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オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち (感想前編)【横浜美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に横浜美術館の特別展「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」を観てきました。非常に充実した内容でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/orangerie2019/
 https://yokohama.art.museum/exhibition/index/20190921-540.html

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅

【会期】2019年9月21日(土)~2020年1月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
初日だったこともあって結構混んでいましたが、概ね自分のペースで観ることができました。会期が進むと混雑してくることが予想されますので、気にな方はお早めに行かれることをオススメします。

さて、この展示はパリのチュイルリー公園にあるオランジュリー美術館の改修に伴い、全コレクション146点のうち69点もの作品が来日するというとても貴重な内容となっています。オランジュリー美術館は画商のポール・ギヨームと建築家ジャン・ヴァルテルのコレクションを核に作られた美術館で、その名前はかつては柑橘系の温室だったことに由来します。ポール・ギヨームは1920年代のパリで最も重要な画商の1人で、マティスやピカソの作品を扱い、モディリアーニやスーティンの才能を見出し、さらにアフリカやオセアニア美術の市場を開拓するなど美術界に多大な貢献をした人物です。そのポール・ギヨームが集めた作品の他に、彼が亡くなった後に妻のドメニカが著名な建築家だったジャン・ヴァルテルと再婚し、ルノワールやセザンヌなどを購入してコレクションを発展させました。そしてこれらのコレクションは1960年代にフランス政府によって購入され、ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームコレクションとして現在のオランジュリー美術館の所蔵品となりました。この展示ではそうして集められた作品が12人の画家ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この記事にある写真は以前にオランジュリー美術館で撮影したものとなります。この展覧会では撮影禁止となりますので、ご注意ください。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 オランジュリー美術館とマルモッタン美術館


<冒頭>
まず最初にポール・ギヨームの肖像がありました。ドランのコーナーは後半にも別に設けられています。

38 アンドレ・ドラン 「ポール・ギヨームの肖像」
こちらはポール・ギヨームが28歳頃の肖像で、煙草を持ち本を広げるタキシード姿で描かれています。やや薄めの色彩で筆致は粗めで大胆です。人物の周りは背景が明るくなっているので、オーラのような感じに思えます。解説によると、ポール・ギヨームは元々は自動車修理工場に勤めていましたが、アフリカ彫刻の仲買人を始めたことで詩人のアポリネール(ピカソの仲間。ローランサンの恋人)と知り合い、やがて画廊を構えるようになりました。そしてモディリアーニやスーティンら若手を育てつつルノワールやピカソ、ドランの作品なども集めて行ったようです。この顔は何度も観たことがありますが、実年齢は20代後半と若くて驚きます。若くして堂々たる威厳を感じさせました。

隣には奥さんを描いたドランの「大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像」もありました。こちらはくっきりした色彩で華やかな雰囲気となっています。


<クロード・モネ>
続いてはモネのコーナーです。と言ってもここは1点のみでした。オランジュリー美術館には360度囲まれるモネの「睡蓮」の部屋があり それが一番の見どころとなっていますが、流石にそれは現地でしか観られないので 日本に来ることはないと思いますw
 参考記事:モネとジヴェルニーの画家たち 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

2 クロード・モネ 「アルジャントゥイユ」 ★こちらで観られます
こちらはマストのある小舟が何艘も停泊しているセーヌ川を描いた作品で、特に中央のオレンジ、色の船体の2艘の舟が目を引きます。周りは緑・青・白などを使っていて、セーヌ川に光が溢れるような印象を受けます。また、川岸には日傘をさした女性たちの姿もあって華やかで穏やかな雰囲気です。この光景は川の真ん中からの視点となっていて、これはアトリエに改造した舟の上で描かれたものと思われます。印象派らしい爽やかな作品でした。


<アルフレッド・シスレー>
続いてはイギリス人の印象派であるシスレーのコーナーです。ここも1点のみでした。
 参考記事:シスレー展 (コーモン芸術センター)【南仏編 エクス】

1 アルフレッド・シスレー 「モンビュイソンからルヴシエンヌへの道」 ★こちらで観られます
こちらはシスレーが住んだルヴシエンヌ辺りの田舎を描いた風景画です。広い丘陵を下るような道で周りは畑となっていて長閑な雰囲気に思えます。空が大きく取られているので開放的に感じさせるかな。大胆で素早い筆跡が残っていて、その場の様子が目の前に広がるような瑞々しい感覚がありました。


<ポール・セザンヌ>
続いてはセザンヌのコーナーです。セザンヌは5点で、素晴らしい作品ばかりでした。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり 【南仏編 エクス】

14 ポール・セザンヌ 「小舟と水浴する人々」
こちらは横に細長い画面の作品で、元々はアパルトマンのドアの上の装飾として作られたそうです。両脇には川岸で寝転ぶ裸婦たちの姿、中央にはヨットがあり、マストが弓状にしなっています。人物がかなり簡素な描写ですが、三角を成す群像となっているのが面白く、バランス良く感じられます。近寄ってみると荒々しいマチエールなどの観られ、セザンヌならではの魅力がある作品でした。

11 ポール・セザンヌ 「りんごとビスケット」 ★こちらで観られます
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※写真は以前にオランジュリー美術館で撮ったものです。
こちらはテーブルの上に乗ったオレンジ・赤・黄色の林檎の静物で、右端にはお皿に入ったビスケットが見切れる感じで描かれています。背景の壁には植物文様らしきものもあり装飾的な印象を受けます。林檎はどちらかと言うとミカンみたいな形に見えるけど、無数に並んでいてリズミカルな配置です。よく観るとちょっと重なりがおかしな部分もありますが、色と形が響き合っていました。解説によると、この作品はかつてフランス紙幣に印刷されていたのだとか。非常に有名な名作です。

この隣には「セザンヌ夫人の肖像」もありました。これもかなりの名作です。また未完成で塗り残しのある「庭のセザンヌ夫人」なんかもセザンヌらしさを感じます。


<アンリ・マティス>
続いてはマティスのコーナーです。マティスは6点で華やかな作品が並んでいました。
 参考記事:マティス美術館 【南仏編 ニース】

26 アンリ・マティス 「ヴァイオリンを持つ女」
こちらはテーブルに頬杖をつき右手に弓、膝の上にヴァイオリンを置いてた女性像で、テーブルの上にはケースも置かれています。背景の壁は緑と青の二重円の模様が並ぶ装飾的なものとなっていて、床は赤く派手な印象です。それらが女性の服の白・緑・黄色を引き立てているように感じて目に鮮やかです。全体的に描写は簡略化されていて、女性は優美な雰囲気がありつつ不機嫌そうな感じに見えましたw

23 アンリ・マティス 「ブドワール(女性の私室)」
こちらはマティスがしばしば訪れたニースの地中海ホテルの一室を描いたもので、赤い格子模様の床・白いカーテン・黄色の壁など明るい色合いとなっています。窓際には女性が立ち、ソファでは少女が寝ていてプライベートな空間といった感じでしょうか。窓の外に椰子の木が見えていて、自然とそこに視線が向かうような配置となっていました。解説によると、全体的に淡い色彩で軽快な筆致となっているのは1910年代のキュビスム時代から1920年代の新たなスタイルへの移行を示しているとのことでした。

27 アンリ・マティス 「赤いキュロットのオダリスク」 ★こちらで観られます
DSC_22236.jpg
※写真は以前にオランジュリー美術館で撮ったものです。
右手を頭に当ててソファに横たわる女性が描かれ、背景には青地に花柄のパネルと 白地に花柄のパネルが並んでいます。オダリスクも装飾的なテキスタイルもマティスの作品によく出てくるモティーフなので、この絵はかなり特徴が感じられます。これだけ色が多く明るいのにゴチャつかないのが凄い…。マティスの作品でも特に好きな1枚です。


<アンリ・ルソー>
続いては素朴派と呼ばれた日曜画家のルソーのコーナーです。ここは5点で有名作ばかりでした。
 参考記事:
  アンリ・ルソー パリの空の下で ルソーとその仲間たち (ポーラ美術館)
  アンリ・ルソーから始まる 素朴派とアウトサイダーズの世界 感想前編(世田谷美術館)

16 アンリ・ルソー 「人形を持つ子ども」
こちらは赤地に白の水玉模様のワンピースを着た女の子を描いた作品です。人形を抱えてヒナギクを持っているのですが、顔は真顔でオッサンみたいだし ヒナギクの持ち方もぎこちないかなw さらに膝から下は草原に埋まっていて、空気椅子でもしているかのような奇妙さがあります。可愛いというよりはそのアンバランスさが面白く、素朴でちょっとシュールさまで漂っていました。

この隣には「婚礼」(★こちらで観られます)もありました。本人も登場する群像です。

20 アンリ・ルソー 「ジュニエ爺さんの二輪馬車」
DSC_22210.jpg
※写真は以前にオランジュリー美術館で撮ったものです。
こちらは白い馬が曵いている馬車に5人の人物と犬が乗っている様子が描かれ、馬車の下と前にも犬の姿もあります。馬は割としっかり描かれていますが犬の大きさがチグハグで前にいるのはネズミみたいな…w 馬車の人もみんなこちら向きだったり 小人みたいな女の子がいたりと ツッコミどころ満載ですw しかしどこか懐かしいような感覚があり、妙に心ひかれます。解説によると、タイトルのジュニエ爺さんはルソーの近所の雑貨商で 毎朝の荷馬車での買い出しに出かけているところのようです。一緒に乗っているのは夫妻と子供で、黄色い帽子の人物はルソー自身なのだとか。ルソーの不思議な魅力が詰まった一枚です。


<パブロ・ピカソ>
続いてはピカソのコーナーです。ピカソと言えばキュビスムを思い浮かべる方が多いと思いますが、オランジュリー美術館のコレクションは新古典主義の時代の作品が多めのようです。
 
32 パブロ・ピカソ 「布をまとう裸婦」 ★こちらで観られます
DSC_22255.jpg
※写真は以前にオランジュリー美術館で撮ったものです。
こちらはキュビスムから一旦離れた「新古典主義」と呼んだ時代のもので、非常に肉感的でボリュームのある裸婦像となっています。ざらついたマチエールがさらに重厚感を増しているかな。うつむいて何かを思案しているような感じで、静かな印象を受けました。

31 パブロ・ピカソ 「白い帽子の女」
こちらも新古典主義の時代の作品で、椅子に頬杖している白い帽子の女性が描かれています。遠くを観るような感じで、ボーッとしているんじゃないかな。解説によると、これは最初の妻のオルガと思われるのだとか。これも手がやけに大きくて量感溢れる感じの作風となっていました。

この辺でピカソとギヨームの関係について解説がありました。2人は詩人のアポリネールを通じて知り合い、ギヨームはピカソにアフリカ彫刻を売ったようです。キュビスムはアフリカ彫刻からも影響を受けているので、この出会いは美術史上でも重要な出会いかもしれませんね。 ギヨームはピカソのキュビスムに理解を示したのですが、妻のドメニカはキュビスム作品の大半を売却してしまったようで、残ったのは僅かなようです。このコーナーには1点だけ初期キュビスムの作品がありました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。前半はセザンヌ・マティス・ルソーのコーナーが特に見どころじゃないかな。画商だけあって傑作コレクションばかりとなっています。後半も有名作・傑作が目白押しとなっていましたので、次回はルノワールから最後までご紹介の予定です。

 → 後編はこちら

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