その為、当時の河川の様子を知る資料としても貴重なようです。


<5 近代日本の絵画>
最後は明治・大正の絵画のコーナーです。

24-1 曾山幸彦 「弓術之図(弓を引く人)」
こちらは大型のコンテ絵で、モノクロの写真かと思うほどのリアルな描写となっています。弓を構えてその先に視線を向ける侍の姿が描かれ、筋肉の張りや表情に緊張感が漲っています。作品自体も実寸くらい大きくて、まるで目の前で弓を引いているような臨場感もありました。この作品も修復前は折れたり破れていたり弛んでたようです。痛み方も作品によって色々ですね…

25 赤松麟作 「土佐堀川」
こちらは川の上から川を眺めたと思われる構図の風景画で、手前に手漕ぎの小舟、奥には大正時代当時の町並みや 蒸気船の姿も描かれています。全体的に青や薄紫がかっていて霧がかった朝(もしくは夕方)ではないかな? 解説によると、モネの「印象日の出」を思わせるとのことですが、確かに似たものを感じます。しかしそれ以上に師の黒田清輝からの影響が感じられるように思いました。


ということで、点数は少ないものの幅広い作品を観ることができました。修復前の写真と比べて観てみると、修復事業がいかに重要なものか理解できたように思います。同様の展示がトーハクでも行われていますので、そちらも近い内に観に行く予定です。
 参考リンク:トーハクの展示
 会期: 2019年10月1日(火) ~ 12月1日(日)

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