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印象派からその先へ-世界に誇る吉野石膏コレクション展 (感想前編)【三菱一号館美術館】

前回ご紹介したカフェに寄った後、三菱一号館美術館で「印象派からその先へ-世界に誇る吉野石膏コレクション展」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 印象派からその先へ-世界に誇る吉野石膏コレクション展

【公式サイト】
 https://mimt.jp/ygc/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅

【会期】2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
多くのお客さんがいて場所によっては人だかりができるような感じでしたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は吉野石膏株式会社の西洋画コレクションを一挙に公開する内容で、特に印象派前後の時代の作品が並んでいました。吉野石膏は社内の創造的環境作りを目的に1970年代に日本近代絵画を集め始め、1980年代後半からはフランス絵画の収集に力を入れたようです。1991年には創業の地である山形県の山形美術館に作品を寄託し、以降も寄託を続けています。特にモネとピサロは優品が多く、ルノワールも初期から晩年まで重要作品を所有しているようです。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1章 印象派、誕生 ~革新へと向かう絵画~>
まずは印象派を中心としたコーナーです。ここには印象派に先駆けて風景・風俗を描いたバルビゾン派の作品や、印象派に影響を受けたセザンヌ、ゴッホなどまで有名画家の作品ばかりが並んでいました。

1 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 「牧場の休息地、農婦と三頭の雌牛」
こちらはバルビゾン派のコローの作品で、縦長の画面の半分は並木が描かれ、手前の牧草地には3頭の牛たちと杖をついた農婦の姿が描かれています。ややぼんやりした描写はコローらしい叙情的な雰囲気を出していて、のんびりとした理想郷のようにも思えました。

この隣にも晩年のコローの作品がありました。写実的でもあり幻想的でもある作風です。

3 ジャン=フランソワ・ミレー 「群れを連れ帰る羊飼い」
こちらはバルビゾン派のミレーのパステル画です。夕暮れの中でマントと帽子姿の羊飼いが道を歩いていて、傍らには犬、後ろには沢山の羊たちの姿も描かれています。空には三日月があり、全体的にオレンジがかっていることもあって郷愁を誘う風景となっていました。1日の労働の終わりを感じさせる1枚です。

4 ジャン=フランソワ・ミレー 「バター作りの女」 ★こちらで観られます
こちらはミレーが最後にサロンに出品した作品で、ミルクを入れた桶に攪拌棒を入れてバターを作っている農婦が描かれています。足元には猫がすり寄って邪魔してるのが可愛いw また、右の背景には室内の様子をじっと伺う鶏の姿もあって微笑ましい印象を受けます。さらにその背景には向かいの建物や草原のような風景も見えていて、幾重にも空間が重なる構図も面白く思えました。一方、女性は堂々たる雰囲気で、労働讃歌を感じさせる主題です。

29 カミーユ・ピサロ 「ポントワーズの橋」
こちらは印象派のまとめ役だったピサロの作品で、橋の近くから川と川沿いの風景画描かれています。塀の上にもたれて川の様子を観る女性や、数人の人々の姿があり のんびりしているように見えるかな。背景の街は煙突から煙を上げていて工業化しつつある光景のようです。全体的に淡い色彩で優しい雰囲気となっていました。解説によると、これは第4回印象派展の出品作なのだとか。

28 カミーユ・ピサロ 「モンフーコーの冬の池、雪の効果」
こちらもピサロで、友人の画家リュドヴィク・ピエットの所有地だったモンフーコーの池を描いています。雪景色で全体的に青白い色彩となっていて、池で3頭の牛が水を飲み 牛飼いらしき人の姿もあります。中央に二股に分かれた木が大きく描かれているのが大胆な構図で、これは恐らく浮世絵からの影響と思われます。寒々しいけれど寂しいというよりは しんみりとした雰囲気に思えました。

この部屋はピサロの名品が並んでいました。点描を取り入れた時期の作品などもあります。

18 アルフレッド・シスレー 「ロワン川沿いの小屋、夕べ」
こちらは最も印象派らしい印象派と言われたシスレーの晩年(亡くなる3年前)の作品です。やや高い位置から川の流れを描いていて、川は大きくカーブし向かい側にはこんもりした木々が並びます。手前には小さな小屋がいくつかあって、のどかな光景です。明るい色彩で清々しい雰囲気となっていて、穏やかな光が感じられました。晩年まで印象派を貫いたのがよく分かる1枚です。

この部屋はシスレーの作品がいくつかありました。「モレ=シュル=ロワン、朝の光」なども良い作品です。

22 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」
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こちらは今回のポスターにもなっている作品で、写真は休憩室にあった撮影可能な複製画です。この娘は10歳の少女で、ブリジストン美術館が所蔵する「少女」と同じモデルとなっているようです。青い目が印象的で、微笑んでいるようにも見えるかな。ルノワールにしては輪郭がしっかりしていて「アングル様式」と呼んだ新古典主義に回帰した頃の作品のようです。肌の色が透き通るようで子供らしい瑞々しさを感じる一方で、大人のような理知的な雰囲気も持っているように思えました。
 参考記事:ルノワール-伝統と革新 感想前編 (国立新美術館)

26 エドガー・ドガ 「踊り子たち(ピンクと緑)」
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写真は休憩室にあった撮影可能な複製画です。緑の服とピンクのスカートのバレリーナが2人描かれ、背を向けて舞台袖に立っているようです。1人は腰に両手を当てていて、もう1人は舞台を伺いながら手のひらを向けて制止しているように見えます。画面右の方で見切れているのも大胆な構図で、まるでこの場に居合わせたような臨場感と緊張感がありました。ドガらしい要素が詰まった1枚です。

21 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「庭で犬を膝にのせて読書する少女」 ★こちらで観られます
こちらは膝に黒い犬を乗せて草むらで読書する少女が描かれた作品です。頬に手を当てて静かな雰囲気となっていて、ドレスは縞模様を流れるような筆致で描いています。これは第1回印象派展が開かれた年の作品のようで、まだ印象派としての画風が強めのように思えました。

この辺はルノワールの作品が並んでいました。肖像画が多めです。

9 クロード・モネ 「サン=ジェルマンの森の中で」
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写真は休憩室にあった撮影可能な複製画です。こちらはトンネルのように木々に囲まれた森の風景で、奥へと続いていて色とりどりの葉っぱが明るく感じられます。筆跡がそのまま残っていて、原色の絵の具を混ぜないで重ねるという印象派の技法が特によく分かる作品じゃないかな。まるで抽象画のようにも思える点も斬新に思えます。

この辺にはモネのロンドンの霧を描いた作品などもありました。

12 クロード・モネ 「睡蓮」
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写真は休憩室にあった撮影可能な複製画です。こちらはモネの代名詞的な水辺の睡蓮を描いた作品です。水面には鏡のように空の雲や周りの木々が写っていて、実景と反射が混じり合った画面となっています。割と具象的な感じが残っていて形がハッキリしているように思えるかな。柔らかく爽やかな色調の作品でした。

34 ポール・セザンヌ 「マルセイユ湾、レスタック近郊のサンタンリ村を望む」
こちらは近代絵画の父とも呼ばれるセザンヌの作品で、海辺の街を描いた風景画となっています。四角形の家々が立ち並び、教会やいくつかの煙突など幾何学的なモチーフが多めかな。平坦で全体的に青みがかった色調となっていて、短い線状の筆致などセザンヌ独特の表現も観られました。

35 フィンセント・ファン・ゴッホ 「雪原で薪を運ぶ人々」
こちらはゴッホがオランダにいた頃(ハーグ派に影響を受けていた頃)の作品で、雪原を4人の農民たちが薪を背負って歩いている様子が描かれています。やや項垂れていて疲れた感じが滲み出ていて労働のきつさが伺えます。背景には大きなオレンジの夕日があるものの、全体的に沈んだ色彩となっていて、人物はずんぐりした感じの描写となっていました。労働への畏敬や自然の厳しさを感じる作品です。

この近くにはマネの肖像画などもありました。


ということで、前半だけでも名品の数々を観ることが出来ました。割と展覧会で見慣れた作品が多いようにも思えますが、それだけ名品揃いだと言えます。これだけまとまって観られる機会は無かったので満足度も高めでした。後半はフォーヴやエコール・ド・パリの作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。

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