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サラ・ベルナールの世界展 【横須賀美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に、横須賀美術館の特別展「パリ世紀末 ベル・エポックに咲いた華 サラ・ベルナールの世界展」を観てきました。

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【展覧名】
 パリ世紀末 ベル・エポックに咲いた華
 サラ・ベルナールの世界展

【公式サイト】
 https://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1903.html

【会場】横須賀美術館
【最寄】馬堀海岸駅/浦賀駅

【会期】2019年9月14日(土)~11月4日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは多かったですが、快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はフランス芸術が花開いたベル・エポック(良き時代)と呼ばれる時代を象徴する女優サラ・ベルナールをテーマにした内容となっています。サラ・ベルナールは女優として活躍しただけでなく、自ら劇団を率いてそのプロモーション活動に関わり アルフォンス・ミュシャやルネ・ラリックといった新進のアーティストを起用して彼らの成功に大きく寄与しました。さらに自らも絵画・彫刻なども手掛けていたようで、そうした活動も含めて3つの章立てで紹介されていました。今回は作品ごとにはメモを取っていませんが、簡単に各章ごとにその様子を振り返ってみようと思います。
 参考記事:
  みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ-線の魔術 感想前編(Bunkamura ザ・ミュージアム)
  ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち (世田谷美術館)


<第1章 サラ・ベルナールの肖像>
まずはサラ・ベルナールの肖像のコーナーです。サラ・ベルナールは早くから女優を志し、国立劇場のコメディ=フランセーズに入団して舞台デビューを果たします。30歳頃には既に名声を博し、自ら劇団を持ちアメリカへの進出を果たして大成功を収めて世界へと活躍の場を広げ、その名声と人気は世界的なものとなっていきました。また、演劇に留まらず執筆や彫刻、モードの世界でも才能を発揮したアーティストの顔も持ち、さらにイメージ戦略の重要性に気づき広告ポスターのモデルになりメディアを活用して自らをプロデュースするプロデューサーでもありました。その中でミュシャの才能を見出し、ラリックも彼女との邂逅によって道を開いていったようです。ここにはそうしたサラ・ベルナールの肖像が並んでいました。

まずはデビュー当時の頃からの白黒写真が並んでいました。目鼻立ちの整ったくっきりした顔つきで、ミュシャのポスターなどでお馴染みの顔かな。その中に北米公演の時の写真があり、これをサラ・ベルナールは吸血鬼に見えると受け取りを拒否したそうです。私にはそうは思えませんでしたが、セルフプロデュースに厳しかった一面が伺えるエピソードです。他には同僚や家族、友人、恋人の写真もあり、恋人は歴代の18人もの人物が並んでいます。中にはプリンス・オブ・ウェールズなんて写真もあって驚きました。

その先には調髪道具のセットやドレスなど身の回りの品が並び、やはりアール・ヌーヴォー的なデザインが多いように思います。ドレスは花が沢山刺繍されたフリルのついたデザインで、華やかで優美な雰囲気です。ちょっとやりすぎな感じもしますがw

その後は再び写真で、テーブルに両肘をついて頬に手を当てる58歳頃の写真などがありました。そう言われなければ30代くらいの美魔女っぷりで、流石は大女優ですw 他には自宅の写真があり、王宮のような部屋の中に豹やクマ?のような沢山の毛皮が飾られていました。毛皮マニアなのかも。ちょっと装飾過剰でゴテゴテした雰囲気ではありますが豪奢な生活が伺えます。また、少し先には40才下の愛人2人に囲まれた写真もあり、男性の愛人と女性の愛人となっています。この辺は以前の展示で知っていましたが、改めて驚きでした。

その先は絵画の肖像がありました。ウォルター・スピンドラーによる「サラ・ベルナールの横顔」は円形のパステル画で、ファム・ファタール的な妖しさがあります。この画家はサラ・ベルナールを数十点も描いていたそうで、「我が欲望の全ては願いの全ては彼女から我が身にもたらされる」と書き記しているそうです。ミュシャ作品の清純さとは違った見解に思えて、私の中でちょっとイメージが変わったかもw 近くにはリトグラフの肖像がいくつかあり、ミュシャの「ラ・プリュム誌」の表紙などもありました。

この章の最後のあたりにはロートレックによる素描のリトグラフの肖像もありました。簡素で素早いタッチで、お世辞にも可愛くは見えないw 特徴を誇張していてロートレックらしい皮肉っぽい雰囲気が感じられました。
他にはサラ・ベルナールをモチーフにした扇子やブロマイドのような葉書サイズの写真なども数点並んでいました。まさに時代の寵児といった様相です。


<第2章 女優サラ・ベルナール>
続いては出演していた演劇に関する作品が並ぶコーナーです。サラ・ベルナールは所属劇団を度々変えながら「フェードル」「エルナニ」などの悲劇で成功を収めて人気を得ていったそうで、1880年にサラ・ベルナール劇団を立ち上げました。自らプロデュースし、舞台衣装や広報まで関わりミュシャやラリックも舞台衣装に関わって行くことになります。ここにはそうした演劇関連の品が並んでいました。
 参考記事:生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想前編 (国立新美術館)

この章もまずは写真が並び、豪華な衣装をまとってポーズをきめています。「テオドラ」に関する写真が多いかな、舞台上でなくわざわざ写真の為に衣装を着て撮ったらしいので、これもイメージ戦略を重視していた現れかもしれません。その先には舞台衣装のコーナーがあり、胸飾りやブローチなどが並びます。おそらくガラス製ですが、「テオドラ」や「クレオパトラ」など役によって様々な様式やデザインとなっていてかなり精密です。舞台から見えるような大きさじゃなくても妥協は無さそうでした。

その先には舞台に関する絵画が並び、テオパルド・シャルトランの「『ジスモンダ』でのサラ・ベルナール」が目を引きました。これは棕櫚の葉っぱを持つサラ・ベルナールで、ミュシャの「ジスモンダ」によく似た衣装とポーズとなっています(当たり前ですがw) 写真のように精緻に描かれ歯を見せるような笑顔となっていますが、全体的には妖艶な感じでした。見慣れたミュシャの「ジスモンダ」とは印象が違って面白い。

もう1つ、ウジェーヌ・サミュエル・グラッセによる「ジャンヌ・ダルク」のポスターが2点ありこれも見どころでした。いずれも胸に手を当てて上を向き槍を持つジャンヌ・ダルクに扮したサラ・ベルナールで、周りには矢が飛び交っています。2点あるのは修正前後のようで、修正前は短いチリチリ髪なのが修正後ではロングのストレートヘアになっていたり、顔の向きが正面になっていたり、裾の中の足が隠れていたりと細かい改変が観られます。それでもサラ・ベルナールは気に入らなかったようですが、全体的にアール・ヌーヴォー的な雰囲気があり、ミュシャに大きな影響を与えたようです。ミュシャのジスモンダもこの作品から影響を受けていると考えられているので、そんなに悪い作品じゃないと思うのですが…。このポスターが気に入られていたらミュシャの出番は無かったかもしれませんねw

続いてはミュシャのコーナーです。ミュシャについては何度も取り上げてきたので参考記事をご参照頂ければと思いますが、ジスモンダ、トスカ、椿姫、メディア、夢想、黄道12宮などの有名作が並んでいました。JOBもあったけど、これもサラ・ベルナールがモデルなのかな?

こちらはロビーにあった「メディア」と「椿姫」のパネル
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可憐な椿姫に対してメディアの狂気に満ちた感じが怖いw

こちらもロビーにあった「ロレンザッチオ」のパネル
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初めての男役で凛々しい雰囲気です。

他には恐らくミュシャの作品と思われる『メディア』の衣装案などもあって、これは目新しい所でした。また、ミュシャがチェコに帰国した後の「巫女」という油彩作品もあり、白い布をまとった女性が手に火を持っていて、神秘的な印象を受けます。全体的に淡い色彩で写実的な画風で「スラヴ叙事詩」の作風に近いかな。これがサラ・ベルナールと関係あるとは思えませんでしたが…。 その隣にも「女占い師」という油彩作品があり、それも魔術的な雰囲気でした。

その後はルネ・ラリックのコーナーです。サラ・ベルナールはラリックの初期からの顧客の1人で、1894年にはサラ・ベルナールの舞台のジュエリーを担当することになり一気に知名度を上げたそうです。ここにはミュシャがデザインしてラリックが制作した(と言われる)最初で最後のコラボ作品「舞台用冠 ユリ」がありました。(★こちらで観られます)  円環の周りに装飾があり、両耳のあたりに真珠を敷き詰めたユリの花の飾りが立体的に表されています。額の辺りには大粒のトルコ石があり、豪華な印象を受けました。ちょっとゴテゴテしてるけど舞台映えしそうな感じです。

その後は恐らくサラ・ベルナールには関係ないラリックの名品が並んでいます。スカラベやトカゲ、バッタをモチーフにした花器やアール・デコ時代の「つむじ風」、女性をモチーフにした指輪やブローチ、香水瓶などがあり、箱根ラリック美術館の所蔵品が多かったように思います。
 参考記事:箱根ラリック美術館の常設 2018年1月(箱根編)

この章の最後にはその他の作家の作品がいくつかあり、舞台プログラムや座席の見取り図といった当時を忍ばれる品々となっていました。また、次の章との間にはサラ・ベルナール自身の彫刻作品もありました。1872~73年頃に突然 彫刻を始めたそうで、師のマシュー・ムスニエの作風を受け継ぎ物語性に富む具象彫刻を制作したようです。10年以上サロンにも出品していて、人物像を中心に25点が現在確認されているそうです。ここで目を引いたのは「キメラとしてのサラ・ベルナール」という自刻像で、コウモリの羽を持ち魚の尻尾もあって、肩には人の顔のような肩当てをつけているなどタイトル通りのキメラっぽさが漂います。結構不気味で何でこんな作品を急に作ったんだろ?という疑問がわきますが、多様な役柄を演じた自身を表しているとのことで、意外と自分自身を客観的に皮肉っていたのかもしれません。
他には演劇のワンシーンのような人物彫刻もあって、本当に自作なの??と疑ってしまうほどの見事な腕前でした。


<第3章 サラ・ベルナールが生きた時代>
最後はサラ・ベルナールが活躍したベル・エポックの時代のポスターのコーナーです。1896年12月9日に「サラ・ベルナールの日」が開催されたそうで、ルネサンス座でサラ・ベルナールの特別興行が行われ500人もの招待客が集まりました。その人気ぶりは死後も失われなかったようで、ここには生誕100年の時の作品なども並んでいました。

ここにはテオフィル=アレクサンドル・スタンランの「シャ・ノワール」、ロートレックの「ディヴァン・ジャポネ」「歓楽の女王」、ジュール・シェレの「カンナバル」などこの時代の有名作がありました。
 参考記事:
  ロートレック・コネクション (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  トゥールーズ=ロートレック展 (三菱一号館美術館)
  パリ♥グラフィック—ロートレックとアートになった版画・ポスター展 (三菱一号館美術館)
  ニース美術館 【南仏編 ニース】

こちらはロビーにあったテオフィル=アレクサンドル・スタンランの「シャ・ノワール」の複製
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フランス語でシャは猫、ノワールは黒です。傑作中の傑作ポスターです。

こちらもロビーにあったロートレックの「ディヴァン・ジャポネ」
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こちらもロートレックの代表作。左上の歌姫ではなく観客を描いているのが面白い。

こちらはシェレの「カンナバル」
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オペラ座の1894年のカーニバルの際のポスターです。シェレはポスター画の先駆者でロートレックも彼に助言を受けています。

他にもオーギュスト・レーデルの「ムーラン・ルージュ 夜会・流浪の芸術家」やモーリス・ドニの「ラ・デページュ誌」、日本人女優を描いたアルフレード・ミュラーの「サダヤッコ」、ブールデルのアールデコ博のポスターなど有名作が目白押しでした。
 参考記事:
  文化のみち二葉館の写真 (名古屋編)
  所蔵作品展 アール・デコ時代の工芸とデザイン (東京国立近代美術館 工芸館)

最後はサラ・ベルナール関連の品で、切手や「サラ・ベルナールの日」のメニュー、記念冊子、生誕100年のポスターなどがあり、今回の展示そのものも含めて近代芸術の黄金期の象徴として死後も多くの人にインスピレーションを与え続けている様子が伺えました。


ということで、サラ・ベルナールが芸術に与えた影響の大きさを知ることができる内容となっていました。この展示は冬に松濤美術館でも開催されるようですが、この横須賀美術館はロケーションが良く常設や谷内六郎館も楽しめるので、こちらで観て正解だったように思います。今後の美術鑑賞の参考になるような展示でした。

 → 後日、松濤美術館でも巡回展を観ました。
    参考記事:サラ・ベルナールの世界展 (松濤美術館)

おまけ:
ミュージアムショップでシャ・ノワールの缶に入ったクッキーを買いました。
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2300円と高かったですが、美味しかったです。むしろこの缶が目当てで絵葉書入れに使おうと思いますw


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