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正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美― (感想前編)【東京国立博物館 平成館】

この前の土曜日に上野の東京国立博物館 平成館で御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は前期・後期に会期が分かれていて私が観たのは前期の内容となります。

DSC07072.jpg

【展覧名】
 御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」 

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/shosoin-tokyo2019/
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1968

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅

【会期】
  前期:2019年10月14日(月)~11月04日(月・休)
  後期:2019年11月06日(水)~11月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
入場制限はなかったものの、かなり混雑していて あちこちで列を組んで観るような感じでした。会期が進むと一層の混雑が予想されます。

さて、この展示は令和元年および天皇陛下の即位式を迎えたのを記念したもので、正倉院宝物と法隆寺献納宝物の貴重な品々が並ぶ内容となっています。正倉院は東大寺大仏殿の北北西に位置し、光明皇后が亡き聖武天皇の宝物を奉納した北倉、それ以外の奉納品などを収めた中倉、東大寺の儀式用品などを収めた南倉で構成されます。北倉と中倉の開扉は歴代の天皇の許可を必要としたので勅封倉とも呼ばれたそうで、南倉はかつては東大寺に管理されていましたが明治時代から勅封になって現在に至るようです。展覧会はそうして収められた品をジャンルごとに章分けして展示していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:東大寺大仏―天平の至宝― (東京国立博物館 平成館)


<第1章 聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物>
まずは聖武天皇と光明皇后ゆかりの品が並ぶコーナーです。天平勝宝8歳(756年)6月21日に行われた聖武天皇の四十九日の法要の日に光明皇后は天皇の愛した650件の宝物を盧遮那仏(東大寺の大仏)に捧げ、聖武天皇の浄土での安住を願いました。ここにはそうして収められた品に加え、その中に含まれる「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」に記載された宝物などが並んでいました。

1 「正倉海老錠」 江戸時代・天保4年(1833)
DSC07101_20191028224257f8b.jpg
写真は6章で撮影可能だったレプリカを撮ったものです。これは正倉院の錠で、名前の通り海老のように沿った形をしているのが特徴です。6章の映像で2018年の開扉の様子を流していましたが、中に勅令が入っていて封が開けられていないことを確認しているシーンもありました。1章で観られるのは江戸時代のもので、当時も今と変わらず厳重に鍵をしていたことが伺えました。

4 「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」 奈良時代・天平勝宝8歳(756) ★こちらで観られます
こちらは20mくらいはありそうな長い宝物の目録で、「国家の珍らしき宝」として各品の個数・材質・サイズ・技法・付属品なども書かれています。さらに巻物全体に正方形の「天皇御璽」という朱印が連続して押されていて、書き換えられないようにしているようです。かっちりした楷書で品名などが書かれていて、かなり精緻なリストです。所々に矢印と写真で今回の展示物の名前を示してくれるのが分かりやすい。 また、冒頭と最後には光明皇后の願文もあり 品物を観ているだけで天皇のことを想い出す旨が書いてるようで、光明皇后の思慕の深さも伺えました。

この隣には同様に国宝の「法隆寺献物帳」もありました。こちらも天皇御璽が押されているけど点数は少なめのリストです。

11 「海磯鏡」 中国 唐または奈良時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは青銅製の大きな円形の銅鏡です。背面には海の波と四方の山が表されているように見え、波の中には船に乗る人物や鳥の姿もあります。解説によると、中央にある孔を通す部分も山とみなし、鳥は鴛鴦であることなどから海ではなく川であると考えられるようで、中国で崇拝された5つの山と4つの川を表しているとのことです。かなり細かく刻まれた線描で文様の単純化なども見事な鏡でした。

9 「平螺鈿背円鏡」 中国 唐時代・8世紀
こちらは円形の鏡で、背面に赤い花(宝相華文様)を螺鈿や琥珀で表しています。鎌倉時代に盗難されて大破したようですが明治に修復されたため赤い花も非常に鮮やかな色合いです。孔を通す部分まで花があり、可憐な雰囲気となっていました。

15 16 「紅牙撥鏤碁子」「紺牙撥鏤碁子」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは象牙製の碁石で、白と黒ではなく赤と黒の石が展示されています。碁石というと平べったいイメージですが、これは丸々していて表面には花を咥えた鳥の模様が表されています。摩耗が見られないことからあまり使われなかったと考えられるそうで、それも納得するくらい緻密な細工となっています。元囲碁部の私としては碁石に模様をつけるという発想自体が驚き。碁石なんて絶対摩耗するのに豪華な装飾をするとは…w

近くには碁笥もありました。

18 「直刀 無銘 (号 水龍剣)」 奈良時代・8世紀
こちらは真っ直ぐの刃の短めの刀です。水龍剣なんてファンタジックな名前になっているのは柄の辺りに波と龍を象った金の飾りがあるためのようです。近くには鞘「梨地水龍瑞雲文宝剣」もあったのですが、鞘は明治の品で 梨地に金雲の蒔絵装飾が見事です。それにしても8世紀の頃の刀がこんなに綺麗に残っていることに驚きました。

20 「鳥毛帖成文書屏風」 奈良時代・8世紀
こちらは六曲一隻の屏風のうちの第3~4扇のみで、縦8文字2行に渡って楷書で君主の座右の銘が書かれています。よく観ると字の部分は輪郭は黒いものの 中央あたりはキジや山鳥の羽が使われているようです。輪郭にそって上から貼ったのかな? 解説によると、鳥は不老不死の神仙世界への飛翔をイメージさせるとのことで、聖武天皇の浄土への安住の祈りに相応しい品に思えました。 なお、6章でこれによく似た作品の複製品が出てきます。


<第2章 華麗なる染織美術>
続いては染織美術のコーナーです。正倉院は世界最古の伝世品(発掘ではなく人から人へと伝わった品)の染織品が保管されているそうで、大仏の開眼会や聖武天皇一周忌で大量に作られて東大寺に収められたものが 現在まで正倉院宝物として伝わったようです。ここにはそうした正倉院伝来品と共に天平時代の染織美術に関する品が並んでいました。

25 「墨画仏像」 奈良時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは麻布に墨で描かれた菩薩像で、雲に乗って天衣をなびかせ 印を組んだ姿で描かれています。輪郭だけで下描きなしに描いたらしく 簡素な感じですが、滑らかで優美な筆使いとなっています。特に指や衣の表現が軽やかで、作者の力量の高さが伺えました。

32 「白橡綾錦几褥」 中国 唐時代・8世紀
こちらは仏前に供物を献じる際に敷いて使った布地で、椰子の木を中心に2頭のライオンが立ち上がっていて それぞれの後ろには猛獣使いが鞭を持っている様子が表されています。布の上部と下部ではそれと同じ絵柄が並んでいてパターン化されているようです。元の色は分かりませんが茶色地に茶色なのでちょっと模様が見づらいものの、かなり精緻で明らかに国外で作られた文様であるのが分かります。解説によると、ササン朝ペルシアの美術や中国の織物の特徴も見られるとのことで、異国情緒あふれる布となっていました。

この近くにはフェルト製の「花氈」という布もありました。こちらもポロのような遊びをする唐子が描いてあって国際色豊かな作品です。


<第3章 名香の世界>
続いてはお香に関するコーナーです。香は仏に対する最大の供物とされた為、東大寺には貴重な香木が保管されたそうで、特に「蘭奢待」とも呼ばれる「黄熟香」は有名です。また、日本書紀に書かれている595年に淡路島に流れ着いた「沈水香」(と伝承される)なども保管しているようで、ここにはそうした品と共に香に使う道具なども並んでいました。
 参考記事:香り かぐわしき名宝 (東京藝術大学大学美術館)

64 「白石火舎」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは香を炊く為の火炉で、足ん部分が5頭の立ち上がった獅子のようになっています。獅子たちが押さえて支えているような感じでちょっと可愛いw 側面には金属製の輪っかがあり、それを使って吊り下げたりしたそうで、1つで色々な使い方が出来たのかも。炉の中には当時の灰の塊が残っているとのことで、そんなものまで取っておくのか…とちょっと驚きでした。

66 「銀薫炉」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは球形の香炉で、周りは透かしになっていて中にお香を置く皿があります。中央あたりに上下に分かれるようになっている他、中には3つの輪があって転がっても水平を保つ作りになっているようです。そこまでして球形にする必要性が分かりませんが、見た目とギミックに惹かれますw 隣には中を開いた感じの模造品があり、その仕組みも分かるようになっていました。 なお、この香炉には衣を掛けて香を焚き染めたりしていたようです。

60 「黄熟香」 東南アジア ★こちらで観られます
こちらは「蘭奢待」という別称を持つ特に有名な香木で、ジンチョウゲ科のジンコウ属植物に樹脂が沈着することで出来た沈香です(比重が重くて水に沈むので沈香と呼ぶ) 蘭奢待の蘭には東、奢には大、待には寺という文字が入っていて、東大寺を雅に表す名前として室町時代に名付けられました。以前に蘭奢待の小さな木片を見たことがありますが、今回の出品物は1mくらいはある木で、3箇所に付箋が付けられています。これは今までに蘭奢待を削った場所で、それぞれ足利義政、織田信長、明治天皇が削ったようです。素人目には空洞のある流木に見えますが、長い歴史でも3人しか使っていない貴重な香木のようです。明治の際には宮中に香りが漂ったとの記録があるようなので、何世紀経ってもその香りは失われていないようです。こちらも歴史の深さを感じさせる品でした。


ということで、この辺までが第一会場の内容となります。日本のみならずシルクロードの終着点として外国から伝わった品もあり、世界的にも非常に貴重な収蔵品と言えると思います。後半には正倉院の中でも特に有名な品もありましたので、次回は残りの第二会場についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら

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