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ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 (感想後編)【国立西洋美術館】

今回は前回に引き続き国立西洋美術館の「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」についてです。前編は3章の途中まででしたが、後編では3~5章についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC06906.jpg

【展覧名】
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 

【公式サイト】
 https://habsburg2019.jp/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半も前半同様に混んでいました。引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<III コレクションの黄金時代:17世紀における偉大な収集>
3章は1節までご紹介済みなので、今日は2節からとなります。

[2.フェルディナント・カールとティロルのコレクション]
こちらはハプスブルク家の傍系でティロルを拠点とするフェルディナント・カールに関するコーナーです。フェルディナント・カールはハプスブルク家の重要なコレクターの1人で、特に16~17世紀にフィレンツェ派の作品収集につとめたようです。しかし死後は世継ぎがいなかった為、本流の神聖ローマ皇帝レオポルド1世の直轄となり、その340点あまりのコレクションもウィーンと運ばれていったようです。ここにはそうしたコレクションが並んでいました。

53 チェーザレ・ダンディーニ 「クレオパトラ」 ★こちらで観られます
こちらは楕円の画面に自らの胸に毒蛇を噛ませているクレオパトラが描かれた肖像です。肌が青白いのがちょっと怖いけど、天を見るようなポーズで左手を前に大きく出していて動きを感じさせます。色彩と陰影も強く、ドラマチックな印象を受けました。

56 ヤン・ブリューゲル(父)の作品に基づく 「東方三博士の礼拝」
こちらは中央下辺りにキリストを膝に乗せたマリアがいて、その手前に東方三博士が跪いて礼拝している様子が描かれています。キリストは祝福のポーズをしていてキリスト生誕の場面となっている訳ですが、馬小屋の中ではないし周りには沢山の兵士や市民が集まっていて賑やかです。観た感じこの絵が描かれた頃の格好をしているんじゃないかな?? 緻密で色鮮やかで、やや風景画や風俗画の要素もあるように思えました。
 参考記事:ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 感想前編(東京都美術館)


[3.レオポルト・ヴィルヘルム:芸術を愛したネーデルラント総督]
続いては最も重要なコレクターであるオーストリア大公レオポルト・ヴィルヘルムのコレクションのコーナーです。レオポルト・ヴィルヘルムは1646~1656年にネーデルラントの総督としてブリュッセルに滞在し、赴任中に絵画だけで1400点以上集めたそうです。特にヴェネツィア派の名品を数多く獲得したようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
 参考記事:世界遺産 ヴェネツィア展 ~魅惑の芸術-千年の都~ 感想前編(江戸東京博物館)

62 ティントレット(本名ヤーコポ・ロブスティ) 「甲冑をつけた男性の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは黒い甲冑を着て、手前の兜と腰に手を置いたポーズの男性の肖像です。誰なのかは分かりませんでしたが、顔をこちらに向けて威厳ある雰囲気となっていてます。左上の窓の外には沢山のオールが突き出た船が描かれているので軍人なのかな? 鎧は黒光りして艷やかな表面となっているなど、質感表現も見事でした。

64 ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ) 「ホロフェルネスの首を持つユディト」 ★こちらで観られます
こちらは敵将ホロフェルネスを酒に酔わせて寝首を掻いた ユディトという女性の物語を描いた作品です。ユディトは振り返って侍女を見ていて、ホロフェルネスの首を袋に詰めようとしているようです。ユディトには光が当たったように明るい色が使われ、透明感のある肌となっています。一方、侍女は浅黒くお世辞にも可愛くないのでユディトの美しさの引き立て役のような感じでした。恐ろしくも気品があり、劇的な雰囲気の作品です。

70 ペーテル・パウル・ルーベンス工房 「ユピテルとメルクリウスを歓待するフィレモンとバウキス」
こちらは2人の旅人が何件もの宿屋に断れた後、老夫婦の営む宿屋に迎え入れられたという話をモチーフにした作品です。実はこの2人の旅人はローマ神話のユピテル(≒ゼウス)とメルクリウス(≒ヘルメス)で、老夫婦が食事をもてなすと飲み干したはずのワインが一杯になったので、この2人は神だと気づきました。そこで1匹しかいないガチョウを落として振る舞おうとしたところ、ユピテルが手でそれを制止するジェスチャーを示しているという場面のようです。全体的に強い明暗で、特にユピテルの逞しい体つきの表現にルーベンスならではの画風が感じられます。また、解説によるとこの絵の中の動物と静物は専門の画家(スネイデルス)が手掛けているとのことでした。と言われても私には見分けが出来ないくらいマッチして融合していますw 人々の表情や構成も見事で、非常に見応えのある1枚でした。
 参考記事:
  ルーベンス展―バロックの誕生 感想後編(国立西洋美術館)
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

この辺はフランドル絵画が多かったかな。静物や風俗画などもありました。

79 ヤン・ステーン 「だまされた花婿」
こちらは家の中に大勢の農民らしき人々が集まっている様子が描かれた作品で、子供にお乳を与える女性や 後ろの女性に駆け寄る子供、手を挙げて驚くような仕草をする人、外にも野次馬のような人たちがいるなど 老若男女が賑やかな感じとなっています。床にも花が散らかっていたり何かの騒ぎのようです。ヤン・ステーンは風俗画に皮肉や教訓を混ぜてくる作風なので、この作品もいかにもそうした感じがするのですが 読み取るのは難しくタイトルの意味も分かりませんでした。というか花婿どの人?って感じで…w まあ意味は分からなくても当時の農村の雰囲気が伝わってくるように思えました。

80 ヤーコプ・ファン・ロイスダール 「滝のある山岳風景」
こちらは山の中の滝を描いた作品で、全体的に薄暗く それによって滝の飛沫が明るく感じられます。緻密かつ写実的ながら叙情性もあって、静けさの中に滝の音が響いている様子を想像させました。

77 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 「使徒パウロ」
こちらは使徒パウロの老齢の姿を描いた作品です。パウロは伝導の為に多く手紙を書いた聖人であるため、手紙の上に肘をついてペンを持っています。また、右上には剣があり これは斬首で殉教したことを表しているようです。非常にリアルな描写で、暗い背景にパウロが浮かび上がってくるような感じで、光が当たっているように見えました。余談ですが、このパウロは元々はキリスト教信者を迫害していたものの、キリストの声を聞いて回心しました。洗礼の際に目から鱗のようなものが落ちて目が見えるようになり、そこから「目から鱗」という諺も生まれました。キリスト教が世界的な宗教になったのはこの聖人によるところが大きかったりします。


<IV 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー>
続いては18世紀頃のコーナーで、ここには女帝マリア・テレジア、その娘マリー・アントワネット、最後の神聖ローマ皇帝で初代オーストリア皇帝のフランツ1世といったハプスブルク家でも特に有名な人物の肖像があります。この時代、カール6世が各地に分散していたコレクションをウィーンに集めて帝室画廊を整備したそうで、娘のマリア・テレジアの時代には手狭になってベルヴェデーレ宮殿上宮に移されたようです。そこでは画派別・時代順に展示したり一般公開するなど近代の美術館に繋がるあり方も示されていたのだとか。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

84 マルティン・ファン・メイテンス(子) 「皇妃マリア・テレジア(1717-1780)の肖像 」 ★こちらで観られます
こちらは王笏を持った30歳頃の肖像で、重厚なマントを羽織った姿となっています。実年齢よりも年上に見えるような堂々とした雰囲気で、まさに女帝の風格を漂わせています。マリア・テレジアの背後には3つの王冠があり、それぞれハンガリー、ボヘミア、オーストリアの王であることを示しているようでした。歴史上でも評価が高い人物ですが、当時の敵国からも稀にみる「男」と評価されるほどの女傑だったようです。それでいて16人も子供を生んだスーパー母ちゃんです。

88 マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン 「フランス王妃マリー・アントワネット(1755 -1793)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらはマリア・テレジアの娘で、フランス革命時に断頭台の露と消えたことで有名なマリー・アントワネットの肖像です。嫁ぎ先のフランスから母に贈るために描かれた肖像で、髪の毛を高く持って白い帽子をかぶり、真珠色のサテンのドレスを着た姿となっています。右上には夫のルイ16世の胸像もあり、その身分を表しているようです。華やかで瑞々しい雰囲気となっていて、髪型や服装は当時流行したものとなっています(というより、自らがファッションリーダー的存在で広まった) 作者は女性画家ということもあって、男性画家にはない優美な感性を持って描いているように思えました。
なお、母には別れ際や手紙で何度も派手な格好を控えてフランス国民に愛されるように努めろと注意されていたようで、マリー・アントワネットも自分なりにそうしている旨を伝えていたようです。実際にはそれほど悪い王妃という訳ではなく悪意にハメられた感がありますが、母の話をもっと真剣に聞くべきでしたね…。
 参考記事
  マリー・アントワネット物語展 (そごう美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想前編(三菱一号館美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想後編(三菱一号館美術館)

94 カルロ・ドルチ 「聖母子」
こちらは赤と青の服を着たマリアが幼いキリストを抱いている聖母子像です。キリストは祝福のポーズを取っていて、足は踏み出すような姿となっています。全体的に滑らかな色彩で、特に青が美しく感じるかな。マリアはうつむいて目を半開きにしていて慈愛に満ちた雰囲気となっていました。この作品は今回の展示でも特に気に入った作品です。


<V 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー>
最後はハプスブルク家による帝国支配終焉の時代のコーナーです。ナポレオン戦争をきっかけに神聖ローマ帝国は解体し、1804年にオーストリア帝国が誕生しました(1867年からはオーストリア=ハンガリー二重帝国)。しかし第一次世界大戦の敗戦で帝国は崩壊し終焉を迎えます。ここでは最後の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世ゆかりの品と、その后のエリザベートに関する品などが並んでいました。

96 ヴィクトール・シュタウファー 「オーストリア=ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1830 -1916)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは晩年の頃のフランツ・ヨーゼフ1世の肖像で、青い軍服を着て椅子に座った姿となっています。白いヒゲをたくわえて鋭い視線を向けていて やや緊張感があります。解説によるとフランツ・ヨーゼフ1世は常に軍服を着ていたそうで、これは第一次世界大戦の間に描かれたそうです。最後の皇帝となったとは言え有能な政治家で、ウィーンの画期的な都市計画をはじめ 現代でもこの人から恩恵を受けた文化は数多く残っています。

97 ヨーゼフ・ホラチェク 「薄い青のドレスの皇妃エリザベト(1837-1898)」 ★こちらで観られます
こちらは20歳頃の皇妃エリザベートを描いた作品です。ほんのり青いサテンのドレスを着た姿で かなり細密な描写となっていて豪華で気品ある印象を受けます。生き生きしていて目や唇は輝いているようにすら見えるほどです。「蜂腰」と呼ばれていた細いウェストは驚くほどで、スラリとした体型となっていました。その美貌と悲劇の多い波乱の人生で 今でも多くの人を魅了しているのもうなずけました。


ということで、後半はハプスブルク家の有名人が多く出てきました。この辺は歴史を知っていると一層に楽しめるので、軽く予習してから行った方が良いかも知れません。会期は長めですが既に大人気となっていますので気になる方はお早めにどうぞ。


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