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森芳雄と仲間たち 【世田谷美術館】

前々回・前回とご紹介した世田谷美術館の特別展を観た後、2階の常設展も観てきました。今回の常設は「ミュージアム コレクションⅡ 森芳雄と仲間たち」というタイトルで期間も設けられていました。

DSC06506.jpg

【展覧名】
 ミュージアム コレクションⅡ 森芳雄と仲間たち

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00104

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2019年8月3日(土)~2019年11月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は世田谷に馴染みの深い洋画家の森芳雄と、その仲間の画家たちの作品が並ぶ内容となっています。最初に森芳雄の作品が多く並び、その後に仲間のが数点ずつと言った感じです。画家ごとにコーナーが分かれていましたので、詳しくは各画家ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<森芳雄>
まずは今回の主役である森芳雄のコーナーです。森芳雄は1908年の麻布生まれで、慶應義塾普通部を修了し東京美術学校を受験するも2度に渡り失敗し、1930年協会の研究所で絵画を学びました。1931年には第1回独立美術協会展に入選し、同年に渡仏して今泉篤男、山口薫、浜口陽三らと知り合います。そして、翌1932年にはサロン・ドートンヌに入選、1934年には個展を開催し、その後も独立展などで受賞していったようです。しかし1945年には東京大空襲によって恵比寿のアトリエが全焼し、戦前の作品のほぼ全てが失われてしまうなどの悲劇もあったようです。戦後の1951年からは武蔵野美術学校で教鞭を執り、1981年まで後進の指導にあたりました。一方、1964年には自由美術協会を脱退し主体美術協会を結成して代表を務めています。その作風は 簡略化した人物像を画面に配し、形体相互の拮抗や調和に造形美を見出したものだそうで、特に母子像を多く描いたそうです。この章では貴重な戦前の作品も含め、亡くなった1997年までの作品が並んでいました。
 参考記事:昭和の洋画を切り拓いた若き情熱1930年協会から独立へ (八王子市夢美術館)

1 森芳雄 「枝のある静物」
こちらは現存の少ない戦前の作品で、テーブルの上に置かれた枝が描かれています。かなり簡略的で大きな筆跡が残る大胆な作風で、背景の壁は黒と水色で強めのコントラストとなっていました。独立展系なのでやはりフォーヴ的な要素があるように思えました。

3 森芳雄 「真夏の道」
こちらも戦前の作品で、ブロック塀のある道が描かれています。奥にオレンジ色の屋根の家があり、恐らくフランスの田舎町の光景じゃないかな。赤い帽子と白い服の女性の姿もあり、籠を抱えていて買い物帰りでしょうか。手前には黒猫が横切っているなど 穏やかで心休まる風景です。色が強めで簡略化されていて、夏の日の雰囲気も出ていました。

14 森芳雄 「黄土地帯」
こちらは家々が立ち並ぶ街角を描いた作品で、全体的にオレンジがかっていて くすんだマチエールとなっています。下絵の輪郭のようなものも残っていて、それで何となく形が分かるような感じです。しみじみと寂しげな雰囲気ですが、一方で反対に温かみもあるように思えました。

この辺はくすんで ザラついたマチエールの人物像などもありました。

26 森芳雄 「婦人坐像」
こちらは恐らく横向きの婦人像で、手前のテーブルにリンゴが置かれています。婦人の腕だけは簡単な輪郭が分かりますが、他は赤・青・オレンジなどが交じるシルエットのようになっています。人物は半抽象・半具象と言った様相なのに、リンゴは割としっかり描かれているのが不思議で面白い作品でした。

19 森芳雄 「妻が置いた[みかん]」
こちらは時計、バラ、籠に入った葉っぱ付きのミカンなどが描かれた静物です。この絵ではかなりくっきりした画風となっていて、特にオレンジ色のミカンが色鮮やかに表されています。全体的に明るい色彩なのに穏やかな印象を受けるのも独特でした。

この近くにはパステルの風景素描などもありました。夕日の木立を描いたものが多いかな。

5 森芳雄 「人々」
こちらは大型作品で、人々が集まる所(バーのような所?)が描かれています。人というよりは木像が並んでいるような質感で、キュビスム的な簡略化と多面的な描写に思えます。何人いるのかも はっきりとは分かりませんが、形体的な面白さと人々の身体の重厚感が個性的に思えました。

この辺はたまにキュビスム的な作品がありました。

11 森芳雄 「広場-イタリア」
こちらは今回のポスターになっている作品で、上部に丸い窓のある石造りの建物の前に立つ女性と、建物の隣にある彫像が描かれています。全体的にくすんだマチエールで、細部はわからず風化したような印象を受けます。背景は地面あたりまで青空となっていて、やや超現実的な雰囲気もあるように思えました。

この近くにはメキシコのピラミッドを描いた作品などもありました。

17 森芳雄 「空しき祈願」
こちらは3人の裸体の男女が描かれた大型作品です。男性は天を仰いで何かを乞うように手を挙げていて、後ろには2人の女性が抱き合って何かを心配しているように見えます。人体はしっかり描かれていますが、激しい筆致で茶色っぽい色合いとなっていて荒々しい雰囲気です。どこか悲劇めいた印象を受ける作品でした。

30 森芳雄 「母子」
こちらはオレンジ色の服の子供を抱く青い服の母親が描かれた作品です。やはり細部は描き込まれていませんが、白っぽく明るい背景となっていて 子供の胸元の明るいオレンジの部分に光が降り注いでいるように見えました。全体的に神々しく、聖母子を思い起こすような主題です。

31 森芳雄 「道」
こちらは壁と電信柱らしきものが見える道を描いた作品で、画面の大半は引っ掻いたようなマチエールとなっています。細部は分かりませんが、暗い印象はあまりなく黄昏時のような幻想的な風景となっていました。


<山口薫>
続いては仲間の山口薫のコーナーです。2人は渡仏の際に知り合い、先に滞在していた山口薫が森芳雄の世話をしてくれたようです。何度も展覧会を共にした盟友とも言える仲です。

37 山口薫 「南仏・カッシス風景」
こちらはオレンジの屋根の家々を見下ろす風景画で、背景には森や赤土の山が見えています。四角く幾何学的な家はセザンヌも描いた南仏らしい光景で、屋根のオレンジと緑の対比によって色が鮮やかに感じられました。

40 山口薫 「娘の肖像 おぼえがき」
こちらは全体的に黄色い画面で、中央に人らしき輪郭と赤く太い線で囲まれています。これが娘なの?ってくらい抽象的で、先程の南仏の絵とはかなり画風が異なります。ザラついた様々な色が混じったマチエールも抽象性を高めているように思えました。


<須田寿>
続いては仲間の須田寿のコーナーです。森芳雄と須田寿は同じ武蔵野美術大学で13年間一緒に教鞭をとっていたようで、2人展も開催したことがあるようです。

44 須田寿 「ローマの影」
こちらは横たわった人が描かれ、背景には建物、手前には白い壺が置かれている様子となっています。全体的に茶色っぽく、くすんだマチエールでぼんやり描かれていて 細部までは描き込まれていません。人はマネキンのようで、そのせいかシュールな雰囲気がありました。


<麻生三郎>
続いては麻生三郎のコーナーです。森芳雄とは自由美術協会の会員同士で、武蔵野美術大学で30年ほど共に勤務した仲のようです。2人展も開催したことがあるのだとか。

59 麻生三郎 「胴体と太陽」
こちらは暗い画面にシミのように白い何かが描かれている抽象的な作品です。たまに円などがあって、これが太陽じゃないかな。他の部分はよく分かりませんが、やや不気味な雰囲気が漂っていました

この辺は同様の作品がいくつか並んでいました。


<難波田龍起>
続いては難波田龍起のコーナーです。森芳雄とは自由美術協会の会員同士だったようです。

55 難波田龍起 「流動する生命体」
こちらは青い背景に黒い線が無数に流れていくような抽象画です。ジャクソン・ポロックのポーリングを思わせるような感じで、有機的な躍動感と色彩の美しさが魅力的でした。
難波田龍起は戦前の具象と戦後の抽象がありました。


<脇田和>
最後は脇田和のコーナーです。森芳雄とは数多くの展覧会を共にしたそうです。

65 脇田和 「かたつむり」
こちらは上下2段になった大型作品で、それぞれの場面は繋がっているようです。左右に2人の白い人物像があり、中央は枯れた葉っぱ?で画面の真ん中あたりい小さく白いカタツムリらしき姿もあります。全体的に茶色っぽく、幻想的な光景かな。人物は子供のようで可愛らしい雰囲気でした。

この後の部屋には駒井哲郎の展示もありました。そちらは割愛します。


ということで、ミニ個展の様相となっていました。何度か目にしたことはありましたが、これだけまとまっていると時系列の作風の変化も観られて面白かったです。世田谷美術館に行く機会があったら、特別展だけでなく2階の常設展も見て回ることをオススメします。

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