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ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン ― 【パナソニック汐留美術館】

前回ご紹介した展示を見る前に新橋・汐留のパナソニック汐留美術館で「ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン ―」を観てきました。

DSC06773.jpg

【展覧名】
 ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン ―

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/191005/index.html

【会場】パナソニック汐留美術館
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2019年10月5日(土)~12月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混み合っていて、狭い場所では混雑感がありました。それでも少し待てば概ね自分のペースで観ることができるくらいでした。

さて、この展示はフォーヴィスムの画家ラウル・デュフィの名をタイトルに冠していますが、よく知られる絵画作品よりもテキスタイルの仕事を中心にした一風変わった内容となっています。デュフィはポール・ポワレとの協業やリヨンの絹織物製造業ビアンキーニ=フェリエ社のために1912年から28年までテキスタイルのデザインを提供していたようで、上流階級の女性たちを魅了し大評判を得ていたそうです。この展示ではそうした品をモチーフのテーマごとに章分けしていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  アングラドン美術館 【南仏編 アヴィニョン】
  【番外編 フランス旅行】 パリ市立近代美術館
  ラウル・デュフィ展 ~くり返す日々の悦び~ (三鷹市美術ギャラリー)


<第1章 絵画 生きる喜び  陽光、海、そして音楽>
まずは絵画作品のコーナーです。今回の展示では初期から晩年まで16点の絵画作品が出品されていました。初期は印象派に影響を受けた作風で、マティスの作品と出会ったことでフォーヴィスムへと傾倒していき、セザンヌからも影響を受けたようです。1920年前後から南仏のヴァンスに滞在して制作に没頭し、華やかなテーマの作品を多く残しました。ここにはそうした特徴が観られる代表的な作風の作品が並んでいました。

1 ラウル・デュフィ 「グラン・ブルヴァールのカーニヴァル」
こちらはフランスの街角で行われているカーニヴァルを描いた作品で、粗くザラついたマチエールとなっています。一見して印象派からの影響が観られるので初期作品じゃないかな。奥に大きな建物にフランスの国旗が掲げられ、人々が練り歩いていて 賑わう様子が伝わってきます。全体的に暗めの色調なのは冬だからのようです。まだデュフィの個性は発揮されていませんが、都会的なセンスが感じられるのは流石でした。

3 ラウル・デュフィ 「サン=タドレスの大きな浴女」
こちらは海と海岸沿いの町を背景に、水着の女性が描かれています。女性はまるで遠近感を無視したかのような大きさで、ボリューム感のある体つきをしているので迫りくる感じがしますw 全体的に明るく素早い筆致で、色面と輪郭を使って表されているので勢いも感じられました。解説によると、この水着はココ・シャネルが提案したパンツスタイルの水着だそうで、当時は新しいファッションだったのかも。色鮮やかで大胆な作品です。

今回の油彩は割と見覚えがある作品が多いかな。国内のデュフィ作品はそれほど多くないので必然ではありますが…

6 ラウル・デュフィ 「ヴェルサイユ宮殿風景」
こちらは横長の画面で、奥にヴェルサイユ宮殿があり手前に泉のある光景となっています。空は青く宮殿は赤みがかっていて、対比的な色使いが目に鮮やかです。こちらも素早い筆致ですが、建物などの形態はしっかりしていて窓や柱にリズム感がありました。

5 ラウル・デュフィ 「ニースの窓辺」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品です。ニースの浜辺が見えるホテルの一室を描いた作品で、室内と眺望が両方見える光景となっています。この部屋はマティスも描いた部屋と考えられるようで、題材的にもマティスっぽさを感じるオマージュ的な作品です。全体的に青みがかっていて、左右の開け放たれた窓から見える海と空が非常に爽やかで開放的です。部屋の中まで色調を合わせているなど、現実よりも色の明るさを重視しているように思えました。
 参考記事:ニースの写真と案内 【南仏編 ニース】

10 ラウル・デュフィ 「オーケストラ」
こちらはオーケストラの演奏の様子を描いた作品で、見下ろすような視点となっています。全体的に簡略化されていて、指揮者の身振りやティンパニー奏者の構えなどからは動きが感じられ、その流麗なフォルムが音楽の流れのように思えます。デュフィは幼い頃から音楽好きで、多くの音楽関連の作品を残しています。この作品にも音楽への愛が満ちていました。

この辺には音楽を主題にした作品がいくつか並んでいました。


<第2章 モードとの出会い>
続いてはモードとの出会いに関するコーナーです。デュフィは1910年に詩人のアポリネールから依頼されて『動物詩集またはオルフェウスの行列』への挿絵を木版で制作しました。この作品はドラマチックな明暗表現とモダンで簡潔な構図で表されたもので、こうしたグラフィックの仕事を観たデザイナーのポール・ポワレは、高く評価してレターヘッドを依頼したり協働して布地の開発を始めるようになったようです。この活動は短期間のものだったようですが、テキスタイル・デザインに関心を深めたデュフィは1912年にリヨンにあるビアンキーニ=フェリエ社と契約して、布地の図案を提供することになっていきました。この章ではそうした時期の作品が並んでいました。

R2 ラウル・デュフィ 「動物詩集またはオルフェウスの行列」(複製)
こちらがアポリネールに依頼されて作った版画で、フクロウ、亀と竪琴、馬(ペガサス)、果物とハツカネズミ、象などが描かれたページが展示されていました。いずれも白黒で彫りの太い大胆な作風で、素朴で力強い印象を受けます。油彩などとはかなり作風が違うように思えますが、単純化の仕方が面白く感じられました。

24 ラウル・デュフィ 「ペガサス」
こちらは緑地に赤と黄色で表されたテキスタイルで、先程の「動物詩集またはオルフェウスの行列」に描かれていた馬によく似ている姿となっています。パターン化されて同じ絵柄が連続しているのが布地らしい所で、ジャングルの中にいるような雰囲気がありました。

この辺からはテキスタイルが並んでいます。モチーフが単純化されて 繰り返される図様となっていて、色違いバージョンなども展示されていました。「動物詩集またはオルフェウスの行列」からの引用と思われるものが多かったように思えました。

35 ラウル・デュフィ 「仔象(下絵)」
こちらは象と仔象が椰子の木の下で戯れるような姿が描かれた原画です。全体的に色面を使って表現していて、植物の葉の形が象の身体に重なっているような独特の手法となっています。色違いのバージョンがいくつかあり、少ない色数でも豊かな色彩に感じられました。

17 原案:ポール・ポワレ、制作:モンジ・ギバン 「イヴニング・コート≪ペルシア≫」 ★こちらで観られます
こちらはポール・ポワレがデザインしたコートで、南方系の植物柄の布を使ってガウンのような形をしています。モード界では「着物のライン」と表現されたようで、ゆったりした印象を受けるかな。白黒の模様が何とも大胆で、コートの形とよく合っているように思えました。

11 ラウル・デュフィ 「公式レセプション」
こちらは油彩で、1925年のアール・デコ博でポール・ポワレ館の展示のために制作した14枚の壁掛けのうちの2枚を後に再構築したもので、元の絵に描かれていた人物がこの絵ではホールのような所で談笑している様子となっています。タキシードや軍服の男性、ドレスの女性などが集う華やかな社交界といった感じで、筆致は流れるようで色も鮮やかです。まさにデュフィの都会的センスが凝縮されたような作品でした。

この辺にはポール・ポワレの写真などもありました。

R17-22 「ビアンキーニ=フェリエ社の布地用版木」
こちらは布地用の版木で、細かい彫刻で模様を作っています。こうした版木を観る機会は少ないので 貴重なものではないかと思います。近くにはテキスタイルのサンプル帳などもあり、テキスタイル制作の様子なども伺えました。


<第3章 花々と昆虫>
続いては花や昆虫をモチーフにしたテキスタイルが並ぶコーナーです。デュフィは1912~28年の間、テキスタイルに本格的に取り組んだそうで、花や蝶は大きな人気となったようです。ここにはそうしたモチーフの作品が並んでいました。

59 ラウル・デュフィ 「薔薇」
こちらは赤とピンクの薔薇が並ぶテキスタイルです。よく観ると4つセットで同じ絵柄が繰り返し並んでいるのですが、そうとは感じさせない広がりがあるように思えます。簡略化されても可憐な印象の図像も見事でした。

この近くにあった「薔薇と花」というテキスタイルも好みで、葉っぱや花の形が滑らかな曲線で色が重なりある美しい作品でした。また、この付近の床には花柄のデザインがプロジェクションマッピングのように投影されていました。

63 ラウル・デュフィ 「野の花(下絵)」
こちらは白や赤の花々が並ぶテキスタイルの下絵です。下絵なのにパターン化されていて同じ絵柄が繰り返されています。色の対比が鮮やかで、可愛らしい花となっていました。

この辺はグワッシュの下絵が並んでいました。色違いで同じ図像を4パターン描いた品もあります。

16 ラウル・デュフィ 「花束」
こちらは大きな油彩の静物画で、白い花瓶に入った白い花と大きな葉っぱを描いています。背景は薄い緑色となっているので明るい印象を受けるかな。色面と輪郭が少しズレているところが多く勢いを感じました。

81 ドレス・デザイン、制作:オリヴィエ・ラピドス 「ドレス テキスタイル≪星空の花≫」
こちらは胸元がV字になったドレスで、大ぶりの花の模様が灰色と白のモノクロで表されています。モダンで落ち着きが感じられ、裾の長いドレスの形は華麗で気品ある雰囲気となっていました。

96 ラウル・デュフィ 「蚕」
こちらは蚕がぎっしり並んだ柄のテキスタイルです。整然と幼虫・成虫・桑の葉が並んでいるのですが、ちょっとキモいw 絹をイメージさせるけど正直苦手な絵柄でした。色違いもいくつかあって人気があったのかな??


<第4章 モダニティ>
最後はダンスホールやスポーツする女性など近代的なテーマのテキスタイルが並ぶコーナーです。

99 ラウル・デュフィ 「ヴァイオリン」 ★こちらで観られます
こちらは赤や白の薔薇、楽譜、赤青の2色で表されたバイオリンが描かれたテキスタイルです。渦巻くように配置されていて、重なり合って多面的になっているのがキュビスム的にも思えます。赤・白・青の色の対比が強く派手な色彩となっていました。

この隣には油彩の「黄色いコンソール」もありました。音楽モチーフ繋がりです。

103 ラウル・デュフィ 「テニス」
こちらは葉っぱに囲まれたテニスコートでテニスをする2組の男女(4人)が描かれたテキスタイルで、中央あたりにはボールがあって打とうとしているようです。モチーフはモダンだけど白黒で版画的な素朴さを感じるかな。解説によると1919年にフランス人がウィンブルドンで優勝したそうで、コットンワンピースのウェアも注目された頃なのだとか。

近くに中国風のデザインやダンスホールをデザインした作品もありました。

121 ドレス・デザイン、制作:モンジ・ギバン 「ドレス テキスタイル≪波≫」
こちらは赤・青・白の曲線を組み合わせた波状のテキスタイルを使ったドレスです。裾のあたりは同じ色でも違った波文様となっていて2種類の模様を組み合わせているようです。色は明るく華やかなものの、派手過ぎずに流れるようなフォルムがドレスの形とよく合っていました。今回観たドレスの中で一番好みかも。

この辺は幾何学模様のテキスタイルがいくつかありました。鱗をモチーフにしたドレスなどもあります。

127-130 ドレス・デザイン:アンソニー・パウエル、制作:モンジ・ギバン 「ドレス-マイ・フェア・レディ」
こちらだけは撮影可能となっていました。
DSC06781.jpg
ちょっとメルヘン過ぎる感じがして、これはそれほど好きになれなかったw


ということで、あまり知らなかったデュフィのテキスタイルの仕事をじっくり観ることができました。私が一番好きな洋画家はデュフィかマティスのどちらかなので、期待通りの満足感でした。少数ながら絵画も良い作品があるので、洋画好きの方にもオススメの展示です。

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