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ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 (感想前編)【国立西洋美術館】

先週の日曜日に上野の国立西洋美術館で「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 

【公式サイト】
 https://habsburg2019.jp/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいてチケットを買うのに10分くらい待ちました。会場内も基本的に列を組んでいるような混雑ぶりで観るのにやや時間がかかりました。

さて、この展示はかつてヨーロッパに広大な帝国を築き上げたハプスブルク家に関する展示で、ハプスブルク家の歴史と共にそのコレクションを紹介する内容となっています。ハプスブルク家は13世紀後半にオーストリアに進出してそこを拠点に勢力を拡大し、15世紀以降は神聖ローマ帝国の位を独占しました。16~17世紀にはオーストリア系とスペイン系に分化し、後者がアジア・アフリカ・南アメリカに領土を持ったことで「日の沈むことのない帝国」となっていきます。その後ナポレオン戦争を引き金として神聖ローマ帝国が解体されると、オーストリア帝国(1867年からはオーストリア=ハンガリー二重帝国)となり、第一次大戦まで統治していきました。また、ハプスブルク家は豊かな財とネットワークを生かして質・量ともに世界屈指のコレクションを築き、1891年に開館するウィーン美術史美術館の礎となったようです。この展示ではそのウィーン美術史美術館のコレクションが100点ほど来日し、5章7セクションで紹介されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:THE ハプスブルク(ハプスブルク展) (国立新美術館)


<I ハプスブルク家のコレクションの始まり>
まずはコレクションの始まりについてのコーナーです。ハプスブルク家が本格的な収集を始めたのは15世紀後半から16世紀の頃で、その中でも神聖ローマ帝国皇帝のマクシミリアン1世とオーストリア大公フェルディナント2世の存在が大きいようです。マクシミリアン1世は戦争ではなく政略結婚によってハプスブルク家を繁栄させていく方針を打ち出した人物で、自らの結婚によってブルゴーニュ公国(文化的に栄えていた)の後継者のマリーと結婚して、その豊富な美術品も流れ込んできたようです。マクシミリアン1世にとって芸術は自身とハプスブルク家の名声を高める手段であり、特に肖像は有効な手段と考えていたようです。また、槍試合に自ら出ることもあったため、武具にも情熱を傾けました。一方、フェルディナント2世はハプスブルク家きっての大コレクターで、特に甲冑に関心があったようです。この章ではそうした2人に注目した品が並んでいました。

1 ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作 「ローマ王としてのマクシミリアン 1世(1459 -1519)」 ★こちらで観られます
こちらは横向きのマクシミリアン1世を描いた油彩の肖像画です。赤いタピストリーを背景に、鎧を身につけ錫杖を持って王冠を被った姿となっていて、細密な筆致で描かれています。タイトルのローマ王というのは教皇から戴冠される前のローマ皇帝の称号だそうで、皇帝になる前の姿のようです。このマクシミリアン1世は政略結婚によってブルゴーニュを手に入れ、息子と娘はスペイン王家と結婚して、後にスペインもハプスブルク家の支配下に入っていきます。「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ」という言葉があるくらいハプスブルク家といえば政略結婚のイメージですが、この人の業績によるところが大きいのかもしれません。厳格そうな雰囲気の肖像でした。

この作品を観た後はすぐに下階へと移動となります。

12 エントリス(アンドレアス)・デーゲン2世  「ほら貝の水差し」
こちらは大きな法螺貝を水差しに仕立てたもので、台座の部分にトリトンの彫刻があり法螺貝を背負っているような意匠となっています。近くには椰子の実を使った杯などもあり、これらが作られた16世紀には遠くの国から届いた貴重な品々だったようです。帝国の影響力を示す意味合いもあったのかな。珍しいだけでなくウィットに富んだデザインでした。

この後の章でルドルフ2世を紹介していますが、この辺りでクンストカンマー(驚異の部屋/芸術の部屋)の解説もありました。後ほどまた出てきます。

6 ヤーコプ・ザイゼネッガー 「オーストリア大公フェルディナント2世(1529 -1595)の肖像」
こちらはティツィアーノらも手本にした画家によるオーストリア大公フェルディナント2世の等身大の全身肖像です。羽根帽子に半ズボンみたいな服装をしていて、若々しく血色の良い姿で描かれています。19歳の頃だそうで、緻密な描写で堂々たる雰囲気となっていました。

2 ロレンツ・ヘルムシュミット 「神聖ローマ皇帝マクシミリアン 1世(1459 -1519)の甲冑」 ★こちらで観られます
こちらは鋼鉄の甲冑で、装飾は少なめでツヤツヤした表面となっています。腰や背中のあたりは鎖帷子になっていて意外と覆っている割合は少ないのかも。中世の鎧のイメージそのものと言った感じで、見栄えがしました。

8 イェルク・ゾイゼンホーファー(甲冑) およびハンス・ペルクハマー(エッチング) 「徒歩槍試合用甲冑、オーストリア大公フェルディナント2世(1529 -1595)の[鷲の紋章付き甲冑セット]より」
こちらはフェルディナント2世が作らせた全身を覆う鎧で、銀地に金色の緻密な植物文様が施されています。スカート状になっているのが特徴で、これは馬に乗らない徒歩での槍試合の為のデザインらしく自由に動けるようになっているようです。横から観ると顔の部分が前方に尖っているのも面白いかな。全部で80ものパーツで出来ているらしく、用途に合わせて組み合わせるとのことでした。見た目の豪華さだけでなく実用性が高いのが魅力です。

甲冑は5体並んでいました。360度ぐるりと観ることができるので、歴史好きや武具好きにはたまらない展示方法だと思います。


<II ルドルフ2世とプラハの宮廷>
続いては神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世についてのコーナーです。ルドルフ2世はコレクションを集めたクンストカンマー(驚異の部屋/芸術の部屋)という陳列室を設け、工芸品・標本・異国の珍しい品・時計・天球儀など様々な品を収めました。また、好みの芸術家を雇ったり庇護した為、プラハは独特の芸術文化が花開いたようです。ここにはそうしたルドルフ2世に関する品が並んでいました。
 参考記事:神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展 (Bunkamura ザ・ミュージアム)

16 ヨーゼフ・ハインツ(父) 「神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552 -1612)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは宮廷画家だったヨーゼフ・ハインツによる作品で、黒い帽子にスペイン風の黒い服を着たルドルフ2世の肖像画です。面長でヒゲを生やし恰幅の良いの姿となっていて威厳を感じますが、装飾は少なめです。華美でないのに威厳を出させているのは画家の力量によるものらしく、絵自体が小さいのに存在感がありました。写実的で生き生きとした描写も見事です。

この辺にはヘラクレスの彫像や水晶でできた壺などもありました。

33 34 作者不詳 「スプーン」「フォーク」
こちらは水晶をベースに金とルビーで装飾したスプーンとフォークで、セイロンから贈られた品のようです。一見してガラスかと思うほど透明感があり、硬い水晶をこれだけ綺麗に加工しているのには驚かされます。ルドルフ2世も実用性よりはその高い技術と装飾に目をとめたとのことで、小品ながら面白い作品でした。

この部屋には他にラファエロの原画をタピストリーにした作品が2点(ヤーコプ・フーベルス(父)の工房(織成) 「《アナニアの死 》、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉より」「《アテネにおける聖パウロの説教 》、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉より」)が目を引きました。これは複製品とのことでしたがコピーとはいえ見上げるような大きさと緻密な織りとなっていて、聖ペテロと聖パウロの物語と劇的に表わしていました。

続いては上階に戻って絵画作品のコーナーです。この先の展示物は主に絵画となります。

35 アルブレヒト・デューラー 「アダムとエヴァ」 ★こちらで観られます
こちらは版画でアダムとエヴァ(イヴ)の話が描かれています。アダムは枝を持ち、そこにデューラーの名前入りの板が掲げられています。一方のエヴァは後ろ手に知恵の実と持ち、もう一方で木に巻き付く蛇に知恵の実を与えているようです。股間はイチジクの葉っぱで隠されているので既に知恵の実を食べたのかも?? 解説によるとルドルフ2世はデューラーを特に熱心に集めていたようで、この作品の原盤までも所有していたそうです。非常に精密で1枚だけでも物語性を感じる作品でした。
 参考記事:アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然 (国立西洋美術館)

この辺はデューラーの版画の他、油彩も1枚ありました。また、ホルツィウスという作家によるローマの英雄を描いた連作もありました。やけにずんぐりむっくりした英雄像ですw

20 バルトロメウス・スプランゲル 「オデュッセウスとキルケ」
こちらは魔女キルケの島にたどり着いた英雄オデュッセウスの物語を描いた作品です。2人の他にイノシシ・キツネ・馬・牛・ライオンなどの動物が描かれていて、この動物たちはキルケによってオデュッセウスの部下が変身させられた姿のようです。そこでオデュッセウスは魔法を解くようにキルケに頼もうとしているのですが、キルケは足を絡めたりして誘惑しているようです。その妖しい雰囲気と対照的に嫌そうなオデュッセウスの顔や複雑なポーズも面白い作品でした。解説によると、部下を救う英雄の物語は 民を救う皇帝とイメージを重ねて考えられたようです。一種のプロパガンダ的な側面もあったのかもしれませんね。


<III コレクションの黄金時代:17世紀における偉大な収集>
続いての3章は3つのセクションに分かれていました。

[1.スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世]
1555年に皇帝の地位を退いたカール5世は、弟のフェルディナントに神聖ローマ皇帝の位とオーストリアの支配権を譲り、一方で長男のフェリペにはスペイン王位を継承しました。これによってハプスブルク家はオーストリア系とスペイン系に分裂し、17世紀にスペイン系が消滅するまで分立が進みました。お互いに対抗意識を持ちつつも密接な関係を保っていたようで、両者の間で縁組も行われています。そして近況を知らせたり婚約者の姿を相手に示すために肖像画が利用されたようで、ここにはそうして描かれた肖像や当時の宮殿の華やかさを伝える作品が並んでいました。

49 ヤン・トマス 「神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640 -1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会」
こちらは宮殿内の部屋で U字型のテーブルを多くの貴族が囲んでいる様子が描かれた作品です。これは仮装晩餐会らしく、U字のフチで宿屋の夫妻に扮している皇帝夫妻の姿もあります。貴族たちも様々な職業の格好をしていて、平たく言えばコスプレパーティーみたいなw 部屋ぎっしりの人たちが楽しげで、当時の盛り上がりが伝わってきます。解説によると、この晩餐会は出世の為に重要な場だったとのことで、見た目ほど呑気じゃないのかもw 飲み会で人事が決まるブラック企業みたいなことが昔からあったんですね…w

44 ディエゴ・ベラスケス 「宿屋のふたりの男と少女」 ★こちらで観られます
こちらはテーブルで向き合う2人の男と、中央でワインを注ぐ少女が描かれた作品です。少女と言っても少年みたいに見えるかな。テーブルには皿やグラス、ミカンのような果実もあり質感豊かに描かれています。3人の視線はグラスに集まっているようで、自然とそこに目が行きました。明暗が強くドラマチックな作品です。
 参考記事:
  プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 感想後編(国立西洋美術館)

45 ディエゴ・ベラスケス 「スペイン国王フェリペ 4世(1605 -1665)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは黒い服を着たスペイン国王フェリペ 4世の肖像で、優しそうな表情をしています。特徴は何と言っても長く尖った顎で、ハプスブルク家と言えば顎です。オーストリア系とスペイン系で密接に政略結婚を繰り返して行った結果、近親婚によって段々と遺伝的な特徴が強調されていったのが見て取れます。色もやけに白いしちょっと虚弱そうにも見えるかな。競馬ファンもびっくりのインブリードを重ねた家系だけに、末代になると色々と悲劇もあったようです。ちょっと絵とは関係ない方向で考えさせられました。

47 ディエゴ・ベラスケス 「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ(1651-1673)」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている王女マルガリータ・テレサが9歳の頃の作品です。この子の肖像は何度となく展覧会で観ているので、親戚の子供か?というくらい成長過程を知っていますw この絵も許嫁のレオポルド1世に贈るためにベラスケスに描かせた3枚のうちの1枚で、青いドレスを着た姿となっています。大きく膨らんだドレスは離れて観ると緻密に見えますが、近くでじっくり観ると意外と大胆な筆致で表現されていました。つぶらな瞳をしていて何とも可愛らしい。この子はこの後15歳で結婚し、夫とも仲が良かったのですが21歳の若さで亡くなってしまいました。

この隣にそっくりな姿のフアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソによる肖像もありました。しかしそちらは人形のような顔をして色も沈んでいたので、ベラスケスの凄さの引き立て役みたいに感じました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしておこうと思います。ハプスブルク家の歴史はヨーロッパの歴史を知る上でも重要なので、この展示は非常に意義深いものだと思います。特にルドルフ2世などは美術に多大な影響を与えているので、美術好きの方は抑えておきたい内容です。後半も有名な人物に関する品々が並んでいましたので、次回は残りの章についてご紹介予定です。

 → 後編はこちら

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