関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

チェコ・デザイン 100年の旅 (感想前編)【世田谷美術館】

前回ご紹介したカフェでお茶した後、世田谷美術館の特別展「チェコ・デザイン 100年の旅」を観てきました。充実した内容でメモも多めに取ってきましたので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 チェコ・デザイン 100年の旅

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00195

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2019年9月14日(土)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
結構お客さんがいましたが、混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は現在のチェコ共和国がチェコスロヴァキアとして独立宣言をしてから100年(2018年が100周年でした)経ったことにちなみ、チェコの独立前夜からほぼ100年のデザイン約250点を時代順に観ていくという内容となっています。日本人でチェコに馴染みがあるのはミュシャが挙げられますが、東側だった時代もある為 日本ではあまり知られていない作家も多いように思います。構成は10章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 1900年:アール・ヌーヴォー 生命力と自然のかたち>
まずは独立宣言より前の1900年頃のコーナーです。この時代、動物・植物をモチーフにし 曲線を多用したアール・ヌーヴォーのデザインが隆盛していて、1900年にパリ万国博覧会によって各国での人気も加速しました。特にチェコ出身のアルフォンス・ミュシャ(チェコ語でムハ)は大きな成功を収め、アール・ヌーヴォーの代表的な作家として多大な影響を与えました。ここにはそうしたアール・ヌーヴォー様式の作品が並んでいました
 参考記事:
  みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ-線の魔術 感想前編(Bunkamura ザ・ミュージアム)
  アルフォンス・ミュシャ展 感想前編(小田急新宿店)

3 エリザベス工房 「花瓶」
こちらは赤っぽいオパールガラスの花瓶で、口の辺りがやや溶け落ちるように歪んでいます。側面には黒い蜘蛛の巣の文様があって、花や蜘蛛をイメージさせます。不定形で柔らかく、有機的な印象を受けるのでアール・ヌーヴォー的な要素が詰まっているように思えました。

この辺は花瓶がいくつかあり、植物をモチーフにしていました。その先はアルフォンス・ミュシャの作品が並び、「ジスモンダ」「四芸術:音楽」「四芸術:踊り」「四芸術:詩」「四芸術:絵画」といった代表作となっていました。チェコのデザインというと真っ先に思い浮かべるのがミュシャですねw

1 ヤン・コチュラ 「肘掛椅子(国民劇場支配人室用)」
こちらは木の椅子で、滑らかな曲線の多い複雑な作りになっています。背もたれの部分にはチューリップのような花のデザインがあり、座る部分には花の文様が表されています。脚が猫足みたいになってるのも可愛いw 優美で軽やかな印象を受け、これもアール・ヌーヴォーの特徴がよく出ていました。


<第2章 1910-14年:チェコ・キュビスム 幾何学的形態からキュビスムへ>
続いては1910年代前半のコーナーです。チェコではアール・ヌーヴォーの影響が強かったようですが、1905年頃からウィーン分離派の幾何学的なデザインの存在感が強まっていったようです。そしてピカソが始めたキュビスムが伝わるとチェコでは絵画や彫刻だけでなく建築や日用品にまで影響し、他のヨーロッパ諸国でも類を見ない発展を遂げました。そのデザインは1914年にケルンで行われたドイツ工作連盟展で特に脚光を浴びたそうで、チェコ特有のものだったようです。しかし1914年からの第一次世界大戦によって芸術的な発展は一時的に止まってしまったため、ここでは戦争前までの時期の作品が並んでいました

18 バヴェル・ヤナーク 「クリスタル(結晶)形小物入れ」 ★こちらで観られます
こちらは陶器の小物入れで、白地に黒の縁取りで黄鉄鉱の結晶を模した作りとなっています。三角形を組み合わせて凹凸がついていて、正確に結晶を再現しているらしく「永遠と秩序という絶対的な価値のある理想形を手に入れようとし、最も完璧な自然の形とみなしたのが結晶だった」とのことです。色も形もシンプルなだけにすっきりとして普遍的な美しさがありました。

31 イジー・クロハ 「燭台(リス)」
こちらは分厚い金属の「ひ」の字の下に「へ」の字をくっつけたような形の燭台です。タイトル通りにリスとして観ると蝋燭を立てる部分が頭のようにも思えますが、かなり簡略化されています。真鍮製で角ばっていることから重厚な印象を受けました。この骨太な単純化は中々面白い。

19 ヴラスチスラス・ホフマン 「椅子(彫刻家ヨゼフ・マジャトゥカ邸食堂用)」 ★こちらで観られます
こちらは四角い背もたれに三角の穴が合いていて、座る部分は正方形で足は三角柱のような形をした木製の黒い椅子です。かなり直線的かつ幾何学的で、近未来的な印象を受けます。しかし実際の座り心地は二の次らしく、全体の構成と力学 そしてフォルムを明確にするのが制作の目的だったそうです。見た目はカッコいいけど、座り心地も考えて欲しかったw 


<第3章 1920年代:アール・デコの時代>
続いては1920年代のコーナーです。この時代、キュビスムの幾何学性・抽象的単純化と チェコの民族的な芸術がアール・デコによって結びついたようで、あらゆる工芸品や工業製品に広く用いられたそうです。そして1925年の現代装飾美術産業美術国際博覧会(通称:アール・デコ博)でチェコは初めて独立国として参加し、フランスに次ぐ多くのメダルを獲得するなど高い評価を受けたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

41 ヴァーツラフ・フィアラ 「革装本」
こちらは革製の本のカバーで、表面に細い金の線で装飾しています。植物文様と柱のような文様が互い違いに配されていて、シンプルながらも流麗かつ豪華な印象を受けます。私は元々アール・デコが最も好きな様式ですが、これは特に洗練されたデザインでかなり好みです。
この辺には同様の本の装丁がいくつかあって、革に金箔で装丁したのはプラハ美術工芸学校の学生たちだそうで、1925年のアール・デコ博で受賞したようです。アール・デコ、キュビスム、伝統工芸などが組み合わさったようなデザインで、受賞も納得のハイブリッドな作風でした。

この近くには雑誌の表紙などもありました。デコというよりはキュビスム的な感じに見えるのが多いかな。ミュシャの絵が使われた紙幣もありました。

52 ルドルフ・ストツカル 「ブローチ」
こちらは4×4の升目状になったブローチで、金の枠と真珠の象嵌でできています。4隅は3つの小さな真珠が連なっていて植物を思わせるかな。これもシンプルなデザインですが、整然とした美しさがありました。

この近くにはガラス工芸やポスターなどもありました。


<第4章 1930年代:シンプルなかたちと機能性>
続いては1930年代のコーナーです。この時代になると、それまでの高い装飾性とは対局にある大量生産可能で機能的なデザインが徐々に広がっていったようです。人間工学や素材の革新によってシンプルさ・多様性・機動性・汎用性・多機能性が追求され、多種多様な品が生まれました。また、1930年代半ばからは有機的形態のデザインが広がり始め、シンプルな幾何学的形態に変わっていったようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

61 フランチシェク・ミーシェク 「カフェモカセット」
こちらはカップ、ソーサー、ポットのセットで、いずれも白地に鮮やかな青のフチの取手や呑口が付けられています。これもかなりシンプルな形ですが、青のフチがアクセントになっていて、揃いで並ぶと統一感のある美しさです。取手などは穴が空いていないのが気になったけど、これでも機能性を追求しているのかな??

75 アンドレ・エンデル 「配膳台(バウハウスのための制作)」
こちらは金属の円と円の間にガラス板を2段重ねた配膳台です。円筒の太鼓を立てたような感じのデザインかなw 下にはガラスの車輪が3輪あり、把手もついていて移動可能になっています。って、配膳台だから当たり前ですが、そうは見えないくらい最小限の造形となっていて美しいだけでなくその機能性にも驚かされました。

74 ラジスラフ・ジャーク(椅子デザイン)、アントニーン・キバル(布地) 「肘掛椅子[シエスタ]」 ★こちらで観られます
こちらは金属の骨に赤い布を張った肘掛け椅子で、金属は一続きに繋がっています。流麗なフォルムで座り心地も良さそうなのに素材は2種類というシンプルさです。これも最小限で最大の機能性を持たせているように思えて、現代でも通じるデザインでした。

この近くにはガラス器やポスターなどもありました。


<第5章 1940年代:有機的フォルムと天然素材>
続いては1940年代のコーナーです。1939年以降のボヘミア・モラヴィア保護領時代と第二次大戦によって社会全体の状況が悪化し、それは工芸品の制作にも影響を与えました。この時代はオーソドックスな機能主義は影を潜め、オリジナリティと本物であることが希求され始め、本来の工芸や民芸が復興していったようです。その背景にはチェコの民族文化が脅かされたことで人々が民族の伝統に傾倒したことに加え、物資の不足で代替案を強いられたこともあるようです。ここには一気に様変わりした品々が並んでいました。

89 「彫り皿」
こちらは四角っぽい厚手の木の皿で、表面には波打つような太い彫り跡がついています。それが葉脈のように思え、素朴な力強さと有機的な生命感がありました。先程の章の洗練の極致からプリミティブなデザインになったことにも驚きます。

97 ヤン・ズノイ 「砂糖入れ・ミルクピッチャー」
こちらはオレンジ色でフチの部分が白いポットです。ずんぐりした太い胴をしていて、全体的に厚手で温かみを感じます。これは伝統的な民芸品に創作の源泉を求める潮流に答えたものだそうで、民芸品への美学的な評価だけでなく 占領者に対するチェコ人の抵抗の現れでもあったようです。素朴で可愛らしいポットなのに、そんな意図まであるとは… この辺はチェコの歴史を知らないと気づけないポイントかも知れません。

この近くには民芸品のような品が並んでいました。


ということで長くなってきたので今日はここまでにしておこうと思います。あまり知らなかったチェコのデザインですが、キュビスムやアール・デコなど幾何学的で単純化されたデザインに強みがあったようで、私の好みに合ってかなり満足できました。後半は東側時代の品が並び、これも興味深い内容となっていましたので次回は残りの10章までをご紹介予定です。

  → 後編はこちら

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