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ゴッホ展 (感想後編)【上野の森美術館】

今回は前回に引き続き上野の森美術館の「ゴッホ展」についてです。前編は上階の内容についてでしたが、後編は下階についてご紹介してまいります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC06863_20191021223348e03.jpg

【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
下階も上階同様に混雑していて、あちこちで人だかりが出来ているような感じでした。後編も引き続き各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、後編で使っている絵の写真も表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。


<Part 2 印象派に学ぶ>
パリに出るまでゴッホはハーグ派に影響を受けた作品を描いていましたが、パリで出会った新たな傾向はこれまでの価値観を打ち壊すものでした。モンティセリによる厚塗りや宝石のように輝く色彩、印象派による科学的な理論に基づいた筆触分割など、ゴッホは彼らの作品を評価し 技法を取り入れることで作風を劇的に変化させていったようです。その後のパリからアルルに移った時期は最も色鮮やかで強烈な色彩が使われ、絵の具も厚く塗られる画風となりました。そして精神病でサン=レミに移るとまた異なる段階に進み、ミレーの模写や自作の再制作を行い 幾分落ち着いたトーンになります。同じ向きや長さのタッチを緻密に並べたりうねるようなものになっていき、最期まで自身の芸術を追い求めました。この章ではパリ以降の晩年までの作品が並んでいました。

[印象派の画家たち]
まずはゴッホに影響を与えた印象派やモンティセリの作品が並んでいました。モンティセリの名前はアルルに移って間もない頃にテオへの手紙の中に出てくるようで、卓越した色彩家として崇拝し厚塗りを積極的に取り入れていきました。それに対して印象派は既に名声を得ていたようで、大通りの画廊で扱われていたのでゴッホは「大通りの印象派」と呼んでいたようです。一方でゴッホ自身を含む若い世代の画家を「裏通りの印象派」と呼び、共にスケッチに出たり展覧会を開いて親密な仲になりました。

54 カミーユ・ピサロ 「ライ麦畑、グラット=コックの丘、ポントワーズ」 ★こちらで観られます
こちらは手前にライ麦畑が描かれ、左側に木があり 奥には向こうの丘が見えている風景画です。画面半分は空で清々しい印象を受け、穏やかな光景が広がります。ライ麦畑は厚塗りされていて実際に目の前にライ麦があるかのような立体感を感じます。穂の流れもあってリズミカルな躍動感もありました。
ゴッホはピサロ親子と仲良くなったようです。ピサロは気難しい印象派の画家たちをまとめあげる人格者だったので、ゴッホにも優しかったのかもしれません。ゴッホはピサロの「色を調和させたり不調和にすることで生まれた効果は思い切って強調しなければならない」という言葉に賛同してテオへの手紙に残しているようです。ゴッホの作風そのものとも言える言葉だけにピサロの教えもしっかり受け継いでいるように思えました。

この辺には著名な印象派の作品があり、シスレー、シニャック、ゴーギャンなどが1~2点ずつ並んでいます。新印象主義からの影響についてあまり言及されていませんが、後の細長い筆致は点描に通じるものを感じます

51 アドルフ・モンティセリ 「ガナゴビーの岩の上の樹木」
こちらは白っぽい岩とその上に立つ樹木、そして近くに人の後ろ姿がポツンと描かれた作品です。厚塗りされて細かくグニャグニャした筆致で、岩の重厚感を出しています。モンティセリは晩年にアルコール中毒で目が見えなくなっていき一層にグニャグニャして何だか分からなくなっていくのですが、これはしっかりと対象が判別できましたw ゴッホに影響を与えたのがよく分かる筆致です。

この近くにあったセザンヌの「オワーズ河岸の風景」(★こちらで観られます)も良かったです。他にモネ3点、ルノワール2点と巨匠の作品が続きます。

50 アドルフ・モンティセリ 「陶器壺の花」
こちらは花束の入った陶器の壺を描いた作品で、厚塗りされていて大きな筆致を重ねています。全体的にモコモコした感じの質感に見えるかな。ゴッホはモンティセリをドラクロワ以来の画家と賞賛し、宝石のような色彩と讃えたようです。自分をモンティセリの後継者と考えていたくらいに傾倒していたようなので非常に重要な存在です。


[パリでの出会い]
続いてはパリ時代のコーナーです。ゴッホは1886年2月末に突然パリに出てきて、モンマルトルのテオの部屋に転がり込んで、さっそく風景を書き留めました。そして2年の間にモンティセリや日本の浮世絵、印象派などの大きな出会いを果たし 大きく影響を受けて明るい色調へと変わっていきました。ここにはそうした過渡期の作品が並んでいました。

49 フィンセント・ファン・ゴッホ 「花瓶の花」
こちらは1886年の夏に花の静物を35~40点程度 集中して描いて色を研究した時の作品です。モンティセリに影響を受けているようで、暗い背景に鮮やかな色を厚塗していて その研究ぶりが伺えます。よく観ると背景などにも筆跡が残っていて、そうした点もよく似ているように思えました。

46 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パリの屋根」 ★こちらで観られます
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こちらが急にパリに来てテオの部屋から描いた町の風景画です。縦長の画面の半分は空となっていて開放的な印象を受けるものの 落ち着いた色調で家々は茶色や灰色となっています。まだハーグ派に近い色彩かな。

ちなみにテオとゴッホの住んだ家はまだ残ってたりします。割とモンマルトルの丘でも下の方だったと記憶しています。
DSC_20869.jpg
何の変哲もないアパルトマンに見えますw テオとの生活はまあまあ上手く行ってたようです。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 パリ モンマルトル界隈


[アルルでの開花]
続いては主にアルル時代のコーナーです。ゴッホは1887年頃から印象派風の明るい色と筆触を取り入れて劇的に画風が変化しました。そして翌年に南仏のアルルに移住して色彩も筆使いもより大胆なものになったようです。ゴッホはアルルで画家の共同体を作るという夢を持ちましたが、結局それに応じたのはゴーギャンだけ(しかもテオの支援金目的)でした。そのゴーギャンとも2ヶ月で耳切事件を起こして破綻するのは有名な話ですが、その2ヶ月の間にゴーギャンの作風に影響を受けて落ち着いた筆触で詩的な雰囲気の絵を描くこともあったようです。ここには引き続きパリ時代の品やアルルの頃の作品が並んでいました。
 参考記事:ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

69 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パイプと麦藁帽子の自画像」
DSC06880.jpg
こちらは黄色い麦わら帽子を被った自画像で、パイプを咥えてヒゲを生やした姿となっています。これは34歳頃でパリに到着して印象派に影響を受け始めた頃のようで、粗いタッチで色彩が明るく筆致の素早さを感じさせます。目の力も強く感じられるかな。解説によると、麦わら帽子はモンティセリに通じるアイテムだったそうです。ゴッホのトレードマークのように思っていましたが、これもモンティセリからの影響だったとは驚きでした。

この近くには画材屋で若手画家に親切だった「タンギー爺さん」やクレラー・ミュラー美術館所蔵の「男の肖像」などがありました。この先はクレラー・ミュラー美術館の品が多くて、何年か前に日本で観た覚えがあるのもあったかな。

73 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ぼさぼさ頭の娘」
こちらはオレンジ色のぼさぼさの髪をした浮浪少女を描いた肖像です。上半身だけ描かれていて、画面の半分くらいはオレンジの髪が占めてるほどですw 背景と服は青なので補色関係となっていて一層に髪が明るく見えます。解説によると、この少女はゴッホが戸外で風景を描いている時に見かけて、モンティセリの絵に出てくるフィレンツェ人の面影を感じて描いたそうです。以前よりも色彩が強まっているのが一目で分かる作品でした。

この近くにあった「麦畑とポピー」という作品もポピーが立体的に見える厚塗りとなっていて、輝くような色彩でした。

72 フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦畑」 ★こちらで観られます
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こちらは収穫期を迎えた麦畑を描いた作品で、10点描いた内の1点のようです。金色の麦が短い縦線で表され、生き生きとした雰囲気です。所々に赤い線を交えているのがアクセントになっているように思えます。背景は澄んだ青で、爽やかな光景となっていました。


[さらなる探求]
最後は晩年のコーナーです。アルルでの耳切事件の後、サン=レミの精神療養院に移り そこでも絵を描き自分の進む道を見つめ直したようです。かつてのようにミレーの複製に取り組み、糸杉やオリーブといった木をゴッホ独自のモティーフに仕上げようとしました。その色彩はやや落ち着いて繊細になり、筆触は細かく緻密に塗り重ねられていったようです。その後、オーヴェールの地でガシェ医師に見守られながら制作を行いましたが、拳銃自殺で亡くなりました。ここにはそうしたサン=レミ以降の作品が並んでいました。
 参考記事:映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)

75 フィンセント・ファン・ゴッホ 「サン=レミの療養院の庭」 ★こちらで観られます
DSC06896.jpg
こちらは療養院の庭の風景で、緑の木々や病院の壁などが描かれています。緑が明るく感じられ、草などは単純化して表現されている部分があります。間近で観ると厚塗り具合がよく分かり、葉っぱや花の部分は盛り上がって迫りくるような印象を受けます。実際に絵の具に光が反射してるので光って見えるしw ゴッホ独自のスタイルの集大成を感じさせる作品でした。

76 フィンセント・ファン・ゴッホ 「糸杉」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、天高く伸びる糸杉が描かれ、右上には三日月も浮かんでいます。うねるようなタッチで一部は渦巻くような表現となっています。解説によるとゴッホは手紙の中で糸杉について「エジプトのオベリスクのように美しい ~中略~ 糸杉は青を背景に…というよりは青の中にあるべきだ」と書いているそうで、それがそのまま絵で表現されているようにも思えます。糸杉は複数の色が複雑に絡み合い、まるで緑の火焔のような力強さがありました。なお、以前の展示の解説によると糸杉は墓地に植える習慣がありゴッホもそれを知っていたそうです。そうだとすると生命力と死を連想させる作品とも言えそうです。
参考記事:メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)

この近くには「ガシェ博士の肖像」(エッチング)などもありました。

81 フィンセント・ファン・ゴッホ 「薔薇」 ★こちらで観られます
DSC06867.jpg
こちらは薄い緑を背景に白いバラが沢山入った花瓶が描かれた静物です。背景は右上から右下へと斜線で表され、こぼれ落ちた花などと共に流れを感じます。解説によると描かれた当時はバラのつぼみは赤だったようですが、現在は色あせたようです。それでも筆致の厚みや背景・配置によって生き生きとした印象を受けました。
 参考記事:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 2回目感想後編(国立新美術館)


ということで、後半は見応えのある作品が並んでいました。やはりアルル以降の作品がゴッホのイメージ通りの作風ではないかと思います。私は見覚えがある作品が多かったので満足度は4にしていますが、これだけの内容を観られるのは贅沢なので、ゴッホがお好きな方は必見だと思います。会期末になると一層に混雑するので、お早めに行くことをオススメします。

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