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ゴッホ展 (感想前編)【上野の森美術館】

この前の土曜日に上野の森美術館でゴッホ展を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC06897.jpg

【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混んでいてチケットを買うのに15分くらいかかりました。事前にチケットを買っておけば並ぶ必要もなかったので、他で買ってから行ったほうが良いかもしれません。中もお客さんがぎっしりで予想以上に観るのに時間がかかりました。観に行く際はスケジュールに余裕を持っておくことをオススメします。

さて、この展示は日本でも大人気の画家フィンセント・ファン・ゴッホをメインにしたもので、ハーグ派 と 印象派 という2つの潮流との出会いをテーマに時系列的に作風を追う内容となっています。ゴッホは毎年のように展覧会をやっているような気がしますが、ハーグ派に目を向けるのは久々の機会だと思います。前半がハーグ派関連、後半が印象派関連という構成となっていて、ゴッホに影響を与えた画家たちの作品も展示されていました。詳しくは各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この記事で使っている写真は表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。

参考記事:
 ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 (東京都美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想後編(国立新美術館)
 メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)
 映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)
 ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】


<Part I ハーグ派に導かれて>
まずは初期のコーナーです。ゴッホは神父などを目指していましたが27歳の頃に画家になることを決心し、独学で絵を学び始めました。色彩理論や素描についての本を読み、過去の巨匠の作品を模写していたようで、フランソワ・ミレーの農民への眼差しに共感してまずは農民画家を目指しています。1881年末にハーフ派の中心的な画家であるアントン・マウフェに教えを請うと、翌年にはハーグに移住し他の画家とも交流し指導を受けて制作を共にしています。この時に得た 戸外で風景を観察したりモデルを前にして描く姿勢は その後も一貫して守り続けていくことになります。1884年にようやく油彩画の大作に取り掛かり、翌年の春に「ジャガイモを食べる人々」を仕上げました。初期の代表作であるこの絵は複雑な構図と明暗を表現した自信作でしたが、仲間には不評だったようです。この章ではまだ地味な色彩だった頃の作品が並んでいました。

[独学からの一歩]
ゴッホは画廊に勤めていた間にハーグ、ロンドン、パリなどに移り、その度に展覧会や美術館に足を運んでいたようです。特に惹かれた作品は手紙で弟のテオに語ったり複製画を自分の部屋に飾ったりしていたようです。そして本から学ぶ一方で地元の農民の日常を題材にデッサンを重ね、その後マウフェの助言でモデルを観て描くようになっていきました。ゴッホは地道な訓練を重ねて技術を高めなければならないと考えていたようで、この節にはそうした研鑽の日々の作品が並んでいました。

9 フィンセント・ファン・ゴッホ 「馬車乗り場、ハーグ」
こちらは馬車乗り場に立つ帽子の女性を描いた作品です。全体的に茶色っぽい画面で、背景はあまり詳細には描かれていませんが しんみりとした情感が漂います。落ち着いていて郷愁を誘うような色調なので晩年の作風とはかなり異なる印象でした。
この辺は同様の画風の茶色っぽい重厚な色彩の作品が並んでいました。水彩やデッサンもあります。

7 フィンセント・ファン・ゴッホ 「永遠の入口にて」
こちらは椅子に座り顔を手に当てて うずくまるような姿勢の老いた農夫を描いたデッサンです。足の部分がちょっと奇妙だったり全体的に硬い描写のように見えますが、絶望しているような感じがよく伝わるかな。農民に寄り添うような視線の作品です。

6 フィンセント・ファン・ゴッホ 「疲れ果てて」 ★こちらで観られます
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こちらも先程の作品と似た姿勢の農夫を描いたデッサンで、少し色も塗られています。タイトル通り疲れ果てて寝ているようで、周りの生活用品も貧しそうな雰囲気です。マウフェの教えに従い生きた人間をモデルに描いたようで、足がやけに長いように見えますがだいぶ質感などが出ているように思えました。

5 フィンセント・ファン・ゴッホ 「籠を持つ種まく農婦」
こちらは畑の上で籠を持って立つ農婦を描いた作品です。右手から種がこぼれていて、無気力にぼーっと立って物思いに耽っているような感じです。こんな直立不動で種まきなんてできるの?って不自然さがあるかなw 全体的に暗い印象を受ける作品でした。


[ハーグ派の画家たち]
続いてはハーグ派の画家たちの作品のコーナーです。ハーグ派は19世紀後半にハーグを拠点に活動した一派で、17世紀オランダ黄金時代から続くレアリスムの流れに属し 田園や海岸に赴いて風景を描きました。自然や素朴な暮らしを描いた作品がゴッホを強く魅了したようで、ゴッホは彼らに教えを請い共にスケッチに出かけるようになりました。直接の交流は1885年までにほぼ無くなりますが(1886年2月末にはパリに出ている)、この頃教わった画材の扱いや観察する姿勢はゴッホの土台を築き上げたようです。ここにはゴッホと交流したハーグ派の作品が並んでいました。

19 アントン・マウフェ 「雪の中の羊飼いと羊の群れ」 ★こちらで観られます
こちらは大型で横長の作品で、雪の中を沢山の羊の群れが移動している様子が描かれています。白い雪に灰色の空、羊たちは茶色がかった感じで地味な色彩となっています。しかし大胆な厚塗りとなっていて、画面からは質感や寒々とした雰囲気が伝わってきます。冬の情感と自然の厳しさが詰まったような大作でした。

この辺はマウフェの作品がいくつかありました。マウフェはゴッホの親戚でもあったようです。

29 アントン・ファン・ラッパルト 「ウェスト=テルスへリングの老婦たちの家」
こちらはテーブルに向かう5人の老婆たちが描かれ、背景にも1人の姿が描かれています。貧しい農家の家の中のようで、裁縫をしたり立っていたりとそれぞれ異なるポーズをしていて、画面構成に主眼が置かれているようです。解説によるとこの作者は王立アカデミーを出た画家で、ゴッホと親しく交流しゴッホから影響を受けて 貧しい農民たちを描くようになったようです。しかしこの絵を観ても方向性の違いがあり、後にゴッホの「ジャガイモを食べる人々」を酷評して仲違いしています。貧しい人々を描いているけどアカデミックな本格派であることが伺える作品でした。

近くにはマリス3兄弟の作品などもありました。こうしてハーグ派の作品を観ていると茶色っぽく静かな色使いはハーグ派を通しての特徴のようで、ゴッホがいかに影響を受けていたかが分かります。

12 ヤン・ヘンドリック・ウェイセンブルフ 「黄褐色の帆の舟」
こちらは川に浮かぶ3艘の小舟と、川沿いの道が描かれた風景画です。空を広く取って雲から光が漏れているような光景で、広々として光の表現が見事で、川面が光っているように見えます。解説によると、この画家はハーグ派の中でも傑出した画家で、ゴッホを高く評価してゴッホと関係が悪化したマウフェとの間を取り持ったりもしたそうです。ゴッホ抜きにしても良い作品なので、この画家はもっと観てみたくなりました。

14 ヨゼフ・イスラエルス 「縫い物をする若い女」
こちらは窓辺で縫い物をしている女性を描いた作品で、黙々と作業している静かな光景となっています。落ち着いた色調であるものの、光が当たっている感じが出ていて、構図や題材的に同じオランダのヨハネス・フェルメールやピーテル・デ・ホーホなど17世紀の巨匠に通じるものがあるようです。そこまで細密な描写ではありませんが、温かみもあって静謐な印象の作品でした。

この近くにはイスラエルスの作品がいくつかありました。イスラエルスはゴッホが特に称賛していた画家で、当時は第2のレンブラントと称されていたようです。この他にも海老を取る漁師を描いた作品など、巧みな光の表現の作品がありました。


[農民画家としての夢]
ゴッホは1884年後半から翌年にかけて初めて油彩による大作に取り組みました。これが暗い室内で農民の一家が慎ましい食事を摂る「ジャガイモを食べる一家」で、この作品の為に まず数ヶ月をかけて習作を描き、40点近くの農民の頭部を仕上げているそうです。そして完成作に大きな自信を持ったゴッホは 家族や友人にその成果を知らしめる為に同じイメージを版画に起こして送ったそうで、そのために版画工の元に通って版画制作を学んだりもしています。しかし友人のアントン・ファン・ラッパルトに酷評されて5年の友情は終わってしまいました。ここにはその頃の作品が並んでいました。

30 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモの皮を剥くシーン」
こちらは粗末な台の上に座って膝の上でジャガイモの皮を向いている女性を描いた素描です。明暗が強く全体的にカクカクした描写で硬い印象を受けるかな。解説によるとこの女性は1882年1月から1年半ほどゴッホと一緒に暮らしたシーン(クラシナ・マリア・ホールニク)という子連れの娼婦だそうです。アルコール中毒でもあり悲惨な境遇に同情してモデルにして同棲したようですが、この女性によって貧窮しただけでなく父やマウフェとの関係が悪化したようです(テオもシーンとの関係を反対し、別れなければ仕送りを止めると迫っています) しかしゴッホは別れた後も未練があったようなので愛情もあったのかも?? 色々とトラブルを招いた女性なのは間違いないですね…。

37 フィンセント・ファン・ゴッホ 「農婦の頭部」 ★こちらで観られます
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こちらは人物の頭部ばかりを集中していた時期の作品で、デップロート家の娘のホルディーナがモデルとなっています。(この娘は何度もモデルを務めています)女性であるものの浅黒い肌で眉が濃く、割と逞しくて素朴な雰囲気に見えるかなw この習作はこの後に出てくる「ジャガイモを食べる人々」に活かされていました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモを食べる人々」 ★こちらで観られます
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こちらは同名の作品を版画にしたもので、これをラッパルトやテオに送ったようです。5人の農民がテーブルを囲ってジャガイモを食べている様子ですが、ちょっと明暗が浅くて動きがぎこちない感じで、お互いに無関心なようにも見えます。近くにはラッパルトからの手紙もあり「真剣に描いたとは思えない ~中略~ 上辺だけで動きを勉強していない。芸術を横柄に扱うな」といった批判が書かれています。確かにミレーの「種蒔く人」を持ち上げいただけに動きの無さは否めないような…。それに対してゴッホは「リトグラフを1日で描いたし実験的なもの 油彩はコントラストの点でもっと成功した」と弁明しています。試しに油彩の写真を調べて観るとリトグラフに比べて明暗表現が緻密で劇的なので、版画の出来の問題もあるのかも。とは言え、既に印象派に接していたテオの反応も微妙だったようなので、本人の思ったほど周りは傑作とは思っていなかったのは間違いなさそうでした。

44 フィンセント・ファン・ゴッホ 「秋の夕暮れ」
こちらは木々に囲まれた道に女性らしき人影がポツンと立っていて、背景には夕焼け雲が描かれた作品です。全体的に暗くこの頃の作風らしいかな。晩年の明るい色彩とは対極にすら思えます。しかし寂しげな雰囲気が叙情的で、これはこれで好みの作品でした。

41 フィンセント・ファン・ゴッホ 「器と洋梨のある静物」 ★こちらで観られます
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こちらはニューネンに移った頃に描いた作品で、この時期に先程のホルディーナが妊娠してゴッホが父親ではないかと疑われ、ニューネンの村ではゴッホのモデルになるのを禁止されて、ゴッホは人物ではなく静物を描いていたようです。暗い背景に皿に入った山盛りの洋梨が描かれ、明暗が強く艷やかに光っています。しかし全体的に茶色っぽくて沈んだ色調なのでジャガイモのような色にも見えますw 素朴で力強い雰囲気で、この頃のゴッホの画風がよく出ていました。

この辺は同様に暗い色調の農夫を描いた作品などが並んでいました。解説ではテオは給料の半分をゴッホに仕送りしていたエピソードを紹介していて、絵の所有権は全てテオにあったようですが兄さん思いの優しい人柄がよく分かる逸話でした。


ということで、前半は地味な色彩で農民を描いた作品が中心となっていました。正直、ここで終わっていたらゴッホは無名のままだったような気がしますw 後半は印象派に傾倒して一気に花開いた時期から晩年までの作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら

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